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森の主 その1

それは家畜たちの鳴き声がある以外は静かなある夜の日だった。

いつもの通り作業を終え、片付けをした酪農家の男は家に戻った。

男はこの世界では平均的な体格で麦わら帽子を被っていた。

今日は熱帯夜になりそうだなと思っていた。梅雨を明け、本格的な夏の陽気になっていた。蒸し暑い中の酪農は大変である。とにかく暑い。その蒸し暑い気候と太陽からの日射はきつい。朝から夕方まで働き漬けである。しかも酪農家の仕事は家畜の世話だけではない。モンスターから家畜を守るための自衛の対策にも精を出さないといけない。一応、彼の住む村は酪農家がその産業の主体で、モンスター対策には村人同士で連携している。

魔王がいた頃はモンスターの活動も活発で、その対策にもかなり骨を折った。一番手っ取り早い方法は冒険者をギルドで雇って駆除するというものである。ただこれは結構金がかかる。なので危険性の低いモンスターの場合は自分たちで駆除していた。魔王がこの男が住む世界の魔法文明の勇者と科学文明のある天才科学者が仲間の冒険者とともに滅ぼした後、モンスターたちの活動は停滞するようになった。これにより酪農を営む村人は心から安心した。

家に戻った男は妻と夕食を食べた。夕食は山菜が中心である。今日、山で山菜を採取した近所に住む村人からもらったもので作った。食べながらテレビを見た。ここ何年かで魔法文明の社会にも科学文明の社会で作られたいわゆる電化製品というものが浸透している。始めの内は意味不明な迷信があって中々広まわらなかったが、今ではすっかりどこの家庭にもある。

ニュースを見ながら食事を済ました男は食後、横になって寛いだ。妻は芸能人のスキャンダルのニュースを見ていた。

テレビの声が子守唄になり、次第にうつらうつらとなった男は気付いたら寝ていた。


「おい。」


男が眠る前に妻が座っていた方を見て言ったが、そこには誰もいなかった。立ちあがり寝室に行くと妻は既に寝ていた。一声かけてくれば良いのにと男は思った。しかし、こういった事は日常のよくあるシーンだった。結婚当初からこの調子である。でも、家事をこなしつつ、酪農の手伝いをしてくれる良妻であると男は思っていた。

もう寝ようかと思っていたらお茶を急に飲みたくなった。寝ている妻を起こすのは忍びなく(というよりも後が恐いからである。)、仕方ないので自分でお茶を淹れた。

しばらく、就寝前のお茶の時間を堪能した。その穏やかな時間は突如破られたのである。


「モウ!」

「なんだ!」


家畜の悲鳴にも似た鳴き声が夜の静寂に響いた。

慌てて牛舎に行くと何頭かの牛が腹から血を流して倒れていた。何があったのか分からず男は呆然とした。腹から血を流している牛に駆け寄ると牛はうめき声を発していた。

苦しむ牛たちをどうしたら良いかパニックになった。キョロキョロ周りを見ていると血痕が落ちているのを見つけた。その先を見ると血痕が足跡のように続いていた。

危険なモンスターの可能性もあったが、男は怖さ半分、興味半分の気持ちになり、辿ってみた。おそるおそる行くと牛舎を出て、放し飼いにする場所を通り抜け、家の横を通り、最近舗装された道路を横断し、痕跡は森の中へと入った。少し中に入ると少し先に白い狼がこちらを見ていた。その大きさと毛並みから男の住む町の周辺ルナの森の主白狼ではないかと思った。男は驚いた。いや、おそらくこの町の住人はみんな驚くだろう。

ルナの森の主白狼は白狼に確認したわけではないが、町の住人に危害を加えることはない。かつて、白狼を密猟しようとした連中が食い殺されたくらいで、こちらから何か仕掛けない限り襲って来ることはない。また、家畜にも手を出さない。それが一体どうしてこんなことをと男は思った。とにかく、これ以上追いかけるのは危険と判断した男は家へと戻った。

家に戻った男は妻に先ほどのことを話した。妻も白狼がそんなことをするとは思わず何かの間違いではないかと言った。しかし、男はこの目で確かに見たと話した。


「明日、町長に話してみる。」

「その方が良いと思います。」

「取り敢えず、牛舎で襲われた牛たちの手当てと片付けをしてくる。」

「私も手伝うわ。」


明け方まで夫婦は片付け作業をした。

妻は休ませて男は町長の家に行った。

町長の家は町の調度、中心にある。最初にこの町を切り開いたのは町長の一族らしい。家の外観はこの町の一般的なサイズであまり派手さはない。歴代の町長は質素さを嵩む趣向の持ち主で、豪華なことはしない。

家を出る前に町長には連絡しておいた。

インターホンを鳴らす。

玄関から年を取ったおじいさんが出てきた。町長である。


「町長!朝電話で話したことで相談があります。」

「その話しで頭抱えていたところだ。」


町長には朝電話しておいた。早く来るように言われていた。町長としても由々しき問題であると考えていたのである。

茶の間に通された男に町長は座るように促した。男が座ると町長は男の向かい側に座った。町長の奥さんがお茶を持ってきて置いていくと、町長は口を開いた。


「本当に白狼だったのか?」


神妙な面持で町長は言った。

その緊張感が男にも伝わったのか、男は顔を強ばらせた。


「はい、確かに白狼でした。」

「そうか。となればこちらに危害を加えたのらもう冒険者に頼むしかないな。」

「やはりそうなりますか。」


白狼はルナの森の主と呼ばれている。人間界でそう畏敬されているモンスターであるが、人間側に危害を加えた以上は対応するしかない。今回はまだ家畜だけが襲われたが、人間も襲うかもしれない。そうなる前に手を打つしかない。すなわち駆除である。

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