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005▼分冊5▼殺人に至るメカニズム◆『妹』の定義とは?

人間は決して一人では生きられない。

――『人』と『人間』は違う生き物なのだから。


▼更新しました!

https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=71147470


▼シリーズ一覧

https://www.pixiv.net/user/106135/series/44057


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▼小説家になろう

https://ncode.syosetu.com/n5770ez/


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▼重複投稿です

(委託サイト、一発やる会の管理地などで、有償公開)完結済み。

『小説家になろう』で毎週きりが良いところを連載形式で公開予定です。

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◆すぐ読める完全版◆全年齢作品版(dlsite)

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※その他:一発やる会の別作品に同梱あります。(熊本、DMM首輪ちゃんなど)


◆ホムペ(詳細はこちらから)

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◆補足

けもみみシリーズと世界観がリンクしています。

前なのか、後なのか、今なのか。

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 ◆◆◆場所:『一人ぽっちの戦争(見学)で』……語り手:『セミロング』

「すっごい本の数だね。私がいた学校とは、大違いだよ。国語に算数に理科、社会。それに英語で書かれた本もある。古い本独特のニオイが立ち込めてて、『年季の違い』ってのを思い知らされた気分だょ」

 制服姿のセミロングのコが、スカートに吊り下げた黒皮っぽい『シザーバック』を揺らしながら、興味津々な様子で、本を物色してる。――それは、『監視カメラ』に映る私の姿みたいだけど。

 ここが、大学の図書館らしい。

 勉強机みたいに区切られた机や、持ち出し禁止の監視とか、『パソコン』による貸し出し管理とか、ハイテクってヤツなのかもしれなぃ。

 知ったタイトルがあるか、探してみたけど、専門用語ばっかりで、イマイチよくわからなぃものばっかりが見つかった。

 しばらく探してたら、パソコンで検索できることがわかったので、調べてみると、『ハリーポッター』とかもあるらしい。だけど、難しい英語だったんで、さっぱりわかんなかった。

「さすが、大学だけあって、みんな勉強して、スゴいなぁ。私もそのうちこういうところに来るのかな」

 小さく(つぶや)いてみた。

 自分の声を耳で聞いて、すぐに、その(つぶや)きに対して、疑問が浮かぶ。

 ――もう家に戻れない私が、学校に行くことなんて、できるんだろうか?

 みんなと同じように、フツーの生活ができるんだろうか。

「それに、私には、もう居場所なんて――」

 今度は、呟けなかった。

 今度は、自分の耳で、聞けなかった。

 口は動かず、心の中で小さく呟いただけ。ただ、小さく、小さく。不安を呟いただけ。

 ――ふいに、『お兄ちゃん』のことを思い出す。やさしい笑顔を思い出す。

 楽しかった日々のことを思い出す。『みんな』と一緒にいて楽しかったときを思い出す。

 ただただ、ただただ――。

 『やるんじゃなかった』って後悔が浮かんだ。

 ――そして、『生まれてこなければよかったのに』という願い。

「ううん、ダメだよね。こんな弱気になってちゃダメだよね」

 《いかん、いかん》と、私が『ショートヘア(お姉ちゃん)』の真似をして、元気を出してみる。

 よしよし、やればできる。私はできるコだ。やれたからこそ、私はここにいるんだょ。

「――『やさ男(お兄ちゃん)』たちを待とう。そして、みんなで、楽しもう。そうしよう」

 そう思った。

 そう誓った。

 そうしたかった、私の目に飛び込んだ。――それは、新聞の群れ。

 普通の新聞や『スポーツ新聞』や『インチキ(ゴシップ)紙』なんて関係なしに、新聞たちが、見せつけた。

「これって……」

 例の『バラバラ殺人』事件。

 この街であった凶行。病院であった惨殺。冥王台であった一家強殺。被害者の名前と数。犯人が逃走中のこと。犯行の動機の推察と、被害者を知る人たちの悲痛なコメントの数々――。

 新聞たちが、それらの情報を『でかでか』とした『見出し』と『色文字』で、私に訴えかけてきた。

「いやだょ、こんなの……」 

 聞きたくない話。

 見たくない話。思い出したくない話。

 ――だけど、いくら耳を塞いでも。

 ――いくら、目を塞いでも。

 ――心を閉ざしても。

「――ぅ……うぅ」

 身体が震える。怖い。怖い。怖い。怖いッ――。

 この話を思い出すだけで、身体が震えて、おかしくなりそぅ。

 『ショートヘア(お姉ちゃん)』と一緒に話してるときは、別に何でもなかったのに。

 ――独りでいると、独りで考えると、おかしくなる。

 一緒にいて欲しい。誰かが私の側にいて欲しい――。

「だけど、ここも私の居場所じゃなぃよね」

 うん。

 そうだ。そうだょ。ここにいたら、ダメだ。ダメだょ。

 すっごく、嬉しいけど、ここは、私の場所じゃない。

「……だって、あの二人は、あんなに楽しそうなんだから」

 そう。だから。

 あんなに優しくしてもらったからこそ、私は、ここにいちゃいけない。

「迷惑かけちゃいけないんだよね――」

 声は出ない。

 その代わり、私の息遣いが、震えてるのを感じた。

 ――私は、やっぱり、死んだほうが、よかったのかもしれない。

 気づけば、本のニオイが、しなくなっていた――。


 ◆◆◆場所:『二人でお姫様を迎えに図書館(戦場)へ』……語り手:『やさ男』

「そうだ、死んでしまえ! てめぇらなんていらねぇよ! 死んでも誰も困らないっての。人の迷惑考えずにやりたい放題、好き勝手なことしやがって、てめぇらが好き勝手にやる『自由』を主張するなら、私は『公共の福祉』を主張するね。『日本国憲法』の『法の下の平等』を履き違えてんじゃねぇよ。『自由主義』と『自己中主義(ジャイアニズム)』を混同してんじゃねぇっ!」

 『ショートヘア(閣下)』が、『怒り心頭』で『頭から湯気』を出してます。

 なんかやたらと、怒ってます。

 授業が終わるなり、騒いでた『経済学部』の連中に目がけて叫び始めました。

 《うぉっ、なんだこいつ。ヤバイんじゃね?》と、彼らは、『一目散に』逃げていきます。

 あの、僕も逃げていいですか?

 ――うわっ、『ショートヘア(怒れる葡萄)』が、スゴい顔で見てきてます。

「おいおい。その辺にしとけよ。若気の至りで、悪ぶりたい連中なんだ。(はた)から見てたら、『どっちがバカか、わかんねぇ』ぜ?」

「――まぁ、そうだけど。私にも言ってやりたいときはあるんだよ。今日は、『セミロング(我が妹)』に応援されたお姉ちゃんとして、一生懸命勉強をしようと思ったんだ。それなのに、あいつらと来たら、『ピーチクパーチク』、『雀のよう』に(さえず)ってくれて、全然授業が聞こえないっての。それだけなら、まだ、ぎりぎり許してやるのに。集団で出たり入ったり、出たり入ったりするのは、我慢できん。――つうか、お前らトイレ近すぎだろ。一人でトイレいけないなんて、どこの『幼稚園児(ねんね)』だよ。これが、よくウワサに聞く、『注意欠陥多動性障害(ADHD)』とか『学級崩壊』とか『大学生の学力低下』ってヤツなのかね。授業がツマンネーなら、漫画読んだり、ケータイいじって、口を閉ざして、寝落ちしてろ!」

 《つうか、勉強したくないヤツは、学校くんな!》と、『勉学の(ショートヘア)』がお怒りです。

 いつも、授業中、『ただいま爆睡中』って看板を掲げてる『看板娘(ショートヘア)』は、元気です。

「まぁ、たしかに。お前の言ってることも一理あるよ。『偏差値(ボーダー)フリー』だからか知らないけど、一般科目で、他学科と一緒に授業やるとヒドいときあるよな……」

 《うんうん、その通りだ、ワトソンくん》と、『名探偵(ショートヘア)』は満足げです。

 まぁ、色々あったせいで、この学校に来たわけなんで仕方ない。あんま言っても仕方ない。

「だけど、あれだ。『選り好みをしない(ボーダーがない)』ってことは、誰でも入れるようなもんだから、金には困ってないよな、この大学。金にモノを言わせて、新校舎とか、最新鋭の研究設備とか、レベル高い教授とか囲ってるし。なんだろな、この『私立企業(大学)』ってのは」

「そうそう。ウワサじゃ、『生命工学部』の『ダイオキシンの研究やってる教授(先生)』とかなんて、『国と自分のポケットマネーで、研究施設を建てちゃった』みたいだよ。他にも、『カビや酵母を使ったバイオエタノール精製』とか、『活性酸素の存在を最初に見つけた人』とか聞くね」

「ついでに、ウチの学科にゃ、【殺人容認主義者(白眼鏡)】なんて化け物もいるしな……」

「……たしかに。あの人の考えることは、わかんないね。なんで、この学校にいるんだろう? この前、呼び出されたときに聞いときゃよかったな」 

「あぁ、そういえば、お前も呼び出されてたらしいな。なんか協力するように言われなかったか?」

「ん? 別にいつも通り、『都市伝説(ウワサ)』を話してりゃいいってさ。で、時々、『白眼鏡』にも話すようにって。それがどうかしたの?」

「いや、別になんでもない」

 あれ? 僕が言われたことと、ほとんど変わらない。

 僕らがいつも通りに過ごすと、何が『白眼鏡(彼女)』の研究を助けるんだろうか?

 これも、『謎解き(ミステリー)』ってヤツなのかね。

「――さてと、そんなことより、『我が(セミロング)』を迎えに行こうよ。むしゃくしゃした後だし、カラオケとかで、ちょっと『叫びたい(シャウト)』かも」

 いや、それは困る。

 お前の歌は下手じゃないし、むしろ、上手いほうだけど、困る。

 だって、『マイクなしでマイク以上の声出してる』のって、スゴくね? この前、『ロングヘア』も一緒に行ったときなんて、隣の部屋の客からスゴい目で見られたし。それも、ドア越しで、ガン飛ばされて。

「どうしたの?」

 《さっさとしないと置いてくよ》と、『歌姫(ショートヘア)』が急かしてくれます。

「あぁ、別になんでもねぇよ」

 言えるはずがないです。

 もし、歌のでかさを指摘したら、えらいことになりそうです。

 ――具体的に言えば、『防音設備』のしょぼさについて、抗議演説が始まりそうですし。

「おいおい、待てって。お前、なんか、はしゃぎ過ぎだっての!」

 僕は彼女を追いかけた。

 図書館の階段を追いかけた。

 そして、図書館に着いて知ったんだ。

 ――そこのどこにも『セミロング(彼女)』は、いなかった。

 まぁ、『家出少女』だし、家が恋しくなったのかもしれないと、僕は結論を出す。

 ――それにしても、『一人っ(ショートヘア)』が、とても残念そうだった。


 ◆◆◆場所:『夕暮れの既視感(デジャヴュ)の中で』……語り手:『セミロング』

「……これからどうしよぅ。なんとなく学校の『無料巡回バス』で、ここまで来ちゃったけど……。お金がないの忘れてた。あぁ、もう、どうしよう。『後悔先に立たず』だょ、こんなことなら――」

 《やっぱり、図書館に残ったほうが、よかったのかな》と、肩を縮ませながらに、膝の上に、『黒色のヒップバッグ』を大事そうに載せているセミロング姿の女のコが、駅の階段付近の花壇の段差に座ってる。

 と言っても、それは、『帰宅帰りを狙うタクシー』の窓に映った私だったりするんだけど……。

 ――日が暮れる中、学生や同い年の制服のコたちが出会っては、どこかへ消えていく。

「あれ? この光景って前にもなかったっけ……。『既視感(デジャビュ)』っていうのかな。それとも、私が学習能力がないだけなのかな……」

 もちろん、誰も答えてくれない。

 人がいる。

 一人じゃない。周りに人はいる。

 ――だけど、誰も私を知らないし、関心がない。私は、結局、独りぽっち。

「『やさ男(お兄ちゃん)』たち心配しているかな?」

 そんなはずないよね。

 そんなはずない。昨日まで、私は二人とは他人だったんだもん。

 『一緒にご飯食べにいこう』っていうのは、『社交辞令(おやくそく)』ってヤツだよね。楽しそうな二人の場所に、勝手に入ってったらダメだよね。私がいたら迷惑だよ。きっと、迷惑に違いない。

 ……違いないよね。

「でも、『ショートヘア(お姉ちゃん)』が、私のために怒ってくれたのは……」

 嬉しかった。

 本気で怒ってた。

 ほとんど他人で、家に帰れない、こんな私なんかのために、怒ってくれてた……。

 そんな人って、普通いないょ すごく、ありがたぃ。ありがたすぎる。

 ――それに『やさ男(お兄ちゃん)』は、私なんかを泊めてくれた。口は悪かったけど、やさしかった。

 すっごく二人は『いい人』だった。これ以上ないぐらいに『いい人』過ぎる。

「――だから、そんな二人に迷惑かけちゃダメだょ」

 だから、図書館を飛び出した。

 どこにも行くあてなんてないけど、どうしたらいいかわからないけど。わからないけど。

 なんだか、声が上擦(うわず)ってきたけど……。

 ホントにわからない。

 ――わからない、なんで、こんなことになってるかわからない。わからなさ過ぎて、図書館で考えてたことが、頭の中をぐるぐる回りだす。いろんなことを思い出す。身体が震える。

 また、いろんなことを考えてしまう。これじゃ、だめだ、だめだ、ダメだよ――。

「ねぇ、キミ、何やってるの?」

 突然、声がした。

 知らない声だ。私は、(うつむ)き気味のまま、目だけを上げる。

 そしたら、高級そうな黒塗りの車の窓から、フレンドリーなオジサンが声をかけてきてた。

「もしかして、ナンパ待ち? よかったらオレとご飯食べに行かない?」

「……」

 ナンパって、こんな会話ばっかなのかな。二度目だけど、よくわからない……。

 ほんと、よくわからない。どうしたいいのか、さっぱりわからない。あと、何回わからないって言えばいいか、わからないぐらいに、わからない。

 ぐるぐるぐるぐる回る。

 ぶるぶるぶる身体が震える、震えて――。

「――独りでいたくないの」

 それは、自分の声だったらしい。

 言った後で、気づいたぐらいに無自覚な声。――心の本音だったのかもしれない。

「ホント! そりゃ、よかった。君みたいなカワイイ子だったら大歓迎に決まってる」

 オジサンはそういうと、私を車に乗せてくれた。

 その後、ちょっと走ってから、『ファミレス』で、ご飯を食べさせてくれた。

 食べながら、オジサンは、《この前のヤマでケガしちまって》とか、《オレはそいつに言ってやったんだ》とか、《オレの胸のバッチは、組の階級を示すモンでだな。オレはかなり偉いんだぞ》とか、そんなことばっか喋ってた。

 きっと、自分のことを人に話したい人なのかもしれない。

 他には、サービスの悪い店員に舌打ちしてたりもして、なんだか厳しい人かもしれない。

 ――話についてけないので、ついつい黙ってしまう。

 なんだか、会話しているようでも、ただ一方的にテレビを見せられているような気分になってしまう。

「ねぇ、『ファッション』とか興味ない? 可愛い格好とかしてみなよ」

 私が退屈そうにしてると思ったのか、喜ばせようと思ってくれたのかな?

 今度は、服をたくさん売っている店に連れて行ってくれた。

 よくわからなかったけど、オジサンが服を選んでくれた。

 鏡に映るセミロングのコは、テレビに出てそうなぐらいに美人だった。まるで、自分じゃないみたいに美人だった。

 ――そう、自分じゃないみたいに。

「なぁ、キミのことをもっと、聞かせてくれないか? 何か困ってるんだろ? 力になるよ」

 オジサンが煙草を吸いながら、私に聞いてくる。

 今までと違って、断然優しい口調で、私のことを見てくる。このおじさんは出会ってから初めて、私のことを見てくれたような気がした。最初は、ちょっと警戒しちゃったけど、実はいい人なのかもしれない。

 一緒にあちこち回ってたら、そんな気分になってきた。

 ――もしかすると、この人は、私の居場所になってくれるかもしれない。

 でも、迷惑かけちゃいけないよね? たとえ、『やさ男(お兄ちゃん)』たちみたいに、やさしくしてくれる人がいたとしても、私と一緒にいるのは迷惑だよね。何度言ったかわからない。自分の中で何度考えたかわからない『堂々巡り(報われない)』の『賽の河原(地獄)』の『石積み状態(後悔)』。

 私は、もう黙るしかない。

 だって、どう答えたらいいかわからないんだもん……。

「――そうだね。言いにくいこともあるよな。一晩かけてゆっくり聞くよ」

 オジサンが優しく言うと、やたらと光る看板が多い通りに連れてってくれた。

 その中のオシャレな見た目のお店につくと、《はい、喜んで》と、スーツの店員さんが、オジサンから車の(キー)を受け取りながら、私たちを案内してくれた。

 ――そして、今、私は、ベッドの上に座ってる。

 『壁は全部鏡です』ってカンジの部屋の『大きくて豪華なベッド』の上に、『バスタオル姿』のセミロングのコが、『ちょこん』と座って、『黒皮のシザーバック』を大事そうに抱いている。

 合わせ鏡で、無限に映った私が、ベッドの上に、捨てられた子犬のように座ってる。

《二人きりで、ゆっくり話そう。ちょっと待ってね》と、オジサンは、とても嬉しそうに、お風呂に消えていった。

「これからどうなっちゃうんだろぅ……」

 部屋の中にあるモノは、初めてばかり。部屋自体が初めてばかり。

 ここが何をする場所かもイマイチわからない。

 ――ただ、不安でいっぱいということだけがわかる。独りでいるのがたまらなく、ツラい。

 早く、オジサンに帰ってきてもらいたい。そばにいて欲しい。

 そうしないと、おかしくなっちゃいそうだ――。

「お待たせ、お待たせ。待たせてゴメンね?」

「ううん、大丈夫だょ……」

 オジサンが、バスタオル姿で、私の隣に座る。

 やたらと近くに、肌と肌が触れるぐらい近くに。思わず、『ビクッ』と身体がはねてしまう。

「恐がらなくてもいいよ。オジサンがやさしくしてあげるから」

「えっ? 私の話を聞いてくれるんじゃ……」

「あぁ、終わった後にじっくり話を聞いてやるから。大丈夫、オジサンに任せて」

 終わった後? これから何があるの?

 オジサンが私に何かするの? 一体何を? ……イヤだ、よくわからなぃ。

 ――疑問が私の思考についてこなぃ。 

 《近寄らないで》と、私は腕の中の『お兄ちゃん』のお下がりで大事にしてる『黒いシザーバック』を抱きしめながら、後ずさる。

「ほら、そんなに怯えないでくれよ、すぐ終わるから」

「な、何をするの? よくわかんないょ」

 私が必死で訴えるが、『ごつん』という、背中を鏡の壁にぶつけた音で、かき消されてしまう。

 鏡に映る私の顔は、怯えてるというレベルじゃない。なんだか、とてつもない恐怖で、今にも泣き出しそうなぐらいに可哀想な顔で。

「何言ってんだ? 最初からそのつもりで車に乗ったんだろ?」

 そんなつもりって何? 言ってる意味がさっぱり、わからない。

「きゃっ!」

 肩を掴まれた。

 激しく倒されて、ベッドに固定された。

「イヤ、イヤっ!」

 オジサンが、強引に私の身体を触ってくる。

「痛い、やめて、痛いょ!」 

 わからない、わからない、わからない。

 何がなんだか、なんでこんなことになってるか、わからない、わからない。

 いやだ、いやだ。わかないわからないわからない。――いや、わかった。

 ――『既視感(デジャヴュ)』かもしれないし、私が学習能力がないだけかもしれない。

 だけど、この眼は、この私を見ている眼は見たことがある。

 ……この光景は、この状況は、それに、この眼は見たことがある。

 私を見ているようで、私を見ていない。私の身体しか見てない、私の心を見ていない。私自身を見ずに、私とは別の何かを見ている眼が。

 私なんていてもいなくても関係なく、ただただ私のことなんて考えずに、自分のことしか見ていない眼で、気色の悪いアイツらの眼で。

 ――アイツらだ。アイツらと同じように私を見てる、コイツは、この男は、私を。ただの肉片が、この肉が、この私を、私を、その眼で、気味の悪い眼で、私を。アイツらと同じ肉片が、肉のカタマリが、私を、脂ぎった脂肪が、私を。私の身体を、私の胸を、肉のカタマリが触れる這い回る。あの眼で、あの眼で見ながら、私を。私を、私を、私を――。壊そうと私を侵そうと、あの眼で見ながら。

 なぜか、肉片が何に使うのかわからないカミソリを、私に向けて――。

 突然、《ジー》という音が聞こえた。脂の乗った肉が、いつの間にか仕掛けていた『ビデオカメラ』が回ってた。

 ――だけど、気づけば、その音はもう聞こえない

 それに、何も聞こえないし、見えないし、考えられない――。

 それは、全てを否定するための『思考停止(シャットダウン)』のようで。

 なんでこうなっているかわからないまま、意識が落ちた。

 ――もう、なにも、わからない。




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Presented by 一発やる会



http://ippatuyarukai.web.fc2.com/


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