016▼場所:『幼な妻(っぽい)が待つ六畳部屋(我が家)』……語り手:『やさ男』
◆◆◆場所:『幼な妻が待つ六畳部屋(我が家)』……語り手:『やさ男』
「ただいまー。『セミロング』、今帰ったぞ。今日は、ちょっと奮発してだな、『CHOCHO(蝶々)』の『ブルーベリーパイ』を買ってきたぞ。焼きたてだから、美味いぜ、きっと」
《だから、飯にしよう、飯に》って俺はテンション高いです。
でも、誰も返事をしてくれません。鍵も開いてるし、電気もついてる。
だけど、『セミロング』は出てこない。
「あれ? おかしいな。買い物にでも出てるのかな……。でも、飯の準備は出来てるようだし」
今夜は、『肉じゃが』らしい。
『パイ』と『肉じゃが』は合うのかと、ちょっと疑問に思ったけど、まぁ、美味ければ何でも合うに決まってる。例えば、『麻婆豆腐』と『カレー』を合わせた『麻婆カレー(フリンジ)』のようにと、結論。
そんなことより、『セミロング』が戻ってこない。
「――おかしいな。いつも家を出るときは、書き置きするように言ってるのに」
『セミロング』は、『ケータイ持たない主義』らしい。
だから、連絡手段として、冷蔵庫のとこの『ホワイトボード』で『意見交換』してんだが、時々『交換日記』みたいになってて、『どぎまぎ』したりとか。
って、そんなこと言ってる場合じゃない。
もう、『PM八時』は回ってるし、俺が帰って来てから二時間は経ってる。いくら買い物って言っても、徒歩五分ぐらいの『スーパー(フレスタ)』か、『スーパー(ニチエイ)』ぐらいだし。大穴で徒歩十五分ぐらいの『スーパー(ハローズ)』ってのもあるけど、さすがに歩きじゃな。散歩も兼ねるなら別だけど、鍵を開けっ放しで行くってのはありえない。
だって、『セミロング』の几帳面さは、毎日日記をつけるぐらいだぜ? 見せてもらったことはないけど、チラ見したカンジだと、『朝昼晩何やってたか』、『その日何を食べたか』をまとめてる具合だった。
あれは一朝一夕で見につくような習慣じゃなくって、何年も続けているような『規則正しい整然』としたものだった気がする。
「そんな『セミロング(アイツ)』が、書き置きなしで、ドアを開けっ放しで、電気つけっぱなしって、よっぽどのことがあったって考えるほうが妥当だろ」
でも、何があったんだ……。
それは、俺にはわからん。
少女の気持ちを察せって言われても、『甲斐性なし』の俺には全くわからない。
一応、『乙女(?)』らしい『ショートヘア』に電話したけど、『留守番電話サービス』に繋がりやがる。
クソッ、こんなとき、『フツー』だったらどうしたらいいんだ?
『フツー』の人ってのは、どんな対応すんだ?
――これじゃまるで、子供を持った親じゃないか俺は。
まるで、わからない。
どうしたらいいか、『Google先生』、『ニコレカス』教えてください!
「って、パソコン消し忘れてんじゃねぇか! もし、『セミロング』が変なサイト見て、『右翼』になったり『左翼』になったり『オタク』になったり『引きこもり』になったり『NEET』になっちまったらどうすんだ! 嗚呼、考えるだけでも困るぜ、お兄ちゃんは! ――今度から、ちゃんと消したかどうか確認しないと……」
――おい、なんだこれは!
なんで、『ネットソフト(Firefox)』が起動してんだ?
しかも、このページって。俺が見てたページで。
――『例のバラバラ殺人』について気になったことがあって調べてて。
――それと、『家出少女』に遭遇したらどうしたらいいか調べてて。
「まさか、『セミロング』がコレを見たのか!」
それは不味い。
あのコに、コレを見せちゃいけない。
あの怯えっぷりは尋常じゃなかったってのに、家出して精神的に不安定になってるときに、こんな馬鹿げた異常なモン見ちまったら、『パニック』になって当然じゃねぇか。
――クソッ、迂闊だった。
油断してた。
最近、『平和ボケ』してたからってこりゃねぇぜ。
「『セミロング』、早まんじゃねぇぞ!」
俺は駆け抜ける。
部屋を出て、階段を下りて、いそうなところに向けて走ってく。
「あら、『やさ男』さん」
女の人がいた。
階段を下りた先には、ホウキで掃除をしているアパートの『管理人』さんが。
だけど、彼女の説明も世間話なんかもしてる暇なんてねぇ。そんなん適当に挨拶して、探しに行くに決まってる!
「えぇ、いつもお世話になってます。すいません、急いでまして」
「あら、もしかしてなんかあった? 今日、警察の人が来てたみたいだけど」
「まさか俺の家にも来たんですか?」
「えぇ、『バラバラ殺人』で物騒だから『パトロール』してたみたいよ。って、『やさ男』さんどこへ……」
――クソッ、余計なことしやがりまくってるじゃねぇか!
俺が走る。
走って、走って、走った。
あんな『公務員』に会ったら、それこそ『セミロング(アイツ)』がどうなっちまうかわかんねぇよ。
それこそ、事件のニュースを見るだけで震えるようなヤツだぜ? 気分悪くなって倒れちまうヤツだぜ? それが、変な尋問でもされちまったら、どんなレベルになるか見当もつかねぇよ。
下手すると――。
「クソッ! 絶対、『ケーサツ』にだけは会わせちゃいけない。――考えるな。これ以上考えるな。それはねぇ。そんなことあって良いワケねぇ!」
クソッ、クソッ。
『フツー』じゃねぇから、考えちまう。『フツー』じゃねぇ『甲斐性なし』だから――。
【殺人視考】で最悪の状況を考えちまう。
「だけど、それは、許しちゃダメだろうが!」
だから、俺は走る。走る。
走って、走って、走った。
『走れメロス』のようにってレベルじゃなく、『マラソン』が生まれた由来ぐらい走った。
――俺はどうなってもいい。
だけど、『セミロング(お前)』は、ヤっちゃいけない。