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015▼『恋慕であふれる『恋姫』の領域(テリトリー)』……語り手:『セミロング』

 ◆◆◆場所:『恋慕であふれる『恋姫』の領域(テリトリー)』……語り手:『セミロング』

「なぜ、人は人を守りたいと思うの? 友だち、家族、恋人、好きな人……。いろんなものの場合があるけど、自分が傷ついても、大切な人のために戦うってのは何でだろぅ? そんなことをしても相手は望んでないかもしれないし、ヒドい場合だと、『余計なお世話』になってるかもしれないのに。――それに、もし、『大切な人だから守るんだ』って言ってくれた相手が自分のために死んだ場合、どうしたらいいんだろぅ? それはまるで、『お前のために死んだんだ』って言われているようなものじゃないのかな? だけど、そんなことは意見の押し付けであって、『勝手に守って勝手に死んだ人だけ』が得する考えであって、『残された人には迷惑』なんじゃないのかな。それとも逆に、『自分のために死んでくれるほど大切だと思ってくれてたんだ』と死を美化して、人に話したり、覚えておくことで、『自分たちが大切な存在だった』と再認識していくための一つの証拠とするのかもしれない。『私は人に守られるほど重要な存在』なんだと」

 《あぅ、難しいよ、難しい過ぎるよ……》と、『セミロング』が、悩んでます。

 まぁ、いつもながらに図書館の本とか読みながら悩んでる私だったりしちゃうんですが。

「料理もできたし、掃除も完璧だし、後は『やさ男(お兄ちゃん)』が帰ってくるのを待つだけだょ」

 図書館の力は偉大です。

 昔の人の考えってのはスゴいです。

 私が今まで悩んだことのほとんどが、もう昔の人が考えて考え抜いて答えを出してたりします。『やさ男(お兄ちゃん)』の大学の図書館だけじゃなく、『松長(まつなが)図書館』も利用するんだけど、すっごく便利。

 ゴハンの作り方の雑誌があったり、掃除・洗濯の仕方もあったりとか。なぜか、松長のほうは『漫画』とか『ライトノベル(?)』まであるとか、何でもありかもしれません。さらに、スゴいことは、他の人が本を借りてて、続きがなかったとしても、『予約』すれば、返却されたときに連絡してくれるってスゴいサービスです。そんなにサービスいいのに無料ってのはスゴいです。これが『税金の力』ってものだと、本に書いてました。

「なんだか、学校行かなくても、勉強し放題って気がしちゃぅ」

 《学校かぁ……》と、私は、ベランダで揺れてる制服を見ながらため息。

 でも、学校行ってた記憶って、ほとんどないんだょね。ずっと、病院にいてばっかで、ずっと本読んでばっかだったし。外を出歩ける今のほうがマシな気もするような……。

 なんというか、スッゴい平和で楽しい毎日で。

 昔のことを早く忘れたくなっちゃうような毎日で。

 あのことも忘れてしまいたいように平和過ぎて……。

「あぅ、また、マイナスなこと考えてるよ。そんなことよりも、勉強でもしよう。そのほうが有意義だよね。……むっ。この本難しい漢字がばっかりで全然読めなぃ」

 辞書は貸し出し禁止です。

 だけど、今は便利な世の中なんです。

 パソコンってものがあるんです。『やさ男(お兄ちゃん)』の『ノートパソコン』をちょっと拝借。

「『やさ男(お兄ちゃん)』がいるときは、《ネットなんて悪いことばっかで、知らなくていいことばっかだから使っちゃダメ!》って言われるけど、本を読んだ限りじゃ『使いよう』みたいだし、大丈夫(だいじょーぶ)だょね」

 『検索サイト(Google)』とか『ネット辞書(Goo辞書)』とか『ネット辞典(Wikipedia)』とか『質問版(はてなダイアリー)』ってところを見れば、ほとんどのことわかるし、ホント便利な世の中なんだょね。

 まぁ、たしかに、『硫化水素自殺』とかの有害そうな情報とか、エッチな話(性教育)とかあったりするけど、正しい知識を持っておくことで対処できるもんだと思うょ。――逆に何も知らなかったら危険なことと気づかず、ついつい、悲惨なことになるかもしれなぃし。

 結局、情報の規制ってどこからが良くてどこからが悪いかってのは、よく分からなぃじゃないかな。――だから、情報を規制するんじゃなくて、道徳によって、『人間自体を管理することが必要』だと思う。たしか、この前、読んだ本にそう書いてあった気がした。なんて名前だったか、ちょっと忘れちゃったけど。

「まずは、電源入れて、『Firefox(狐のマーク)』で、ネットに接続をして……」

 ……あれ?

 なんかウインドウが出てきた。

 おかしいな。前使ったときは、こんなの出てなかったんだけど……。

「ん? なんか書いてある……」

 【前回のセッション中に、『Firefox(狐のマーク)』が突然終了してしまいました。前回終了前のタブとウインドウを復元しますか? 表示していたページに問題があったと思われる場合は、新しいセッションを開始してください】

 うーん、別に問題はなかったと思う。というよりも、パソコンは今つけたばっかだし、たぶん、大丈夫(だいじょーぶ)だよね。

 『セッションの復元』を選択クリックだ。

「わっ、わっ、なんかいっぱいページが開かれちゃったよ! な、なに、これってコンピューターウイルスってヤツなのかな? うわっ、私、『やさ男(お兄ちゃん)』になんてことしちゃったんだ! たしか、パソコンって高いんだよね! 『未成年』で、『家出少女』には、弁償できない! こうなったら、身体で――」

 ……って、何考えてるの私!

 こんなの私のキャラじゃないょ!

 ――なんか『ショートヘア(お姉ちゃん)』のキャラが感染(うつ)った気がするょ……。

 うーん、元気なのはいいけど、お(しと)やかでいたいもんだょね。

「あっ、読み込みが終わった。なんだ、『やさ男(お兄ちゃん)』が見てたサイトが、たくさんの『タブ』で表示されただけか」

 うん、ちょっと安心。

 壊してなくて、ホントよかった。

「だけど、『やさ男(お兄ちゃん)』ってこんなサイト見てたんだ……。ちょっと幻滅(がっかり)かも」

 なんかエッチなサイトでした。

 少女の私からは口に出せないエッチな内容でした。

 そういえば、昨日、私がお風呂から上がったとき、スゴい(あわ)ててたように見えたのは、このせいだったのかも。『やさ男(お兄ちゃん)』が、いつも慌てるのは『普通(デフォルト)』なのかもしれないけど、昨日は特に慌ててパソコン閉じてたような気もしたような……。

 ――今日から、一緒のベッドで寝るのは()めたほうがいいかもしれない。

「でも、男の人っていうのはそういうものだって本に書いてあったし、女の人のほうで自粛しないといけないのかも。でも、『やさ男(お兄ちゃん)』なら私は――」

 って何言っての!

 私と『やさ男(お兄ちゃん)』はそんなじゃ。

 そんなんじゃなくって、一方的に私が思ってるだけで……。

 あぅ、考えれば考えるほど、考えちゃう。ちょっと、顔が熱くなって来てる!

「そ、そんなことよりも、読書のほうを……。えっ、これって――」

 『エッチなサイト』だと思ってました。

 だけど、それは『匿名掲示板』から別のサイトへのリンクのためのページで。

 リンク先の都合上、広告が載せられていただけで、大半のサイトは真面目なものばかりで。

 ――『法律関係』。

 しかも、『未成年略取(りゃくしゅ)』とか、『売春問題』、今、流行してる『連続バラバラ殺人事件』の『掲示板(スレッド)』や、参考ページが、ざっと十五個。

 履歴を含めたら、百個は超えてるかもしれない。

「これって。な、何なの――」

 ページを詳しく見れば見るだけ、犯罪について詳しくなれそう。

 『ケーサツ』のサイトもあって、『指名手配写真』が載ってたりする。スレッドによっては、『バラバラ殺人の容疑者』に賞金をかけてたりもする。

 ――異様な光景。

 まるで、私が容疑者じゃなくっても、私が犯罪者だと認めてしまいそうな異様な雰囲気。

 とても、気分が悪くなる。

 とても、気分が悪くなった。

 とても、吐きそうで、吐きそうな気分になって。

「――――ッ」

 台所に走りこむと吐いた。

 お昼を食べてから時間があったせいか、胃液しかでないけど、ノドが『ヒリヒリ』する。

 酸っぱい臭いが鼻につく。

「――――ッ」

 また吐いた。

 臭いを嗅ぐ度に、何度も何度も吐き気がこみ上げ、何度も何度も吐いた。

 もう出ないのに、出しすぎて、全然出ないのに、吐き気は止まらない。

 吐きながら、吐きながら、吐きながら、あの感触を思い出す。

 ――あの肉の感触。

 あの鼻腔が焼け(ただ)れるようなひりつくような獣臭。男たちの下卑た笑い声が鼻につく。耳につく。あの眼で私を見てるのが、私を触ってるのが、『閃光記憶(フラッシュバック)』のように、浮かび上がる。

「――――ぅ」

 最近、平和だった分、最近、ずっと忘れた分、強烈で。

 そして、何よりも『やさ男(お兄ちゃん)』が私をそんな眼で……。

「いやだょ、そんなの――」

 それは、絶対あって欲しくないことだから――。

 流し台の排水溝に流れていく渦に向けて、愚痴を漏らす。

 だけど、もしかしたら――。

「――!」

 『ピンポーン』という電子音。

 それはインターホンの音で、この家の呼び鈴で。

 『ドンドン』、『すいません、ちょっといいですか?』と、扉を叩く音と、男の人の声が続いて。

「あの警察ですが。もしよかったら、開けてくれませんか?」

 『ケーサツ』が来た。

 『やさ男(お兄ちゃん)』の家にやってきた。

 でも、なんで、なんでここに! いきなりなんで!

 もしかして、やっぱり、『やさ男(お兄ちゃん)』は私のことを――。

「入りますよ? ん、鍵開いてるな」

 『ガチャリ』という音がした。

 そんな気がした。

「あれ、誰もいない? 誰かいるような気がしたんだが……」 

 そんな『ケーサツ』の声を聞いたような気がした。

 遠くのほうで、そんな声がした。

「こんなの嫌だよ……」

 と、私は、涙声だった。

 ただただ、その場を後にするため、走ってた。

 窓から飛び出し、『黒いシザーバック』を抱きかかえながら、走ってた。

 ただただ、走る自分の『事前に用意していた(スニーカー)』の靴先を見ながら、私は(つぶや)いた。

「ホント、わかんないょ」

 ――この前、読んだ『災害対策の本』がこんな形で役立つなんて、どうなんだょ。

 『備えあれば、憂いなし』って言葉がヤケに苦々しい――。



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