014▼紫煙あふれるドSの領域(テリトリー)
◆◆◆場所:『紫煙あふれるドSの領域』……語り手:『やさ男』
「先日の、お前たちの『認識レベルの齟齬に対する考察』、実によかったぞ。『認識力と再現力の齟齬が天才か奇人を分かつ』という捉え方が実にお前たちらしい。これで、お前たち自身の『特性の理解』に一歩近づけただろう」
と、『白眼鏡』はお褒めの言葉をくれました。
やっぱり、【殺人視考】について、僕に何かさせたいんですね。
――わかります。
だけど、そんなのは前フリでした。
《それでは、本題に入ろう》と、『白眼鏡』が『教授の義務』から、個人の研究へとシフトしました。
で、次のようなことを言ってきたんだ。
「『未成年の略取および誘拐』はいかんぞ? 『刑法二百二十四条』で禁止されており、罰則として『三月以上七年以下の懲役』が決められている。ちなみに、『略取』とは、暴行、脅迫その他強制的手段を用いて、相手方を、その意思に反して従前の生活環境から離脱させ、自己又は第三者の支配下に置くことをいう。『誘拐』とは偽計・誘惑などの間接的な手段を用いて、相手方を従前の生活環境から離脱させ、自己又は第三者の支配下に置くことをいう。略取と誘拐とを併せて講学上『拐取』と呼ぶ。――近年、未成年者が携帯やネットサイト、高額なバイトと称して、営利目的または性的目的を持つ大人と出会い、そのまま監禁されやすい社会状況になっているが、これについてどう思う?」
《君の意見を聞かせてもらいたい》と、『白眼鏡』教授(先生)は、『藪から棒(不意打ち)』で、仰った。
えっ、ちょっ、いきなり、コレは何の嫌がらせだ!
あのレポートとそんなに関係ない。つうか、全く関係ない。いきなりこの質問はないって。
――事前の準備もなしに、そんな『裁判の意見陳述』の『容疑者を見る(殺したことのある)』ような視線で、いきなり言われても困るって。
最近、『裁判員制度』ができたけど、僕みたいな法律に無知な人が裁判で重要な決定をしてもいいのだろうか? もし、『死刑判決』を可決してしまった場合、その人の『心理的負担』はいかなるものなんだろうか?
さらに、その『死刑判決』が、実は『検察側の虚偽によるでちあげ』や『濡れ衣による冤罪』だった場合、担当していた裁判員はいかなる『心理ストレス』を受けてしまうのだろうか? きっと、僕のような繊細な心の持ち主だったら、『明日から生きていけない』という気持ちになって『自らの命を絶つ』かもしれない。
――裁判とは、『検察(有罪にしたい)』と、『弁護士(無罪にしたい)』の戦場だ。そんな最前線に、民間人を立たたせるのは安易な考えだと思う。政府は、試験的導入などの部分的導入により、十分に『問題点洗い出し(リスクコミニケーション)』を行った後に、正式に社会体制に組み込んだほうがいい。毎回の『思いつき法案』のせいで、作り直す法律用資料と、事務の手間って、全部税金なんだぜ?
――つまり、もう少し頭を使ってください。
って哲学しちゃうほどに、僕の心境は『ドキドキ』してます。
いや、だって、うちには『セミロング(女子高生)』ががが、い、いたりするんで……。
――スッゴイ、『直球ど真ん中』に『豪速球(大リーグボール)』で『直撃』です。
「ちょっ、『白眼鏡』教授、何を突然そんな質問してるんですか。今回も急な呼び出しだったから、そんなこと急に言われても何の準備もしてませんよ?」
「――何を言ってる? テスト前、講演の前、今わの際になってようやく問題として捉える『付け焼刃』など意味がない。思想とは常日頃から思考することによって、己の中で議論を煮詰め、洗練された論理とし、他者と意見交換を通じて、擦り合わせ、大成して生くものだ。――学問の道を征くものは、そうであって欲しい」
《私を満足させるような議論を展開できるレベルに成長してくれ》と、『白眼鏡』教授(先生)は、実験動物の心配をしてくれました。――すっごく『ドS』です。
「……分かりました。僕なりの考えで答えます。両者が合意だった場合は許されるんじゃないですか? それこそ『家出少女』なんかの行き場に困ってるコを助ける気持ちで家に泊めるとかは。もちろん、売春や買春とか、風俗をやらせるとかの淫行については犯罪として取り締まるべきです。――とまぁ、こんなところでいいですか?」
《なるほど、一般的な考え方だ》と、『白眼鏡』は、落胆したような眼です。
おい、僕にどんな答えを期待してたんだ?
「一応、補足しておこう。両者の合意であっても、『十三歳未満』の場合は、両親の合意が必要だ。もし、合意がなければ、法に触れる恐れがある。また、それ以上の年齢であっても、両親や本人が後で『略取・誘拐』だと訴えれば、それで十分立件される恐れもある。たとえ、本当に人助けのつもりで行っていたとしてもな」
そうなんだよな……。
――本当に変な世の中なんだよな。
僕も、気になって『ショートヘア(ウワサバカ)』とまではいかなくても、ネットや本で色々調べてみた。だけど、本当に理不尽なニュースばっかなんだよな……。
『家族に虐待されて逃げ出したコを助けただけなのに、その虐待家族から被害届を出された』
『警察や学校、親に連絡しようとしたら、あんな家に帰るぐらいなら、死んでやるって言われた』
『警察への連絡を子供に止められ、それでも押し切ったら、腹いせに誘拐されたって言われた』
『逆にそうならないように、連絡や通報をためらい自分の元で保護していたら、誘拐容疑で捕まってしまった』
とかのワケのわからない状況になってるんだよな……。
――ちょっとした人助けで『家出した子供』を助けてしまったら、それが罰であると言わんばかりの泥沼状態ってどうよ? 『怪物両親』とか、『怪物病人』とか、『ゴネ得被害者』とかで、『正直者は敗者です』、『声の大きい人の言ったモン勝ち』とかって、もう、日本は狂ってるとしか思えない。
まぁ、言っても仕方ないことだけど……。
「じゃあ、『白眼鏡』教授ならどうしますか? もし、そのような『家出少女』や『家出少年』に出くわした場合はどんな対応を取るんですか?」
とても気になった。
僕と『家出少女』の関係から考えて、特に気になった。
この【殺人容認主義者(超現実主義者)】は、どう答えてくれるんだろうか?
「無論、助けない」
――即答でした。
実に見事に、『早押しクイズ(アタック25)』で問題文が読み始めた瞬間に答えるような即答ぶりです。
――って、アンタには人としての『やさしさ』はないのかよ! 『胃薬』の半分ですら、『やさしさ』で出来てるのに!
「……でも、それじゃ、人としてどうかと思いますよ? 困ってる人を助けないなんてそれじゃあんまりじゃないですか?」
《ほう。お前は『聖人君主』だったのか》と、『白眼鏡』がヤケに、皮肉げに嬉しそうです。
「そんなやさしさがあるから『甲斐性なし』と呼ばれ、【殺人視考(性癖)】に悩まされるんだろう。――度が過ぎて、良かったためしなどない」
《『百害あって一利なし』なものだ》と、『白眼鏡』が続けた。
そう。実に皮肉げに。
――忌々しそうに僕を見ながら、葉巻を燻らせながら、『人を殺したことのあるような眼』で、僕の眼を睨む。
まるで、僕の瞳に映る彼女自身を見ているような――。
「大概の事件など警察に任せておけばいい。そう、『警察』でなく、『警察』にな」
ニュアンスが微妙に違う。
『適当』と『テキトー』ぐらいのニュアンスで、同じ意味でもその真剣さが違ってる。
「昔気質の職人とも言える彼らなら、どんな犯罪も正義の名の下に解決してきたもんだ。そう、まさに人情あふれる『刑事ドラマ』のようにな。だが、今は『ケーサツ』しかいなくて残念だ。『駐車違反(切符切り)』に忙しい、『制服組』しかいない。――そんな彼らに『家出少女』を委ねるしかないんだよ。それがこの国の法律だ。事務的に事を運ぼうではないか」
――すっごく皮肉げです。
「でも、それじゃ、彼女たちの気持ちはどうなるんですか? 何があったか知らないけど、よっぽど酷い目にあって、ツラくて、ツラくて、どうしようもなかったから、家出したんでしょう? それをお役所仕事で、『とりあえず終わらせる』って具合に自宅に帰して『はい終わり』ってどうなんですか? そんなことじゃ、また家出したり、もっと悪質な手段に出たりするんじゃないですか。非行に走るならまだしも、最悪、『殺人』とか『自殺』に発展したら、誰が責任を取るんですか?」
「――誰も責任は取らないよ。マスコミが騒いで、どこかの『学者(教授)』や『知識人』がそれらしい意見をまとめて終わりだ。騒ぎの度合いによっては、『乗り切り法案』で聴衆を黙らせてな。そして、その間に賑わった関係者の懐が潤うビジネス市場だ」
そんなの。
そんなのあんまりじゃないか。
たとえ、それが正論だとしても。たとえ、これが『白眼鏡(ドS)』の意見だったとしても。
「そんなの間違ってるじゃないですか! そんなの強者の戯言じゃないですか。弱者を守るのが国であって、法律でしょう? 僕は認めたくない」
「あぁ、好きにすればいい。『思想の自由』がこの国では認められている。お前が思うように考えればいい。それと同様に、私も『思想の自由』と『表現の自由』に則り、自分の思想を表現しただけだ。どう解釈しようと、それはお前の自由だ。――例え、真実が、『日本は世界で唯一、成功している社会主義国家』であり、『民主主義の皮』を被りながら、政治家の私腹を肥やし、『ケーサツ』は彼らを守るためだけに『働く私設軍』であり、時に『指定暴力団』の協力を得ながら、一方、縄張りの一部を彼らに統治させ、『マスコミ』は先の彼らと談合して都合の良い世論を撒き散らし、消費者の心理を誘導し都合の良い労働者としている『痛々しい日本(JAPAIN)』である『利益優先主義』だとしてもな。――そう考えることは『自由』で認められている」
《だから、お前はお前自身の答えを見つければいい》と、『白眼鏡(ドS)』が、カワイソウなモノを見る眼で、意味深に『蒸気機関車(黒煙製造マシン)』です。
すさまじい暴論。
激し過ぎる暴論でした。絶対学校の教師が言わないことをさらっと言いましたよ、この『白眼鏡(ドS)』。
もう、『ショートヘア(演説好き)』のレベルじゃなくって、『危険な思想家(退廃的煽動家)』って言われるぐらいの『過激派』です。『本当の社会主義』な国だったら、捕まりそうなぐらいの暴論です。
――そういえば、この蝠山って、『十六条旭日旗(スゴい日の丸)』をつけた、『黒いバス』が大音響で街宣してたのはキノセイ?
……もう、疲れました。
どっと、疲れました。
誘拐がどうのって話を忘れちゃいそうなぐらいに疲れました。たしかに、『国家転覆』を狙うようなことを考えてるようだったら、『家出少女(未成年)』なんて、どうでもいいんだろうな……。
そんな、僕に『白眼鏡(軍曹)』が追撃してきた。――いや、補足かも。
「――以上が私個人の見解だ。『蝠山大学心理学部の教授』という肩書きでなく、私自身のな。同様に先ほどの質問に対しても答えておこう」
――あれ?
『助けない』ってのが『白眼鏡』の答えじゃなかったっけ。
あぁ、『白眼鏡』教授って聞き方をしたから、肩書きの立場で答えてくれたのかもしれない。
となると、『白眼鏡(大佐)』の答えは……。
「私個人の意見としては、『場合によって(ケース・バイ・ケース)』で『効率優先』だ」
《その状況になってみないとわからんよ》と、『白眼鏡(悪魔)』が何だか『人間味のある』ようなことを言ってます。
ちょっと、見直した。
もしかすると、わざと『トゲトゲしい』ことを言って、本当は助けたいっていう気持ちを『ツンデレ』に誤魔化してたのかもしれない。
「なるほど。わかりました。参考にさせてもらいますよ。でも、なんでまた、『未成年略取』なんて話を僕に聞いたんですか? 題意の確認をさせてください」
――うん、気になる。
すっごく、嫌な予感もするけど、答え合わせはしとかないといけない。
そうしないと、人は過ちを繰り返してしまうものなんだ。間違いに目を向けることは重要だ。
「何、実に簡単なことだ。『大学生が女子高生と同棲している』って都市伝説を聞いてな」
な、なっ、【都市伝説(うわさは現実)】って。
まさか、あの『ショートヘア(口軽女)』、いろんなヤツに話しまくってるのか!
だけど、そんなことは……。
アイツは無駄にこの手の話題に口は堅かったはずで……。
「何でも、ソイツは女子高生に『メイド服』を着せて、『お帰りなさいませ、お兄ちゃん☆』とか言わせてるそうだ」
な、なんだ今の声は!
い、いま、『白眼鏡』がモノスゴい『幼いアニメ声(萌えボイス)』だったぞ! アンタのスキルはもう僕の理解の限界を超えてる。
だ、ダメだ。これじゃ、このままではいかん!
「僕はそんなことやってませんよ! 僕とアイツは健全な仲で……!」
「ほう。やはりそうか。『出まかせ(リップサービス)』もしてみるもんだな。日々の鍛錬が役に立った」
って、この人、ハメたのかよ!
つうか、鍛錬ってなんだよ! どんなときにあんな声で話すんだよ!
ま、まさか、この人どっかの『アニメの声優』とかやってるんじゃね? いや、そんな、そんなこと、この『教授(ドS)』がまさか……。
いかん、さっきの声の『アニメ』を見た気がしてきた。つうか、俺はオタクじゃねぇ!
「『やさ男(お兄ちゃん)』はやさしくしれくれたょ?」
って、声真似されました。
えぇ、『セミロング(妹ボイス)』にしか聞こえませんでした。マジ、振り向いちまったじゃねぇか!
つうか、なんで、そのセリフ知ってんだよ? なんで、この人がアイツを知ってんだよ!
ツッコミが、追いつかなくて、俺の『不思議回路』が暴走してやがる
――嗚呼、もう、この人にツッコむのは止めとこう。
『知らぬが仏』で、『言わぬが花』だ。
――この世界は、僕が知ってはいけない『災厄の壷(パンドラの箱)』ばっかだ。