『行為(好意)の後のお部屋にて』
◆◆◆場所:『行為(好意)の後のお部屋にて』……語り手:『セミロング』
「うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおおおお、なんじゃこりゃああああああああああ!」
突然の声でした。
すっごく大きな声でした。鼓膜が破れるぐらいの、どっかのドラマで聞いたことある以上に異常な音量でした。
「えぇ。えっ?」
と、身体を強張らせて、縮こめるので精一杯でした。
とまぁ、目が覚めたら、『やさ男(お兄ちゃん)』に、やさしく抱きしめられていて、身動きがとれずに、どうしようかなと思いながら、なんとか抜け出そうとしたときに、服が脱げそうになって、ヤバイなと思ったときに、『やさ男(お兄ちゃん)』が目を覚ましたと思った瞬間に、『ドギマギ』してる私と『やさ男(お兄ちゃん)』の眼と眼が合ってしまったと思った瞬間に、スゴい声を出されました。
今も驚いてる『やさ男(お兄ちゃん)』の眼に映ってる『セミロング』の女のコが私なワケで……。
はい、今ものすごく、『ドキドキ』しすぎてこんな内面描写になってしまってます。いつもの『ぃ』とか『ょ』とかの『子音言葉』を使い忘れるほどの『ドキドキ』でした。
「――まぁ、アレだ。とにかくそういうことだから、気のすむまでココに居ればいい」
と、バターを塗ったトーストをかじりながらに、『赤いめざましが出てくるニュース』を見ながら、『やさ男(お兄ちゃん)』が喋ってます。
ご飯食べながら喋っちゃダメって習わなかったんでしょうか? ――あっ、案の定こぼしてます。たぶん、『まだ興奮が冷め遣らない』って情況なのかもしれません。
「うん、ありがとね。こんな私に付き合ってくれて……」
「バーロッ! 『こんな』とか言うんじゃねぇよ。自分にもっと自信持てって。俺が可愛いと思うぐらいの『セミロング(妹キャラ)』なんだから、大丈夫だって。――つうか、お前が『こんな』だったら、たいていのヤツは『これ』とか『それ』とか『あれ』とか『どの?』とか『ん?』ってレベルだぜ。『ショートヘア』なんか『バカ』の『バ』の『濁点』一個分のようなヤツだぜ」
……フツーにヒドいこと言ってます。
それに、『妹キャラ』とか普通使わない言葉を使ってるところから考えると、やっぱり心境乱れまくりなんだね、『やさ男(お兄ちゃん)』は。
「でも、『ショートヘア(お姉ちゃん)』は、カッコイイと思うよ?」
「……。マジで言ってるのか? あれがカッコよかったら、俺はもっとカッコイイぜ! きっと、たぶん!」
また、ワケのわからないことを『やさ男(お兄ちゃん)』は言ってます。
あまりツッこむと、ツッコミ切れない気がしてきたので、そろそろ気にしないようにしておこう。
――『ピッ』という電子音。
その音がすると、テレビが変わる。――『やさ男(お兄ちゃん)』が別のニュースに変えたみたいで。
【例の全国的に起きている『流行性連続バラバラ殺人』ですが、今だ、勢いが衰えず、被害報告が寄せられています。なお、昨日起きた『カラオケボックス』での類似の殺人事件ですが――】
「あぁ、つまんねぇー。あぁ、つまんねぇー。どこも同じニュースばっかだな。もっと、ためになるモンやればいいのに。例えば、『一休さん』とか『全力ウサギ』とか『グレンラガン』とかな」
『やさ男(お兄ちゃん)』は、そう愚痴を言うと、『ブチ』とテレビを消しました。
これって、私に犯罪を見せないようにしてるのかな?
――落ち込ませないため?
「ん? 何見てんだ。朝っぱらから俺なんか見て……。あぁ、俺のトーストが欲しいのか。あぁ、そうだよな、育ち盛りの食べ盛りだから、足りないのがフツーか。いや、俺、『一人っ子』だったからそういうのよくわかんなくてな、わりぃわりぃ」
『やさ男(お兄ちゃん)』が、こんがり焼けたトースト五枚くれました。
――だけど、私が見てたのはそんなことじゃなくって。
「『やさ男(お兄ちゃん)』、ありがとぅ。でも、十分足りてるょ。五枚はちょっと、多いかな。ただ、ただね……」
『やさ男(お兄ちゃん)』は、私を見てます。
私の眼をやさしく見ながら、私が言い終えるのを、ゆっくり待っててくれます。
「久しぶりに人と一緒に朝ゴハン食べたから。そのね、すっごく嬉しくて……」
あぅ。また泣いちゃいそう。
これ以上はちょっと、ヤバぃかもしれなぃ。
ホント、私は学習能力がないな――。
「バカ、そんなん気にすんな。フツーのことだっての。また明日もできるし、また明後日もできる。望めばずっと毎日毎日できることだって。それこそ、『ショートヘア(バカ)』とか『ロングヘア(バカ)』とかでみんなでワイワイやってな。――だから、その、なんだ。そんな顔されちゃ困るって……」
『やさ男(お兄ちゃん)』は、身振り手振りで『しどろもどろ』になりながら、答えました。
「――俺は人の泣き顔見るの苦手なんだよ。だから、笑ってくれ。イヤなら無理やり笑かしてやる!」
そういうと『やさ男(お兄ちゃん)』は、《おっ、そろそろ学校がやべぇ》とか言いながら、後片付けを始めました。
私はその背中をずっと眺めてます。
その大きな頼りがいのある背中を、『蜂蜜入りのホットミルク』を飲みながらに。
――ミルクがすごく幸せな気にしてくれます。
あの日以来、こんなに落ち着いた気分は、初めてかもしれない。
ときどき、『子音言葉』を使い忘れちゃうぐらいに。
……うん、すごく心地いい。