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あらしの夜に  作者: 白鳩
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「第四話 シェリー」

 客室の机に、手記があった。シェリーに客室へ通された後で発見したものだ。それには、この館で起こった事件の全容が記されていた。


 昔、この家には双子が居た。可愛らしい女の子だったそうだ。しかし、生まれた時に母親が謝って双子の片割れに火傷を負わせてしまったらしい。右の顔から顎にかけての大きな火傷は隠し切れず、母親は思い悩んだ。その家では代々旦那が絶対的な力を持ち合わせており、女子供は父親の判断に身を委ねることこそ至高であるということだった。母親の失態が露呈すれば、旦那にどんな罰を与えられるのか。とても想像がつかない。母親にとってひどく、恐ろしいことだったそうだ。

 そこで、母親は火傷のある子を「シェリー」と名付けて、悪魔の子だと言い張った。愚かにも、その方法で失敗を隠し切れると思ったらしい。

 幸か不幸か、父は、子育てにまるで関心がなかった。そのため、双子のシェリーは両親から事ある毎に「居ない子」として扱われ、シェリーはいつも泣いていた。

 そんなある日、双子の姉であるメリーは、母親からシェリーの火傷の痕について問い質して知った真実に、妹を心から不憫ふびんに思った。

 そこで、あることを思い付き、試してみることにした。妹の火傷痕を化粧で隠し、かつ自ら顔に火傷痕のような化粧を施して、たまにシェリーと入れ替わる。メリーは名案だと信じて疑わなかったらしい。妹に理由を尋ねられ、メリーは初めてシェリーに自分の気持ちを言葉にした。

 メリーはシェリーに、ずっと笑っていて欲しかった。自分と同じように楽しい気持ちで、傍に居て欲しかった。「双子だから」。たったそれだけの理由だった。シェリーはメリーに何度も泣いて感謝している。メリーもその時ばかりは嬉しかったそうだ。

 シェリーが初めて「メリー」になった時、とても楽しかった。みんなが優しく接してくれることが、何よりも嬉しかった。冷たくあしらわれない。声を掛けても無視をされない。それどころか、挨拶を返してくれるのだ。いつしか、シェリーはメリーとして演じ続け、自分をメリーだと思い込んでしまった。

 当のメリーは日毎に自信を失い、自分はシェリーで「悪魔の子」なのだと思い込んでしまった。シェリーになったメリーは独りぼっちになり、やがて人形のニックが唯一無二の友達になり、ニックを「双子の片割れ」だと思い込む。そうでもしないと、メリーは壊れてしまいそうで、館での息の仕方も忘れそうだった。

 孤独な日々は次第にメリーの心を(むしば)み、メリーは両親を、妹を恨み、ますます暗くなっていった。双子は既に、どちらがどちらであるか、実の親にも本人たちにも判別が付かなくなってしまっていた。

 そんなある日メリーは「悪魔」から救いの言葉を受け、耳を貸す。

 「みんな、燃やせばいいじゃないか」

 だから、メリーもといシェリーは実行した。

 それが、あの13歳の誕生日のことだった。



 メリーの日記は、そこで途切れている。





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