表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それは現のイストリア  作者: 御乃咲 司
一章 GOD-残灯のイグジステンス
18/55

16.胡蝶の夢見る灯幻郷


 暖かな陽射しに包まれ、爽やかな風に触れて快適に過ごせていた日々は過ぎ去った。代わりに訪れたのは、眩しく強気に振る舞う陽射しと全身に纏わりつく空気中の水分によって、不快さが募る気の滅入るような日々だ。

 水場でその不快感を忘れようと計画し、楽しもうとするもの中にはいるようだが、陽射しの割に水温は上がっておらず、水に浸けた足を引っ込める結果となってしまっている。

 そんな不快感が募り、精神の摩耗が著しい者たちはこの状況を打開すべく立ち上がったのだった。


 そんなユーフィリア家の屋敷では、ブリジットに買い出しを頼まれたロウとシンカを除いた、ここに住まう面々と数名がそれぞれ案を持ち寄り、状況を打破する為の作戦会議(女子会)が開かれている。

 広間の扉には”男子禁制”と書かれた紙が貼られており、その前ではフォルティスが不貞腐れた様子で門番の様に座っていた。



「流石にこれ以上、こんな天気を許容することはできません。寝つきも悪くなりましたし、兄さんがどうしても添い寝をしたいと言ってきても零秒程度の時間くらいは悩んでしまいます。当然、断ることはしませんが」

「それってまったく悩んでないっすよね?」

「二人ともへばり過ぎかな。普段から規則正しい生活をしていれば――」


「氷使いは黙っててください」

「氷使いは黙ってるっす」


 涼しい表情で発言した自らの魔憑としての能力により、不快な気候をものともしていないシラユキだが、全てを言い終わる前に恨めしそうな視線を二人だけで無く他の者たちからも向けられ、暫く黙っていようと口を噤んだ


「それで、なんでアンタたちまでいるんだい。ただでさえ暑苦しいってのに」


 実質的な屋敷の管理者であるブリジットが呆れ顔でその者たちに視線を向けるものの、その声にはいつもの活力はまるで感じられず、彼女ですら今の状況に辟易としているようだ。


「え? だってここは私の実家だよ?」

「部下を監督するのが上官の務めだろう」

「私も同じく。何か問題でも?」

「偶然にも通りかかったらしつこく誘われるものだから仕方なくだ、そう仕方なく」


 それぞれがそれぞれに当然の様に返答をするが、疲弊しているブリジットからすればその正当性は低く、今すぐにでも締め出したいほどだった。

 しかし、屋敷の主たるロウと親交があり、自らとも知らぬ中ではない為にそれが出来ないでいる。オトネの言葉を借りるのであれば冷々愛々(ツンデレ)だ。


「はぁ、あとは勝手にしておくれ。アタシは部屋で休んでるから頼んだよ、リン」

「はいはい、わかったわ。ゆっくりしてて頂戴」


 そうして、若干の不安と嫌な予感を抱えながら、一先ずの家事を終えたブリジットは重い足取りで自室へと向かい休息をとるのであった。


 沈黙を守り、遠くから扉の閉まる音が届くと、再び議論が展開される。

 その第一声はやはりこの人物であるのは避けれないことであり、発言したのちの結果は想像に難くないところだ。


「やはり、空をおもいっきり飛ぶのが気持ちいいはずです! 天使であるわたくしが言うのですから間違いありません!」


 勢いよく立ち上がり、自慢の黒と白の入り乱れた何とも奇抜な翼を広げたのは、顔立ちは美しいが内面に少々難のある天使(アンジェ)の少女、シエル・ヴァンジェ。

 すると、正面に座っていた一人の少女がその発言に対抗するように鋭く言葉を返す。


「まったく……何もわかっていないようですわね。不快感を拭い去るには海水浴に決まっているでしょう。そしてなにより、ご主人様に縄で縛られることこそが快楽の極みですのよ」


 陽の光を受け艶めく長い髪、美しくどれほど見ていても飽きない美貌、男性だけでなく同性ですら羨む均整の取れた体型をした性格に多大なる問題を抱えている人魚セイレーンの少女、クベレ・エーデルワイスだ。


 この二人が対抗意識を燃やし始めた以上、この先の展開を想像するのはさほど難しいことではない。

 しかし、シンカやブリジットがこの場にいれば、仲裁という名の制裁を与えて容易く事態を治めるのだが、いなければそれを期待することもできないのだ。

 むしろ、部屋で休んでいる魔女(マギサ)を目覚めさせようものならば、この場を頼まれたリンにまで苛立ちを向けられる可能性は否定できないだろう。

 故に、その事に思い至ってからのリンの行動は迅速だった。


 広間の大窓を全開にするとシエルの背後に周りその後頭部を鷲掴みにし、空いている方の手でクベレも同様に持ちあげる。

 そしてそのまま窓の前で腰を落とし、持ち得る力その全てを以て――


「「きゃあぁぁぁぁあああぁぁっ!」」

 

 二人の少女を投擲した。


 その後、静かに大窓を閉め鍵の音を響かせたリンは皆の方に振り返ると、笑顔のまま何事もなかったかのように席に戻った。


「誰か、なにか意見はあるかしら?」


 その意見というのは、この気候による不快感をなんとかするための意見なのか、それともリンの行動に対しての意見を求められているのか。

 迂闊な言動は文字通り身を滅ぼすことになりかねないため、彼女の上官たる者たち以外は誰も動けないでいた。


 それでもやはり一人だけは、ずっと抱えていた疑問をぶつけなければならない。

 ずっと聞きたくても聞けず、状況に左右される事なく自らを通すための勇気を振り絞るのに時間は掛かってしまったが、その者は意を決したように静かに口を開いたのだった。


「あ、あの! どうして、男の僕が呼ばれたんでしょう、か」


 そう言ったのはティミド。控えめな性格とその華奢な容姿が相まって、誤解されることも非常に多いが、彼はれっきとした男なのである。

 

「……あ」「……え?」


 その疑問に対する反応としては、本人に言われて思い出す者、真実を初めて知らされる者とにわかれた。

 投擲され、今頃は庭先で土まみれになっているであろう亜人の二人も、この場にいれば驚愕していたに違いない。

 そんな周囲の反応もある程度は予想していた彼ではあるが、たとえ心構えができていても、傷つくものは傷つくのである。


「も、もう帰り、ます! だ、男子禁制の場所、ですから!」


 彼にしては早口で絞り出した言葉だけをその場に残すと、ティミドは羞恥に身を縮めながら足早に屋敷を後にしてしまった。


 開け放たれたままの扉の外から何か言いたげなフォルティスが顔を覗かせているが、その口を開くことはなく、どこか虚しい風の音が聞こえるだけだ。

 部屋中に漂う罪悪感は吹き込む風に流される事なく、時間の感覚を鈍らせる。


 そんな中――


「ぜぇ、ぜぇ……や、やってくれましたわね……」

「いきなり何をするのですか、リン! わたくしは悪くないはずです!」


 時間が停滞していたような広間に足を踏み入れたのは、砂埃を上げて庭を転がっていたシエルとクベレの二人だった。衣服だけでなく全身が砂まみれになっており、先程までの美しさも泥に汚れてしまっては霞んで見える。

 戻って来た二人は不満げな表情を浮かべていたものの、その勢いですら振り払えない広間の空気に対し、


「……あ、あの」

「え? な、なんですの……この空気は……」


 そう二人が呟いてしまうのも無理はない。

 短くも長い不在時に起きた出来事を知らない二人に向けられたのは、なんとも言えない複雑な表情ばかりだったのだから。すると、


「の、のぉ」


 普段は感じる事の無い居心地の悪さに耐えきれず、普段は会話を切り出さない奥手な少女が、砂まみれの二人組に堪らず声を掛けた。


「ふ、二人はとりあえず湯浴みにでも行ってきたらどうだ? そのまま過ごすわけにもいかぬだろう……ブリジットも怖いし」


 とても長い時間を一人で過ごしていた為に、他者と関わることを非常に苦手とする妖精(エルフ)の少女、ロリエ・ライム。

 彼女なりの気遣いと僅かな本音が混ざり合った結果として吐き出された言葉は、この場にいる者を震撼させるには十分すぎた。

 特に動揺していたのは顔を引き攣らせたクベレと焦点の定まっていない様子のシエル……そして、俯き体を小刻みに震わせているリンの三名だ。


「おいリン、大丈夫か? 汗が……」

「クベレ、シエル! 直ぐに全身を洗ってきなさい! 砂粒一つ残さないように!」

「わ、わかりましたわっ!」

「い、いってきます!」


 心配するリコスの声が聞えていないのか、戦地に居るかのように鋭い瞳を向けながら指示を出したリン。その次に打つべき一手を思考している最中、ロリエ以上に意外な人物が意外なことを言い放った。


「風呂、か……そうだな。ならば、温泉に行こうではないか」


 そう言ったのは、月の使徒ロディア隊の隊長を務めるシャオク。

 その表情は何故かとても晴れやかなものだった


 

 …………

 ……



 それから数日もの間、彼女たちは各所への根回しや準備、仕事の調整などに追われに追われ追われ続けた。

 確かに彼女たちは今までも幾つもの苦難や困難を乗り越えてきたわけではあるのだが、人というのは一つの目標の為にここまで必死になれるものなのだろうか。

 一つの目標の為に団結した少女たちの底力は凄まじいものがあった。


 そうして……



 ――大翼節(たいよくせつ)二十二日、内界では夏至と呼ばれる六月二十一日。


 ついにその日は訪れた。

 日中から崩れることなかった青空は茜色に表情を変え、それに伴い纏わりつくような空気がその勢力を弱めていく中、街の中では感じることのない硫黄の独特な匂いが少女たちの鼻孔に入ってくる。

 深い森の中でも、広がる蒼空を見上げることができる少し開けた場所。そこには大小様々な大きさや形をした石で囲われた、小さな泉のようなものがあった。

 しかし泉とは異なり、白い煙のようなものが辺りに留まっていてるそこからは、高い熱量が感じられる。


「こ、これがオンセンッ!?」

「はいはい。感動してるところ悪いけど、突っ立てないでいくわよ」

「シ、シンカ、そんなに強く腕を引っ張らなくても」


 初めて見る温泉に感動と興奮を覚えるロリエを引っ張りながら、シンカは温泉の傍にある簡素な造りの脱衣所へと入っていった。

 そこは大人数で使うことを想定されていないようで、同時に着替えることができるのは五、六人が精一杯といったところだろうか。


「それにしても、こんなところに露天風呂があるなんてね」

「てっきり、シンカは知っているものだとばかり思っていたのですけど?」


 すでに着ていた衣服を脱ぎ終り、温泉へと入る準備の整ったクベレが、怪訝でありながらも感心しているような表情のシンカへと話しかけた。

 が、シンカの様な反応をしてしまうのも無理はない。何故なら此の地は外界における完全中立地域にして、審秤神サラ・テミスの御膝下である虹の塔(イリスコート)から少し離れてはいるが、十二分にその管理下にある場所なのだ。


「知ってるはずないじゃない。今日の事だって、知らされたのは今朝だったのよ? ……あと、手に持っているソレは置いていきなさいよ」

「うぅ……わ、わかりましたわ」


 渋々というか涙ながらに、クベレはシンカにとっては用途を理解し難いソレ……手にして麻縄を籠へと入れた。

 いつもの事とはいえ、自身の事を慕ってくれている彼女には悪いが、少々受け入れるのを躊躇ってしまう一面は本当にどうにかならないものだろうか。

 そう、シンカは呆れながらに溜息を漏らしつつも、自らの着ている衣服に手を掛け、一枚づつ脱いで皴にならないように畳んで籠の中へと納めていく。


「ロリエ、どうかしたの?」

「あ、いや……その」

「貴女、野外で肌を晒したくないとは言いませんわよね?」

「そそそ、そんなわけがなかろう!?」


 衣服を脱ぐことなく、神妙な面持ちで佇むロリエを心配して声をかけたシンカではあったが、横から口を挟んだクベレの言葉にロリエは激しく動揺し声も裏返ってしまっていた。

 今はまだ(・・)気心の知れた面子ではあるし、誰も簡単には近づくことがないと思ってはいても、この先の事(・・・)を考えれば、踏ん切りがつかないのはシンカにとって理解できるところでもあった。


「確かに外で肌を晒すのは勇気がいるけど、きっと露天風呂は入ってよかったと思えるわよ? でも、無理強いをさせてもあの人は喜ばないから……ロリエの意思を尊重するわ」

「……シンカ」


 それでも、シンカは狭い世界で生きて来た仲間に、一つでも多くの楽しさを知って、たくさんの想い出を作って欲しいと思っていた。

 あの日(・・・)がもうすぐ来るとわかっているからだろうか……尚更そう思ってしまう。

 

 それを無理強いしてはならない。

 そこに強制力があってはならない・

 そこに支配があってはならない。

 そんなものはただの箱庭でしかないから。


「それで、結局貴女はどうするんですの?」

「こ、此方も……此方もシンカたちと共に温泉に入りたいのだ」


 独りでいること、我慢することに慣れ過ぎていた少女の思いを聞いたシンカとクベレは、優しく微笑みながら恥ずかしそうに俯く彼女へ言葉を返す。


「それじゃ、早く支度しないと」

「手の掛かる姉の着替えを手伝ってましたから、あたくしが脱がせて差し上げますわ。ほら、こっちを向いてくださいな」


 すると、自らが望んだことではあったが、やはり恥ずかしいという気持ちをすぐにはなくすことはできないのだろう。

 ロリエのとった行動は、何とも先程の発言には沿わないものだった。


「そ、それはできぬ相談なのだ!」

「貴女ね、さっきと言ってることが違いますわよ!?」

「温泉には入りたいが、服は脱ぎたくない! ただそれだけのことなのだ!」

「くっ、本当にいろいろと拗らせてますわね!」


 そうして、自身を服をぎゅっと握り締めるロリエと、彼女の服をまるで追い剥ぎのようにひっぺ返そうとするクベレの死闘が始まった。


(普段は良い子たちなのに……はぁ………ん?)


 だが、ここは狭い脱衣所であり、そのような所で暴れればこうなるのも必然。

 どちらの手が、あるいは足が当たったのか……否、そのようなことはどうでもいい。とにかく、シンカの綺麗に畳んだ服や下着等の入った籠が綺麗な弧を描いて宙を舞い、ぱさりと床に落ちたのだった。


 その後、シンカの静かなる怒りによって大人しくなる二人であったが、怒られた上に結局ひんむかれてしまったロリエは隅の方でしくしくと蹲り、同じく怒られたはずのクベレはどこか満ち足りたような恍惚とした表情を浮かべていた。





 その頃、ある種の秘湯と呼べる場所へと赴く者たちがここにもいた。

 広がる森の色よりも鮮やかな髪と瞳を持つブリジットは、全ての家事を終わらせてから少し遅れて屋敷を出立し、賑やかな面々の保護者として今日もいつもと変わらずに頭を悩ませている。


「ブリジット、温泉はまだですか!? 一番風呂がわたくしを待っています!」

「懇願。ロザリーこれ以上歩けない。休憩」

「私も喉がカラカラだよ~! お水がほしい~! お水ぅ~!」


 そう騒ぎ立てるのはこの三人。

 白と黒の入り混じった翼をはためかせている天使(シエル)

 クベレとロリエに合わさればシンカの負担が大きくなりすぎることを考慮し、後発組に入れられていることを知らされていない少女だ。

 今からどれだけ急いでも、一番風呂は叶うまい。


 小柄な体躯を引きずるように歩いている吸血鬼(ロザリー)

 フォルティスという足がなければ、ろくに旅もできない出不精の少女。

 本人曰く、屋敷が好きなだけらしいが、それはただの引きこもりであり、明らかな運動不足である。


 言葉の割には饒舌で体力が有り余っているように見える少女(オトネ)

 ピクニックが大好きな少女は此度の秘湯の旅を楽しみにしていたのだが、興奮のあまり水筒を忘れてしまったうっかりさんだ。

 すでにブリジットの水筒を空にし、更に不満の声を上げる困ったさんでもある。

 

「はぁ~……屋敷の外でたまにはゆっくりできるかと思えば、結局いつもと変わらないじゃないかい」


 溜め息と共に出てきた声に力はまるで入っておらず、疲れを癒す以前にそれ以上に疲れているのが、ブリジットの様子からは簡単に見て取れる。

 叱りつけ、黙らせるのは容易いのだが、今回に関してはブリジットもそういった行動を取ることを躊躇っていた。

 ここ数日の間、怠けることなくブリジットの手伝いをし、言いうことを守って我儘もろくに漏らさなかったのだ。

 何か裏があるとは思っていたが、まさか秘湯へ行くためだったとは、さすがのブリジットにも予想できなかった。


 しかし、何事にも限度と例外というものが存在するのは世の常だ。

 人知れず静かに呼吸を整え、気を引き締めたブリジットは無情なる制裁を()の者に与えたのだった。


「オトネ、そんなに水が欲しいならコレでも飲んどきな。遠慮はいらないよ」


 言って、ブリジットがオトネに向けて手をかざすと、そこに収束される魔力。オトネがそれを感じ取った時にはすでに手遅れだった。

 放出されたのはすべてを呑み込み、地の果てまで流してしまいそうな勢いを持った大量の水だ。


「えっ!? ちょっ! なんでぇぇぇぇぇぇっ!?」


「オトネ!?」

「悲劇。オトネのこと、忘れない」


 瞬く間に遠ざかっていくオトネの姿にそれぞれ違った反応をみせるが、その声は流され行く者に届くことはなく、次第に弱まっていく暴力的な水流。

 その場に残ったのは口を閉ざした二人と、強者に対する畏怖の念。


「さて、オトネは先に温泉の方に行っちまったし、アタシらも急ぐよ」


「は、はい!」

「承知。がんばる」


 激流と共に様々なものを流し去ると、心に余裕のできたブリジットは上機嫌にその足を前に踏み出していった。

 その後ろから遅れないように、逸れることの無いように、シエルとロザリーも震えそうな脚を懸命に動かしていく。

 たとえ環境が変わっても、人の性分というものは簡単に変わらないのだと実感しながら前を向く二人であった。



 …………

 ……



 一方、ユーフィリア家の屋敷では、珍しい事に二人きりとなったロウとフォルティスが、父と息子のゆったりとした静かな時間を過ごしていた。

 元々、両者共に多弁なわけではないし、かといって沈黙していることに気を遣う間柄でもない。

 姦しさの消えた今の屋敷は、時計が時を刻む音と時折強く吹く風が窓硝子を揺らす音が聞える程度の、穏やかで少々物足りない、そんな空間となっていた。


「父様」

「ん? あぁ、もうこんな時間か。夕飯の準備をしないとな」


 朱い陽が世界の端に沈んでいくと、蒼黒い天幕が世界を覆い隠していく。

 人々の暮らしに光が灯り始め、今日の暮らしや明日の暮らしを家族と語らう時間に移り始める時間だ。

 読んでいた本を閉じると、ロウは朝からブリジットが用意しておいてくれた料理を温めるために台所に向かっていく。

 ……が、その途中で、ロウの頭の中に聞き覚えのある声が響いた。



『……ますか……メ……です……大変……な……した……運……が変わ……この……で…………の崩壊……』


 雑音(ノイズ)が混じり、途切れ途切れではあるものの、悲壮感と焦燥の感じられる声。

 その声の主は恐らく反逆の箱船(リベリオンアーク)の屋敷に住む炎精(ヴルカン)の少女、メル・キトルスだろう。彼女は自身の能力で、ロウの脳内に直接話しかけているのだ。

 メルの能力は利便性がある反面、幾つかの制約を伴うものであり、それを知るロウは焦燥に駆られながらも冷静に問い掛ける。


「メル、どうした? 俺の声は聞こえているか?」

「…………」


 事が動き出した(・・・・・・・)のだと察したフォルティスは、ただじっとロウを見据えている。


『……く……塔の……へ…………様の元………いしま……』


 そして、気安く使うことがない能力を行使するということの意味をロウは理解し、念話が切れると同時に先程までの親子の団欒は姿を消していた。

 広間の温度が外気よりも更に低いものへと変わっていくような感覚がロウを襲い……日常が、平穏が、安寧が静かに崩れていくのを嫌でも感じさせられるこの状況が、ロウの身体を突き動かす。


「――くッ!」


 すぐさまロウは思考を切り換え、問題が発生したであろう場所まで全速力で向かおうと、フォルティスの声を背中に受けながら屋敷の扉を勢いよく開け放ち、外へと飛び出した。

 地面を蹴る足に一段と力を込めて、文字通り一直線に目的の場所に目指そうとしたのだが、その行く手に突如として姿を現したのは二つの影。

 降魔、或いはそれ以上の悪意を持つ存在の襲撃かと思い、無意識の内に氷剣を両の手に生成し斬りかかるも、それらは見知った者たちだった。


「久しぶりに顔を見たかと思ったら、いきりない斬りかかってくるとか随分とご挨拶じゃねぇか! チビリそうになっただろ!」

「今はそれどころじゃ無いと思うんだ、アンス」


 首元へ氷の刃が触れそうな状態のアンスが、ロウに向かって湧き上がる不満をそのまま口にしているものの、同じく冷たい刃の存在を首に感じているトレナールは落ち着いた声を漏らしていた。

 いきなりロウの眼前へと表れたのは、地国テールフォレ地の武層所属のアンスとトレナールの二人だ。

 それを認識したロウは氷剣を消し、硬い表情のままで二人に言葉を投げかける。


「あ、あぁ、すまなかった。それより、突然だが二人の力を貸して欲しい」


 渡りに船とはこの事だ。

 千里眼と転移の能力を有するアンスとトレナール、この二人の協力があれば、どんな場所にでも安全かつ迅速に辿り着くことができるのだから。

 

 そう思い、ロウは事情を簡潔に説明しようとするのだが、それよりも先に口を開いたのはアンスだった。


「もちろんだぜ。なんせ、俺たちはそのために来たんだからな」

「それも大急ぎで、ね」

「どういうことだ?」


 状況を把握できずに思考が混乱したままのロウにアンスが手短に説明すると、トレナールが多くの事を補足した。


 二人によれば、偶然にも月光殿まで任務で来ていたらしく、それが済んで後は自国への帰路につくだけだったところで、メルの声がアルテミスの元に届いた。

 その内容をアルテミスから聞き、同時に彼女から告げられた言葉に二人は頷くと、そのままロウの元まで急行したのだという。


 メルの能力に関する制約というのは距離や人数、そして会話が可能かどうかだ。

 彼女が今回使用したのは間違いなく詠唱によるものだ。

 そうでなければ、虹の塔(イリスコート)付近から月国まで念話を届かせることはできない。それに併せて、彼女が声を届けることのできる最大人数もロウは知っている。

 伝えることができる人数が限られているのなら、判断力があり、相応の地位と実力を持つ信用に足る者に伝えるのは当然の事だろう。

 つまり、ロウとアルテミスをはじめとする各国の神々にも伝わっているはずだ。


「そうだったのか。さっきはすまなかった」

「別に構わねぇけど、次は気を付けてくれよ? まじで! っと、こんな話をしてる場合じゃなかったな。とにかく急いで行かねぇと。トレナール、役目(・・)を果たすぞ!」

「いつでも行けるよ、アンス」


 突然の事とはいえ、仲間に刃を向けてしまったことを詫びるロウだったが、アンスとトレナールにそれを気にした様子は無かった。

 そして、今自分たちがすべきことをもう一度確認し、これ以上の時間は無駄にできないとばかりに、アンスとロウがトレナールの肩を掴んだ直後、三人の姿がその場から消えると静寂が屋敷の敷地に満ちる。


「父様……頑張れ」


 ロウを見送ったフォルティスは、人知れず、彼の無事を祈るのだった。






 それから何度目かの移動を経て、レイオルデン内に足を踏みいれたところで、トレナールが収納石から取り出したのは幾つかの食料と飲料だった。

 それをトレナールが少ない咀嚼で胃の中へと流し込んでいく中、アンスがロウへと声を掛ける。


「いいか、ソティス。たぶん次の移動で目的地に着くはずだ」

「あぁ、わかった。到着したら二人はすぐに距離を取ってくれ。何があるか分からないからな」

「もちろんそのつもりだ。自分の領分は弁えている。……役目(・・)は果たすさ」


 神妙な面持ちのアンスから聞かされた言葉にロウは気を引き締め、更に警戒と集中力を高めていく。幾千の可能性を考慮し、万が一に備えるその姿は鬼気迫るものがあった。

 最強の力を有するサラの管理下にある虹の塔(イリスコート)の敷地内に於いて異常事態が発生したと思われるこの状況下では、そうなってしまうのも無理はない。


「お待たせ。準備は大丈夫?」

「……大丈夫だ、ありがとう」

「くれぐれも気をつけてね」


 栄養補給を終えたトレナールが心配そうにロウへと声を掛けると、返ってきたのは穏やかな言葉でありながもその声音は硬い。

 三人が互いに顔を見て頷くと、トレナールの肩を再び掴んで最後の移動の体勢に入った。そして次の瞬間……周囲の景色がまるで変っていた。

 

 足は地面に着いておらず、眼下に広がる森林。


「――なっ!?」


 一瞬アンスの声が聞えた気がしたが、一緒にいたはずの二人の姿は見当たらず、何故か浮遊感に包まれながらも、ロウは瞬時に可能な限りの情報を掻き集める。

 視覚。周囲には何もない。

 嗅覚。鼻につく独特な刺激臭。

 聴覚。自身が空気を切り裂く風切り音。

 触覚。体に痛みは無く、地面に吸い寄せられていく体躯。

 それらを一瞬で認識したロウは、今の状況を深く考えるよりも先に氷で足場を生成。それを蹴って上方へと跳躍する動作を繰り返し、落下を緩やかなものへと変えながらその間に思考する……つもりだった。


 だが、この瞬間に合わせたかのように眼前に現れたのは水で作られた人形だ。


 ロウの黒曜の瞳に映る、使い手の容姿を投影した水人形の事を彼はどこかで見たことがある。いや、屋敷で共に過ごす彼女の事はよく知っている。


 しかし、何故彼女が、アンスたちが、メルは、サラは、アルテミスは、様々な疑問疑念思考思案がロウの頭の中を駆け回り、駆け巡る。

 如何なる状況下でも思考、判断し、行動することに関してロウは人よりも優れていたが、この瞬間だけはそれが大いなる欠点となってしまった。

 大切な人の身に何かが起きたと理解したからこそ、無意識のうちに自身の身よりもその者のことを優先してしまったのだ。

 極僅かとはいえ、思考したその一瞬が無ければ、彼は水人形に地表に向かって叩き落とされる事なく、回避や反撃といった行動をとれていたはずだった。


「くッ! だが、これならまだ……」


 不意を突かれた一撃ではあったが、彼女の全力に比べればあまりにも軽い。

 ロウは中空で体勢を整えると、再度氷の足場を使い跳躍を試みる。だが――


「っ!?」


 確かにロウの行動は迅速であったといえるだろうが、それでは足りなかった。

 右足に絡みつく緑色の侵略者の所為で、生成した氷に足を掛けることは叶わない。森林の中、ロウの死角から鋭く、素早く獲物を狙い、その足を捕えたのは幾つもの棘をもつしなやかで力強い茨だ。


 長い時間を娘として育て、見守ってきた。

 甘えたで我儘を言う事もあるが、家族思いの優しい吸血鬼(ヴェリラス)の少女。

 絡みつく茨を辿った先にいるロザリーの姿は、木々に遮られはっきりと確認できないが、ロウにはその表情がどこか虚ろなように見えた。


 果たして、これは慢心なのだろうか。


 幾千の可能性……その可能性は無いと、どこかで思っていた。

 万が一に備える……その程度の備えでは足りなかった。


 審秤神サラ・テミスの御座す聖域レイオルデン領、断罪赦免の虹の塔(イリスコート)

 そんな、絶対に安全だと思っていた場所からの応援要請。

 不自然な移動先と、突然姿を消した者たち。

 少し前まで同じ空間で団欒とした時間を過ごしていた者たちが、自らの能力で攻撃を仕掛けてきたこと。


”――三つ目はまさか、だ”


 不意に、あのとき桜の下でコルに掛けられた言葉が脳裏を過ぎる。


 この事象から考えられるすべての可能性を考慮し、その中でも最も良くない事……今、この時期(・・・・)に起きて欲しくない、最悪の事態とはなんなのか。

 こんな事は起こり得ないだろうと、頭に過ったことはなんなのか。


「……危険種、なのか」


 降魔の中でも特異的な存在である致死の天災(リーサルカタストロフ)、危険種。

 今までにロウたちが戦ってきた危険種もそれぞれに一筋縄ではいかない、むしろ後一歩のところまで追いつめられた脅威そのものだった。

 仮に今回の事態が危険種によるものだとしたら、その能力は恐らく……


(催眠か精神操作の類か……)


 思考、思案の果てに推測は立った。

 ならば、これ以上は頭の中で考えていても仕方がない。想像したことを検証し、答え合わせとして攻撃を仕掛けてきた彼女たちに接触するだけだ。


 その為にも、まずは拘束されている右足を自由にし、居場所の判明しているロザリーの元へ向かう。水人形の存在から、クベレも近くにいるのは間違いない。

 そして、他の屋敷の面々さえも危険種の能力の影響を受け、周囲に息を潜めていると考えるのが現状での最悪だろう。

 だが、それでもやるしかない。

 危険だろうと、無茶、無謀なことであっても、それ以上の最悪に向かわせないためには、今ここでロウという存在が立ち向かわねばならないのだ。


(すぐに助けてやるからな)


 心の中で呟いたロウは右足に絡みつく茨を凍結させ、砕き壊そうとすぐさま魔力を集中させた。

 だが、歴戦の戦士である彼は、歴戦の戦士であるが故に僅かに感じた魔力の存在に、咄嗟に意識を向けてしまったのだ。

 空中であるはずのこの場所で、頭上の少し離れたところを奇妙な配色の翼を大きく羽ばたかせながら飛翔していく者の存在に。


 そして、気付けばいつの間にか眼前にまで迫ってきている水人形。感情など無いはずの水人形の表情はやや被虐的な使い手と違い、嗜虐的な笑みに見える。

 彼には見えていないが、ロザリーのいる場所とはまた別の位置から、一筋の氷の坂道がロウの近くまで形成されていた。


 明らかにロウの癖や思考、ありとあらゆる彼の情報を巧みに利用した連携的な動きだ。それを考慮すれば、危険種の力は操った者の経験を共有、または読み取ることができるのか、その者の力を最大限にまで引き出すことができるのか。

 どちらにせよ、厄介なことに変わりはないが、どちらも突破口は同じだ。


 すでに眼前にまで迫っている水人形の攻撃を、このような中空では躱せない。

 そしてこれ以上後手にならない為にも、防ぐことは避けたい。

 ならば答えは単純だ。力で捻じ伏せるしかない。


 そう判断すると同時に、ロウは瞬間的に零下の魔力を全身から放出。

 周囲の空間を氷結させる……には至らず、僅かな冷気すら出ないどころか、むしろ魔力が身体全身から抜け出して(・・・・・)しまっていた。

 代わりに感じたのは、両腕に抱き着かれている柔らかく弾力的な存在だ。


「……少しばかり動かずに」

「いて欲しいのでありんす」


 ここに来て、あまりにも想定外過ぎる事態がロウへと牙を剥いた。

 ロウの魔獣であるハクレンとルナティアの二人が、主の行動を阻害するというまさか(・・・)の状況。

 この瞬間、数え切れぬ戦場を駆けた男の混乱は計り知れないものとなった。

 そして、茨の枷がより強く右足に絡みつくと、追い打ちを掛けるように鼓膜に響いたのは自らを慕ってくれていたはずの妹たちの声。


「モミジッ! 全力でやってください!」

「押してダメなら、引いてみるっす!」


 地上からの声を認識した時には、すでに体は動かされていた。

 茨によって引き寄せられているのではなく、体躯の全てが抗えることなく声のした方へと吸い寄せられているのだ。落下しているのとは異なり、体勢を変える事すらままならず、成すがままの状態で真っ直ぐに地上へと向かっている。

 それは紛う事なき彼女の念動力であり、両腕は二人の魔獣に掴まれ、それを力任せに振り払うことも、満足に魔力を使用することもできない。

 

 今のロウにできる事と言えば、打たれ強さには定評のある自身の身体の丈夫さを信じるばかりだった。


 そうして、速度が変わらないまま風を切り、熱を帯びた空気に包まれたの感じた時には高温の液体の中に沈んでいた。

 誰かが叫んでいるように思えるが、沈んでいるロウには上手くそれを聞き取ることができない。そんな中で息苦しさを思い出した彼は酸素を求めて体を動かし、無事に液体の中から上体を出すと、肺へ酸素を招き入れた。

 いつの間にか、腕を拘束していたはずの二人は姿を消している。 


 それと同時に響いたのは――


「まったく、アンタたちは加減ってものを知らないのかい!」

「そうですわ! あれほど、あたくしの上に落とすようにと言ったではありませんか!」

「着いて早々溺れる所だったし」

「とにかく、クベレは少し向こうに行くわよ。三人は少しブリジットに叱られてなさい」


 賑やかな声を近くで感じながら手で顔を拭い、今更遅いと思いながらもロウは周囲が警戒しつつ瞼を上げると、そこには想像もしていなかった情景が広がっていた。


「ロウ、どうですか? このわたくしのセンジョウテキな姿は! 今なら褒めてもいいですよ!」

「それなら私だってなかなか悪くないよ~? ほらほら~」


「…………」


 水面から顔を出したロウに気付いた、奇妙な配色の翼を持つシエルとオトネが、自身の女性らしさを存分に自己開示(アピール)しながら問いかけてくる。

 二人に……というよりも、それ以外の者たちに対しても、どう声を掛けていいのかを決めあぐねている中、彼女たちの視線はロウへと集まっていた。


 皆、体に大拭布(バスタオル)を巻き付けてはいるが、この場所の事を考慮すればその下には何も着けておらず、生まれたままの姿が隠されているのだろう。

 鼻腔を刺激する独特な匂い、乳白色の液体に浸かっている脚部に感じる熱。

 アンスたちが本当に虹の塔(イリスコート)へと向かっている最中にロウを放り出したというのなら、森の中でも開けた此の場所がどこなのかを彼はよく知っている。


 ――露天風呂


 本来であれば風呂というのは体の汚れを落とし、疲労回復を主な目的としているのに対して、露天風呂は季節や時間ごとの周囲の景色を眺めながら湯に浸かるという情緒、風情を感じることのできるものだ。

 そして家々や宿屋、大衆浴場と同様に、男女が同じ湯船に浸かるということは非常に稀な事だといえる。


「これは……どういうことなんだ?」


 ようやく絞り出すことができた声は、先程までの緊迫した状況とはかけ離れたなんとも間の抜けたものだった。ロウは頭では冷静に状況を把握しようと努めているのだが、予想外の出来事が連続したせいでどうにも思考が混乱している。


 すると、そんな呆けた様子の彼を見かねたのだろう。

 これまでのことを静観し、クベレたちによるロウへの攻撃行動さえも黙認していた二人が、他の者たちの間を通り抜け、ロウの前に姿をみせた。当然のことながら、彼女たちも器用に翼や尻尾の位置を考慮した大拭布(バスタオル)姿である。


「それは私共から御説明させていただきます」

「ロウ様、どうぞこちらへ」


 そう言ったのは、湯の中だというのに淀みのない足運びは流石といった様子のリコスと、澄ました表情とは裏腹に忙しなく動く翼に気付いていないクローフィの二人だった。

 まるで違和感を与えることなく、洗練された所作でロウの両側に回ると、当然の様にロウの腕を掴み、この場を離れようと彼を促す……jが、そのような行為を周りは許してくれなかった。


「そこの思考垂れ流しコンビも好き勝手してるんじゃないよ! 説明ならここでできるだろう!」

「同意。それにパピィは、ロザリーの姿で悩殺済」


 相手が誰であれ臆することなく言葉を投げつけるブリジットは、普段は下している長い髪を湯に浸からないように簡単に結い上げており、豊かな実と相まって艶やかさが増しに増したその姿は別人のようにも見える。

 それに続くようにロザリ―も自信に満ち溢れた声を上げるが、周りはそう思ってはいないようだ。これからの自身の成長に期待している彼女の身体は目立った凹凸は無く、成長が止まっている(未来がない)ことを自覚していない。


「それは流石にないですね」

「もう少し冷静になった方がいいかな」

「きっとのぼせてるだけっす」


 叱責を受けていたはずのツキノ、モミジ、シラユキの三人が揃って後頭部を抑えながら、いつもと変わらぬ調子で口を開くその姿もやはり、柔らかくきめ細やかな肌の良さを存分に曝け出した布一枚の姿だった。

 何をするときも仲良く一緒に行動し、同じものを食べ、同じ訓練をし、同じ魔女の制裁を受けているにも関わらず、彼女たちの成長具合には圧倒的な差ができてしまっている。二人からするとその点においては、不満と不平が日々募ってはいるものの、その差が埋まら無いのが現実というものであった。

 最も胸元が豊かで女性らしいのがモミジであるという現実だけは。


「はぁ……貴女たちに任せてたら話が進まないわね。ブリジット、代わりにクベレが動かないように見ててくれる? あと、恥ずかしがってるロリエの様子も」


 そんな集団を掻き分けて入ってきたのは髪を上に纏め上げ、拭布(タオル)を巻いているリンだった。近接戦を得意とし鍛錬に打ち込んでいる彼女の身体は筋肉質という訳ではなく、むしろ露出している部位はしなやかで硬いようには見えない。


「まぁ、仕方ないね。ほら、ややこしくなるからシエルもきな」

「え? あっ、あぁあぁぁぁ!」


 ブリジットは僅かに顔を顰めながらも渋々といった様子でリンの指示を受け入れると、この場を彼女に任せ、一人の問題児を無理矢理引っ張りながら問題児たちの元へと向かっていった。


 リンは改めてロウに体ごと向き直ると、今回の出来事について説明していく。


「それでね、この騒動というかイベントの発端なんだけど、すごく単純なことなのよ」

「すまない、どうにも思いつかないんだが」

「ふふ、確かに貴方はそうかもしれないわね。まぁ、つまり……暑かったのよ。空気はじめじめしてるし、蒸し暑くて風も吹かない。ならいっそ、あつ~いお風呂に入ってサッパリしましょうか、ってね。でも、貴方は普通に誘っても素直について来てくれないでしょ?」

「……それが今回の理由、なのか?」

「えぇ、そうよ。怒ったかしら?」


 そんなことは無い……と、そう思ったロウは優しく微笑み、改めて皆が無事であることを認識して安堵に胸を撫でおろした。


 温泉に落とされ、攻撃が止んだ後もロウは警戒をし、周囲の動きに気を張り巡らせ続けていたのである。魔力が戻ってきた時から多少の安堵感はあったものの、完全に気を抜いてしまうほど、今という時期(・・・・・・)を甘く思っていない。

 そして、この出来事も騒がしい日常の延長だったことを認識してしまえば、一先ずはここから立ち去らなければならないだろう。

 そう思い、ロウはすぐさまリンたちに背を向け、露天風呂から出ようと足を踏み出すものの、その場に響いたのはシエルの声だった。


「ロウ! 折角の混浴なのに、どうして出ようとしているのですか!」

「ご主人様~! 雌豚の分際で身の程を弁えず、ご主人様のお身体を傷つけてしまったこの卑しいあたくしに、どうかご褒美(お仕置き)を!」


 シエルに続いてクベレまでもがブリジットの制止を振り切り、大拭布(バスタオル)に包まれている巨大な双丘を上下左右に盛大に躍動させながら向かってくる。

 それを直視してしまった一部の者たちの瞳からは生気が失われ、なんとも言えない哀愁を纏っているような表情を浮かべていた。

 特に衝撃を受け、漂う桃のように湯船に浮いた撫子色の頭の少女は大丈夫なのだろうか。


「ロザリーッ、シラユキッ!」


 離れたところから聞こえるブリジットの声で我に返り、名前を呼ばれた二人が何をすべきか瞬時に悟るものの、そのときにはすでに手遅れだった。

 クベレは十分な速度を保ったまま露天風呂の底を蹴り、抱きつくように両腕を伸ばしながら大きく跳躍。

 少し遅れたシエルも周囲の者を押しのけ、飛翔しようと大きく翼を広げる。


 だが――


「やれやれ……戦士にも休息は必要だが、羽目を外し過ぎだな」


 彼女は呆れたように言葉を吐くと、クベレの手首を掴みながら自身を軸に振り回し、不意にクベレを手放した。そのまま自分の意思とは関係なく放り投げられたクベレの先には、驚きに目を見開いたまま棒立ちになっているシエルの姿。

 互いに避けることもかなわず、見事に正面衝突(ごっつんこ)した二人は、大きなこぶを頭にこしらえながら仰向けの状態で湯の中に浮いていた。


「流石にこのままだと哀れか。そこの三人! この二人を脱衣所に連れて行ってくれ」


「は、はい!」

「了解っす!」

「任せるかな!」


 有無を言わせないような迫力を感じたツキノ、モミジ、シラユキの三人は、彼女の指示通りに急いで問題児二人を抱えると、脱衣所の方へと向かっていく。

 途中、シエルの翼や足が地面に擦れそうになっているのを見かねたブリジットは、溜息を漏らしながらも手を貸し、気絶した二人を搬送していった。


「シャオク、君も来ていたのか」

「えぇ……そのっ、まぁ……はい……」


 問題児たちをいとも簡単に無力化したシャオクは、どこかしおらしさが感じられる。戦場の中、最前線で奮闘する勇ましい姿はそこにはなく、防具を脱いだその体には屈強な戦士のものではない、とても女性らしい魅力が詰まっていた。


 ロウの傍まで来たものの、彼女はそれ以上言葉を発することなく、ただ戸惑うように視線を彷徨わせている。

 湯に浸かっている時間が長かったのだろうか。顔はすでに朱く染まっており、露わになっている細い腕やすらりと伸びた足も色づいているようだ。

 いやむしろ、現在進行形でどんどんと赤らんでいるように見える。


「大丈夫なのか? 具合が悪いなら、少し上がっていた方が――」

「い、いえ! これくらいの事でわた、私、私はぁぁぁぁ~……」

「シャオク!?」


 ロウの声を遮ったシャオクの体が左右に揺れ動いていたかと思うと、彼女の重心が後方へと移り、そのまま背中から温泉へ倒れ込むように傾いた。

 突然の出来事に、ロウが彼女を支えようと咄嗟に手を伸ばすものの……


「確かに、戦士にも休息は必要だとは思いますが」

「これは気を抜きすぎというものだな。リン、先に行って休ませる場所を確保してこい……絶対にだ」


 このような事態を想定していたかのようにリコスとクローフィがシャオクを両側から支え、素早く傍にいたリンに指示を飛ばした。

 慌てて露天風呂から飛び出したリンは上官の指示に従い、全速力で先に搬送された二名が休んでいるであろう脱衣所へと向かって行く。

 

 なんとも不思議な現象ではあるが、あれ程激しく動いているにも関わらず、これまで間誰一人として、大拭布(バスタオル)がはだけていないのである。だが……


「それでは、私たちは一先ずこの御方を休ませにいって参ります」

「用が済み次第至急戻りますので、ロウ様はごゆっくりとお過ごし下さい」


 そう言って二人はロウに一礼し、それに対する返事も待たずにシャオクを抱えて温泉から離れて行ってしまった……が、その途中で一枚の大拭布(バスタオル)が持ち主の体を離れて地面に落ちる。

 当の本人が気を失っていたのは不幸中の幸いだが、その一糸まとわぬ姿は、洗練された美しさ、女性独特の柔らかさが見ただけでわかるものだ。

 しかし、人数が減った事によって空気の流れも無くなり、湯気が充満しだした露天風呂に取り残されていたロウの視界は悪く、その裸体が晒されることはなかった。


「と言われてもな……流石にこの格好のまま湯に浸かり続けるのはまずいだろ」


 静けさを取り戻した露天風呂を見渡したロウは、本来であれば咎められているであろう自らの姿を見下ろし、改めて温泉から出ようと試みる。

 だがそこで、更なる追撃者が彼の元へと訪れた。


「どこ行くの? たまにはゆっくりしてもいいんじゃない?」


 普段は頭の両側で括っている髪が解かれ、その金に近しい輝きは彼女が歩くたびに左右に揺れ動いている。

 身体に巻いている大拭布(バスタオル)を恥ずかしがるように片手で抑えているせいで、押し上げられてしまっている豊かな胸がより強調されているのに彼女は気付いていないのだろう。健康的に赤らんだ白肌と相まって、普段よりも存分な色香を放っている。

 一歩ずつロウの元へと向う表情は穏やかに見えるが、僅かな緊張感が含まれていた。


「そうもいかないだろ。服も着たままだしな」


 ロウが振り返った先にいたのは、ぎこちない微笑みを浮かべたシンカだった。

 彼女の視線はロウの方に向いてはいるのだが、目を合わせることは無く、右へ左へと中空を彷徨っている。

 

「なら、足湯っていうのかしら。それなら服は着たままでも大丈夫でしょ? それとも私とは一緒に入れないってこと!? どうなのよ、ロウ!?」

「わ、わかったから少し落ち着いてくれ。少しだけならゆっくりさせてもらうから」


 恥ずかしさを隠すように語気を強め、問い詰めてくるシンカの迫力に圧倒されたロウは、彼女を宥めるためにも提示された案を受け入れた。

 そのまま露天風呂の周囲を囲んでいる石の一つに腰を下ろすと、ロウは履いている靴を脱いで裸足になり、すでに濡れてしまっているズボンの裾を捲り上げて足を温泉につける。

 シンカはといえば彼の姿を視界に入れながら……


「……少しだけ、か」


 安堵感と不満感の入り混じった感情を秘め、誰の耳にも届かない程度の声で小さく呟くのだった。





 その後はシンカもロウの傍に腰をかけ、足湯を楽しみつつ今回の件についての話をしていた。

 せっかくの温泉だというのに湯の中に浸からないシンカに入るようにロウが勧めるも、それをやんわりと断わった彼女の横側はどこか嬉しそうに見える。


「それで、普段の疲れも少しくらいは取れたかしら?」

「あぁ、そうだな。少なくともさっきまでの疲れは取れたよ……って、そう睨まないでくれ」

「あの子たちもやり過ぎたところはあったかもしれないけど、ロウに休んで欲しかったのは本当なのよ?」


 苦笑しながら言葉を返すロウにシンカは目元を鋭くし、拗ねた子供の様な反応を見せる。彼女のそんな姿につい微笑みが漏れてしまうロウだったが、それが更にシンカの機嫌を損ねる原因となった。


「もう、笑う事ないじゃない! 確かに強引で、危険で、強引だったかもしれないけど……でも、でもね……本当に、今くらいはロウにも休んで欲しかったのよ。みんなと一緒に」

「そうか……ありがとう、シンカ」


 言葉と共に伸ばしたロウの手がシンカの頭を優しく撫でると、彼女の表情は穏やかなものへと変わり、口許が緩んできているように見えた。

 閉じられた瞳。柔らかそうな花弁を思わせる唇。薄く染まる頬や身体の全身が熱を帯びているのは、果てして温泉の熱によるものか、それとも特別な何かか……それは誰にも(・・・)わからない。


 そんな、時間にしては僅かではあったが……長く、永く感じられた二人の時間は、唐突に終わりを迎えることとなった。


「ご主人様~っ! あたくし、戻ってきましたわ~! くッ、離しなさいこの駄目天使! その翼を切り落としますわよ!」

「クベレこそ、イモムシはイモムシらしく大人しくしていてください! この愛天使であるわたくしが、ロウと混浴するのです!」

「そそそ、そのような破廉恥なことをゆゆゆ許せる訳にゃかろう!」

「ロリエっ! そのままじゃバスタオルが取れちまうよ!」


 再びやって来た嵐のような仲間たちの声に、二人は顔を見合わせて苦笑すると、どちらともなく同じようなタイミングで口を開いた。


「シンカの周りはいつも賑やかだな」

「ロウの周りっていつも騒がしいわね」


 真逆の事を言っているはずなのに同一の事を述べてる二人は、前にもあったような感覚に、どこか可笑しげに微笑み合った。


 声の主たる者たちが徐々に近付いてきているのを感じ、ロウが水浸しの靴を履き直して立ち上がると、シンカもどこか残念そうな溜息を漏らして立ち上がり、ロウへと声を掛ける。


「あの子たちには少しお説教が必要みたいね」

「俺は今回の事で話したいこともあるし、サラのところに行ってくる」

「そこまで気付くなんて流石ね。それじゃ、またあとで」

「あぁ、行ってくる」


 少ない情報の中で影の協力者の事まであっさりと看破されてしまった事にシンカはあまり驚かなかった。むしろ、ロウであれば当然だと納得すらしていた。


 そうして、濡れ鼠の様な状態で虹の塔(イリスコート)へと駆け出すロウの背中を見つめる優しげな瞳をすっと陰らせた。

 その瞳には不安や寂しさが同居していたが……


「本当に少しだけ、だったわね……」


 そんな呟きと同時にシンカは振り返り、気持ちを入れ替えると、呆れた表情を浮かべながら人型大嵐の到来を静かに待ち構えた。


 その後、露天風呂で人知れずのぼせていた撫子色の髪の少女が言うには、アルカディアの森に魔王が現れ、哀れな少女たちの悲鳴と慟哭と断末魔の様なものが響き渡っていた……らしい。




 …………

 ……




 屋敷の者たちの不在時に届いたメルからの不明瞭な連絡。

 あまりにもタイミングよく現れたアンスとトレナールの二人。

 アルカディアの森の中、露天風呂近辺で誰からの干渉も一切無かったこと。

 これらのことを踏まえると、自ずと協力者たちの姿が浮かび上がってくる。


「本当に何事も無くてよかったが、それでもだ」


 ロウにとって、未だに不可解な点があることも確かだった。

 それを確認する為にも、珍しく静かにしている彼女たちに、直接ロウは呼びかけてみる。


(ハクレン、ルナティア。二人はこのことを知ってたのか?)


『……空気を読んだということです』

『空気を読んだだけでありんす』


(はぁ……次からは気を付けてくれよ。)


 そう注意すると二人は再び静かになり、ロウの耳に届くのは風の音と木々の揺れる音だけとなった。

 彼女たちの顔は見えないが、耳や尻尾が萎れていることだろう。魔獣である彼女たちなりに、シンカたちと同じようにロウの事を思ってくれての行動だったのは間違いない。そのようなことは、ロウ自身が誰よりもわかっている。

 しかし、今の時期が時期なのだ。もう少し状況を考えてほしいという複雑な思いを抱いたまま、彼は天を貫かんとする虹の塔(イリスコート)に向けて更に速度を上げた。


 これまで、多くの戦いを乗り越えてきた。

 これまで、多くの人々と出会ってきた。

 これまで、多くの命の最期を見てきた。


 だからこそ……これまで得たものを、これまで失ったものを無駄にしない為にも、彼はその命の灯火が消え去るその刹那、最後の最期まで駆け抜けるのだろう。

 今まで保ってきた速度よりも早く、そして力強く、前へ前へと突き進む。

 振り返ることもなく、引き返すこともなく……

 ただ愚直なまでに未来(まえ)に向かって、その足を止めることなく。




 …………

 ……




 ロウが露天風呂から駆け出していた頃、虹の塔(イリスコート)内の一室では協力者たちが集い、実働していたアンスとトレナールに今回の働きに対しての報酬を与えていた。


「はい、これがあんさんへの報酬や。他の誰にも見せたらあかんよ? なんたって、女神(乙女)のプライベートやからねぇ」


「あ、ありがたく頂戴いたします! トレナール! 早速帰ってコレをじっくりとしっかりと目ん玉に焼き付けるぞ! ……ごくりっ」

「わかったよ、アンス。でも僕のことはいいから、一人で楽しみなよ。それではサラ様、コル様、失礼します」


 報酬に歓喜し、だらしない表情を浮かべたまま今にも小躍りしそうな調子のアンスを連れ、トレナールは一礼したままその場から姿を消した。

 残っているのはこの地に於いて絶対的な存在である審秤神サラと、無精髭に白衣というちぐはぐな容姿の救医神コルの二人だけだ。


「サラ様……さすがにあれは拙いんじゃないですか? ミコト嬢ちゃんの秘蔵写真だなんて」

「でもなぁ、それくらいでないとあの二人……いや、千里眼の子は動いてくれんとおもうてな。ミコトが赤ん坊の頃の写真なんて古すぎてなぁ、ほんま探すの難儀したんよ?」

「……へ? ミコト嬢ちゃんの秘蔵写真では?」


 今回の計画に於いて、ロウをいかに警戒させず、事前に悟られ断らせることなく、あの温泉まで連れて行くのか……それが最大の問題点だった。

 そこで皆が思いついたのが、トレナールの能力だ。

 しかし、同時に更なる問題点が幾つか持ち上がったところで、審秤神に刃を突きつけた経歴持ちの怖いもの知らずであるツキノ、シラユキ、モミジの三人がサラの元まで向かい、そこに至る事情を話したのである。

 その後は協力者、各方面への根回しがサラ主導の下で、ロウに一切気取られる事なくトントン拍子に進み、無事に今日という日を迎えたのだ。


 アンスという人物を知る者からすれば、彼に物事を頼む場合、ミコトに関する情報や女性関連の何かがあればだいたい動かせることは把握している。

 そんな、男の本能に従い迷いなく行動する彼ではあるが、今回の報酬であるミコトの秘蔵写真こそが、彼を突き動かした原動力そのものであった。

 それに対して、トレナールに協力を頼むにしても、彼は人に迷惑をかける事を避けたい善良な人間なのだ。しかし親友(アンス)の願いに加え、人に危害が加わらない上にロウの為になると諭され、今回の役目を引き受けたのだった。


 だが、アンスは今回の仕事を請け負うにあたって、最大にして唯一の失態を犯してしまった。

 それはアンスが思い描いたしている妄想(報酬)と実際の報酬が、同じ秘蔵写真であるのかを確認しなかったことだ。

 確認しようとしたところで、サラに巧く煙に巻かれるか、言いくるめられるのは目に見えてはいるのだが、あまりにも軽率すぎた。


「誰しも、過去の写真ってもんを見られるんは気恥ずかしいやろ? やから、秘蔵になるんやんかぁ。ほんに男の人ってのは、ナニを想像してたんやろねぇ」


「うっ……くっ……(強く生きろよ、アンス!)」


 女神とは思えない悪戯な笑みを浮かべるサラの隣では、同じ男として同情し、硬く握った拳を震わせたコルが、目尻に小さな光を浮かべながら哀れとしか言い様のない小さき男を愁いていた。

 そしてそんな姿が、その場に到着したロウを酷く困惑させたという。






 …………

 ……






 其処は、暖かい空気に満ちた世界。


 其処は、温かい人々が集う日溜り。


 其処には体の芯まで熱くさせてくれる温泉があって、


 其処には心の芯まで熱くさせてくれるアナタの身体が在る。



 其処に有るものが此処には無くて、


 此処に無いものが其処には在った。




 こんな理不尽で不条理な世界に酷く退屈していたけれど……


 あぁ……やっと、それも終わる。



 これまでの何百回、何十万年の時を経て、やっとここまで辿り着いた。

 

 それを思えば残された時など、極僅か……刹那の時でしかないのだから。

 


 だから、ねぇ……早く……



 ――アナタの熱を感じさせて……


 ――アナタの熱が亡くなるほどに……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ