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座席

 これは午後一時を過ぎた頃、酔いも限界まで来ていた時だった。

 既に出来上がっていたのに、二軒目を目指してタクシーに乗り込んだのだったが、その瞬間から嫌な予感は感じていた。

 四人も乗ることになれば、助手席には誰かが座ることになる。

 座ることになったから前に回る事になって、それを愚痴りながら渋々、前のシートに手を掛けるまで、一体、三人の内で動けたのは誰だったろうか。

 白い手が目の端で手を重ねていて、振り払おうと腕を動かすと柱で手を打ち、その痛みでうずくまって叫ぶ。

 酔っているからか、運転手は静かにしてください、と言うくらいで、白い手には気づいていなかった。

 不思議に思っていたが、その不思議は気にとめるよりも酔いが勝って、どうでもよくなる。

 足ももつれそうだ。

 そう思いながら、倒れるようにシートへ身を落とし込み、シートベルトをしようとしたとき、後ろから首を絞められ、二本の細い腕に迫られた。

 どうしても振り払えない。

 これで酔いが醒めて振り返ろうと身をよじると、布みたいにすり抜けて、あっさりと後ろを見れた。

 ドアが閉じていたせいで、中途半端に席から身を乗り出した姿になっている。

 寄っていたからと気にしていない運転手だが、ハンドルを指の腹で叩いていた。

 目玉を丸くして、しばらく停止していたが、すぐに体を戻す。

 このとき、冷や汗が流れた。

 喉を冷たく締め上げる、幻覚があったからだ。

 今度は逃げることが出来ない、確実な、明確な幻覚が。

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