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「あ゛?!」
怒りが滲み出る。今すぐコイツを、殴りたい。そんな衝動に駆られた。
「てめぇ。もういっぺん言ってみろ!」
俺はコイツ___副校長、佐賀 元成の胸ぐらを掴みあげ、睨みつけた。副校長もそれに負けじと俺を睨み返す。
「加藤先生、やめなさい!」
そのやり取りを見ていた青野先生が声をあげた。
俺はそれを聞き、一度目をつぶり、頭を冷やしてから副校長の胸ぐらを乱暴に離した。その勢いで俺よりも背の低い副校長はバランスを崩し尻餅をついたが、すぐに立ち上がり鼻を粗く鳴らした。
「全く大人気ない!」青野先生は俺と佐賀の間に入り、佐賀が握りかけた会話の主導権を奪った。
青野先生は養護教諭___保健室の先生である。校長先生の次に年配で俺が高校生として通っていた頃からこの学校にいる。しかし、今となっては一番の年配者でなる。
「子どもたちの前ですよ!全く。」
異世界に来てから約3週間。魔法にかかっていた生徒たちはボチボチ目を覚まし始めていた。俺が担当のクラス___2年特別クラスは未だ誰も目覚めない。
「加藤。これは会議で決まったことだ。変更はもう無い!!」
佐賀は俺のことを指差し怒鳴った。俺は眉間にしわを寄せた。少し冷静になった頭でもすぐに理解できるほどに、俺はヤケになっていた。
そう、会議で決まったことなのだ。佐賀個人の意見ではなく会議で何時間も論議し合い決まってしまったことなのだ。
俺は会議に参加していない。しかし、青野先生が参加していた。絶対に反対しただろう。しかし叶わなかった。
1を捨て10を生かす。いや、ここの国民もいた。101を捨て10を生かす。より大きい可能性のために……。
「言い方というものがあるでしょう?」と青野先生が佐賀を説教している。佐賀はバツの悪そうな顔をしていた。佐賀だって元の世界に奥さんを残してきているのだ。佐賀は奥さんと仲が良かった。よく飲み会で長く続く秘訣をクドクドと語っていた。しかし校長の計画が失敗に終わり、はての見えない綱を暗闇の中、バランスをとりながら進んでいるのが現状だ。少しバランスを崩せば溜まっているいろんな感情がこれ見よがしと爆発してしまう。カッとなって自制が効かなくなる。
大人でコレだ。子どもたちは不安で押しつぶされてしまいそうだ。
俺は苦虫を噛み潰したような顔してから、覚悟を決めた。根拠や自信なんてない。ただの思いつきだ。
「俺も!」
突然声をあげたためか驚いたかのように佐賀と青野先生は俺の顔を見た。
「ここに残ります」
それが俺にできる、あいつらにしてやれる、せめてもの罪滅ぼし、そんな気がした。
☆
「俺が責任持ってお前たちを連れて行くからな!!」
高々と宣言する。生徒誰1人不安にさせないために。いや、違う。自分のためかも知れない。
今になってどうしようもない不安が立ち込める。だが、悟られては意味がない。前を見よう。前進しよう。
この城の地下に森へと続く隠し道がある。そこから外に出て森を抜け川を超え2、3日歩けば隣国の、都市につく。
だが、その前に生徒たちの中に転移系の能力を持っている子がいるか確認しよう。それに、早いうちに能力を把握していた方が後々に響く。だが、魔道具がないから正確にはわからん。しかし、感覚で自分の能力を理解できるやつはざらにいる。実際、先に目覚めた子ども達の中でも何人かいた。
★★★
先生は高々と宣言した。この先生ならどうにかしてくれる。そんな気がした。
「じゃあ、脱出経路の説明をする前に、特殊能力の説明をしようかな!」と、先生が言う。
「の、能力ですと?!」
大金重三郎(以後、シゲちゃん表記)が、普段はとろいが誰よりも早く反応した。
「魔法に能力……!さすが異世界!ケモ耳っ子待った無しですぞ〜hshs」
自分で自分を抱きしめながらクネクネして妄想に浸っている。
よく、村山がシゲちゃんのことを『キモい、うざい、臭い』等々言っているがその気持ちが今ならよくわかる気がする。だが、しかしこれでもシゲちゃんは根はとてもいい奴である。何処か憎めない。
それにシゲちゃんの発言のおかげで緊張していた場の空気が大分ほぐれた気がする。
現状は良くないらしいがシゲちゃんの言う通りこの世界には魔法や能力があって……それらを自由に扱う自分らを想像すると何処となく期待が湧いてくる。
魔法や能力を使って『悪い奴』を蹴散らしたり、……もしかしたら空を自由に飛び回れる魔法もあるかもしれない!
先生は口をあんぐり開けながら固まっていた。いや、上唇の片端が微妙にプルプル震えている。その後、ニタリと笑みを作った。その笑みを感じた山井が身を乗り出し勢いよく尋ねた。偉くワクワクしているご様子。
「加藤先生!魔法とか能力ってどうやってやるんですかー?」
「魔法は勉強と一緒で毎日コツコツ練習すればできるようになるぜ!」
先生が指をパチンっと鳴らすと手のひらほどの炎が表れた。
『「「「おおーー」」」』
「まー、人により属性とかの向き不向きはあるけどな」
ちなみに俺は魔法はそこまで得意じゃないんだけどな、と付け足した。
パチンパチンと藤沢卓也(以後、タクヤ表記)とシゲちゃんが指を鳴らした。
俺もそれに習って指を鳴らす。
火でろ火でろ火でろ
パチン
炎炎炎
パチン
『「「「パチンッ!」」」』
気が付けば皆で指パッチンをしていた。
その様子を見ていた先生が豪快に笑う。
「そんな、1日2日でできるもんじゃねぇよ。勉強と一緒だ。」
「…ぁ」と、梅田の声が薄っすら聞こえる。
「マジかよ」と、村田も呟いた。
勉強という言葉に反応して何人かが顔をしかめた。もちろん俺もしかめっ面。
ゲームとかと一緒で、スキルを取得するば自由に扱えるモノだと思ったがそうではないらしい。
「そう、落ち込むな。城を出たらちゃんとした奴に教えてもらえるからな。魔法が自由に使えると楽しいぞ〜!」
面白そうじゃないか異世界。
「さて、次は特殊能力についてだが……」
先生が言葉を区切る。
「なんかこー、感じないか?!」
「特殊な力っつーか。今ならこんなことが出来る気がする!とか。」
まさか、ここにきて感情論。
みんなポカーンとしている。
先生はため息をついた。
「あー、本当はな。魔道具があってそれで自分の能力を確認するんだが、今その魔道具が手元にないんだ」
なるほどそれじゃ仕方ない。
キャラが多くてうまく動かせない……。
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