実験台(被)観察日記①-2
遅くなってしまいました。誰も待っていませんが(笑)それもこれから増えていけばと願います。
サブタイトルは全然繋がりそうにもないので、あんまり気にしないでください。
「じゃあなー」
駐輪所では、そんな画一的な別れの挨拶が幾つも交差している。といっても帰宅部の人数なんて高が知れているが。
皆がガチャガチャと自転車のスタンドを下ろす中を、僕は一人寂しくトボトボと歩いて行く。徒歩通学。実家から電車通学という形でもよかったのだが、一人暮らしに早めに慣れておいた方が良いということで、高校入学にあたって僕は学校の近くに安い賃貸を借りたのだ。まだ三週間しか経っていないが、この調子なら仕送りで足りるだろう。
僕の住むアパートまでは五分程度、外見はそこまでボロボロというわけではないが、中に入るとまあ高校生風情には分相応といったところだ。
僕はいつものように、何も入っていないはずのポストの中身を確認し、ドアの鍵を開けてから広くはない部屋に入る、はずだった。しかし、僕の部屋の扉の前には女性が立っており、やはりそれは昼休みに見た(と言うか見られていた?)あの女の子だった。手には昼休みにはなかった学生鞄を持ってはいるが、どうやらうちの高校のものではない。違う学校の生徒なのか?だが制服はうちの学校のものだった。
彼女は僕に気付き「こんにちは」という無難な挨拶をした。
「どちら様ですか」
「どちら様だと思います?」
なんというか、相手をナメているような話し方だ。
「どちら様ですか」僕は繰り返した。
「…………いや、私が何者かなんてことは、どーでもいいんですよ。大事なのはあなたの判断なので」
どういうわけか分からないな、と思っていたのが顔に出ていたらしい。
「今日はあなたにお話がありまして、参りましたでございます。話というのも、お察しかも知れませんが、私あの学校の生徒じゃあないんですよ」
適当な日本語だ。
「えりいと高校ですよね。偏差値62なのにエリートって微妙ですよねー」
確かに、偏差値62でエリートだったら少し心許ないが、
「あれは“衿絃”と読むんですよ」
「え、そうなんですか?まあいいや、そんなこと話しに来たんじゃないですし」
「でしょうね」
「実は私、私立高校の生徒なんですよ!」
彼女の顔は微かにドヤ顔に見えたが、そんな得意満面で『私立校です!』なんてことを言われたところで、「それがどうかしたんですか?」て感じだ。
「いえいえ、私立というのも、ただの私立高校じゃあなんですね、私が生徒登録している学校は!なんと!!あの!!!東名学園でございます」
いきなり落ち着くな。それにしても、東名学園?ありそうな名前だが、聞いたことはないな。
「で、いきなり核心をつくというのもアレなんですが、あなたに転校して来てもらいたいんですよ」
『テンコウシテキテモライタイ』という言葉を認識するのには、少しばかり時間がかかった。しかし、言葉の意味が理解できたところで、僕にはせいぜい「転校?」と繰り返すぐらいしかできなかった。
「そう、転校」
彼女は、アニメとかでありがちなように、僕の回りを歩きながら話す。対して僕は首の可動範囲でその姿を追う。
「でも、転校なんて……」面倒くさいだろう。
「私は学園のスカウトマンなんですよ。と言っても、引っ張ってくるだけですがね。あなたが衿絃高校に入学してから、早くも三週間ですが、逆に言えばまだ三週間ですから、問題なし」
「意味が分からない。三週間も経ってから、聞いたこともない学校からいきなり『転校してください』なんて言われるのもそうだけど、何よりなんで僕なんですか」
「あ、大丈夫ですよー。転校手続きはこちらでしますし、てか済んでますけど」
「はあ!?」
柄にもなく、声を荒げてしまった。しかし、耳に入っていないのか、彼女はそんな僕を無視して、一人で話を続ける。
「うちの学園、聞いたことあります?有名になる必要性もないらしいんですけど」
「君は僕の話を聞いてないよね?」
「結局、転校するんですよね」
彼女は、さも当然のように話す。確かに手続きが終わってるならそうだろうが……
「でもそんな、いきなり聞いたこともない学校に来い、なんて突拍子がなさすぎるし、親にも許可が……せっかく賃貸を借りたのに……」
「親御さんも多分納得しますよ、三百万も払われたら、いやと言う人はそんないないでしょう」
三百万円てまあまあ微妙じゃあないか。
「円じゃなくてドルです」
………………それなら大抵は首を縦にふるだろう。しかし、三百万ドルなんて異常だ。そこまでしてなぜ僕を?
「えーとですねえ簡潔に言いますと、我らが理事長があなたに入学してもらいたい、というだけです」
「だから、なんで僕なの?」
「ありゃ、いつの間にかタメ語になっているではありませんか。ふむ、あなたは超能力ってあると思います?」
話は繋がっているのだろうか。
「いや、信じないよ」
「では、言葉を替えましょう。ある特定の人間が人よりも圧倒的に違っている、というのはあり得ますか?あなたの胃袋然り」
ということなら、あり得ないとは言えない。
「でしょうね、そんなのと同じもんですよ。ちょっと範囲を広げれば超能力だってありますよ」
そういうものなのか、世界には知らないことばかりだ。
「ありゃ?やけに納得がいいんですね」
「一人の人間なんて何も知りませんよ」
「大いに学生らしい物言いですね」
彼女はニヤニヤしながらそう言う。
「で、この世界には多からず超能力者がいるというわけですが、東名学園はそういった個性あるじんざ」ピピピッ
どうやら、彼女の腕時計が鳴っているらしかった。
「どうかした?」
「時間が来ちゃいました。続きは車の中で話しましょうか」
いつの間にか、背景にはリムジンが混じっていた。
しかし車だと?やはりおかしい、思えば初めからおかしくないことなんてなかった。
そもそも東名学園ってどこなんだ?名前に反して全くの不透明ではないか。
「え、嫌だ、絶対イカれてる。誘拐!?」
「誘拐じゃないし、そうだとしても詰んでんじゃないすか。さっさと乗れよ」
ふむ、言われてみればそうだな。詰んでる。じゃあもういっか。諦めよう…………て、なるか!!
「どうにかならない……よね?」
「ごちゃごちゃ言わないで下さいよっと」
彼女はぐっと背伸びをして、自分の顔を僕の顔の前まで持ってきた。
キスでもするみたいだ、と女性経験0の僕は思ってしまい、一歩後退り。だがもちろんそんなことはあるはずがなく、彼女が「手荒くてすみませんね」と言われ首の後ろがチクッとすると、僕の視界はボヤけてきて、いつの間にか眠ってしまった。
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