最後の日常
現代、各地でドラゴンなどによる様々な被害が出ている。それらの魔獣は通常の武器では完全に倒すことができない。だが、人類の中の一部には浄化することのできる力を持っているものがいる。その力のことは潜在能力と呼ばれる。そうして、その力を持っている人を意図的に集め、効率よく魔獣の除去を行う組織、そして魔獣との戦闘への訓練や知識を学べる学校がある。その学校は大きな湖が東となりにあるプラクティス地区に存在し、学校の名前は聖特殊防衛学校だ。プラクティス地区の北部には森林が、西部には洞窟が多く存在し、周辺にはドラゴンが発生しやすい環境が整っている。ドラゴンをはじめとした魔獣は別の次元に存在しているが、突然空間に現れるという。さて、そんな魔獣を倒すために聖特殊防衛学校に入学予定の一人の少女が校門の前に立っていた。
「本当に私に潜在能力があったのかな…でも入学出来るってことは本当なんだよね…」
その少女は胸の前に拳を握り締め、そう呟き、
「…みんなを守るためにここに来たんだ!」
そう言うと少女は校門をくぐっていった。その少女の名前は「ディアナ」。プラクティス地区の遥か北東の方にあるアグリ地区出身だ。アグリ地区は田舎で農作業が盛んな地区だ。通常ならディアナも農作業をやっているはずだが…どうして聖特殊防衛学校への入学を決意したのだろうか。
半年ちょっと前
ミーンミーンミーン…
セミも元気に鳴いているなか、その鳴き声に負けず劣らずの声が鳴り響いた。
「お姉ちゃん!もう朝だよ!」
そう元気よく寝ているディアナに向かって叫んでいるのは妹のシャインだ。髪の質は二人ともよく似ていて特に癖っ毛もない普通の髪質だ。髪型は姉のディアナはロングストレート、妹のシャインは短いツインテールだ。
「う~ん…もう朝…?」
寝起きなので若干不機嫌に答えるディアナだが、対称的にシャインは元気一杯で、
「朝ごはん冷めちゃうよ!早く食べよう!」
そうして二人は朝ごはんを食べ始めた。
「あ、お姉ちゃん。野菜ってもうすぐ収穫できるかな?」
「確かにそろそろ時期だし…あとで見に行ってみよっか」
「うん!」
この二人の家もアグリ地区では一般的な農家だ。農家だけでは生計が苦しいため両親は共働きに出ているのだ。そしてそろそろ夏野菜が採れる頃だ。二人は朝ごはんを食べ終えると早速畑へと出ていった。
「うん!ちゃんと実も成ってて収穫してもいいかもね。だけど、パパとママに報告してからだから、明日収穫だね」
「は~い。でも一つだけ…味見味見~」
そういうと、シャインはトマトを一つ採り、
「うん!みずみずしくて美味しい!」
「あ!シャインってばズルい!私も!」
そして二人はトマトを頬張りながら
「今年も豊作で良かったね」
「うん!」
そう言うと、二人はいつものようにホースを持ってきて野菜に水をあげた。
「野菜さん~♪美味しくな~れ♪」
シャインがそう言うとディアナは呆れながら
「言葉が通じるかどうかもう分かる年になったでしょ…今年もまだ言うんだ…」
ディアナは14歳でシャインは12歳。野菜へのおまじないの言葉はディアナが物心ついた頃からやっており、それが自然にシャインへとうつったのだ。ディアナは長女で色々と精神的に育っておまじないの言葉を言わなくなったが、シャインは未だに続けているのだ。シャインはディアナの発言に対してどや顔で反論した。
「植物には音楽が聞こえるってテレビで見たよ!だから私は信じてるの!お姉ちゃんも常識にとらわれちゃすぎダメだよ!」
「はいはい…」
まぁ、ディアナは自分が言うわけではないので意地になってでもシャインと争うつもりはないので食い下がった。
そんなこんなで一連の農作業や家事全般を二人で終えると、もう昼になっていた。
「あ、もうお昼だね、お姉ちゃん、一緒にお昼ご飯作ろ?」
「うん!ちょっと待ってて~」
そうして二人はキッチンへと立った。そうして何気ない日常が今日もまた進んでいく。