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第三話 会いたい人

ズッという音がして私の左腕から包丁が抜かれました。

包丁を抜かれると、私の腕から血があふれ出てきてかなり痛かったです。

「隣の奥さんに聞いたの。」

母は、私の血がべっとりと付いた包丁を持ったままポツリと呟いたんです。

不思議に思って、私は右手で左腕の傷口を掴んだまま顔を上げました。

「アンタが、カフェのマスターに毎日のように会いに行ってるって。」

相変わらず私の腕からは、血があふれ出ていましたが、不思議とその時は気にならず母にばれたという事だけが私の頭の中にめぐっていたんです。

「私がこんなに頑張って仕事している時に、アンタは恋愛なんかして..。よくもそんなひどい事できるわね!?私に対してのあてつけのつもり!?アンタは、夫に捨てられて仕事が上手くいかない私を嘲笑っているんだ!アンタなんか..殺してやる!」

私は驚きました。

母が此処まで追い詰められていた事に...。

母は再び包丁を私の方に向け近づいてきました。

あぁ、私は母さんに殺されるんだ。

そう思ったとき何故か時雨さんの顔が私の脳裏を掠めたんです。

すると勝手に体が動いて母を突き飛ばしていました。

母は、初めての私の反撃に驚いた様で唖然とした顔で私をみていました。

私はすぐ部屋を出て、靴をはき走って家を出たんです。

行くあては決めていませんでしたが、私の足は自然と時雨さんのカフェに向かっていました。

時々腕からぽたぽたと血が地面に落ちる音を聞きながら、ゆっくりと歩いて行き時雨さんのカフェに辿りつきました。

「やっぱり、そうだよね。」

カフェには明かり一つついておらず、沈黙していたんです。

あの時の私は、今が閉店時間が過ぎているというのを忘れていたんです。

時雨さんが居ないとわかると、私の体から力が抜けてしまい電柱にもたれかかってしまいました。

もう、時雨さんに会えない..。

たったそれだけの事が私には自分の死より怖いことのように感じられました。

「梨乃さん...?」

ふと、声が聞こえたので顔をあげ振り返ると、其処には時雨さんがいたんです。

「梨乃さん、こんな時間に、どうしたんですか..?」

「あっ..。」

時雨さんに聞かれて、本当の事を言うべきかどうか悩みました。

私はすっと左腕を隠し、嘘をつく事に決めたんです。

「いえ、気晴らしに散歩してて近くを通っただけです。」

「そうですか..。あの、ココアでも、どうですか..?夏とはいえ、夜ですし..冷えたでしょう。」

「すみません。そろそろ母が心配しますので、今日はもう帰ります。」

私は少し迷ってから、こう言ったんです。

「それでは、また明日。」

...明日なんてもう無い。

そんな事わかりきっていましたが、私は『明日』という言葉を使ったんです。

時雨さんに心配をかけさせたくなかったから..。

「あの..り、梨乃さん!」

時雨さんはそう叫ぶと帰ろうとした私の左腕を掴みました。

「っ..!」

「え...?あっ、すみません!だ、大丈夫ですか?」

私が痛みに顔を歪めると、時雨さんはすぐに謝り手を離してくれたのですが..

「梨乃、さん..?これ、は..?」

時雨さんの手に私の血がべっとりと付いていたようで、腕の傷に気付かれてしまったんです。

「え、と..その、さっき木に刺さってしまって..」

「嘘をつかないでください!」

ビックリしましたよ。

なにせ、無口で口下手な時雨さんが大声を張り上げたんですもの。

驚かないほうがおかしいです。

「本当の、事を..言ってください。お願いですから..っ。」

その時の時雨さんは、泣きそうな顔で懇願するようにいったんです。

私は、思い切って時雨さんに全部話そうと口を開きました。



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