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第二話 届かない願い

「いらっしゃいませ。」

顔も上げず、それだけしか言わなかったのでこの店大丈夫かな?なんて思ってました。

しかもメニューにはココアとコーヒーとサンドウィッチくらいで、私ビックリしちゃいました。

「あの、ココア一つお願いします。」

私はコーヒーが苦手だったので、ココアを頼みました。

ゆったりした動きで、でも無駄が全然なくてすごいと思いました。

本当に今でもはっきりと憶えているくらいに、私にとっては衝撃的なことでした。

その時飲んだココアの味も忘れられませんよ。

あの頃の私にはとても、優しい味に思えて知らず知らずのうちに涙があふれ出てきちゃいまして..。

かなり驚かれましたねぇ。

「え、と..すみま、せん。そんなに、不味かった、ですか..?」

「違い、ます。すごく、美味しいです。本当に、美味しいです..っ」

「...何か、嫌な事でも、あったんですか?」

嫌な事、それを聞いたら不意に母のことを思い出しました。

そんな私を見ていた彼がポンと私の頭に手を置いて頭を撫でてくれました。

「自分は、口下手ですが、話を聞くことくらいは、出来ます。だから、言って下さい。あなたの、辛いこと、悲しい、こと。自分が、ちゃんと、最後まで聞きますから。」

ゆっくりと言葉を選びながら言うようにそういってくれました。

本当に口下手なんでしょうね。

言い方でなんとなく判りました。

「ありがとうございます。私は、藤沢梨乃です。」

「自分は、渡貫時雨..です。」

私が笑うと時雨さんも優しく笑みを浮かべていました。



それから私はよく、時雨さんのいるカフェに行くようになり、カウンターでココアを飲みました。

相変わらず、母は暴力を続けていましたが私にとっては平穏な日々で、ずっとこんな日々が続くといいなと願いましたよ。

なにせ母の暴力はもう日常化していましたので、これ以上のことが無い限り私は殺されはしないとわかっていましたので..。

でも、平穏って長くは続かないものなんですよね。

確か、時雨さんが何か言いたそうにしながらも、結局なにも言わないということを繰り返すようになった頃です。

いつものようにココアを飲み、時雨さんと話した後家に帰るともう母が帰ってきていました。

「お母さん?今日は早いんだね。」

私がそう言うと母は振り返り、私を見ました。

「梨乃。遅かったわね。何処行ってたの?」

母は私を睨みながら言いました。

「あ、友達と、話してたら、遅くなちゃって..。」

一応嘘ではありません。

時雨さんは友達と言ってもいいくらいでしたので。

でも母はなにを思ったのか、すくっと立ち上がりキッチンの方へ行ってしまいました。

私はよく判りませんでしたが、母がわからない行動をすることはいつものことでしたので、私は自分の部屋で宿題をしていました。

ガチャっと、いきなりドアノブがまわされ母が初めて私の部屋に入ってきました。

「お母さん?どうしっ!」

私は急に左腕に熱い感覚がして、思わず言葉を切ってしまいました。

よく見ると、私の左腕は母が手にしている包丁に刺さっていました。

その時ようやく自分は母に刺されたことを理解しました。

それと同時に、もう一つ理解しました。

私は母に殺されるのだ、と...


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