ボクが小説を書く理由
夢を見る事に制約や規律なんて無い。
それは自由なはず。
年齢や家庭環境も関係ない。
辛い事や悲しい事、苦しい事があるから、未来は輝く。
自分が選んだ道なら後悔しないはず。
全ての夢見る人に捧ぐ。
子供の頃からボクは、自分と言う存在を否定していた。引っ込み思案でありながら、それでも自己を主張したい、そんな矛盾を孕んだ自分と言う存在に違和感を覚えていた。
最初に覚えた自己表現方法は、好きな漫画のキャラクターのイラストを書き、教室の掲示板に貼る事だった。
……しかし、それは直ぐに挫折する。
同じクラスにはボク以上に絵の上手い子が沢山いた。
ボクはそこで気が付いた。
ボクは、ナンバーワンを望みつつ、オンリーワンを目指していた、と。
なんてワガママで貪欲で贅沢で浅ましいガキだったのだろう。知らず知らずのうちに勝手に伸びきっていた長い鼻は、ぽっきりとへし折れた。自業自得だ。当時のボクに言ってやりたい。
「ざまーみろ、クソガキ」と。
ボクは次の手段として、小説を書いた。 イラストがダメなら文章だ。当時流行っていた某ロールプレイングゲームのパロディ小説。登場人物にはクラスメイトを当てがった。
ノートに書きなぐった拙い文章は、いつしか授業中にクラスメイト全員で回し読みされる迄になった。
「オレも出してくれよ!」
「何で私がこんなキャラなのよ?」
「オレを主人公にしてくれ!」
ボクの勝手に伸びきっていた長い鼻を折ってくれたイラストの上手い子が、その小説にイラストを付けてくれた。
……やはり上手かった。
嫉妬したが、それと同時に感謝した。イラストを付けてくれた事もそうだが、何よりもボクに『小説を書く』と言う自己表現方法を見付けさせてくれた事に感謝した。
それから数年経ち、ボクは小説を書く事から離れて『お芝居』にドップリと肩まで、いや、頭まで浸かっていた。
高校を卒業し、大学を半年で自主卒業し、齧れるだけの親のスネを齧り、両親に半ば勘当され、一年間必死に働いて貯めたお金を握り締め、ボクは役者を目指して上京した。演じる事で自己を表現する、と言うよりも、自分自身を主張したかったのかも知れない。
「ボクは此処に居る」
「ボクは生きている」
「……ボクは……生きている」
今、ボクは生きている。有難い事に五体満足で、多少なりとも頭脳も足りている。足りないモノはまだまだ山程あるけど、それらを吸収し、ボクはボクを構築していく。
理想の『ボク』になるために。
……現実は非情だった。
蓄えた資金は直ぐに底を付く。俳優養成所に通いながらアルバイトに明け暮れ、いつか舞台に立つ事を夢見ていたが、残念ながら夢だけでは生活も空腹も満たされない。膨れ上がるのは借金ばかり。
ボクは実家に戻った。額を地べたにこすりつけ、両親に謝罪した。
それまでの人生で初めて味わった屈辱、そして、2度目の挫折だった。
ボクは普通に就職した。しかし、それでも自己を表現、主張する場所を探していた。
ある日、ボクは友人に人を紹介された。彼は舞台役者をしていると言う。ボクは藁にもすがる思いで、彼が所属する劇団の稽古場へと向かった。
これでボクは変われる。
ボクがボクで居られる。
ボクと言う存在を主張出来る。
しかし、その劇団はたった一度舞台に立っただけで解散してしまった。
ボクはまたしても自己表現手段を失った。だが、その劇団で知り合った人から別の劇団への誘いを受け、すぐさまそこへ辿り着く。その頃には、オリジナルの脚本を書いてみたいと言う欲求がムクムクと首をもたげ始めていた。
舞台に立ちながら、言葉を紡いでいく。
至福の時を過ごせる最高の瞬間だった。
そして現在。
その劇団ももうすぐ解散する。もう既に所属してはいないのだけど。今はこうして、働きながら小説を書いている。
此処がボクの居場所。
ボクが自己を主張する場所。
ボクがボクと言う存在を表現する場所。
ボクは生きている。
ボクがボクであるために。
それがボクが小説を書いている理由。
言論の自由、表現の自由があるなら、自己主張の自由もある。せっかく生まれてきたのだから、やりたい事をやらなきゃ損でしょ?
何もせずに後悔するくらいなら、何かしらアクションを起こして玉砕する方がいい。
自由を奪う権利は誰にも無い。
人様に迷惑をかけない程度に、そこはきちんとルールを守って、自分という掛け替えのない存在を主張出来れば、少しは楽しくなるかな……?