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5 振袖の再会

「懐かしいな~」

「千草帰ってきてなかったもんね、全然変わってないしょ」


 紫苑の言うとおり、歩けど歩けど記憶にない店は見当たらなかった。


「あ、ここ?」

「こんなところあったんだね!」


 自動ドアが開き中へ入ると、中は振袖や袴でいっぱいだった。


「うわっ。すごいねこれ」

「本当! たくさんだね~」


 私達がどれにしようかと悩んでいると奥からスラっとした中年の女性が現れた。


「いらっしゃいませ~。あら、ちぐちゃん?」

「えっ?」

「私よ、私。昔はよく遊んだわね~。覚えてないかしら?」

「あ……っ!」


 私のことをちぐちゃんと呼ぶその人は、よく見ると見覚えがあった。


「ふふっ、思い出してくれた?」

「はい! お久しぶりです!」

「誰?」


 私と彼女のやり取りを見て紫苑が小声で聞いてきた。


「あ、紫苑見たことなかったっけ?」

「どっかで見たことある気がする……」

霜月しもつき佳澄かすみさん。灯夜のお母さんだよ」

「え、霜月の?」

「あら、そちらは確か涼暮すずくれさんだったかしら……?」

「はい……ご無沙汰しています」

「待っててね、今灯夜を……」

「あ、いいです! 呼ばなくて! 用事で来たんじゃないので!」

「あらそう? ――あぁ! 振袖ね?」

「はい。私の分と、紫苑の分をお願いしたいと思って」

「そうねぇ……。2人とも何色がいいとかある?」

「私はできれば青か紫みたいな色がいいんですが……」

「青か紫ね……。それならここからここまでかしら? ちょっと見てみてくれる?」

「はい」

「ちぐちゃんは?」

「私はそうですね、緑とか……?」

「緑か~。あっ! ちょっと待っててくれる?」

「はい。わかりました」


 突然思い出したかのように多くの振袖の中から何かを探し出した佳澄さんに私は戸惑っていた。


(何を探しているんだろう……?)


「お手伝いしますか?」


 私が耐え切れなくなり話しかけると同時に佳澄さんは「あった!」と声を上げた。


「これはどうかしら!」


 そういって佳澄さんが見せてきたのは綺麗な深緑を基調とし、所々に黄色や黄緑をあしらった振袖だった。


「うわぁ……! 綺麗ですね! これでお願いします!」

「わかりました。涼暮さんは?」

「私はこれで」


 そう言って紫苑が手に取ったのは紫に白とピンクの花が咲いた振袖だった。


「可愛いね!」

「千草もね、似合いそうで良かった」

「ね!」

「それじゃあ当日、朝8時半くらいにきてもらうことになるけど、大丈夫?」

「はい!」

「髪型のイメージとか、メイクのイメージとか教えてもらえたら特別にうちでやってあげようか?」

「本当ですか!? ぜひお願いします! 紫苑は?」

「遠慮しとく。母さんが張り切ってるから」

「あ、お母さん元美容師さんだっけ?」

「うん、千草やってもらいなよ。用意終わったら迎えに来るから」

「わかった! じゃあ、着付けとヘアメイクを、紫苑はレンタルだけで、お願いします!」

「かしこまりました。当日、お待ちしています~」


 振袖のレンタルを終えた紫苑と私は、先程分かれた夕紀と合流した。


「かんぱーい!」


 お酒を飲みつつ、くつろいでいると夕紀が喜々として尋ねてきた。


「そういえばどうだった? 振袖! いいのあった?」

「可愛かったよ! 当日もお願いしてきたんだ~」

「――当日?」


 夕紀は不思議そうな顔をして首を傾げた。


「うん。着付けとヘアメイク!」

「えーっ! いいなぁ! 私もしてもらいたかったぁ。なんで千草だけ!?」

「夕紀のときはなかったの?」

「ないよ~全然!」

「千草だからじゃない?」


 口を尖らせ頬を膨らませた夕紀に、紫苑が口を開いた。


「私……?」

「あそこ、あいつのお母さんのお店なんでしょ? なら、そういうことじゃない?」

「あー、昔からの付き合いってことか!」

「家族ぐるみの付き合いだったからね~。高校卒業したときにお母さんも死んじゃったからそれ以来だったけど……」


 お母さんは私の幼い頃にお父さんと離婚し、女手一つで育ててくれた。しかし、大学に合格し高校を卒業して1週間も経たずして交通事故で亡くなった。

 すぐに犯人は逮捕され、賠償金や生命保険金など、当時高校生の私にとっては莫大なお金が入ってきた。

 けれど、いくらお金をもらったからと言って許せることではない。交通事故とは言ったが、言い方を変えれば車を使った殺人だと私は思っている。

 あの事故から2年、私は一度も犯人を許したことがない。一生忘れることはないし、許せないだろう。


「そういえば、むこうでお父さんには会えたの?」

「――いや、探しもしてない。きっとあっちはあっちの生活があるだろうし」

「そっか……」


 部屋はシンと静まり返った。


「あっ! ごめん。暗くなっちゃったね! せっかく会ったんだし! 明るくいこ!」

「そうだね! 騒ぐぞ~!」


 私たち3人は会えなかった2年間を埋めるように楽しく、騒ぎ、暴れ、そして疲れきって寝てしまった。

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