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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
3章 邪神王国ドーマ 使徒大戦編
95/100

29.大薮新平 再戦、使徒VS使徒

 敵軍兵士達が拳と武器を掲げウォークライを叫ぶ中、オーシャブッチが曲名を叫ぶ。


「SPLASH THRILLERだああああっ!!」


 ジャーッ、ジャーンッ!!!


「UOOOOOOO-ッ!!!」


 楽器が一斉に鳴らされる。知っていたのにドキリとした。世界中で大ヒットになった超有名曲だったからだ。日本でもバカ売れした。販売枚数は世界一位。ギネスにも載っている。散々TVとかでも流れて俺も好きだった。イントロを聞いただけで懐かしくて、身体がワクワクしてしまうのが分る。うお、これ演るのか。


 軽妙なリズムと共に新たなバックダンサー達が現れ、奴と一緒に踊りだす。


 ズンズンズンズ、ズン、ジャン!


 十名もいるのに呆れるほど動きが揃っている。よほど練習を積んだのだろう。戦いが関係なければじっくり鑑賞したいくらい。

 十人が一斉にスーッと右に仰け反った次の瞬間停止する。そして重低音のリズムに乗ってパントマイムを経て足踏みを揃えステップを踏みだす。格好いい。コーラス隊だけじゃなく専任の声楽隊みたいな連中までいる。さっきより人数も増えてる。みんな歌う気だ。


『闇の住人の叫び声がする! ストリートには血飛沫が舞った!』


 なんと声楽が英語で歌いだした。歌詞を教え込んだのか。更に驚いたのはオーシャブッチの声までがする。見れば黒子みたいなのがリーダみたいにマイクよろしく杖をしゃがみながら差し出していた。背後に声楽隊がいるのに奴自身も歌っているのだ。並々ならぬ奴の本気を感じる。黒子さんは大変そうだが。


『生ける者は残ってない! 奴らは揃って襲ってくる!』


 全員で両手を掲げ、ガンガンと腰を左右に捻る。格好は良いのだが、歌詞とどんな関連があるのかは、よく分からない。


『闇夜に住人達の悲鳴が響く。これでいいのか。奴等を許すのか!』


 半身で足を踏み鳴らし反り上がる。オーシャブッチ一人がターンを決めて、こちらを指差して叫ぶ。


『否だっ!』


 声楽が拳を振り上げて呼応する。


『だが連中はお前を喰おうと襲っている。地を這い、這い上がって、やってくうるううううっ!』

「「UUUUUU---ッ!」」


 弦楽器が鳴り響き一斉にコ-ラスが奏でられると、奴とダンサー達の身体からどす黒い波が噴き出した。それは今迄とは比べ物にならない程、濃い光の膜だった。まるで漫画で見る瘴気だ。しかも黒い。

 身構えていた兵士達は、その瘴気を浴びると次々と雄叫びを上げていく。


「GAAAAA----ッ!、GAAAAA----ッ!!、GAAAAAAAAA----ッ!!!」


 彼等の目の色が変わっていく。真っ赤だ。遠目なのに眼球全てが真っ赤に染まっているのが分る。映画みたいだ。

 兵達が一斉に走り出し襲い掛かって来た。その動きは今迄とまったく違う。およそ理性を感じさせない獣のような動きだ。連中の必中攻撃は止まっているのに。こちらの兵達にはヘイ〇トが掛かっているのに。それなのにこちらの兵達は避けきれない。それ程の勢いだった。


「うわあっ!?」「なんだ!?」「があ!?」「避けっ?」「うわああああっ!?」


 奴らに捕まった者、組み合った者達が次々と地に倒されていく。ダメージの強弱なんて関係ない。連中に捕まったら、もうお終いなのだ。

 これは強制的に捕まえた相手の意識を奪う昏倒攻撃。


 そして。


「あがっ!?」「ぐひゃ?」「うがっ」「が、が。GAAAAAA!?」


 地面に倒れ、踏みつけられた兵士達が、ガクガクとおかしな動きで立ち上がりだす。まるで映画のゾンビのように。

 上げられた顔を見れば一目で正気を失っているのが判る。目の色が違うのだ。全員の目が敵兵と同じ様に真っ赤に染まっている。


 立ち向かうこちらの兵士達が、遠目にも怯むのが判る。

 そう。これは奴の最後にして最強の踊り『強制ゾンビ化』なのだ。


 己に立ち塞がる者、阻むもの、自分以外の全てを暴徒化させるという悪夢のような効果だった。



        ◇



「アレをやる! こっちも最終手段を切るぞ! 勇者隊を舞台に上げろっ!」


 できればジェンガとマイムマイムで押し返して倒したかった。アレが出る前に決着をつけたかった。しかし、もう遅い。敵の勢いは激しく、止められそうにない。必死に盾で防いではいるが、必中攻撃を加えてくればどうしようもなくなるだろう。その前にこちらも対抗手段を打たなくてはならない。


 ……しょうがないないよな! こっちもやるしかねえよな!


(くっくっくっ)


 俺は焦るどころかニタリと笑っている。追い詰められた状況下で大興奮している。

 踊り疲れて高揚しているのもある。しかし、それ以上にアレを披露する展開となったことを喜んでいる。

 俺の宣言を聞いて、舞台上でへたりこんでいた踊り子達は一様に顔を歪めた。歓迎している者は一人もいない。正気か。本当にここでアレをやるの、と全員の顔が言っている。リーダでさえも苦々しい表情で訴えてきた。


「やはり……するのですか。あちらが間に合うかもしれませんが」

「ああ、勢いが段違いだ。このままじゃ押し負ける。前に呑んだ時、あの曲は奴が子供の頃からずっと練習で踊って来た思い入れのある曲だって聞かされた。それだけに一番熱量が籠ってて強いだろう。こちらも一番燃える奴で対抗しないと競り負ける。呑気なフォークダンスなんかじゃ、勢い負けする」


 両目をXにしたまま、むむむと唸ったリーダだったが結局。お任せしますと引き下がった。


「さあて…」「なんと……」「むう……」「お呼びとあらば」「出番ですな」


 舞台袖から勇者隊と呼ばれた十人の男達が上がって来る。皆いかつい顔と屈強な身体のむさ苦しい男達だ。服装はバラバラ。騎士鎧のもいれば、高価な踊り子衣装な者も、逆に浮浪者と見紛う風采の輩もいる。俺と一緒に『あの踊り』を踊るべく、選考されて最後まで残った男達。細かい技量は不要。見た目も関係なし。度胸とノリと共感と熱さを優先して選ばれた勇士達だ。体格は筋肉質で、その体臭は一様に濃い。隣に立てばその刺激臭に目が痛くなる奴までいる始末だ。


「晴れ舞台ですな使徒殿!」「良いのですな!」「やりましょうぞ!」「目にもの見せてやりましょう!」「見せつけましょうぞ!」「押し返してやりましょう!」


 目の前で劣勢かつ危機的状況が発生しているというのに、勇者隊の連中は満面の笑みで俺に向かって手を挙げてくる。


「おおっ! やっぱり出番になった! 頼むぞ! 頼むぞ、みんな!」

「「おおっ!」」


 駆け寄って来た男たちの掌を次々と叩いて発奮させる。危険な状況下でぶっつけ本番だというのに、この余裕。頼もしい連中だ。周囲からは引かれているが。


「それではぁ……」「……じゃあ、あたし達は交代でー……」

「なにをおっしゃる」「いや」「それはいけませんな」


 そっと退場しようとした近衛騎士女子4名が、むさ男達にがっちりと確保された。俺も叱りつける。


「ラディアン!」

「いやだあああっ!」

「馬鹿野郎、あの光景を見ろ! このままじゃ負けるぞ! こっちが全滅するぞ!」 

「アレじゃなくてもいいじゃん!? さっきの停止魔法で止めればいいじゃん!?」

「無理だ! 絶対効かねえ。アレじゃなきゃ負ける! 熱が違うんだ。勢いが違うんだよ! 俺には分かる! 連中の勢いはアレじゃなきゃ止められない!」 

「試そう、あたし等が試すから!」

「そんな時間ねえっ、覚悟決めろ近衛騎士ッ!」

「あたし乙女だもんっ、あんな恥ずかしいの無理いっ! こんな公衆の面前で死ねっていうの!」

「そんなことを気にしている場合か! 騎士なら心決めろ!」

「こんなの騎士関係ないでしょおお!」


 どう文句言おうが逃がしはしない。舞台で踊る人数が多い程、効果が高いのは立証済みなのだ。一人でも減らす訳にはいかない。そしてなにより、こいつは近衛騎士隊で俺の踊りを一番笑った筆頭だ。ここが今迄の恨みを張らす絶好の機会なのだ。恨み百倍受けてもらおう。


「よし、じゃあ逃げてみろ! でもこいつは始まったら全部の踊りを上書きすんぞ。タッチなしで広がる奴だからな。何処までも影響が届く。勝手に踊りだすぞ。見つけたら呼び寄せてやるぞ! 逃げた先からこの舞台まで踊りながら登ってくる羽目になるかんな。その様子ずっと周りの兵達から視られるぞ!」


 嘘である。そこまでの効果は確認できていない。


「悪魔ああっ!」

「悪魔上等だ! うわはははっ!」


 あっちは超有名曲と最高の踊りで攻めて来た。効果は絶大。こっちにはそんな曲も踊りの技量も持っていない。ならば勢いと人数を揃えて押し返すしかないのだ。


「並べ! 戦闘準備だ!!」

「おおおっ!!」


 舞台先頭に俺と十人の勇士達が並ぶ。その背後に踊り子達は呆然と立ちすくんでいる。近衛女子達が抱き合って嘆いているが構わない。踊りが波及すれば強制的に一緒に踊りだすようになるさ。


「リーダ!」

「は、はい! 楽曲1番! 1番です!! 始めてください!」


 あれが奴のラストナンバーなら、これが俺のラストステージだ。絶対押し返してやる。


 俺は一緒に並ぶ勇士達を一度振り返る。むっきむきの仲間達が濃い笑顔を返してくる。どっかで見た記憶があると思ったらアレだ。髭剃りのCM男優だ。顔と雰囲気そっくりじゃねえか。


(ふーっ……)


 踊り前の最後の深呼吸。

 ついに『あの踊り』までやることになった。

 こんな世界に召喚されて、踊りで魔法が掛かり事態を打開できると知った。それから踊って逃げて、踊って助けてを繰り返しここまで来てしまった。ついには軍隊を率いて皆と一緒に踊る羽目になった。

 この争いが終われば、後は神々との交渉だ。おそらくこれが最後の踊りになるだろう。それなら派手にいこう。好きにやろう。徹底的にやってやろう。これは俺が一番大好きな曲だ。それもこんな大人数でやるのだ。燃えない筈がない。


 すっと片手を上げる。


 似合わない、柄じゃないのも承知の上。でも、やはりこの時、この状況ではこの台詞を言いたい。言ってみたい。

 ニカリと笑い前に乗り出して叫ぶ。


「行くぜ、野郎ども! EVERYBODY DANCE NOW !」



          ◇



 ぐるん、ぐるんと右手を回し、最後に真上を指差してポーズを決める。後ろに並んだ男達が次々と続き、真上を指差してポーズを決めていく。十人全員がやり終わった。

 いくぞ。イメージはアニメの変身シーンだ。


「いくぜっ!」「「おううっ!」」


 ダッタラダッタラダッター、ダッタタァーッ!


 俺の掛け声と共に一斉にステップを踏む。笛、管楽器、鍵盤楽器が一斉に奏でられる。やばいくらいに明るいリズム。


「「脱衣(パージ゛)!!」


 俺とむさ男集団が叫ぶと共に、着ていた衣類が吹き飛んだ。比喩じゃない。物理的に吹き飛んだ。ズボンもパンツもありゃしない。局部だけに違う物が残る。そこには見慣れない物が新たに装着されていた。

 俺達は胸を張って、大の字になり、腰に手を当てて叫ぶ。皆と一緒に叫ぶ。行くぞ!


「「腰ミノ隊であるっ!!」」


 ででん! と胸を張って俺達は叫ぶ。腰ミノと云っても前面局部のみを藁束でカバーしただけだ。尻は丸出し。ほぼ全裸。葉っぱ一枚と変わらない。






 変態集団の登場であった。






「「…………」」


 一瞬だけ戦場から音が消えた。


 相手集団が唖然としているのが分かる。敵コーラスの連中も数瞬声が裏返った。オーシャブッチも踊りがつんのめって俺達を凝視。我が目を疑っている。

 味方連中も驚いている。ゾンビ化した連中が目の前にいて危険だというのに、後ろの俺達を振り返って唖然としている。事情を聞かされていなかった監査官の司祭達は文字通り顎を落としていた。まさか世紀の対決となる使徒同士の戦いで、自分達の擁する使徒が素っ裸になるとは思いも拠らなかっただろう。実に痛快である。


 この曲を実演した時、ヴィルダズは腹を抱えて笑った。万司長ブジェルは百面相をした後、効果を知って見なかったことにしてくれた。感謝している。行こう。


『さあ行くぜ! 3、2、1、ハイ!』


 パッパラ、パッパラ、パッパーッ! パッパァーパァーッ!!!


 曲に合わせて俺達は一斉にバンザイして跳ね回りだす。

 正面でリーダが差し出した拡声の術が掛かった杖に向かい、俺達は満面の笑顔で叫んだ。


『生きてるって最高だあーーーっ!(生きてるって最高だーっ!)』


 俺は日本語で、仲間達は母国語で叫ぶ。この曲は曲調が超単純なので、それでもほとんど外れない。全員がバラバラの母国語で歌っても違和感がない。


『朝メシ上手けりゃ最高だー!(最高だーっ!) 身体元気は最高だー!(最高だーっ!) 今日も良い一日の始まりだーっ!(始まりだあああーっ!)』


 テン、テン、テン。回転しながらコミカルな片足飛びをしながら拳を突き上げる。


『ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 両手を振って万歳、万歳。万歳三唱。


『みんな頑張る。俺も頑張る。だから一緒に歩くんだー! 皆で進めば無敵だぜえええーっ!!(無敵だぜえええーっ!)』


 十人の仲間と腕を突き上げれば、眩いほど明るい光が俺と仲間達から溢れ出る。脳裏に踊りの名が響き渡った。


【無敵の腰ミノ達】


 もう意味が分からない。

 いや、分かる。俺達のことをだ。ある意味一番踊りと効果の内容を体現している名だった。

 光の膜が兵士達に振り掛かる。敵ゾンビ兵に怯んでいた兵士達が明るい笑顔で笑いだす。浮かれだす。


『さあ皆で踊れ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 俺達は拳を突き上げ、ガニ股でドタドタと飛び跳ねる。吊られるように光の被膜を受けた兵士達が――同じ様に踊りだす。


『ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 左右に飛びながら、両手を掲げて突き上げる。

 踊りだす。みんな踊りだす。

 兵士達がみんな踊りだす。武器を放り出して踊りだす。

 笑顔で踊りだす。歌いながら踊りだす。飛び跳ねて踊りだす。


 敵ゾンビ兵達が先頭グループに襲い掛かって来た。飛び掛かり、噛み付き、殴りつけてくる。しかし踊りは止まらない。傷も受けない。痛みなんか感じない。押し倒されもしない。兵達は笑顔のまま踊っている。こちらの効果の方が強いからだ。


 そう。この踊りの効果は『みんなでひたすら楽しく踊る』

 それだけだ。

 どんな状況下だろうと関係ない。どんな妨害にも影響されない。ただひたすらみんなで楽しく踊るのだ。


「わあっ?」「ちょっ、ああーっ!」「なんでーっ!?」


 俺達腰ミノ隊の背後にいる踊り子や近衛女子達も踊りだした。年頃の女性陣にガニ股で飛び跳ねろ、というのはさぞ恥ずかしいことだろう。


『フウ! フウ! フウ! フウーッ!!』


 懐かしい。超懐かしい踊りだ。 

 これは俺が小学校に通う前に大流行した曲だ。はっきり言ってお笑い曲だ。でも受けた。お茶の間に受けまくった。人気タレントとむさい男達が、平和を歌いながら裸で踊り狂うという暴挙にお茶の間が沸いた。なんと紅白まで出場した。なんの琴線に触れたのか俺はこれが大好きだった。何度もゲラゲラ笑った。始まるとTVの前で一緒に踊っていた程だ。おかげで踊りも振り付けも全部覚えている。

 思い出す。

 風呂上がりに俺が素っ裸で踊り、姉ちゃんが呆れ、母親と婆ちゃんに怒られた。爺ちゃんは笑って、親父は時々一緒に踊ってくれた。おそらく俺達の一家が全員揃っていた時期で、一番盛り上がった時があの瞬間だった。一番幸福な時間を過ごしたのがこの曲だった。

 婆ちゃんが死んで、爺ちゃんと親父も死んだ。でも覚えている。あの時の笑い声を覚えている。あの時の幸福感を覚えている。

 だから俺が一番熱量を賭けられる曲はコレだ。一番命を懸けられる歌はコレなのだ。


 セラルーベから奴のゾンビ踊りを聞かされた時、どう立ち向かえば分からず俺は悩んだ。奴の一番の踊りに、何をぶつければいいのか悩んだ。悩んだ末に開きなおった。

 本職であるダンサー相手にまともに戦おうなんて無茶なのだ。まともに戦かっちゃあ駄目なのだ。俺は俺で、一番出来る奴をぶつけるしかないのだ。

 奴がどれほど有名なヒット曲をやろうが、俺にとっての最高の曲をぶつけるしかない。だからこれが最強なのだ。


『争いなんてくだらねえええーっ!!(くだらねえええーっ!)』


 いきなり戦いの全否定だ。兵士達が武器を空中に放り出す。


『憎み合いもくだらねえーっ!(くだらねえええーっ!)』


 各勢力の諍いも全否定だ。兵士達が拳を突き上げる。


『肩を組め! 杯を持て! 酒組み交わせば笑えるさあああーーーっ!』


 ソンビ化して襲ってくる奴等の、肩を掴んで一緒に踊りだす。


『サン! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!!』


 目を真っ赤にしているゾンビ兵達は、何故か抵抗できず踊りに振り回される。そして。 


『ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 俺達の踊りに合わせて フラフラと上体を揺らし始める。拳を持ち上げ始める。


『人は自由だ! 葉っぱ一枚! 腰ミノ一つあればいい♪』


 前方にいる集団の衣類が弾け飛んだ。


「「いやああああーっ」」「「ギャアアアーッ!!」」


 俺達の背後で近衛女子達や踊り子さん達女性陣の絶叫が聞こえる。同じ様に着ている物が吹き飛んだのだ。器用だ。笑いながら悲鳴を上げている。

 さぞ愉快な姿になっているのだろう。しかし踊りは止まらない。泣き叫ぼうが止まらない。


『ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 踊りがどんどん広がっていく。兵士達がどんどん武器を捨てて踊りだす。鎧が吹き飛ぶ。服が弾け散る。


『それが恐怖の宴なのさ!』

「「ハアアアアーーーッ!!」」


 前方の舞台でオーシャブッチ達が凄い形相で歌っている。コーラス隊も声も限りに歌っている。ダンサー達も必死になって踊っている。しかしこっちの勢いは止まらない。


『勇気を出して! あの娘に告白! 受けてもらえりゃ最高だあーーーっ!!!(最高ーっ!)』


 敵味方の兵士達が、笑顔で肩を組んで拳を突き上げる。踊る兵士達が増えていく。どんどん増えていく。踊る度に衣類が飛び散って宙を舞う。


『手をつないで! 抱きしめ合って! キスができたら最強だーーーっ!(最強ーっ!)』


 兵士達が素っ裸で、笑いながら拳をぶつけ合って踊る。踊る。みんなが踊る。


『ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 ドタドタと皆で左右に飛びながら、両手を掲げて突き上げる。皆が踊っている。皆が歌っている。敵味方なんかない。

 俺達の上から光が、金粉が舞う。周囲の皆にも降り注ぐ。

 まるで神々の祝福のような光の花びらを浴びながら、俺達は裸で踊りまわる。


「――馬鹿な! なんで!? なんでお前等、奴の踊りをする!?」


 とうとうオーシャブッチが叫んだ。


「なんで競り負ける! この曲がぁッ! 俺の曲がッ! 全米ヒットナンバーだぞ! 世界ナンバーワンだぞ! なんであんな糞みたいな曲にっ!?」


 オーシャブッチは踊りを止めて叫んでいる。自分の思い入れのある曲が競り負けるのが我慢ならないようだ。


 何故俺達が奴等を押しているのか。それは熱量が違うからだ。想いが違うからだ。

 確かに向こうは大ヒット曲だ。だが、それはこの世界じゃ関係ない。歌詞も聞けばこの世界の連中にはよく分からない内容だろう。ゾンビなんてこの世界にいない。

 確かにダンスは凄い。動きは機敏で凄い練習をしたらしく動きも揃っている。綺麗だ。格好いい。でもそれだけなのだ。興奮してノッているのはオーシャブッチだけで、他のダンサー達は教えられたことを間違えないように必死になっている。連中の顔には必死さしかない。誰も曲に共感していない。


 俺達は違う。皆で歌を届けている。


 この歌の歌詞は単純だ。明快だ。非戦という程、堅いスロ-ガンでもない。ただ単に喧嘩するより笑って酒を呑む方が良い。健康なら良い。明日を希望すれば良い。みんなで前向きにやろうぜって、それだけだ。

 俺は実施するにあたって、この歌の背景を仲間達に説明した。文字通り一緒に酒を酌み交わして話した。喜んでくれた。笑い合って騒ぎ合って呑み潰されてこの歌への共感を得た。だからこそ、この戦地で素っ裸になって一緒に踊ることが出来ている。


『戦いなんてくだらねえーーっ!』


 含蓄ある歌詞だ。争いばかりのこの世界にはピッタリの歌じゃないか。


『葉っぱ一枚! 腰ミノ一つあればいい♪ 生きていければそれで良いーーっ!!』


 そうだ。そうなのだ。こんな不毛な戦いをしているからこそ、この言葉がストンと心に落ちる。

 皆もそうなのだ。だから抵抗なく一緒に歌える。すっと一緒に踊りだすのだ。


『ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ! ヤッホーッ!』


 戦場でみんなが踊る。敵も、味方も、兵士も、小姓も、演奏している連中も身体を揺らし、騎馬隊の兵だって馬の上で踊っている。笑いながら踊っている。これが踊りだ。本当の踊りなんだ。


「ありえねえッ! ありえねえんだ! 俺のダンスが、あんなものに負ける筈がねええんだ!」


 オーシャブッチが地団太を踏み、背後のダンサー達が戸惑って踊りを止めた。奴は拡声の杖を掴んで叫ぶ。


「小僧おおっ、俺と勝負しろ! タイマンだ! 貴様のダンスなんて俺の足元にも及ばないことを教えてやるぜ!」


 俺も踊りを中断して奴に向き直る。すかさずリーダがマイク代わりの杖を差してきた。周り全員が阿呆な裸踊りしてる中で、ずっと耐えながら俺の動向だけを注視していたこいつは別の意味で大変だったろう。

 荒い息を整えながら俺は応える。


「悪ぃな…… タイマンなんか興味ねえよ。それに、踊りってのはこうして皆で笑って楽しくやるもんだ。きつい顔して必死になってするもんじゃねえ。まして戦いなんかに使うもんじゃねえんだ!」

「きっ……さまあっ!、お前、お前なんかが、俺にダンスを語るのかあああっ!!」


 この踊りでの戦いを全否定されて奴が頭を振り回してキレる。ドレッドヘアが振り回され歌舞伎役者みたいだ。


「それにな……踊りの相手してんのは俺だが、お前と戦う相手は俺じゃねえんだ。代わりにやらせろって連中が多くてさ」


 そう言って誰もいないオーシャブッチの脇を指差す。


「……? ……な、に?」


 オーシャブッチが呟くと同時に、奴とダンサー達の間に突然人影が現れた。

 ドサリという音を同時に現れたのは三人の娘。アンジェリカ王女の近衛騎士、エルカとキルフィ、ソノラ。音の原因は彼女達が抱えていた近衛騎士、ソノラを地面に落とした音だった。

 ソノラは足を交差させ両手を白鳥のように広げ、アヒル口で固まったままぐるぐる巻きに縛られていた。そう、姿と気配を消す踊り【失笑と失影のサイレントターン】をしていたのだ。オーシャブッチと戦いが始まる際、事前に俺が踊ってソノラに伝播させ連中の姿を消させたのだ。そうして俺達がずっと踊りで対峙している間、彼女達はゆっくり近づいて敵陣に潜入。ついに敵の舞台上にまで辿り着いた。


「フッ」「クッ……」


 失笑の声に反応してオーシャブッチが正面に向き直る。そこに立っていたのは会心の笑みを浮かべた近衛騎士隊長ラディリアとイリスカ。奴が切望して強引に自陣に連れ去った美女二人だ。脅し、磨き、着飾らせ、裸にひん剥いて、襲う寸前に取り逃がした美貌の女騎士達だ。

 二人の熱烈な要求により、俺は奴と直接やり合う役割を彼女達に任せた。

 ラディリアとイリスカが、必殺の間合いから凄絶な笑みを浮かべて襲い掛かった。


「終わりだ。道化師!」


 ラディリアが握り込んだ渾身の右拳をオーシャブッチの頬に叩き込んだ。


「借りを返すわ!」


 左脇に潜り込んだイリスカが、全身のばねを使って左拳で肝臓を突き上げた。


「がふぁっ!?」


 鍛え上げた騎士二人の拳を左右から受け、オーシャブッチはS字を描いて舞い上り、紙屑のように舞台を転がる。

 双方の演奏が止まる。戦場から音が消えていく。


 そして――――――――ぴくりとも動かなくなった。


 UOOOOOーーッ………


 奴が気絶したことにより、オーシャブッチ軍の兵達に掛かっていた踊りの効果が消えていく。ゾンビ化が解けて我に返った兵士達が、自分達の変貌に呆然としている。同時に決着を知って腰ミノ隊の踊りも停止。こちらの効果も消えていく。


 拳を振り上げてラディリアが吠えた。


「敵将! 神アウヴィスタの使徒を我等トリスタ近衛騎士団が討ち取ったあっ!」

 

 イリスカも吠える。


「我等が擁する神セラルーベの使徒の勝利であるうーーっ!」


 ウオオオオオオオッ!!!


 即座にこっちの兵達が雄叫びを上げて吠え立てる。踊りながら吠える。素っ裸で吠える。一瞬経ってから楽団達も楽器を打ち鳴らした。


 ウワアアアッ!!! ガンガンガンガンーーーーッ!!!!


 倒れたオーシャブッチをイリスカとラディリアが確保。舞台上にいたダンサーと聖歌隊達は、剣を抜いたエルカ達に追い立てられ舞台後方に逃げていく。

 同時に向こうの舞台袖で暴動が始まった。ラディリア達を排除しオーシャブッチを救おうとした向こうの兵達に、別部隊が襲い掛かったのだ。それは後方、敵軍首脳部のいる後方本陣でも同時に発生した。彼等の掲げるはヴィスタ凰旗。敵中のウラリュス大神殿の軍が離反しオーシャブッチ軍の首脳部、ハヌマール王国の連中に襲い掛かったのである。

 ハヌマール王国兵主力は前線で戦っていたので応援が間に合わない。彼等は呆然と後方の様子を眺めるしか出来ない。助けに行こうにも何が起きているか分からないのだ。あっという間にオーシャブッチ軍の首脳部が制圧されていく。


 舞台袖から兵達を引き連れて身分の高い司祭が上がってきた。オーシャブッチ軍でのウラリュス大神殿軍最高責任者、金司祭キャバリエだった。

 彼は高位司祭らしい存在感で周囲の注目を集めると、両手を大きく広げ大声をあげた。


「私はウラリュス大神殿、鳳凰枢機軸。金司祭キャバリエである!」


 周囲の者達がキャバリエに注目する。


「ウラリュス大神殿、鳳凰枢機軸。金司祭の名を以ってここに宣言をする。今、争いが決着した!」


 静まりかえった周囲から呻きが漏れる。事態を察した兵達が感嘆の息を漏らしたのだ。


「此処に地母神セラルーベの使徒を勝者と認める!」


 決着の宣言であった。

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[良い点] 新平くん自身の一人称語りを真に受けてギャグ調お調子者主人公だと思っていたのが、恥じらいも傷つきもする普通の男の子だと気付いたのは何話だったか……。 いじめられていじめられて、失笑されて軽ん…
[良い点] ただ一言、映像で見たい。
[一言] 某お笑いコント番組の一コントから始まったあの踊りが世界を救うとは……ウッチャンナンチャンは世界を救う存在だったよ……
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