28.大薮新平 使徒攻防
大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎなスキルを得て異世界に召喚された。家族を守る為、本来の使徒との戦いを決意した新平は、ドーマ王国軍とワウル共和国軍が対峙する戦場に現れた。神獣ドムドーマを退け、ドーマ王国軍の侵攻を阻んだ新平達。そして、今再び使徒オーシャブッチ軍と対峙する。前代未聞の使徒同士の軍による戦いが始まろうとしていた。
神アウヴィスタが召喚した使徒であるオーシャブッチ。奴が率いるハヌマール王国主体の軍並びに、ヴィスタ神殿兵と大神殿から招集した兵士達。そして演奏用の楽団。総数四万近い軍勢が、後方から砂塵を巻き上げながら接近して来る。
かなりのハイペースで行軍していたようだったが、こちらの情勢が決着したことに気付いたらしく、隊列を整える方針に変更したようだ。綺麗に並んだ隊列が整然と進んで来る。即時開戦を意識しているのだろうか。
本来連中の目的は神獣ドムドーマの封印である。だがドーマ軍が混乱していると知るや、叩いて戦功を立てようと慌てて連中は進軍してきた。しかし、実際に現地に来てみればドムドーマは何処かに消え、ドーマ軍は俺達に制圧されてワウル共和国軍と協議中だ。完全に戦いは終了している。
連中からすれば寝耳に水の状態で、さぞや混乱していることだろう。お前等誰だ、何してんだよってやつだ。あちらにも大神殿の兵達は居るのでいずれこちらの状況は伝わる。というか流している。神セラルーベに認められた新たな使徒が、大神殿の軍を率いて瞬間移動で先に到着。神獣ドムドーマを退け、ドーマ軍を倒したのだ。
状況を知って自分達の目論見を外された連中は、さぞや怒り心頭で攻め込んでくることだろう。
この戦いの立ち合い人であり、監査官でもある高司祭達が近寄って来た。
「使徒殿……くれぐれも……」
「分かってますよ。こっちとしては事情説明して引いて欲しいけど、おそらくそうはならない。奴は聞く耳持たずに攻めてくるから皆さんの望み通りになるでしょう」
俺の言い方が癇に障ったのか、一睨みされた。
大神殿の要求は『俺がオーシャブッチ軍と公然の場で戦い、奴を倒して勝利宣言をすること』だ。奴等は皇都で好き勝手暴れ、最高権力者である大司祭を石化封印さえした。そして強引に兵を招集して傘下に入れている。だから大神殿はオーシャブッチ一党を敵視した。俺からの要求に仕方なく従ったという形で協力し、奴を排除させようと目論んでいるのだ。汚い話だが俺はその話に乗っている。今回は事態が大きくなり過ぎたからだ。神々の復活というとんでもない話が絡んでいる以上、俺一人が勝手に動くと大陸中が混乱する。事後の対処を考えると各国に神殿をもつヴィスタ教団と大神殿の協力は必要なのだ。しかし、その為にも俺は奴を暗殺ではなく、公然の場で打ち負かすことを求められていた。後日の政治的な内外アピールへの証拠とする為に。
正直未だ少し戦いに迷いはある。しかし、それ以上に怒りもあった。
俺は当初オーシャブッチを気の良いおっさんだと好意を持っていた。自分が奴の代わりに間違って召喚されたのだと分かっても。俺の言動をまぬけと罵られても。多くの女性をはべらせて、やりたい放題を過ごしていたとしてもだ。
奴の口調は陰湿さのない明るいものだったし、罵倒も嫌味がないすっきりした言い方だったからだ。口は悪いが悪人っぽい気配を全然感じなかった。外人なんだかれからこんなもんかとか思い、俺はやっと出会えた同じ世界の人間ということもあり、何を言われようとも気にせず仲良くしようと振舞った。
それは間違いだったのかもしれない。
大神殿に着いて奴が起こしてきた問題を聞かされて、流石に考えを変えた。
奴は大神殿に着くまでの道中、使徒という権威を笠に着てかなり好き勝手に暴れていたのを知らされたからだ。
接待を強制させ、資金と物資を要求し、女性達を強引に奪っていた。それは皇都でも変わらず、諫めた金司祭キャバリエを踊りのスキルで服従させ、大司祭を石化して封じ込めるという暴挙に至った。
明らかにやり過ぎである。おかげで俺達も同じ使徒集団ということで、いらぬ疑いと悪意を皇都で向けられる羽目になった。
なにより奴は、自分が召喚されたハヌマール王国の国王を殺害して国政を乗っ取っていた。直接殺した訳ではないが、反国王派と結びつきクーデターに賛同して名目上は新国王になっていたのだ。どうも反国王派に甘言を吹き込まれ傀儡として担がれたようだった。流石にこれはいただけない。王妃を幽閉、幼少の王子を確保。王女を脅してハレムに入れて下女扱いしているとまで聞かされれば、もう許せるものではなくなった。
俺は奴と間違えて召喚された男だから、使徒のあるべき姿とか偉そうには言えない。でも奴が巨大な力を手にいれて、好き勝手に迷惑をかけているのは分かる。それはやってはいけないことだとは言える。
使徒は神殿内で権威もあり、今は軍も率いている。公然と非難しにくい奴を止めれるのは、同じ立場である俺か大司祭しかいない。策を授ければ暗殺は可能だろうが、高位聖職者である使徒を暗殺しては風聞が悪い。なにより奴を召喚した神アウヴィスタの反感が心配だ。
だから同じ使徒である俺が奴を倒すのだ。それに異論はない。誰かが奴等を止めなくてはいけない。奴の暴走をくい止めなくてはならないのだ。
◇
最初は使者同士のやりとりだった。俺達の提示した
『俺が大神殿にて地母神セラルーベの使徒として覚醒。神獣達と協力してドムドーマを封じ、創生神オーヴィスタと慈母神セラルーベを復活させる』という内容に連中はかなり動揺したようだった。寝耳に水の話だろうしな。オーシャブッチが神アウヴィスタから聞いた内容と全然話が違うし。
オーシャブッチは神アウヴィスタとしか会っておらず、神竜ドムドーマがセラルーベを復活させる為に動いていたことを知らない。仮に奴が封印に成功したとしても、神アウヴィスタが裏切って、この一帯を崩落させて滅ぼすことも知らない。彼等がアウヴィスタに見捨てられる未来は、予知の踊りで確認した俺達しか知らないからだ。言ったとしても簡単には信じないだろう。
「さて、どう出ますかな」
「まあ、どうなろうと最後は戦うんだがな」
野太い声で総指揮官補佐を務める万司長ブジェルが呟き、総指揮官たるヴィルダズが答える。一息を兼ねて二人には天舞殿に上がってもらい、車座になって一緒に対策会議中だ。
「あの使徒を説得するのは時間が掛かるだろうし、前回戦った際の怒りが治まってない可能性が高い。今回だって文字通り奴等の目論見を邪魔している訳だしな」
「ふむ……」
「仮に先方の使徒が事情説明に応じたとしても、彼を後援するハヌマール新王国派達は和解を許さないでしょう。ドーマ王国打倒の夢に酔っている彼等が、それを阻止した我等を受け入れるとは思えません」
「そうだな……」
続いたリーダの意見に万司長ブジェルは頷き、嫌悪を込めた視線でオーシャブッチ軍を眺める。
ドン、ドンッ、と楽団から威勢の良い陣太鼓が打ち鳴らされている。呼応するようにこちらの楽団達も陣太鼓を打ち鳴らしている。自軍の兵達を鼓舞し合っている。既に互いにやる気なのだ。
しばらくして使者が通達に来た。
『永久なる眠りについた地母神セラルーベの使徒を騙る偽者と、其れを擁護する神殿軍の愚行は決して許せるものに在らず。真なる使徒聖王は其の者に対し誅伐を下された。偽使徒を擁する大神殿軍に於いてはここに降伏を勧告し、首謀者たる偽物の引き渡しを求めるものである』
「そらみろ」
ヴィルダズが嬉しそうに笑う。『嘘つくな。お前等は偽者に騙されている』って話になった訳だ。俺は完全に悪者で仲違いを要求されている。
こうなると話し合いは難しい。代表である俺を偽者と全否定されては、交渉が難しくなるからだ。
「背後にいる新王国派の意見が大きいのでしょう。我等を倒せば障害も証人もいなくなる。そこで改めてドーマ王国を討伐したと宣言するつもりではないでしょうか」
リーダの進言に向こうの小物役人エスパーダ女史の姿を思い出す。確かに容易に想像ができた。
「この聖王ってなんだ?」
「向こうの使徒の新しい名じゃねえか。もう王様気取りなんだよ。大方大陸全土の王って夢に取りつかれているんだろうさ」
ヴィルダズの答えに、万司長ブジェルは深い溜息を吐きながら立ち上がる。彼は将軍であると同時に、敬虔なヴィスタ信徒でもある。使徒が王を名乗ったと聞いて不機嫌そうだ。俺達も吊られて立ち上がる。
楽団達が打ち鳴らす打音が高まっている。向こうがどんどん威勢を上げているので、こちらも対抗するように高く打ち鳴らしているのだ。相手はやる気だ。そしてこっちもやる気だ。
オーシャブッチ軍を一瞥してから俺を見た万司長ブジェルの顔は、一転して殺気溢れる物になっていた。人殺しモードに切り替わった将軍の顔だった。
「……使徒殿、勝算は」
軍を預かる立場としては当然の問いだろう。とんでも効果で戦況をひっくり返し合うだろう使徒同士の戦いは、歴戦の将軍にも読めるものじゃない。
「ああ……」
俺もオーシャブッチ軍を眺める。明らかに俺達より多い軍勢だ。まともに戦えば負けるかもしれない。
(…………)
始まるか。やはり始まってしまうか。戻れない。今回は逃げる訳にはいかない。いつもみたいに逃亡優先で戦う訳にはいかないんだ。
一応作戦上は必勝の計算になっている。万司長ブジェルも計画立案に参加していたので知っている筈だ。それを敢えてここで聞いていくるということは、俺に宣言させて自覚を持たせたいのだろう。ここで俺がブレたら、全てが台無しになるからだ。
今の俺は、ここにいる皆の代表だ。立場を引き請けた以上、いつもの逃げる言葉を吐く訳にはいかない。
(戦うって決めたんだ。気合入れろ。逃げ道はないぞ。今回は逃げられない。正面から相手が倒れるまでぶっ叩かなきゃ駄目だ。気張れ。気張れっ!)
深呼吸ひとつ。
戦いだ。殺し合いだ。あっちは殺る気だ。既にハヌマール王国国王が殺されている。大司祭さえ石化された。負ければ俺達は殺される。甘い考えは捨てろ。切り替えろ。倒せ。でないと好き放題になる。大陸全土を奴等の好きにさせる訳にはいかない。戦闘モードになれ。
パチン!
大きく頬を張って気合を入れる。
俺を睥睨しているブジェルに気迫負けしないように、その硬い胸板に裏拳を当てて言い返す。
「――まかしとけ。絶対ぶっ倒す!」
◇
ドンッ、ドンッ、ドド、ドンッ! ドンッ、ドンッ、ドド、ドンッ!
巨大な銅鑼と陣太鼓が鳴り響き合う砂原で俺達は向かい合う。奇しくも互いの前面に巨大な舞台を掲げ、その前に盾部隊を擁し、その左右には騎馬隊が控えるという同じ編制だ。
俺とオーシャブッチは舞台最前面で腕を組んで仁王立ちしたまま向き合う。オーシャブッチは踊りを見越してか、ぴっちりとした全身タイツ状の衣装の上に金銀の金物を巻いたり張り付けている。なんじゃありゃと思ったが、俺も見栄えの為と大神殿が用意したキンキラ金物を巻き付けられているので似たようなもんだった。
(…………)
超恥ずかしい。
耐えろ。氷川き〇しを見習え。派手な衣装への羞恥心は捨てるんだ。
なぜか舞台同士が接近するや、自然と古代中国で聞く様な代表同士の罵り合いが始まる。
「この糞ガキがあーッ! やっぱり俺を殺して、成り代わろうって魂胆だったかああーっ!」
舞台上からオーシャブッチが俺を指して罵倒してきた。初っ端からキレている。俺に先を越されたのを怒っているようだ。リーダがマイクよろしく拡声の術を掛けた杖を差し出しているので反論する。
「違うっ! 間違っているのはお前だあっ! お前これまで何をして来たあっ!」
「――ぁあ!?」
「使徒ってのはこの世界の平和を守る為に来てんだろうが! なんでお前、召喚された国でクーデター起こしてんだ! 国王殺して国を奪ってんだあっ!」
「んなっ!?」
奴が絶句したので畳み掛ける。
「行く先々で金と物を差し出させて迷惑掛けた挙句、女を集めて好き放題じゃねえか! 何処が平和を守る使徒だあっ! お前が平和乱す元凶になってんじゃねえかあっ!」
聴衆と化していた敵味方の兵士達がざわめく。
効いてる、効いてる。聞かれた返答としてはおかしいが、まともな指摘でもあるだけに敵軍は動揺している。
(もちろんこれはリーダのカンペによる台詞だ。彼女が小声で言う台詞を復唱して俺は怒鳴りつけている)
本当ならここでセラルーベの真なる目的を明かして、神竜ドムドーマ本来の役割を説明すべきなのだろう。しかし連中がそれを信じる可能性は低く、本当はセラルーベじゃなく父神オーヴィスタを俺は復活させようとしている。とてもこんな怒鳴り合いながらでは説明しきれない。最終的に戦うことが決まっている以上、言い争うしかない。そして互いの兵や監査官達に見せつける為にも言い負かす必要があった。リーダは俺が奴に対して怒っている部分を指し示してくれるので、自然と言葉にも熱が入る。
「やかましいっ! 俺はこの世界を崩壊から救う救世の使徒だぞおっ! 周りが協力するのは当たり前のことだろうがあっ!」
「ふざけんなあっ! 人を殺して金と物奪う救世なんか、あるかああっ!」
「そいつ等は神への反逆者だあっ! 新しい世界を作り出すのに旧体制に固執する糞共だっ!」
「それまでに何人殺すつもりだあっ! 世界中の人間殺しまくって、虐殺しまくるつもりかっ! 何十万、何千万と殺すのかあっ!」
「そ・れ・が、神の意思だあっ!」
「ちがーー……」
ドン――――――――!!
その時、突如世界が真っ暗になった。
闇だ。真っ暗だ。
太陽が何かに隠れたとかそんな話じゃない。完全な闇だ。自分の体の輪郭も見えない。
拳を握る。感触はある。良かった。身体が無くなった訳じゃない。足元も感触があるので台座が消えた訳でもない。ただ単に真っ暗になっただけだ。周囲の皆も無事なのだろう。動揺している声と気配を感じる。
昼間なのに完全な闇になって、見上げても星も神門も見えない。こんなことは普通ありえない。だからこそ、考えられる原因は限られてくる。
リーダが袖を掴んできたので、手を握り返して応えた。
(オーヴィスタだ!)
(――っ!?)
囁いた俺の声にリーダがビクリとした。この娘ならこれだけで全部理解した筈。
さっきから心臓がバクバク鳴っている。叫び合って興奮しているからだけじゃない。遠くから強い反応が返って来たからだ。これが、この感覚がそうか。来たのか。ついに復活したんだな。
――――――――パアッ
突然世界が元に戻った。雲のない青空から太陽が世界を照らし、まるで何もなかったかのように、辺りは今迄と同じ光景に回復する。
皆がほっとしたその瞬間
――――――――ぐにゃり
今度は一瞬だけ、世界の輪郭が崩れた。
「「!!?っ」」
視界が歪んだのでは断じてない。まるで飴細工の様に、自分の身体が一瞬だけ崩れた。
敵味方関わらず、そこら中で動揺の悲鳴が上がった。おそらくこの場に居る数万の人間全員が体験したのだろう。その恐怖は先程の比じゃない。俺も背筋が凍った。
周囲の動揺が大きい。慌ててリーダの杖を掴んでマイク代わりに叫ぶ。
「みんな落ち着けっ! 大丈夫だっ! すぐに安定する!」
俺が叫ぶと、直ぐにオーシャブッチが問い詰めてきた。
「き、き、貴様あっ! お前の仕業か、小僧っ!?」
「違うっ!」
息を吸って、この場にいる全員に聞かせる如く叫ぶ。
「今、神オーヴヴィスタがこの世界に蘇った!」
聞いている皆はあっけに取られたようで言葉を失っている。俺は叫んで畳み掛ける。
「俺は神オーヴィスタが封印されている大陸中の結界石を破壊した! そして神獣達の協力で神獣ドムドーマから神気を奪い、それを神オーヴォスタへ送っている。これがその結果だ! 今、オーヴィスタがこの世界に復活した!」
「ふっ……ざけるな! そんな訳があるかっ! なんで今頃オーなんとかが出てくる!」
「これはオーヴィスタが世界に現れた影響だ! 何度かおかしなことが起きても直ぐに元に戻る! みんな、安心して良い! 古の神が蘇ったんだ!」
この世界は神が作り、維持していると聞いている。おそらく娘神アウヴィスタだけで維持していたこの世界に、新しくオーヴィスタの力が流れ込んできた影響なんだろう。こんなことが起きるとは予想してはいなかったが、それくらいしか考えられない。まさか人間の輪郭まで崩れそうになるとは。人が形を維持していることさえ神様の力なのか。どうなってんだよこの世界。
「嘘だと思うなら、そっちの神獣ハヌマに聞いてみろ! 今、世界に新しい神気が現れた筈だ! 神獣なら感じとれる筈だ! 新しい神の復活が! 創生神オーヴィスタの気配が!!」
「あ、ああんっ!?」
とっさにオーシャブッチが背後を振り返る。
火鳥レンテは神オーヴィスタの神気を察することが出来た。神獣なら同じ様なことができるだろう。ハヌマが俺を陥れる為に嘘をつく可能性は低い。神獣は基本嘘をつかないし、更に奴は享楽主義だ。事態の変化を知って皆が動揺していると知れば、喜んで答えるだろう。
予想通り奴の神獣ハヌマは舞台後方脇で笑い転げていた。動揺している人間達や、慌てているオーシャブッチを指差し白猿がゲラゲラ笑っている。言質までいらない。その光景だけで十分だった。
「ばっ……かな!」
「お前の使命はドムド-マ封印だったな! だけどそれだけじゃ足りねえんだ! 平和にはならない! 奴が集めた神気を使って、封じられたオーヴィスタとセラルーベを復活。この世界を安定させる。それが俺達使徒のやることだ! てめえの目先の欲に浮かれて、好き勝手することじゃねえんだよっ!」
「その封印をお前が邪魔したんだろうがあっ!」
「お前、封印二の次だったじゃねえか! ドーマ軍襲いに来てんだろうがあっ!」
(あ、いかん)
勢いに乗って罵り合っているうちに『なんか頭の悪い言い合いになってきたぞ』と頭の片隅で気付く。でも止まらない。俺も奴も根っこは頭の悪い馬鹿なのだ。
罵り合いながらも、内心どうしようと思っていると
チカッ――!
三度世界に変化が起きた。
今度は視界が真っ赤に染まった。
視覚が変わったようには見えなかった。手触りや身体の感触は変わっていない。世界の色が赤だけになったように感じた。
チカッ――!
直ぐに戻った。良かった。本当に心臓に悪い変化だ。今すぐ大神殿の『神臨に間』に飛んで、神オーヴィスタに会って直接話し合いたい。俺が今言っていることは合っているとは思うが、早く確かめてコレを止めて欲しい。
動揺しているオーシャブッチの顔を見てチャンスに気付く。向こうはまるきり状況が分かっていない。当人も周囲の兵達もこちら以上に動揺しているのが判る。情報の分だけこっちに分がある。
「大丈夫だ! みんな落ち着いて良い! まだ変化は起きるがじきに治まる! 悪いことじゃない! この世界を作った神オーヴィスタが戻ってきて、世界に力を行き渡らせているんだ!」
「っ、嘘をつくな小僧! これはお前がやっている小細工だろう! 俺達とやり合っても勝てないから小細工してやがるな! そんな手が通じるとでも思っているのか、この詐欺師野郎!」
「どこにそんな手があるか! 今踊ってなかっただろうが!」
「だから小細工だっつってんだろうが!」
こんな台詞を言われては駄目だ。何を話しても自分達に都合の悪い話は、嘘や小細工と決めつけられてしまう。
本当はセラルーベや封印の事を話したい。しかし、兵達が観衆となっているこの状況で、公然とアウヴィスタが母神セラルーベを封印したなんて言うわけにはいかない。神々への不敬になる。大神殿に止められているのだ。
奴が俺を悪者と決めつけて話す以上、最後は戦うしかないのだ。
(ちっくしょう……っ!)
ギリギリと歯噛みする。
自分からも喧嘩を売ってる手前、勝手だとは分かっている。しかし、決めつけられては腹が立つ。
「またそれか! 人を詐欺呼ばわりすれば、お前が王様殺したのが正当化されるとでも思ってんのか! 金や女奪ってるのが正当化されるってのか! ふざけんな馬鹿野郎がっ!」
「違うな! 俺は神に選ばれた者として新しい世界を作り出すように定められたのだ! それに逆らうことは神に逆らうことだ! 奴は神に逆らったんだ!」
「自分に都合よく話を盛ってんじゃねえっ! お前奴に神獣の封印しか頼まれてねえだろうが! 国王殺せなんて言われてねえだろううが! 嘘ついてんのお前の方だろうが!」
頭の悪い応酬に、リーダが困惑した表情で俺を見つめている。でも止まらない。
「それはてめえだ! いもしない神の使徒を名乗って軍を起こした詐欺野郎が! そんなに俺が羨ましかったのか! そんなに俺の真似をしたかったのか!? 女をはべらせてみたかったのか! 身の程を知れよ、糞童貞! 部屋の隅でマスかいてろ!」
カッと頭に血が昇る。
「誰が人殺しなんかしたがるかレゲエ! 別の世界に来たからって、好き勝手して良い訳がねえんだぞ糞野郎!」
ちっくしょう。もう本気でやってやる。やってやろうじゃねえか。童貞だからなんだってんだ。
「あーっはっはっは! じゃあ始めようか! 今度はこの前みたいに泣きべそかいて逃げようとしても許さねえぞ! 這いつくばって靴底舐めて懺悔すれよ小僧!」
「小僧じゃねえっ! 人の名前も覚えられねえボケ老人に一回だけ言ってやる! 俺は神オーヴィスタとセラルーベを復活させる男。大藪、新平だっ! 使徒の名を使って好き勝手しているてめえを――」
神に代わって――、大神殿に代わって――、世界に代わって――、どれも合っているがちょっと違う気がする。
握った拳を奴に突きつけて俺は叫ぶ。
「みんなに代わってぶっとばす!!」
◇
「行くぜえっ! ミュージックSTARTだああっ! 二番、CRY WAR CRY!!」
オーシャブッチが叫ぶと共に、舞台袖から連絡員が指示を飛ばし速攻で演奏が始まる。あの曲は知っている。
(効果は『戦意高揚』か。思った通り、前回と同じだ)
ならばこちらも同じように対抗しよう。その上で今度は乗り超えてやる。
俺は舞台正面後方に真っすぐ走る。そこにはクリオ達10人が横一列で待機していた。戦いが始まったら一番に出番があると説明してあるので、彼女達の表情は緊張で強張っている。
俺は拳を突き上げながら掛け声を上げる。
「やるぞ、みんなあっ!」
「お、お」「おう!」「おっ!」「おあっ!」
集まっているのはクリオを始めとした年少組だ。みんな緊張で声が上擦っている。気合が必要だ。俺は走りながら右手を掲げて叫ぶ。
「ファイトおおおおっ!」
「「い、いっぱあああああつっ!!」」
練習中ふざけて連呼していた掛け声で怒鳴りつけると、一度で声が揃った。さすが長年放送されていたCMなだけはある。やるなオ〇ナミンC。
「いくぞおっ! ピィーッ、ピッ、ピッ、ピツ、ハイッ!!」
「「ハイッ!」」
俺の掛け声と共に、ずどんと舞台床から木製の横長台が沸いて出てきた。仕掛けなんかない。物理現象ガン無視の異常な光景。その木製二段の階段を皆と一斉に上る。
ダンダンダン!
最上段で右手を大きく斜め上に振る。
「「ハイイッ!」」「あいっ!」
ダンダンダン!
地面に降りる。
「「ハイッ!」」「あいっ!」
俺の脳裏に踊りの名が響き渡る。
【踏みしめる戦軍の行進】
俺達から淡い光が周囲に散って、水滴の輪が広がる様に周囲の人間達に広がっていく。効果を感じて兵達から歓声があがっていく。
踊りの効果は「思考速度と反射速度の向上」だ。まずこれを全軍に張り巡らせて、味方の動きを早くする。対戦による怪我を最小限にするのだ。
「後は任せるぞっ!」「うんっ!」「まかしてっ!」
クリオとヴェゼルの肩を叩いで台から飛び降りた。さあ次だ。
振り返ると舞台前から双方の盾隊が前進している。兵士達の交戦も近い。急がなくては。俺は舞台前面に走る。
「こっちも演奏行くぞ! 楽曲2番、開始! リーダ、連中にも指示を出せ!」
次はジェンガだ。連中の武器を全部取り上げて戦いどころじゃなくしてやる。まとも殺し合う気なんか俺にはない。勝てば良いのだ。
リーダの指示の下、再びジェンガを担当する連中が集まってくる。近衛騎士のアリシアとラヴィアン二人が俺の後ろに直列に並んで、両手を目の前の肩に掛けた。
チャッ、チャッ、チャララララ!
伴奏はもう始まってる。
「早く隊列作って」「急いで! 並んだら直ぐ前の人に手を掛けて始めて」
前回同様、指導役の近衛騎士他二人の誘導で、集まった踊り子達がどんどん左右に列を作っていく。
「やるぞ!」「おう!」「はいよ!」
俺の号令に肩に両手を掛けた近衛女子、アリシアとラヴィアンが元気よく応える。
チャッ、チャッ、チャラララ、ラ! チャッ、チャッ、チャラララ、ラ!
リズムに乗って左右の足を交互に前に蹴る。 そして揃ってジャンプ、ジャンプ。小さく前に飛ぶ。
チャララララッラララ、チャッ、チャッ、チャラララ、ジャンジャンジャン!!
一小節。踊りが完成し、脳裏に踊りの名が響き渡る。
【天高く飛び去れジェンガ】
どうだ!?
向こうの敵には既にオーシャブッチの踊り効果が掛かっている。それに俺の踊りが上書き出来るかどうか。結果次第でこれからどう戦うか、それが決まる。
すぽんっ
敵軍先頭にいる兵士達の手から武器が飛び上がった。最前列にいる盾部隊から盾が吹っ飛んで、兵士達が悲鳴をあげている。
「いよしっ!」
ガッツポーズをしてから左右の列にタッチして電波させる。
「急げ! 交戦しちまうぞ! 敵最前列を優先に!」「「はいっ!」」
チャララララッラララ、チャッ、チャッ、チャラララ、ジャンジャンジャン!!
「「はいっ!」」
すぽん、すぽんっ 敵前列連中の盾や武器が吹っ飛んでいく。武器を失った敵兵達は後続の前進に押され、素手なのに逃げるげることも出来ないまま交戦を開始する。
「UOAAAAA……ッ!!」
哀れ盾も武器も持たない敵兵達がタコ殴りにあって沈んでいく。いくらオーシャブッチに『戦意高揚』を掛けられていても、武器がなければ勝てる訳がない。ましてこっちの兵は【踏みしめる戦軍の行進】で反射速度が向上している。やりたい放題だ。
連中は味方から下がれと指示されたのに、『戦意高揚』で興奮しているから聞き分けれず邪魔になってもいる。あっという間に前線は混乱状態となった。
「いいぞ! 片っ端に武器を飛ばせ!」「「はいっ!!」」
チャララララッラララ、チャッ、チャッ、チャラララ、ジャンジャンジャン!!
俺達は踊るに人数を増やしながら片っ端に敵兵の武器を飛ばしていく。しかし。
「なんか思ったより少ないよ」「不発しました!」「こっちもです」
「ちいっ……!」
思った以上に不発が多い。
使徒同士で踊りの効果を互いに掛け合ったらどうなるか。「動け」と効果が掛かっている奴に「動くな」と掛けたらどうなるのか。
オーシャブッチと戦うことを承諾した際、神セラルーベにそのことは聞いている。奴の答えは『強き方が勝つ』だった。後勝ちでも上書きでもない。『強き方が勝つ』だ。
「それじゃ分かんねえよ。なんだよ。踊りに強いも糞もあるかよ!」俺はそう抗議したのだが、これ以上の回答はもらえなかった。リーダと検討し予想は立てていたのだが、やっぱりこうなったか。
「そこおっ!」「いけええっ!」
すぽんっ!
近衛女子二人が相手を指差して叫ぶと成功。武器が一斉に吹っ飛ぶ。
やっぱりそうか。
「リーダ、やっぱりだ。気合で勝ちが決まる!」
「そん……っ、計画を変更しますか?」
「いや、変えない。正面からやりあって押し切ってやる!」
俺はやる気で燃えている。リーダの問いにすぐさま返答し、皆を振り返る。
「みんな声出せえっ! 気合負けすると掛からねえぞおっ!」
「「!?っ」」
「ドーマ軍と違って、相手にも踊りが掛かってる! こっちの気合が足りないと失敗するぞ! 声出せええっ!」
「「おおおっ!!」」
これはつまり、まんま精神論だ。意思の強い方が勝つという漫画のアレなんだろう。ゲームの定番、『想いの力』ってやつだ。ふざけた話だと思うが、踊りで魔法が掛かること自体がふざけているんだから、今更気にしても仕方がない。
要は気合負けした方が負けるって話だ。むしろ俺にとっては分かり易い。
ニヤリと歯をむき出しで笑う。
(上等だ!)
「声出せえええっ! 吹っ飛ばせええっ!!」
「「おおおおっ!!」
「第二ミュージック、六番! Queen of Babylon!」
向こうでオーシャブッチが平行して次の曲を始めた。二曲目だ。
ダラッダダー、ダッタダッター! ダラッダダー、ダッタダッター! ダダダダダダッダン!
アップテンポな楽曲がかき鳴らされる。
「HOOOOーーーーツ!!」
(来たかっ!)
あれは兵達へ必中攻撃の付与だ。こっちがどれだけ早く動こうと無理矢理攻撃が当たる『必中攻撃』になる。前回はこれで勢い負けして敗走になった。
ダラッダダー、ダッタダッター! ダラッダダー、ダッタダッター!
激しいリズムに乗って、オーシャブッチがステップを踏む。後ろに並んだ男達が、彼の踊りに合わせてキレのある動きを始める。ムーンウォークからパントマイムを混ぜた例の踊りだ。途中ピタリと動きが止まったかと思うとリスム合わせて体を左右に振る。全員ぴったり揃っている。流石だ。見惚れそうだ。
後ろに並んでいるコーラス隊が歌まで歌いだした。
『俺の嘆きが、聞こえているか! 心の叫びが、届いている、か!』
「HAAAAA-ッ!!」
ダラッダダッ! ダッタダッター!
コーラス隊が歌を彩ると、オーシャブッチから新たな光の膜が周囲に舞う。踊りの効果が発現したのだ。兵士達が雄叫びを上げる。
「UOOOOOOO-ッ!!!」
『戦意高揚』で煽られた兵士達が雄叫びと共に飛び掛かってくる。ヘイ〇トで早くなっている自軍も、必中攻撃は避けることができない。しかし前回と違い向こうの兵は武器や盾を失っている。攻撃は拳打のみ。対してこちらはしっかり武装している。最前列が盾を構えて当てて弾くことが可能だ。
「UOOOOOOO-ッ!!! UGAAAA-ッ!!!」
こちらの兵達も雄叫びをあげて迎え撃つ。負けていない。敵の勢いにも押し負けず前線は維持できている。
「こっちも始めるぞ! 3番開始だ!」
テッテテレレ、テッテテレレ、テッテテレレーッ テッテッテッ!
舞台後方の一団から、新しい演奏が加わる。軽快な弦楽曲、管楽器も加わり華やかな曲調。マイムマイムだ。ジェンガを踊る連中を数列分残し、舞台中央前列を広げて皆を並ばせる。
(動きを止めてやる)
前回は必中攻撃と兵の数で押し切られて崩された。対抗策として、今度は敵武装を剥いだ上に動きを止めてやる。どんな必中攻撃だろうと武装を奪えば攻撃力は落ちるし、人数が多かろうが動きを止めてしまえば怖くない。
十人程で横並びで手をつなぐ。
「さあ行くぞ! 派手に騒いでいる連中を片っ端に止めて、タコ殴りにしてやれ!」
「「おおっ!!」」
チャララ~ タラララ~タッタッタッ!
状況と相反するのどかな楽曲に一瞬ズッコけそうになるがそのまま踊る。なにせ目の前は血が飛び交う真っ最中。俺以外の連中の表情は真剣だ。俺だけ受けて笑う訳にはいかない。
並んだまま数歩右へ歩いて左足でステップ、手を叩く。今度は左だ。同じくステップ。パンッ。
チャッ、チャッ、チャッ、チャッ。
「マー〇ム、マー〇ム、マーイ〇!」皆と手をつないだまま前へ躍り出て足を蹴り上げる。
チャララ、タッタッタ!
「……れっセッセイッ!」
一小節の区切りで踊りの効果が発動。俺の脳裏に踊りの名が響く。
【愛と怒りと悲しみのマイムマイム】
(いけっ!)
前線中央の敵兵十数人が一斉にびくりと固まった。即座にこちらの隊長達から声が掛かり、周辺の兵達が囲んで殴り倒していく。しかし、すぐさまその後ろから敵兵が踊り掛かって来る。敵側の方が兵数が多いからだ。乱戦が激化していく。
「効くぞっ! 片っ端に止めろ! 向こうに流れを渡すな!」
「「おおおっ!」」
チャララ、タッタッタ!
「「……れっセッセイッ!」」
「GUAAAAAA-ッ!!! UOOOOO--ッ!!」
怒号が飛び交う。戦闘が激化していく。こちらは動きを止めた集団を叩きのめし敵兵の突撃を阻む。しかし戦線の回復が早い。向こうの兵数が多いからだ。対応も良い。戦意高揚でまともな思考を失っていると思いきや、次々と指示が飛んできて武器を失った兵達が後方に下がり代わりの部隊が躍り出てくるようになった。こちらが武器を飛ばしたり動きを止めたり出来るのは十数人がせいぜいだ。それより敵の回転が速ければ、こちらがどんどん不利になる。
「止めるなあぁっ! どんどん飛ばせえ! 向こうの武器が切れれば絶対こっちが勝あつっ!」
「「おおおっ!」」
敵兵数と武器は有限なのだ。ならば、向こうの武器が先に切れれば必ずこちらが勝つ道理。問題はそれまで前線と俺達が持つかだ。違う、持たせるんだ。
「UOOOOOOO-ッ!!!」
前方左右から新たな剣戟が響き渡ってきた。
両翼の部隊が交戦を始めたのだ。共に掲げるはヴィスタ凰旗。敵味方に分かれたウラリュス大神殿の軍同士が戦っている。舞台から遠過ぎる。せいぜい敵先頭の一隊を止めて、出鼻を挫くくらいしかできない。
(くそっ、踊る人数が足りてない!)
舞台の広さは有限だ。控えの連中も動員して、下に降りて踊ってもらうか。駄目だ。舞台の上から目視で指定して敵部隊に当てているのだ。地面に降りたら敵が見えなくなる。
「放てえっ!」
味方盾部隊後方から網が投げられる。武器を失ったり、停止した連中を絡ませて敵陣の動きを鈍くする戦術だ。しかしやっぱり数が足りない。影響は微々たるものだ。
「……れっセッセエエイッ!!」
声を張り上げ固まっている周辺を指差す。武器を失った連中を交代部隊もろとも百人規模で停止させた。対面する部隊が勢いづいて叩き始める。できる。俺なら、多い人数に効果を掛けることができる。
「……セエエイッ!!」
交戦している左右両翼の敵陣先頭を片っ端から止める。俺が、俺なら届く。やるぞ。持たせてみせる。
「HAッ! HAッ! HAッ! HAッ!!」
敵舞台上でオーシャブッチとダンサー達がキレキレの動きを舞っている。踊りと戦いなんて本来関係ない筈なのに、一小節毎にオーシャブッチが叫ぶと兵達が雄叫びを挙げて動きを活性化させる。
「FUUUUUU---ッ!」
「UOOOOOOO-ッ!!!」
「「……セエエイッ!!」」
(はあっ、はあっ、はっ……っ)
一進一退の攻防がずっと続いている。
身体が熱い。アドレナリンが燃えている。
どこまでやった。あとどれだけ残ってる。まだか。まだ連中の武器はなくならないか。
中央は持ちこたえているが、踊りがなかなか届かない両翼の戦場では戦いが激しい。悲鳴や絶叫が聞こえてくる。互いに負傷兵を後衛に回しながら大神殿の兵士達が同朋同士で殺し合いをしているのだ。
(死ぬなよ!)
前回の戦いで首さえ無事残っていたら【癒す女神のムスタッシュダンス】で回復出来るのが証明されている。だから俺は皆に首だけは死守しろと厳命している。前回実際助かったユエル司祭配下の兵達から説明に回ってもらった。これは戦争だ。殺し合いだ。甘い考えだとは思うが、少しでも死者を減らすことを怠る訳にはいかない。
ガンガンガンガン、ガアアアアアアアーーーンッ!!!!
……どうしたことだろう。
敵陣から鬼の様に銅鑼が連打されると、急に敵兵は戦いを止めて後退を始めだした。突然の後退にこちらの兵達が戸惑い顔を見合わせる。
こちらから進軍の指示はなく、陣形を整えるよう声が飛んでいる。総指揮を取っているヴィルダズ達とは離れているからどんな意図かは分からない。おそらく様子見をしようと考えているんだろう。
(なんだ……?)
撤退か。勝ったのか。いや、そんな風には見えない。敵陣の戦意はまったく落ちていない。
向こうの舞台上を見るとオーシャブッチが踊りを止め、立ったまま両手を真横に伸ばしていた。アレか。おそらく奴が戦いの中断指示をだしたのだ。
どうする。無視してこっちは踊りを回して相手の武器排除と停止を重ねるか。 いや……。
嫌な予感がして俺も楽曲中断の合図を出す。クリオ達のヘイ〇トだけは残しているので、踏み台昇降だけがちょっと浮いている。彼女達は少し不安そうな表情でこっちを盗み見ながら踏台昇降をしている。
次第に楽曲が治まっていき、ついには戦場から音楽がなくなった。
互いに戦意を失っていない兵同士が、息を整えながら殺意を向け合う。舞台で踊っていた連中が座り込んで息を整えている。ずっと演奏を続けていた楽師達も荒い息を吐いている。
マイクよろしく拡声の術が掛かった杖を掲げた男が、オーシャブッチに駆け寄る。奴がゆっくりと喋りだした。
「……やるじゃねえか小僧」
あんなに派手に踊っていたのに、全然息が切れていない。流石本職のダンサーだ。こっちは結構ヘロヘロだってのに。
「まさかここまで持ち堪えるとは思わなかったぜ。少しだけ誉めてやろう」
なんだ。わざわざ中断してマイク掴んで再度パフォーマンスか。本当こういう舞台っぽい演出好きだなアメ公は。休憩できるのは嬉しいんだけど。
「だが、選曲が糞過ぎるだろうが! ジュニアスクールダンスなんて、舐めてんのかお前は!」
(うぐっ……!)
腹立たしそうに吐き捨てられた。
……し、仕方ないだろ、こっちはろくにダンスをしたことがない高校生なんだぞ。フルで皆と踊れる曲なんて限られるんだ。つか、あの曲、奴も知ってんのか。フォークダンスって海外から来たんだもんな。アメリカの小学校でも習うんか。
「お前のふざけた選曲のお陰で、燃える戦場が全然ノッてこねえ。これじゃあ全然エレクト出来ねえぜ。全然だ!」
まさか俺が内心「この曲ないわ」と思っていたのと同じく、やつも「その曲ねえだろ」とズッコけていたとは思わなかった。そこは正直すまんと思う。
「お前らの糞なダンスに付き合うのはもう飽きたぜ。……そろそろ終わりにしよう」
オーシャブッチは両手を広げ、ステップを踏んでクルリとスピンターンを決める。格好良いが演出過剰で、おっさん元気だなと少し思う。
「お前等の悪足掻きもここまでだ! ここからは俺の、俺だけのターンだ! お前等はもう追い詰められ屈服するしか術がない! 泣き喚きながら絶望の底へ堕ちるが良い!」
なんかカードバトル漫画みたいなことを言っている。あんな外見してて実はデュエルするアニメとか見たことあるのだろうか。ちょっと想像できない。
オーシャブッチが大きく足を蹴り上げて、ステップを踏み鳴らす。硬質の音が鳴り響くのは、靴底にタップシューズみたいな加工がされているのだろう。
大きく二度ターンを決め正面を向くと同時に、奴は空を指差して叫んだ。
「さあ、ファイナルナンバーでいこうじゃねえか!」
パアーッ!!! ダッダダダダーーーッ!!!
「UOOOOOOOO----ッ!! UOOOOOOOO----ッ!!」
奴が叫ぶと共に銅鑼や楽器が打ち鳴らされ始めた。兵達が拳と武器を掲げウォークライを叫びだす。過剰な演出だ。
しかし、何時迄も呆れてはいられない。俺は奴の台詞から事態が最悪になったことを知る。
(やばい……。これ、アレが来るな)
俺はセラルーベから奴の踊りの種類を全て聞いている。だから分る。
『アレ』が来るのだ。
対抗するには、こちらも最終手段を切るしかなくなった。




