25.大薮新平 ドーマ神竜戦役(前編)
すいません。ちょっと表現に限界を感じて難しいので、今回は三人称の別視点になります。
大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎなスキルを得て異世界に召喚された。家族を守る為に、母神セラルーベの復活を進めることになった新平は、本来の使徒オーシャブッチ軍との戦いを決意する。そして遂に神獣ドムドーマとドーマ王国軍がワウル共和国へ侵攻。新平達は軍を率いて戦いに向かうのだった。
生温い風が、兵達の着込んだ鉄錆臭い鎧の匂いを運んでくる。戦場で何度も嗅いだ筈の匂いが、今はやけに不愉快に感じられた。
「嫌な風だな……」
「レイニア様、何か仰いましたか」
「いや……」
独り言に反応した副官に対し、レイニア・マルダ・ビュイック公子は返事を濁した。自分は一軍の総大将である。副官といえど、戦いの前に意気が下がるような発言はすべきではない。
「ウル様の御様子はどうだ」
「はっ、変わらずです。エルメロード陛下の御言葉では、神竜ドムドーマの接近を感じて警戒心を高めているようだと……」
レイニアは視線を移す。
二百メートル程離れた全軍の中央に、全長三十メートルもの体躯を誇る銀狼が身構えていた。ワウル共和国を守護する美しき神獣、銀狼ウルだ。通常は全長三メートル程の大きさなのだが、戦いを前にしてか、その体躯を大きくし威容を高めているようだ。傍らにはレセプティナ王家の女王エルメロードと臣下達が集っている。
その偉大なる銀狼が敵陣上空を見上げ、明らかに――怯えている。
レイニアが初めて見る、驚くべき光景であった。
ワウル共和国は四つの公国が、神獣ウルと契約するレセプティナ王家を擁して立つ国である。それが今、滅亡の憂き目に会おうとしている。
ドーマ王国侵攻の報がもたらされたのは三ウィヌ(三ヶ月)前である。
ザンデミルネ王国、タイダイホウ共和国。そしてオラリア王国を滅ぼしたドーマ王国軍が、遂にワウル共和国へ牙を向けたのだ。
各公国は兵を集め国境へと配備。時を同じくして神獣ウルが離宮を飛び出してこの戦地へと舞い降りた。自然、参集した共和国軍はここを決戦地と定め、ウルを守る形で布陣することとなった。
しかし四公国の足並みは揃っていない。
ドーマ王国は現在超大国となった。暴威を持って『神獣ドムドーマが新たな神へと至り、大陸が統一される』と近隣諸国に覇を唱え、ワウル共和国にも何度も降伏要請を突きつけている。当然の如く拒否、抗議はしているのだが、長年に及ぶ離間工作によってパイーリ、スヴェルナ両公国は腰砕けの状態となっていた。今回の戦場にも兵と将軍が参加しているだけで、両公家の代表は来ていない。まるで敗戦後の身の振り方を決めたかのような態度であった。
(おのれ、両公国は既に売国奴へと堕ちたか)
ビュイック公国の指揮官として参戦したレイニアは、腸が煮えくり返る思いで愛馬の手綱を握りこむ。
ここで迎え撃たなくてはならないのだ。この一戦は初戦にして決戦なのだ。何故なら守護獣である神獣ウル迄が参戦している。ここで敗れれば共和国に未来はない。
だからこそ、やる気の見えない両公国の態度は許せるものではなかった。
「敵影二〇〇〇迄接近!」
物見の報告で全軍の緊張が高まる。
三時間程前から目視出来るほどまで近づいてきた敵軍は、先程から陣形を整え整然と前進してきている。
布告は来ていない。問答無用で攻め込んでくるつもりなのだろう。
(想定していたより兵数が減ったのは幸いだったか……)
何故か神竜ドムドーマがドーマ軍を攻撃。ドーマ王国軍本陣並びに王家が壊滅したという報が入ったのは一昨日のことであった。
この一報に共和国軍は沸き立った。敵軍の自滅とは望外の幸運である。戦争は回避。自国は救われたという望みは本日早朝、神竜ドムドーマの前進と共に破られた。同時に二万以上の軍が帯同し進軍してきている。
対してこちらは全軍で二万七千。数的には優位になったが、安堵は出来ない。この戦の要は、神獣ウルを守り切れるかどうかにあるからだ。
今迄ドーマ王国が三ヶ国を滅ぼした戦術は全て同じである。神竜ドムドーマが国境を越えて侵攻。対峙した神獣を滅ぼしそのまま敵軍を蹂躙する。その後ドーマ軍が襲い掛かり徹底的な殲滅戦を行う。そしてそのまま王都迄攻め込み一気に陥落。王家の大半を皆殺しにして傀儡の代表を擁立。王家ごと国を乗っ取るという乱暴極まるものだった。
今回は敵軍の王家首脳陣が壊滅したとはいえ、敗戦すれば結果は同じことである。なにより神獣が倒れれば国土が荒れ果てる。作物が枯れ、魔獣が闊歩し、治安は悪化するであろう。
オラリア王国を始め、神獣を失った国土がどれ程荒廃するかを自分達は嫌という程見聞きしている。過去の歴史においても、神獣が復活するまで持たず国が滅んだ例は多い。例えドーマ軍を退けたとしても、神獣ウルが倒れればそこで国は立ちいかなくなるのだ。
神獣同士の戦いに人間は介入できない。彼等は実体を自在に変化させる霊獣である。その為、人間の扱う武器では傷つけることが出来ない。だからといって座して傍観する訳にはいかなかった。
視線を自軍後方に向ける。其処には歳月をかけて準備した巨大な弩弓や改造した攻城兵器が所狭しと並んでいた。これ等は対神竜ドムドーマ用に準備された対空兵器。神獣相手には牽制にしかならないだろうが、少しでも自国の神獣を援護しなくてはならないからだ。
(神竜ドムドーマめ……)
本来神獣は国を離れない。自国の土地を守護する存在だからだ。しかしその前提が何故か崩れた。神竜ドムドーマは率先して他国に侵略し、相手国の神獣を屠り敵国兵を蹂躙して回ったのだ。
恐らくドーマ王家が何らかの方法で神竜を操っているのだろう、というのが共和国首脳の共通認識だ。しかし計画された対抗策が成果を得られないまま、この時を迎えてしまった。
「鳳翼の陣にて迎え撃つ!」
全軍に半包囲陣を敷くよう指示を出す。
敵軍はろくな陣形もなく、攻めてくるように見える。計を巡らせずとも勝算があると考えているのだろうか。舐められたものだ。怒りで拳が震えてくる。敵軍指揮官は王家首脳陣が壊滅したことから、自制を失った将軍達であろう。そのような者達に、ここまで自国軍が舐められるとは思いもしなかった。
(おのれ、目に物を見せてくれようぞ!)
しかし、どうしたことだろうか。敵軍はわずか五百メートルもの目と鼻の先で停止する。
ぞわりと怖気が走った。
「周辺警戒を厳となせ! 神竜ドムドーマを探すのだ!」
レイニアは今迄のドーマ軍の戦術が、全て神竜ドムドーマの先制から始まったことを思い出す。連中はそれを待つつもりなのだ。
物見達が周辺に目を走らせるが、いつ迄待っても発見の報告は上がってこない。焦れたまま時間が過ぎていく。
(どうする。こちらから打って出るか)
しかし、攻め手に転じた最中に神竜ドムドーマの攻撃を受けては堪らない。まず情報を揃えるのが先だろう。それともあえて混戦に持ち込むべきか。いや、目的を見失ってはならない。我らの本懐は神獣ウルの死守なのだ。
その時、どこか遠くより地響きが伝わってきた。物見達が焦って周辺を見渡すが、報告が上がってこない。
(なんだ。なにが起きた?)
兵達も気付いているので、気の所為ではありえない。気になるのは前方のドーマ王国兵達も同様に周辺を警戒している点だ。今の振動は連中も与り知らぬことらしい。つまり神竜ドムドーマ絡みではないということである。
未確認要素が増えたため、更に慎重にならざるを得なくなった。こちらから攻め込もうという副官の進言を却下。パービュリー公国軍からの伝令にも同様に答える。
しばらくして物見達が騒ぎ出す。問い質そうとして自分もその原因に気付く。前方上空の雲間から何かが顔を覗かせたのだ。
(なんだ……?)
兵達も気付いてざわめきだした。空の雲間から顔を覗かしたのは、巨大な半円状の物体であった。神竜ドムドーマではない。色は白っぽい土気色で、巨大な天幕が膨らんでいるようにも見える。大きい。
「なんだ。アレは……」
神獣ウルが上空を見上げて吠えだした。一瞬で理解してぎょっとする。神獣ウルが怯える存在。それは神竜ドムドーマに他ならない。
「馬鹿な。アレがドムドーマだと!?」
それは巨大な物体であった。降下してきたその物体は、空一面を覆いつくすかのようだ。
記録で知る神竜ドムドーマは尾の長い蜥蜴の上半身に、蛇の下半身をもつ体躯だ。体長も十メートル程の筈。それが見る影もない。
(なんだ、あの馬鹿げた大きさは!)
あんなものが落ちてきたら自軍は壊滅である。空を覆わんばかりの巨体による質量兵器、山が降ってくるのと相違ない。そんなものは対抗しようがない。
浮足立った自軍とは反対に、敵国兵達が湧き出した。上空の物体を見上げ、武器を振り上げて歓声を上げている。
「「ドム、ドーマ! ドム、ドーマ! ドム、ドーマ!!」」
アレが神竜ドムドーマだと確信する。これがこいつらの戦術なのだ。アレを我が軍に落とし、壊滅させた上で笑いながら国土を蹂躙するつもりなのだ。
「陛下に伝令だ。ウル様を引かせろ!」
神獣ウルがアレを止められるとは思えない。このままここにいては甚大な被害を受けるのは必至。
伝令に言い放ちながらも、神獣ウルは絶対に引かないだろうと気付く。そもさ対峙して逃げ出すようなら、この場に来ている筈がない。逃げてもどうにもならないことを、我らが神獣も理解しているのだ。
ならば、戦うか。アレに。どうやって。用意した対空兵器に目を走らせたが、あの程度の兵器で効果が得られないだろうことは一目瞭然だ。氾濫した大河に小石を投げ込むようなものである。
巨体がさらに降下してきた。だというのに未だに全長が測れない。まるで空が落ちてくるようだ。おそらく全長は数キロにも及ぶ。
「ああーっ!」「うあーっ!」「わああああーっ!!」
各地で兵達の悲鳴が上がり、馬達が暴れだした。迫る神獣の威容を感じて怯えているのだ。うずくまり、暴れ、脱糞し騎乗する者達を振り落として逃げ出そうとする。騎士たちが必死に宥めるも効果がない。このままでは暴れる馬によって負傷者が出る。
「全員、至急下馬せよ! 乗騎から離れろ!」
慌てて兵達が下馬し始める。地に降りた兵達が必死に馬達を宥めるが効果はない。その兵達も悲壮な視線を上空に向けている。馬達の怯えが電波し、あちこちで兵達もが悲鳴をあげている。駄目だ。このままでは駄目だ。
ふいに上空からの威圧感が減った。見上げれば迫っていた巨体が何故か浮上して遠ざかって行った。
なんだ。なにが起きている。
敵軍を見ると歓声が納まり、期待が外れたというような声を挙げ、上空に向かって文句を喚いていた。連中とは連携が取れていないようだ。
上空の巨体が降りてくれば沸き、戻れば文句を叫ぶ。敵軍はまるで神獣の行為から漁夫の利を狙う蛮族のようだ。
自分達は弄られているのだと理解して頭に血が昇る。
「全軍にゆっくりと後退するように指示をだせ!」
まともに付き合ってはいけない。
副官から全軍へ指示を飛ばす。まずは浮足立っている軍の態勢を整えなくてはならない。
そこで物見が声を張り上げた。
「左方一五〇〇に大軍現る! 規模三〇〇〇〇!」
「なんだと!?」
指示方向に顔を向けると、左方の丘を超えて大軍が進軍してきていた。ドーマ軍も動揺し、警戒しているのを見て敵軍の増援でないことを知る。となれば第三軍である。しかも自軍と同規模の。
(何故このような時に!?)
「どこの軍か!?」
詰問が集中し、物見達は互いに戸惑った顔を見合わせながら報告する。
「ヴィスタ凰旗! ウラリュス大神殿です!」
「!?」
まったく予想していなかった勢力だった。数年前から仲介を要請していたのに、今迄まったく動かなかった大神殿が今頃なんだというのだ。
しかも現れたのはおかしな編成軍であった。
遠目に見える行軍の様子は、お世辞にも練度が高いとは思えない。それもその筈。中央には舞台のような巨大な台座を抱え上げ、輜重隊らしき部隊にはどう見ても兵士には見えない姿格好の者達が大勢見受けられるのだ。しかも多くの楽団が同行している。それ等が全軍の半数をも占めている。とても天下の大神殿が擁した軍だとは思えない。あれでは戦いにならないだろう。
「なんだ、あの軍は。一体何が目的だ、大神殿は!」
両翼を固めている兵以外は非武装の者達だ。あれでは軍ではなく非武装集団の護衛団だ。まさか彼等の目的は停戦交渉なのだろうか。大神殿が仲裁に乗り出したか。だとしてはあまりにもタイミングが遅過ぎる。
「上空、要警戒!」
おおお……っ
見上げると覆っていた雲が流れ、神竜ドムドーマの全容が現れた。
それは驚くべき巨体だった。上空一面を半円上の物体が覆っている。真下から見上げているので断言はできないが、全身像はおそらく球体なのだろう。遠い端に見える巨体から飛び出た巨木の様なものは四肢だろうか。
(なんと……おぞましい姿だ)
三体の神獣を滅ぼし、その力を蓄え異形と化したとでもいうのだろうか。
遠くで神獣ウルが激しく吠えている。その声が届いたのか、上空に浮かぶ巨体がゆっくりと回転しだした。ドムドーマがウルに反応しているのだろうか。
コォオオオオオオオオ……
先程から辺り一帯に響いている風の音が、上空からのものだと気付く。ドムドーマが何かを叫んでいるのだ。巨体が大き過ぎるので空全体が鳴り響いているように聞こえている。
「うわああああっ」
「きたぞおおおっ!?」
そして、遂にその巨体の落下が始まった。まるで空が墜ちてくるようだ。
上空数百メートルから迫る死に、兵士達の怒号と悲鳴が飛び交う。
視界の端で左方の大神殿軍から幾筋かの光が飛び上がったのは認識できたが、それどころではない。
神獣ウルが空中に飛び上がり、迎え撃つべく向かって行く。わずかな希望は、巨体の外皮にあっさり弾かれたウルの姿を見て絶望に代わる。まるで相手になっていない。周囲の兵達が悲壮な嘆き声を上げ、見る間に軍の士気が落ちていく。
「工兵隊、防空兵器を準備せよ!」
かといってここで座して潰されるのを待つわけには行かない。なんとしてでも奴に一矢報い、自国の神獣ウルを守らなくてはならない。
上擦った声で指示が飛び交い、慌てて対空兵器の発射準備が行われる。
「ど、どこを狙えば……」
返答しようとしてレイニアは言葉に詰まる。
恐らく何処を狙っても当たりはするであろう。問題はそれがあの巨体に対して、何ら効果を得られるとは思えないことだった。それを誰もが理解している。
「頭部だ! 頭部を探し撃て!」
例え効かなくても、幾度も顔面を叩けば牽制にはなる筈だ。問題はここから見上げても頭部が見えないことだ。おそらく今見えているのは巨大に膨らんだ腹部なのだろう。ならば頭部はおそらく自軍の背後上空になる。対空兵器を旋回、移動して後方上空に向けなくてはならない。
当然の如く工兵達は頭部を求めて空を見渡す。物見が後方左を指差して叫ぶ。工兵達と周囲の兵達が、泣き叫びながら対空兵器を旋回し移動させようとするが落下速度の方が早い。もう間に合わない。絶対的に間に合わない。
大気を割って空が落ちてきた。
ただの巨体に圧し潰されて、軍が壊滅して滅びる。
(くそ、こんな馬鹿ことがあってたまるか!)
自分達は間違ったのだろうか。人間が神獣同士の戦いに参戦しようとする等、おこがましい考えだったのだろうか。あのような異形と化した神獣を相手にするなど考えずに、滅びを受け入れるしかなかったというのか。
(こんなことで国の命運が尽きるというのかっ……)
「うおおおおおおおっ!!!!」
ドオオオオオッ!!!
轟音と共に暴風と土砂が舞い、兵と軍馬達が吹き飛ばされる。阿鼻叫喚の地獄絵図は、果たして数十メートル上空にて阻止された。
地を這う兵達は、己の無事を顧みて、原因を捜して空を見上げる。そして数キロにも及ぶ巨体の最底辺に光る物体を発見する。
それは十数メートルに及ぶ光る物体。それは獣の姿をしていた。神獣である。ワウル共和国の誇る銀狼ではない。亀だ。何処からか現れた一体の巨亀が、数キロに及ぶ巨体の落下を最下端で留めていたのだ。
(巨亀! 神獣! タイダイホウ共和国の神獣ホウか!? 馬鹿な、ドムドーマによって滅ぼされ、眠りについたのではなかったのか!?)
「グモオオオオオオッ!!!」
常識ではありえない巨体を押し止めた巨亀が、幾度も唸り声を上げている。その怒声は巨体を受ける為か、大きく荒々しい。
「おお!」「なんだ!?」「助かったのか!」「あれは何だ!」
「助かった!」「神獣だ!」「やった!」「頑張れ!」「おおおおっ!」
兵達のどよめきが声援に代わる中で、新たな神獣が巨亀の傍に舞い降りた。それは翼のある馬、天馬だった。大きさは通常の天馬より二周り程大きい程度でしかない。しかし違和感はない。何故ならばその天馬には騎士が跨がっていたからだ。
騎士が輝く巨大な槍をドムドーマの天底に掲げる。
「天の理と地の非において、新たな巡りを持ちて道を為さんとする! 神槍イムドラ、開放!!」
若い女性の叫び声と共に、暴風ともいえる衝撃破が吹き上がった。空を覆うドムドーマの天底が、ドカンと数百メートルに渡って凹む。まるで見えない巨大な石を下から叩きつけたかのようだった。
「はああああっ!!」
二度、三度と衝撃破が巻き起こる。その度に天底は大きくうなり、地上から遠ざかる。しかも凹む度に、神獣である巨亀が怒声と共に突進し、ドムドーマの巨体を持ち上げて行くのだ。瞬く間に地表数十メートル迄に迫っていたドムドーマの体躯は、上空に押し戻された。
「グガアアアアアアアアッ!」
いつの間にか数百メートルもの大きさに巨大化した巨亀が、吠えながらドムドーマを押し上げて行く。
その姿を確認した天馬と騎士は、槍を納めてゆっくりと地表に向かって降りてきた。
「おお」「ああ!」「凄い!」「助かった!」「助かったぞ!!」
窮地を脱したことを理解した兵達が、一斉に立ち上がって歓声を上げ始める。当然賛辞は舞い降りる天馬と騎士に集中していた。
「おお、な、なんという。其方は……」
その天馬騎士はレイニア公子の既知の人物であった。彼の騎士とは国同士の協議の場や、宴席にて対面したことがあったからだ。
天馬騎士は指揮官であるレイニアを認め、その上空に舞い降りて告げる。
「我は天馬王トリスの伴侶にして、トリスタ森林王国の女王、フォーセリカ・ラ・ヴェールルムである! 此度は地母神、セラルーベの使徒からの要請により、神竜ドムドーマ征伐に参戦致す!」
それは隣国トリスタ森林王国の女王であった。女王自らが自国の神獣と共に参戦し、ワウル共和国の窮地を救ったように見えた。
トリスタの女王に、おいしいところを掻っ攫われています。




