07. 大薮新平 逃走中に興奮す
大薮新平は朝方、道沿いをへろへろに走っていたところを、昨夜別れたデニスとラディリアに発見された。どうやら飛び立ったフラン達が声を掛けておいてくれたらしい。
ラディリアに声を掛けられるまで、泣きながら馬の足音から逃げ回った醜態は、悲惨の一語に尽きた。
馬は二頭しかなく、新平に乗馬は出来ない。
デニスが嫌がったので、仕方なくラディリアの後ろに同乗する事になった。
そして――悲惨から一転、もう一生無いと思っていた昨夜と同じ幸運に、新平は満たされていた。
「おっ、おおっ」
「あっ……も、申し訳ないが静かに乗っていただけないだろうか」
「ごっ、ごめん」
馬に慣れてない新平は揺れの度に声をあげる。
昨夜と同じく、最初は鞍の後ろを掴んでいたのだが、転げ落ちそうになって、仕方なくラディリアは抱きつく事を許した……のだが
「ひうっ……すまない。い、息がくすぐったいのだが」
「わわ、悪いっ」
最初は軽く抱きついていたのだが、かなり揺れるので長い髪は括って前に垂らして貰い、しっかり抱きつく事になった。当然、密着する事になる。着の身着のまま脱出したラディリアは、病室で着せられていた貫頭衣のみ。当然ブラもしていない。剣を二本腰に佩いているだけだ。 その女性に後ろから抱き付いてるのだ。昨夜といい、今日といい。なんてラッキーなんだろう。しかし抱きつかれる方は、たまったもんじゃないようで
「いや、ちょっと、どこを触ってるのだ! …い、いや判って頂けるならいいのだ……って、今わざと触ったのではないか?」
「うわあっゴメン! 違う。違うんだ。わざとじゃないんだ」
「そ、そうか……それなら……ううっ…」
新平も昨日まで重症だった病人に、不埒な事はしたくないとは思っている。思っているが、薄着一枚の女性に抱きついて意識するなというのは、若い男には無茶な話だ。今は日中で昨夜の天馬の時よりも目に見えてしまってるだけに、余計意識してしまう。馬はかなり揺れるので、肩越しに凄いのが揺れるのが見えるのだ。前が見れずに動揺する。それはラディリアの方も同じだったようで、新平が強くしがみつく度に過敏に反応する。ある意味昨夜のフラニー以上だ。
やばい。何か他の話題でも話して和ませないと変な気分になってくる。
「そ、それで何処に向かってるんだ?」
「もちろん王都だ。アンジェリカ姫に合流しなくてはならない」
「姫さん達は真っ直ぐ東を抜けた。俺達ゃ北東に上がってる。遠回りなのでやつらの追っ手も甘い筈さ。このまま北周りで関所を越える」
王都は城砦から見て東方向なので遠回りをしているらしい。
「今更だけどさ、俺も同行していいの」
「捨てて行っていいのかい。見つかると即、殺されるぜ」
「是非連れてって下さい」
考えてみれば天馬の鞍に自分の荷物を括ってある。返してもらわないと困るんだ。俺の飴ミルキー。いや違う、俺の全財産。
「そういえば、まだきちんと治療の礼を言っていなかったな。馬上ですまないが言わせてくれ。助けてくれてありがとう。感謝している。私はラディリア・オーガスタ。トリスタ森林王国の近衛騎士団の者だ」
ラディリアが少し振り向き、微笑して自己紹介する。
「お、おう……どうも」
あ、なんかドキッとした。女性に真顔で礼を言われたのは初めてかも。
「俺ぁデニスだ。デイビス伯爵の紹介でお嬢ちゃん達の案内を引き受けた。まぁ何でも屋だな」
顔も口調もおっさんだが実はおばちゃんがニヤつきながら続く。何でも屋って……どう見ても盗賊みたいなんだが。
「おばちゃんさ。何で盗賊なんてやってんの?」
言葉が終わる前に何か刃物が目の前を通り過ぎた。
「……って、うわっ!」
「小僧……見たのかい」
いきなりドスの効いた声で睨まれた。やばい。服を脱がして確認したとか思われてるのか。
「い、いや昨日眠っちまった時に起こそうとして、肩とか触って気づいただけだよ。本当それだけ! 俺、母親の肩揉みとかやってたから!」
「……ちっ。二度とその呼び方すんなよ」
あれ、呼ばれ方が嫌だったのか。そして盗賊は否定しないのね。
「……それで、確か貴公の名は」
「きこー……あ? ああ。俺は大薮新平……えーと……あー迷子だ」
「オオヤバイ、チンペー?」
「だからチンペーじゃねえって。何だよ大ヤバイって。間違え過ぎだろ」
「そ、そうか。すまない。オオヤバイ……オオヤベエ…む…オヤバスギ……むむ」
「……いいよもう、チンペーで」
そっちも大概だけど。子供の時『藪。インチキ藪』とからかわれたトラウマが蘇るので大ヤバイは勘弁して欲しい。
「すまない。ああ、オオヤバイが姓なのか。なら貴公は貴族なのか?」
何で貴族なんだろ。もしかして苗字があるのは貴族だけなのかな。
「もちろん貴族じゃない。学生って言って判る?」
「ほう……優秀なのだな」
何だろ。学生の解釈も違ってる気がする。大薮新平、前回赤点四教科。母親に落ち込まれ、姉に説教されました。
「つか迷子って何だよ」
デニスがひひひと笑い飛ばす。機嫌は直ったようだ。
「突然知らない奴に拉致されて、この近辺の山に放り出されたんだ。それで彷徨ってたところを城の前で三人に捕まった」
商人の小僧設定は捨てた。ツッこまれた時に誤魔化すのが辛過ぎる。本当に近い感じにしよう。
「捕まった?」
「いや、お前ぇ昨日は商隊が襲われて、生き残ったって言ってたじゃねえか」
「ごめん。あれ嘘。誰も信じてくれないんで、面倒だからそれっぽい話にしたんだ」
「……まあいいけどよ。まさかこんな便利な小僧だとは思わなかったし」
「待て。捕まったとは何だ。無理強いされて城に潜入したという事なのか?」
ラディリアの声がきつくなる。
「いやいや! こいつ自分から一緒に行くって名乗りでたんだぜ」
「あ、うん。行くところもなかったし、協力するって言ったのは俺」
「そうか……なら良い。チンペー殿の協力に感謝する」
なんか口ぶりから思ってたけど、この人結構堅物なのかな。双子と違って口調も固いし、年上みたいだからなんか緊張する。
抱きつかれた反応はフラニーと同じで可愛いんだけど。更に言うと、揺れるたびに組んだ腕に当たる感触は、フラニーより大きくてちょっと幸せなんだけど。うん。すごく幸せなんだけど。感謝されたのもあって鼻の下がムズムズする。
「出身は何処と言ったか。確か……」
「日本」
昨夜も言ったが、もう嘘をついて面倒な事になるのも疲れた。どうせ疲れるなら正直に話そう。
「聞かねぇ国だよなぁ……」
当然だよなあ。
「少なくとも周辺国では無いな? もしかして海の向こうの国なのか」
「うーん……そーかな。随分遠いだろうなあ……」
「まぁ顔からしてこの辺の奴じゃないしな」
確かにこの国は西欧系みたいだし。自分みたいに完全な日本人顔は見かけない。でもこいつらも西欧系と言い張るにはちょっと違う感じがする。全員がハーフというか、所々が妙に日本人臭い。言葉が翻訳されて日本語で聞こえる所為だろうか。
「で、拉致されたってどこのだ。奴隷狩りにでもあったのか」
『奴隷狩り』そんなのがあるのか。恐ろしい世界だ。
「いや、奴隷狩りというより……強制連行かなあ……」
言いながら同じ意味だと気づく。あの迷惑神め、俺を奴隷狩りしやがったのか。
「強制連行? どんな連中なのだ」
「あー……まぁ、よく顔見てないので……覚えてないかなぁ」
神みたいな存在に召喚されたと言って信じてくれるだろうか。下手に話してまた虚言癖な子と認識されると、今の関係が壊れそうで怖い。つい言葉を濁してしまう。
「へっ、連中はそんなへましねえよ」
「そうか。しかしチンペー殿ならあの魔術で簡単に倒せたのではないか」
「新平だってば。うーん……こっちに来てから、あの踊りを覚えたので、そん時は無理だった」
一部を誤魔化しながら説明するのは難しい。嘘がバレそうで、どんどん口篭ってしまう。
「つーかあの踊りは一体何なんだ? 初めて見たぞ。踊りで魔法をかけるなんて」
「確かに。見た事のない魔術だ」
「俺が聞きたい」
二人が黙り込む。
「「……いや待て」」
「お前、自分でどうして出来るか知らねぇのか?」
「チンペー殿。自分の魔術を理解していないのか?」
「うん、知らないんだ。何か狼に襲われてたら突然閃いた」
「閃いたって……」
黙りこむ二人。踊りに関しては自分にもさっぱりわからないので正直に話すしかない。あの滑稽な踊りじゃ誤魔化す気にもならないし。
「学生、閃いた新しい魔法、聞かない出身国……」
二人共何やらぶつぶつと呟いてる。デニスが「金儲けに」と呟いてるのが気になる。召喚されると自動的にあんな踊りが身につくとかあるのだろうか。嫌だなぁ。
「俺みたいに踊って魔法をかけるのって聞いたことある?」
「いんや」「初めて聞いたな」
無いらしい。なんだろう。今迄あいつに召喚された人間はいなかったのか。二人が知らないだけなのか。それとも踊りの能力は今回の召喚で初めて付加されたのだろうか。
『使命を授けたい』
『使命』とあいつは言ってた。何だろう。この踊りが関係するのだろうか。まさか踊りを世界に普及して欲しいって事でもないだろうに。
町全体の住民が浴衣で睡魔の踊りを踊ってる光景を想像してげんなりする。
「本来魔術とは才能ある者が導師の元で長い年月修行し習得するものだ。何かの拍子に覚えるとかいう物ではない筈だが」
「なるほど……」
魔法使いが徒弟を取って覚えさせるとしたら、そんな感じなんだろうな。
「天才魔道士? って感じには見えねぇしなあ」
……踊っただけなんで魔法なんか使った覚えは無いんだが。
「ニホン? って国の連中は皆そんな素養があるのかね」
「まさか。俺の国に魔法なんて無いよ」
「じゃあ、ねぇなぁ」
というかあの踊りが魔法なのかさえも怪しい。魔法がどんな感じのなのか体感できれば比べられるんだろうけど。何度踊ってもMP? というのが減った感じは無いからな。それより相手の『なんだお前』的な言葉の方がよっぽど刺さって気力が減っていく。他に何か減ってるんだろうか……SAN値とか。
「小僧の声がなんか変に聞こえるんだが、それも魔法のせいなのか?」
「変って?」
「言葉と一緒に小さく知らねぇ声が聞こえんだよ。つーか、よく見るとお前の喋ってる口と声が合ってねえんだよ」
「言われてみれば……確かにそうだな」
やっぱ気づくか。町の憲兵達は気づかなかったが、自分は日本語しか喋っていない。相手が喋ると副音声みたいに日本語と同時に変な言葉が小さく聞こえるのだ。どうやら自動的に翻訳されているらしい。同様に自分の言葉も相手には翻訳されて聞こえているんだろう。原理は全然分からない。あの神のせいとしか思えないけど、なら何故そこまで手を掛けたのに、あんなところに放置されたのかが分からない。
どうしたもんだろうか。自分でもわかってないんだが、あの神の事を話したくは無いし。
「んー……どうも翻訳の魔法が掛かってるみたいなんだ。自分でもよく覚えてないんだけど掛けられたような、ないような……実際俺は日本語を話してるしね」
勝手に魔道士と勘違いされてるので、魔法のせいにしてしまえ。
「そんな魔法があるのか?」
「聞いた事ねえぞ、そんなの。凄えじゃねえか!」
そうなのか。まずかったかな。ファンタジー世界の召喚物なら定番と思ったのだけど。
「俺も聞いた事無いんだけどさ。現実にこうやって喋れてるし。誰が掛けたか判らないんだけど、まー……困らないんで良いかと」
「お前が掛けたんじゃねえのか。かーっ。お前が使えるんなら大儲けできたのによ」
何でも金儲けに連結するのか。逞しいな。
「ごめん。さっぱりだ」
「まぁ、お前はそんなに優秀そうに見えねえしなぁ」
「はは……」
乾いた笑いで空を見上げる。空は何処でも青いのね。
「では貴方を拉致した者達がその魔法を掛けたのだろうな。そいつは一体何者なのだ。高度な魔道士のようだが」
「……」
目が泳ぐ。答えられない……というか咄嗟に思いつかない。
「その魔導士に何かされて、貴方はあの魔法の舞踏を取得したという事なのか」
「まぁ……そう、なのかも……」
「……なんとも恐ろしい魔道士だな」
「恐ろしいつーか。変な魔道士だな。おかし過ぎるだろあれ。すっげえ変な踊りだったぞ」
「そうだな。あ、すまない。チンペー殿がおかしいという事ではないからな」
「まあ魔道士なんて皆おかしな連中ばっかだろうから、俺達常人には理解できねえんだろうけどな」
「それよりも、そんな危険な魔道士が国内をうろついてる事は報告しておかねばならないな。うむ」
良かった。黙ってたら良い方向に話が納まってくれた。とっとと話を変えよう。
「あー、で今はどこに向かってるの?」
「まずリムザに入る。この調子なら夕刻には入れるだろうさ。一泊して騎士様と小僧の服装を整えてまた出発だ」
「そうだな」
騎士様とは含みがあるのか、単に人をちゃかす性格なのか。言い方に少し棘を感じるけどラディリアは気にした様子も無い。自分の小僧呼ばわりはバイトしてて良く言われたし実際小僧なので何とも思わない。
「明後日の晩にはペジン領に入れるだろう。そうなれば王女派の領内なので安全だ。問題は関所だが……」
「踊れば一発だろ」
「ああ。関所破りはしたくないが……仕方ないか」
「まー大丈夫だろ。な?」
「仕方ないよなぁ」
既に最初の町から脱出する時に踊っているので今更だ。王子派と王女派の境界の関所なら警戒が厳重だろうから普通に突破は難しいだろう。関所破りは犯罪だろうけど、誰かを害する訳ではないし、こちらも命が掛かってるのだ。 お固いラディリアは不満そうだけどこれは仕方ないと思う。
とりあえず状況を整理する。
ここは王女を捕らえた敵地。姫を救い出した自分達は逃亡中。一応遠回りルートなので追っ手の数は少ないだろうが安心は出来ない。
今晩はリムザの町に一泊し、旅支度を整えて明日には出発。明後日には安全な王女派ペジン領との関所に着くが通るには踊って強行突破しかないだろうと。うーん……
「あ、でも俺金ないよ」
「私もだ。」
新平は天馬の鞍に荷物を繋いだままだった。全財産が飛んでいったままだ。ラディリアは貫頭衣一枚なので当然だ。
「そっかーじゃ二人は馬小屋で我慢やなー」
「何言ってんだよお前。姫さん救出しないで宝物庫漁ってたんだろ。金稼いだんだろ」
「何だと?」
「いやいや、あれは偶然だよ。ぐーぜん」
そういいながらも背負った鞄はパンパンで、朝からいい笑顔で馬を走らせてる。顔がつやつやしてる。
「敵領地とはいえ窃盗は見過ごせないな」
あ、やっぱりこの人堅物だ。どこかの委員長みたいな事を言い出した。
「いや、いや、いや! 別にそんな大それた事じゃねえよ。いざ誰かが捕まった時にだな、交渉用にと……」
「……私達が王都に着いたら、お前の手配書が回る事になるぞ」
ラディリアの凄みのかかった声が怖い。
「わーったよ。冗談だ冗談。一緒に宿とろうぜ。俺も王都に戻って報酬が欲しいしな」
判ったと言ってるが。今のは宿代を出すと言ってるだけで、盗んだ物は返すつもりはないんだろう。逞しいなぁ。はー……
一度川辺で休憩し再度馬を走らせる。馬の駆ける音だけが響く。着くのはまだ先だろう。
落ち着いたら眠たくなってきた。昨夜は徹夜。一昨日も木の上で殆ど寝てないのだ。
我知らずラディリアに寄りかかり、まどろんでいると。
「すーはー」
「に、匂いを嗅ぐな!」
黙り込んでいたラディリアが声をあげた。何か妙に強張っていると思ったら、自分が寄りかかっていたので緊張させてしまっていたようだ。密着して呼吸してただけなんだが、身長差的にちょうど新平の口元がラディリアの耳にあたっていた。うわぁやばい役得。
彼女が意識していたら、そう聞こえても仕方が無い。お互いに意識してる自覚があれば尚更だ。
「あ、ああ悪い」
「た、確かに貴殿は私の命の恩人であるが、だからと言って、何をされてもいいという訳ではないぞ!」
振り返ったラディリアは真っ赤だった。初心な反応に、デニスがにやにやと笑っている。なんか昨晩と同じような展開だ。
「いやー。大変ですな」
「デ、デニス。やはり変わって頂けないだろうか!」
「絶対嫌だよー。面白そうだしー。ひひひ。孕まされんなよ」
「はっ?……」
絶句して更に顔を赤らめるラディリアに、新平も必死に弁明する。降ろされてはたまらない。
「ちょっ、待てっ! なる訳ないだろ!って、違う違うしない。しようが無いだろって!」
しかし昨晩のフランよりデニスのからかいは嫌らしく、ラディリアの反応は初心だった。
天馬の時とは違って今は日中。視界は全開だ。
フラニーよりは大きいが、西欧人風としては小柄なラディリアも自分の組んだ腕の中にすっぽりと入ってしまっている。騎士と呼ぶには華奢な背中。薄衣越しの感触。伝わる体温。寝込んでいたというのに、ほのかに甘い体臭。揺れるたびに腰を掴んだ腕にあたる二つの感触。こここ興奮するなという方が……
「きゃあっ!」
ラディリアが可愛い悲鳴をあげる。
大きく揺れた瞬間、思い切り胸を掴んでしまった。更にフラニーと同じ展開だ。しかもこっちは大きいぞ。昨晩は掌に入ったが、今度は掌から溢れた。溢れたぞおい。
いや違う。わざとじゃないんだ。仕方ないんだ。
その証拠に柔らかかったという感触はあるが、走ってる最中だから感慨に浸る暇は無かった。フラニーの装束は戦用なので硬かったがこっちは薄衣なのだと違いを理解したくらいだ。
あとで落ち着いたら絶対思い返してにやけるだろうが本意じゃないんだ。めっちゃ柔らかかったけど悪意はないのだ。
ラディリアが手綱を引いて馬を停めた。
真っ赤な顔で振り返り、胸を押さえて叫ぶ。
「おおお降りろっ!この不埒者!」
しかし新平も、ここで降ろされて走りだされては堪らない。必死に弁明をする。
「違う! じじ事故だ! 無罪だ! 痴漢冤罪だ! 誤認逮捕だ!」
「私はこれでも身持ちが固い近衛騎士団の一員だぞ! 王家の他にこの世で身を捧げるのは一人だけと誓っているのだ!
貴公は確かに恩人ではあるが、まだ知り合って一日も経っていないではないか!」
動揺してるのか、何か変な事言い始めた。
デニスは前方で馬を止めて爆笑してる。頼む。助けてくれ。
――その三人の上に、フッっと影がよぎる。
ぞくっ
悪寒が走り、頭上を見上げる。ラディリアも息を呑んでいる。
竜がそこにいた。