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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
3章 邪神王国ドーマ 使徒大戦編
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22.大薮新平 真の計画へ

 大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎなスキルを得て異世界に召喚された。家族を守る為に母神セラルーベの復活に協力することになった新平は、使徒オーシャブッチ軍との戦いを決意する。神竜ドムドーマ対策として各地を巡って神獣を仲間とする新平達は、新たな神獣飛龍ルドラに対し自分達の真の計画を明かす。それは第三の神、父神オーヴィスタの復活というものだった。

『何ト、父神オーヴィスタと!?』


 俺の言葉にゲルドラ帝国の神獣、飛龍ルドラが声を荒らげる。


『馬鹿ナ、創生神たる父神、オーヴィスタは遥か太古に身隠れになっておるゾ!』

「違う。母神セラルーベ同様封印されてる」


 俺の返答に何を馬鹿なという表情で睨み返す飛龍ルドラ。しかし


『真で在る事ヨ。我も確認したで在るのヨ』


 傍らの火鳥レンテが同意すると、ぎょっとした顔をレンテに向けた。火鳥レンテは硬い表情でルドラを見返したまま黙っている。仕方なく俺が代わって説明。


「オーヴィスタが死んでいるってのは嘘だ。セラルーベがアウヴィスタに封印されたのと同じ様に、オーヴィスタはセラルーベに封印されていたんだよ」

『!!』


 飛龍ルドラは言葉を失い、動かなくなった。


          ◇



 ここから少し時間が巻き戻る。

 時は俺が神セラルーベと会い、こちらに出戻ってきた最初の夜のことだ。


 大司祭ソゴスの石化封印を解き、大神殿の協力を得た俺とリーダ。数時間に及ぶ話し合いの後、その夜は与えられた客室で休むこととなった。


 疲れたのでさっさと休もうと寝室内のベッドに腰掛ける。リーダの入れてくれた茶を飲んで一息ついた俺は肩を落とした。


「あー……くそ、えらいことになったな……」


 改めて落ち着いて、最初に出た言葉は愚痴だった。

 仕方がない。確かに神との交渉が簡単にいくとは思っていなかった。でもまさか戻ってくるどころか、人殺しを命令されるとは考えもしなかったのだ。


「お疲れ様でした……。 ……っ!」


 俺の心情を察したリーダは、苦笑いしながら隣に座った。しかしすぐに顔を歪め、腹に抱きついて来る。二人っきりになり、人目を気にしなくて良くなったからだろう。


「でも、また会えて…良かったです」

「……そっかー」


 言われた台詞は情熱的だが、ぐりぐり顔を擦り付けながら言ってるので子供がむずがっているようにしか感じない。これは時々ある幼児化だ。オラリア王国で旅をしている最中にも何度かあった。夜に二人になると緊張が切れるのか、妙に子供っぽくなるのだ。たかが数時間行って戻って来たってのに大袈裟な子である。

 リーダの頭を撫でてあやしながら、俺は乱暴に頭を掻いた。

 再会に感激しているリーダには悪いのだが、こっちは上手くいかなかった悔しさと、セラルーベへの怒りが治まっていない。正直暴れ足りない。切にサンドバッグが欲しい。なにかを殴って発散したい。


「そうも、いかんか……」


 神様に人殺しを命令されるとは。あんな奴だとは……いや、予想通りか。

 奴等は記憶に残っていた言葉の端々から想像していた人物像そのままだった。奴等にとって俺なんて蟻ンコみたいなものなのだろう。

 甘かった。あんな性格だと分っていたら、こっちも言い様が……無理か。どうやっても最後は復活に協力させられただろう。駒が俺しかいないんだから。

 ごつごつ側頭部を叩く。

 もう切り替えなくちゃいけない。俺はオーシャブッチを倒し、セラルーベを復活させることを引き受けてしまった。これからどう上手く進めるか考えなきゃいけない。


 俺は指折り問題点を挙げてみる。

 まず大司祭達にも言った様に、オーシャブッチを倒すだけなら出来るだろう。その後、神竜ドムドーマが神獣ウルを倒して吸収、暴走するな。俺が考えなきゃならないのは、暴走始めたドムドーマをどうやってセラルーベが封じられている祠に誘導するかかな。辿り着きさえすれば、後は勝手にセラルーベが復活するらしいから……。


 いや。やっぱ一番の心配はその後か。

 大司祭達にも言ったが、何が起きるか分からない。

 母神セラルーベが自分を封印した娘神と争いを始め、地上が大災害に遭うだろうというのが俺の予想だ。しかし赤司祭ハインケルは考え過ぎだ、神々は諍い等はしない。互いに認め合いこれからは協力して大陸を治めてくれるだろうと言いだした。とても信じられない。金司祭ソルスティスは俺の意見も聞き止め、どのような影響が及ぶのかを考え、諸国へ警戒を伝える必要があるかもしれないと言ってくれた。大司祭ソゴスは聞くだけで、どっちの意見を取るとも言わなかった。そこから話は進んでいない。明日以降の話になるだろう。


 後はなんだ。上手く行った後の話か。諸国への対応は大神殿に任せるとして、俺自身の帰還はどうなる。一応セラルーベに言質はとってある。封印を解いてお前を復活させれば俺を帰してくれるんだろうなと聞いた際、奴は『是と為る』と確かに答えてくれた。

 しかし、奴は信用出来ない。状況が変われば簡単に約束を反故にするかもしれない。また復活した奴がアウヴィスタと戦って負けたらどうなる。再封印されたらどうなる。残った俺はアウヴィスタの敵だ。日本に帰るどころか速攻で殺されてしまうんじゃないのか。

 ……どうすれば良い。


 いや、どうなるか分からないのに、どうすればって考えるのも無茶な話か。ううん……仕方ないか。


「リーダ、もういいか。知恵貸してくれ」


 泣いてるところ悪いとは思う。しかし、俺の頭では不明点だらけで、どうすればいいのか思いつかない。


「……あい」


 起き上がったリーダは俺の服に染み付いた涙の後に気付いた。恥かしそうにえへへと笑いながら手布を取り出して拭き始める。やめろ、擦り立てるな。逆に染み込むから。

 俺も手布を出して、リーダの顔を拭いてやる。せっかくの将来美人が台無しだ。美少女が泣き顔も可愛いなんて嘘だな。顔真っ赤で涙と鼻水垂れ流している様は普通に小汚い。


 拭き終わった後の顔を見られるのが恥かしいのか、リーダは這って俺の背中に廻った。そのまま背中合わせにぺたんと座り込む。


「えっと……兄様が一番心配しておられるのは、慈母神セラルーベ様の復活後、ご自分が本当に帰還させて貰えるのかという点ですよね」

「……そうだ。悪いな」


 指摘されて自分の気持ちが分かる。

 大陸が危ないとか、神様が復活するとかいう大きな事態なのに、俺が一番気にしているのは確かに自分自身のことだ。勝手ですまないとは思うが。


「いえ……ならば、慈母神セラルーベ様が復活する際、どこまで兄様が影響を及ぼせるかの確認が先に必要ですね。兄様の踊りは神々に通用するのでしょうか」

「いや……無理だろな」


 そんなことが出来るなら、まず奴等をこっちに召喚してぶん殴っている。そして速攻日本に帰ってる。


「私もそう思います。神々の力を現世に顕現するのが兄様の御力です。神自身にその力は通じないでしょう」

「そうだな。じゃあ俺は何もできないのかな」


 セラルーベを復活させた後は、体育座りで勝敗の結果をずーっと待っているしかないのだろうか。


「そうとは限りません。少なくともアウヴィスタ様の顕現する御力を減少させることは出来る訳ですよね」

「……そうか。アウヴィスタの力を削れば、当然セラルーベが勝つ確率が上がる訳だ」

「ええ」


 それは大司祭達と打ち合わせていた今日の夕方、途中休憩で二人席を外した時にリーダに質問された内容だ。





「――そういえば、これからかなり踊りを駆使する事になる訳ですが、踊りの回数制限は大丈夫なのですか?」


 二人きりになった休憩時にリーダが聞いてくる。

 行われるだろうオーシャブッチ軍との戦争で、俺が色々な踊りを駆使することになるからだ。俺の踊りには何故か残回数というのがあって、軒並み数回分くらいしか残っていなかったからだ。一番重要な治療の踊り【癒す女神のムスタッシュダンス】なんかもうゼロになっている。誰かが負傷しても、もう以前みたいには治せない。


「大丈夫だ。こっちに戻った際に回数制限はなくなった。セラルーベが自分でも手を加えられると言って解除してくれたんだ」

「そうですか」

「……というか、本来は回数制限なんてなかった。俺が勝手に制限を作っていたらしい」

「?」


 リーダは俺が回数制限に頭を抱えていたことを知っているので首をかしげる。


 オーシャブッチは神アウヴィスタに召喚された際、どんな踊りで何の事象を起こすのか細かく設定してもらったらしい。しかし俺は断って日本に送還されようとしてるところを無理矢理引き戻された。その為何も設定されていない。

 結果、追い詰められた俺が無理矢理使徒の力を引き出そうとした際、俺の記憶奥底にある知識を勝手に当て嵌めて設定されたらしいのだ。

 回数制限は、俺が昔やっていたゲームの知識が反映されたものだった。確かにそう言われると心当たりはある。あんなホモゲームが原因だったとは……。


「俺があんなおかしな踊りをしてたのも。回数制限があったのも。ぜーんぶ俺の記憶から使えそうなキーワードを適当に当て嵌めてただけだったんだよ」


 どうりでどっかで見たような踊りばっかだった訳だ。

 適当に当て嵌めたのだから、踊りの内容に整合性を求めても解けなかった訳だ。最初から意味なんてなかった。……ヒゲダンスでどうして怪我が治るのか、真剣に悩んだ俺の時間は全て無駄だった訳だ。


「それは……えー……。お辛い真実だった訳ですね」

「あは、はは……」


 今迄散々指を差されて笑われてきた原因が、こんな理由だったと分かった時のやるせなさを分かってくれるだろうか。誰を責めることも出来ず、セラルーベの前で喚き散らしたら『気を静めよ』と二回ほど吹き飛ばされたわ。


「……なので、もう回数制限は気にしなくて大丈夫だ。でもあまり使いまくるなって注意はされたな。俺の力はアウヴィスタの力を顕現しているから、地の力が落ちると言ってた。アレってさっきのことだったんだろうな」


 大司祭ソゴス達は近年大陸を維持している神アウヴィスタの力が弱まり、大陸の端が崩壊し国々が滅び始めていると告白した。俺が踊りまくって神の力を地上で行使しまくれば、その分世界の崩壊が早まるのだろう。


 そうなると俺が召喚されてから大陸の端で起きている災害は、俺が踊りまくった所為だと言えるのかも知れない。まあ知らなかったし、踊らなきゃ死んでいた状況ばかりなので、今更どうしようもないのだが。


「兄様が舞いを使う度に、御神アウヴィスタが大地を維持している御力が減ってしまうということですか……」

「まあ、だからといって踊らずにオーシャブッチやドムドーマを抑えることなんかできないからな。被害が大きく広がる前にセラルーベを復活させるしかないんだよな」


 目の前で地面が崩壊されたら、気になってそれどころじゃなくなるだろうが、一応崩壊は世界の端で、年単位の動きらしいのでここはもう開き直るしかない。

 母神セラルーベが復活すれば、大陸を維持する神が増える。少なくとも崩壊は止まる筈だ。だからこそ大司祭達も俺の行動を支持したのだ。







「――つまり、兄様が慈母神セラルーベ様を復活された後、舞いを多用して神アウヴィスタさまの御力を削げば、相対的にセラルーベ様の御力が上回る道理でしょう」


 夕方話した内容をしっかり覚えていたリーダが推測を述べた。


「なるほど」

「問題はどこまで行使すれば御二方の御力が拮抗するのか、私達では判断する術が無いということですね」

「それもそうか……結局どこまでも賭けか」

「ええ、残念ですが」


 目の前で戦われてもゲームみたいに双方の力が数字で見える訳じゃないしな。

何を踊ればどれだけ減るかも分からない。戦い始めたと分かったら、決着付くまで適当に踊り続けてアウヴィスタの力を削ぐしかないのか。なんか馬鹿みたい。


「兄様の御力が維持されている限りは、加勢という意味で御力を削ぐことはできるでしょう。しかし、そもそも問題は……」

「連中がどこで、どんな風に争うのか判らないってことなんだよな」

「はい」


 やっは駄目か。

 何処で何が起きるのか、もう一度あの神臨の間からセラルーベに会いに行って確かめたいところだが、月一でしかあの扉は反応しないらしい。次回会えるのは来月だ。もうドーマ王国とアウル共和国が開戦してしまう。神竜ドムドーマが神獣ウルの力を吸収して暴走を初めてしまうのだ。


「セラルーベを復活させたら、速攻で大神殿に戻るか。そんで大陸各地で災害が起こってないか確認しながら対策を考えるってことでいいのかな。そこで情報を得たら現地に飛んで踊って崩壊を止める、とか」

「どうでしょう。大神殿側で大陸崩壊の予兆を即時確認して報告出来る体制が調えられるなら、それも意味があるでしょう。可能なのか確認が必要ですね」


 そうか。この世界にゃインターネットなんかないんだから、リアルタイムに情報を得ることができない。せいぜい各国のヴィスタ神殿に連絡用宝珠が用意されているくらいだ。そんな報告を悠長に待って動くんじゃ駄目だろうな。


「もっと確実な方法があれば良いのですが……」


 予想するにも限界がある。そしてだいたい現実は予想より悪いことが起きる。これではいけない。


 リーダがうつむいてぶつぶつと呟き始めた。熟考しているようだ。


「対立する可能性のある二柱、状況の確認方法、大陸の影響への確認……駄目。他に条件を得る方法…大神殿で過去の記録から得る、神獣達から記憶から得る、踊りで……知る」


 リーダが顔を上げた。


「兄様が新しい踊りを顕現させ、未来を覗くことは可能でしょうか?」

「未来予知か!」


 思いつかなかった。というか、思いつかないと駄目だろ。俺達は困ったら常に踊りで解決してきたんだ。コレに気付かなかった俺達はかなり疲れているようだ。


「よし。試そう、試そう」



 夜遅くなってきたが、寝ている場合じゃない。寝室から居室に戻り、とりあえず広い場所で、手足を動かす俺の後ろにリーダが立つ。

 方法はユエル司祭を尋問しようとして、新しい踊りを発現させた時と同じだ。

 身体を動かして踊りの誘導を求めながら、リーダが耳元で『出来ないとヤバイ』と脅迫観念を煽る。俺の踊りは『俺が追い詰められたと考えた瞬間』に発現するからだ。

 普通物語の主人公ってのは、追い詰めれてると新技を編み出すもんなんだがな。脅されて編み出すなんて俺くらいなもんだろう。泣けるわ。


 まずこのまま行って未来はどうなるかだな。


「未来を知る~、このままセラールベが復活したら何が起きる~、アウヴィスタとどうなる~。地上はどうなる~っ。知る方法~見る方法~」


 むにゃむにゃ念仏みたいに唱えながら手足を動かす俺。その背後にリーダが回り込んで恐怖の囁きを始める。


「――もう間に合いません。皆が、死に絶えるでしょう」

(――!?)


 一瞬で首元が泡立った。


「神アウヴィスタは彼の使徒を召喚した際、こう伝えました『世界を破滅から救え』と」

「……っ」

「貴方は其れを阻止しようとしている。結果『破滅』が訪れる」


 本当、こいつは俺の恐怖心を煽るのが上手い。


「貴方が『破滅』を呼び込む。貴方が大陸に『滅び』を引き起こすのです」

「……っ!」


 自分で予想していたことなのに、他人に言われると胃がきゅっと萎む。


「我等はその『滅び』の意味を知らなくてはならない。未来を予知し、その『滅び』を回避しなければならない。出来なければ、貴方は死ぬ――そして、貴方の大切な母君と姉上は『獄』に堕ちます」

(!!っ)


 びくりと身体が震えた。


「逆らった貴方を神アウヴィスタは絶対に許さない。失敗した貴方を神セラルーベは絶対に許さない。貴方が起きて欲しくないと望んでいた悪夢は、必ず実現されるでしょう」


 瞬間脳裏にセラルーベに見せられた恐怖の幻覚が浮かぶ。大怪我を負った姉、心身共に病んで凄惨な表情で死を迎える母。絶望した顔。苦悶した顔。二人が。二人が俺の所為で!


(おおおおおっ!?)


 ぐんっ!!


 成功した。早い。一発で踊りの誘導が出た。

 セラルーベとの会話を伝えたので、リーダは俺が一番恐れるものを知った。そこを突つかれた俺はあっさり新しい踊りを発現させたのだ。


「おっ、おっ、おっ……」


 身体がゆらゆら左右に揺れたと思ったら、へっぴり腰で両手のパントマイムが始まった。踊りの誘導だ。発現成功に会心の笑みを浮かべてリーダが後ろに下がる。


「とっとっとっ」


 なんだ。なんだこれ。おどけた表情でコミカルに腰を振る俺。


 それは――どじょうすくいだった。どう見ても、どじょうすくいだった。




 俺は何故かリーダの前でどじょうすくいを踊っていた。




「おっとっとっと、よいよいよいよい」


(なんだ。なんの関連だ)


 なんで未来視が、予知がどじょうすくいに……!っ。


 予知>なまず>どじょう>どじょうすくい の関連が一瞬で脳裏に浮かぶ。


(なるほど。そういう原理で発動していたのか。……って、これただの連想ゲームじゃねえか!)


 俺の記憶から、キーワードで連想した踊りの要素を無理矢理当て嵌めて【踊り】を設定するこの仕組み。

 踊りの元ネタが分かっても、こっ恥ずかしいこと事には変わりはない。掌の中で踊る光は、どじょうというよりナマコである。俺は光るナマコを掴もうとせっせと踊り続ける。かなりみっともない姿だ。しかも一度設定されてしまえば変更することは出来ないので、これから未来予知をする際、俺は毎回コレをしなきゃいけない。泣いていいかな。


 どじょうすくいというは、ひたすらコミカルな表情でひょっとこ顔のままカックンカックンと腰を振っておどける踊りだ。気を遣ってリーダは視線を逸らしている。原理が分かっても俺の心に平安は訪れない。


(とほほほーいっ!)


 やけくそ気分のまま踊り続けると、壁に掛けられていた絵画が淡く光って何かが映りだす。


(あ、読めた。絵画の枠を使って、TVみたいに映像が見える様になるんだろ。ありそうなパターンだ)


 俺の知識を元に起きる現象ならば納得だ。TVとかを知らないこっちの連中では連想出来ない現象だろう。リーダが不思議そうに光る絵画を眺めている。


「ほっ、ほっ、とおっ! あ、ああ、あああ!」


 苦戦しながらもついに光るナマコを掴むのに成功。瞬間身体に電気が走る。ヤバイ。感電している。まんまナマズ要素だこれ。あばばば。

 同時に新たな踊りの名が脳裏に響く。


【預言するナマモノ未来視】


(ナマズじゃないのかよ! なんだよナマモノって!?)


 どうしてこう、名称にくだらないオチがつくんだろう。これも俺の無意識の産物か。ひょっとして一時期お笑い芸人を目指していたという、親父の血が暗躍でもしているのか。


「わあ……っ」


 リーダが歓声を上げたので視線を向けると、絵画が消えて映像が映っていた。上空から山々を見下ろしている光景は、まんまTVの空撮映像だ。


「お、お、お、お、」

 

 ナマズから手を放すと映像が消えるようだ。放せない。というか、感電してて手が剥がれない。俺は人形劇の様に角張った動きをしながらも、頑張って映像を目で追う。


 ――何処かの山脈が見えた。山頂付近には雪が残る綺麗な霊峰だ。

 それが――ゴンッとばかりに……割れた。


「っ!!」


 リーダが両手で口元を覆って、悲鳴を呑み込む。


 山だけではない。各地で地割れが起きている。地中から溶岩まで吹き出て来た。……大地の異変が各地で起きているのだ。


 映像が地上に迫る。どこの国かは分からない。巨大な陥没で都市の大半が呑まれている。残った建物も地震が起きたのか多くの家屋が崩れ、火事によって人々が逃げ惑っている。

 そこに豪雨が降る。雨に打たれた人々が、何故か苦しんでのたうち回っている。衣類が、皮膚が、溶けているようだ。……酸だ。酸の雨が降っている。

 物陰から視線を向けた先にある大きな建物が、地震と酸の影響で崩れていく。人々は泣き叫び逃げ惑いそして始まる地割れに次々と呑まれて落ちていく。

 暴動が始まっている。食料を巡って争いが起きている。どんどん死者が増えていく。


 映像の視点が上がる。あちこちに飛ぶ。この国だけではない。各地で火の手が上がっているようだ。世界崩壊が起きている。完全に世紀末だ。いや、世界の破滅そのものだ。


「っと、おわっ!」


 足がもつれて転んでしまった。瞬間映像が消える。しかし動けない。体力的にもだが、精神的な動揺が大きい。

 とんでもないものを見てしまった。これが未来視……俺がセラールベを復活させた後の未来。


「はあ、はあ……はあ…も一回するか?」

「いえ、もう十分でしょう……」

「「……」」


 流れた映像が衝撃的過ぎて俺達は黙り込んだ。

 洒落にならんぞおい。


「これは……おそらく、兄様がご心配された通り。神々が争う事になったのか、大陸を維持するどころではなくなったのではないかと……」


 リーダの声が震えている。

 本当に大陸の維持そっちけで母娘喧嘩をして世界が崩壊しているのか。冗談じゃねえぞ。本当に破滅になっているじゃねえか。

 セラルーベの野郎……こうなると知ってて、自分を復活させようとしてやがったのか。ふざけやがって。本当に地上がどうなろうと、なんとも思ってねえんだな。

 そして奴の封印を解いた俺は、破滅を呼び込んだ大罪人。世界を滅ぼした魔王となるのだ。


「どうする……」


 やっぱりセラルーベとの約束は破って、オーシャブッチに協力。奴の復活を阻止するしかないのか。でもそれじゃあ、奴に母さん達が殺されちまうぞ。


「それに、現状のままでは大陸崩壊が止まりません。解決には……」


 そうだった。セラルーベを復活させなくても、既にアウヴィスタの力が落ちて崩壊が始まっているんだ。遅かれ早かれ同じ結末になる。あの映像が遠い将来現実になる。


 しばし、頭を抱えて考え込む。


 一応セラルーベを復活させない場合を唱えながら踊ってみる。将来的に崩壊が始まるとしても、当分は大丈夫の筈だ。平和な未来を確認して安心しておきたいという気持ちと、正解を選べば未来が変わるというのを確認したかった。俺の母親達が殺されるとしても、これは確認しておく必要があった。


 ……駄目だった。

 なんと封印された神竜ドムドーマらしき遺骸を中心に巨大な陥没が発生。あれよあれよと云う間大地が割れドーマ王国の大地が崩壊して地中に落ちていった。巨大な余波は周辺諸国にも広がり近隣国も崩壊し地に呑まれた。当然隣国だったオラリア王国や、トリスタ森林王国。そして遂には皇都であるこのレンテマリオ皇国も地に呑まれていった。大陸中央部は壊滅である。


「なん…だ、これ。駄目じゃねえか」

「……そんな……」

「なんでだ。破滅を防ぐ為にドムドーマを封印すんだろ。それは成功してたろ。なん……あっ!」


 理解した。アウヴィスタは母親の復活さえ阻止できれば良いんだ。奴は既に大陸全土を維持する力がない。封印したとしても残ったドムドーマは目障り。だから大陸の端じゃなく、ドーマ王国周辺の維持する力を抜いたんだ。結果、大地を守護する神獣のいないドーマは速攻で崩壊。余波はまたたく間に周辺諸国に渡って各国が崩壊したんだ。


「そんな……皇都まで崩壊しているのですよ!」


 リーダは戸惑ったように反論する。そんなのは理由にならない。人間達がどれだけ死のうが、奴はなんとも思わない。第一の神獣がいる皇都だろうが、自分を崇めるヴィスタ教の総本山だろうが、どうなろうと奴は気にしないだろう。


「そんな……」


 リーダが呆然としている。どうして俺がここまでアウヴィスタ達を嫌っているのか、やっと理解してくれた気がする。まあ崇めている神様が、自分達をゴミ扱いしているなんて、普通は納得できないよな。


 いや、でもまいったぞ。両方駄目じゃんか。これって回避策は無いのか。

 試しに俺がアウヴィスタに代わって、『大陸を維持する踊り』を顕現させようとしたらどうなるか。宣言しながら【預言するナマモノ未来視】を踊ってみた。連中が喧嘩してるなら、俺が代わって維持するしかないと思ったのだ。


 結果、まったく状況は変わらなかった。

 珍妙な踊りをしている俺が小さく見えたのだが、そのうち地面が裂けて落ちていった…。滑稽な死亡シーンだ。凄く小さかったので凄惨な感じはしなかったが、自分が死ぬ瞬間なんか見たくなかった。


「おそらく、踊り自体は顕現に成功しているのですが、力が足りていないのではないでしょうか。身に纏われている神気も少なかったようですし……」


 俺以上に青くなって見ていたリーダが解説する。

 力の供給元であるアウヴィスタが母親と争ってる最中なので、俺に全然力が流れて来ていないのかもしれない。


「え、それマズイぞ」


 俺は今迄追い詰められたら、踊りで神様の力を顕現させてなんとかしてきたのだ。今回その神様の力が足りなくて解決できないという。それじゃ俺は役立たずだ。

 俺とリーダは青い顔でしばし向き合った。


 これ、どうすりゃいいんだ?


 それから幾つか回避策を考えては【預言するナマモノ未来視】を踊ってみた。この踊りの良い所は、浮かんだ案で何度でも選択後の未来を覗くことができることだ。

 しかし崩壊は変わらない。何度試してもドーマ周辺諸国の崩壊し、大陸各地で崩壊が起こる。


 オアー……ッ


 また俺が悲鳴を上げながら地割れに落ちていった。

 ついでに言うと、毎回小さく土砂に呑まれたり群集に襲われたりして俺が死ぬところが、映像最後のオチになっている。止めて欲しい。豆粒だからグロくはないが、毎回やたらコミカルな最後を迎えているので凄く複雑な気分になる。悲惨な状況下なので笑うに笑えない。


(……まいったな)


 もう朝になる。だが打開策は未だ見つかっていない。

 俺達は途方に暮れた。今迄も途方に暮れる事態はあったが、今回は規模がでか過ぎる。対処策を見つけないと、俺達だけじゃなく世界が崩壊しちゃうのだ。ストレスで胃が痛くなってきた気がする。

 リーダはしばらくぶつぶつ呟いていたが、黙り込んだまま固まってしまった。顔色が悪くなっている。このリーダの頭脳を持ってしても打開策が見つからないとは。

 あ、いや。待て待て。


「おい、そんなに思いつめるな」

「ですが……」


 なんか自分が打開策を思いつかないと、世界が終るみたいな悲壮な顔をしてやがった。この子がそんなものを背負う必要なんかないのだ。


「俺達だけで考えても限界があるって。大司祭達にも相談しようぜ。連中なら別の案が浮かぶだろ」

「でも、それでは……」


 当面の利害が一致して協力関係を得た司祭達に、事情を話して協力を求めるのは最善といえないかもしれない。でもこの際仕方がない。大陸全土に関わる話なのだ。時間も知恵も足りない以上、一人でも多くの協力が必要だ。連中も協力せざるを得ないだろう。


「とりあえず少し寝ようぜ。こんな疲れた頭じゃ良い案も浮かばないぞ」


 俺以上にリーダがまいっている。

 知恵を出すのは自分の役目だと気負っているのだろう。打開策をだせなかったので精神的に追い詰められている。


 リーダをひっ掴んでベッドに放り投げた。そしてダイブして圧迫。いつもならはしゃぎながら文句を言っている筈が、未だに考えるのを止められないらしく反応がない。


「オラ寝るぞ! もう今日は止め、止め!」


 髪の毛を掻き回し、横抱きして背中を軽く叩いてあやす。しばらく唸っていたリーダだったが、諦めたのか身体の力を抜いて睡魔に身をゆだね始めた。

 溜息の様にぽつりと一言を漏らす。


「…せめて、もう一つ何処かに頼れる要因がありましたら……」

「はは……そんな奴がいたら、こんな苦労は……」






 いるじゃねえか!


(っ!!)


 勢いよく起き上がったのでベッドから落ちた。慌てて立ち上がり、不思議そうに見上げているリーダを指差す。


「それだ!」

「え……どれです?」


 ぽかんとして周囲を見回すリーダ。俺みたいなギャグをかましている。


「オーディーンだ!」

「え、あ。創生神たる父神オーヴィスタさまですか?」

「それ!」

「……って、それが何か?」

「奴を先に復活させるんだよ!」

「……いえ、父神オーヴィスタさまは遥か太古に滅して……」

「嘘だ」

「え?」

「絶対嘘だ! そうだ。母神だって眠りについたって言われてて、本当は娘神に騙されて封印されてたじゃないか!」

「いえ、しかしそれは……」

「そうだよ。先にセラルーベが父神オーヴィスタを騙して封印したんだ。それを見てた娘神アウヴィスタが真似して母神を封印しやがったんだ。そうに違いない!」

「そんな……」

「あの母娘ならありえる。言ってきたこと。思考も同じ。似た者親子なんだ。娘がアレだから、母親もアレなんだ」


 神々を無意識に崇めているこいつ等には、思いつかない発想だろう。

 だが、言えば言う程、これが真実だという気がしてくる。俺の勘はよく外れるが、これは当たっている確信がある。絶対間違いない。


「確かめる……っても、どうにもならんか」

「……いいえ、封印石です。慈母神セラルーベが封じられている祠があるのなら、地上の何処かに父神オーヴィスタの封印石もある筈です。それが実在するのなら……」


 俺は指をパチリと鳴らした。


「そうか! セラルーベの封印石は、奴から計画を説明された時に見て覚えているよ。同じ様な奴を探せば良いのか!」

「司祭キュビスター氏に協力を仰ぎましょう。歴史の研究家であるあの方なら、資料を持っているかもしれません。無くても捜索への糸口にはなりましょう」

「そうだな。この際奴も巻き込もう。大喜びして叫びながら協力してくれるに違いない」

「違いない、です」


「本当ですか、そうですか! 私の出番ですか、頑張りますよムヒョー!」


 両手を振り上げて、下手な物真似をして叫ぶ俺を見てリーダが吹き出した。

 あの無駄にうるさい彼女の姿を思い出して俺達は笑い合う。


 やっと笑えるようになった。

 前話ラストをあのセリフで引いた結果、今話で回想中に回想を入れるという訳の分ららない展開をしてしまいました。普通に時系列で進めれば良かったかも…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 非常にシリアスなシーンなのに、豆粒新平が毎回死んでいく部分で大爆笑してしまいましたw
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