15.大薮新平 皇都を目指して
大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎなスキルを得て異世界に召喚された。原因を知るべくウラリュス大神殿に向かう中、彼等は皇都から来た使徒一団と出会う。別れ際、ファーミィ司祭長率いる軍が攻撃をしかけてきたことにより、激昂した使徒軍と新平達は交戦し敗北。新平は新たな踊り『集団瞬間移動』を発現して逃走。辛くも窮地を脱したのだった。
「とりあえず、これからどうするかを決めねばなりませんね」
「え、このまま皇都行くんだろ」
「ええ?」「「なんですって!?」」
炊き出しの朝食を終えた後のことだ。昨日ラディリアとイリスカに殴られ意識を失った俺は、一晩寝込んでようやく復活。俺が気を失った所為で中断された会議が再開され、最初に出たリーダの発言に素で返すと何故か皆に驚かれてしまったのだった。
「このまま何事もせず、旅を再開されるというのですか」
「そうだよ」
なんで皆驚いているんだろう。
「ファーミィ司祭長の軍へはどう対応なさるのですか」
「ハヌマールの使徒に対しては」
「近隣諸侯へなんと説明するというのですか」
「ファーミィなんか知らんし、来たらまた逃げるまでだよ。オーシャブッチ達はあのままドーマに行くんだから、もう会うことないだろ」
「「…………」」
信じられないという視線を向けられた。
俺としてはもう済んだことなのだが、皆は納得してないみたいだ。リーダが代表して質問者となる。
「まずファーミィ司祭長の動向や目的が不明のままですが、兄様は調査も先方に弁明も求めないということでしょうか」
「どうせまともな返事は来ないよ。あんな頭のおかしい奴に関わっていられるかよ。先へ行くよ」
「あの方によって、我等はかなりの損害を受けた訳ですが、それについても不問にされると」
「そりゃ、巻き込まれて死んだ連中にはすまないと思うさ。でも文句は上司であるあの馬鹿女へ言ってくれって話だ。俺はもう奴と関わる気はないよ」
正直ファーミィ司祭長を問い詰めてぶん殴ってやりたい気持ちはあるが、あのおばちゃんは会話が通じない。怒鳴ろうが何を言おうが気にもしない。そのくせ自分の要求だけはしてくるのだ。関わるのは時間の無駄だ。
「こちらとしましては、ファーミィ司祭長の意図が判明する迄は、大きく動きたくなかったのですが……」
「逆だよ。あのおばちゃんの考えがどうあれ、止まってたら巻き込まれる可能性の方が高いんだ。だったらさっさと皇都に逃げ込んだ方がいいよ」
ユエル司祭の提案を蹴る。
「ハヌマールの使徒と我々は交戦となりました。兄様はこの事態にも今後手を下さないということでしょうか」
「ああ。こっちから関わる気はないよ」
オーシャブッチの奴に会って話は聞けた。俺が奴と間違えられてこの世界に召喚されたという確証が得られた今、こっちにはもう用は無いのだ。
「こちらに用がなくても、向こうはそうじゃないかもしれないぜ。取り逃がしたそこの美人二人を寄越せってまた来るかもな」
ヴィルダズの脅し文句に、俺の背後左右に立つラディリアとイリスカが無言で肩を掴んできた。やめい、痛いっつの。
救出されてからこの二人、何故か俺の傍から離れない。よっぽどオーシャブッチに乱暴されそうになったのが怖かったらしい。肋骨をへし折られた女騎士に傍に立たれる俺の方がよっぽど怖いのだが。誰か助けてくれないだろうか。
昨夜は目が覚めたら夜中で、リーダを含めた三人が見下ろしていて驚かされた。
殴ったことを謝罪されはしたが、肋骨にひびが入っていたなんて教えられては気軽に許すなんて言葉も出てこないので、俺としては結構気まずかった。甲斐性なしと笑わば笑え。だって脇腹痛かったんだよ。今もきついよこれ。
しかもこの二人。オーシャブッチの奴が俺と同じ様に召喚して自分達をさらうのではないか、と不安にかられているらしく帰ろうとしないのだ。揃って俺達の横に寝袋を持って来て寝始めやがった。
あれだな。リーダは未だ子供だからひっつかれても全然気にならんけど、この二人とも顔は美人だわ、裸は見ちゃったわ、好きだ云々とか言われてるから困る。すぐ横で寝息を立てられると、なんか妙に落ち着かないし、テント内に甘い匂いがするので気になってしょうがない。自然と鼻をひくつかせると下半身が反応してしまう。必死に抑えていたら、背中に張り付いてるリーダにすごい殺気を向けられてしぼむの繰り返し。落ち着かない落ち着かない。脇腹痛い。
「お前等部下を放っておいて良いのかよ」
「問題ないわ」
「イオネ様に代理を頼んである」
いや、問題あるだろ。どうなってんだ近衛隊は。アンジェリカ姫に助けを求めても微笑ましそうにうなずかれて「よろしくお願いしますね」と何故か頼まれる。近衛女子達からも生暖かい視線を向けられて、どうにも居心地が悪い。
「まあ、追って来たとしても使者だろ。寄越せって来たら断るまでだし、奪われたらまた召喚して取り戻すだけだよ」
特に格好良い台詞を言ったつもりはなかったのだが、ヴィルダズが口笛を吹き、皆に冷やかし混じりにニヤつかれた。嫌な雰囲気だ。肩を掴んでいた指が揃って『のの字』を書き始めたようだが、握力があるので何度も指が突き刺さる。痛えよ脳筋共! 慣れてないことすんなよ!
冷たい視線を感じて横を見ると、リーダがじと目で睨んでいた。
「なんだよ……座るか?」
「結構です!」
焼きもちでも焼いているのか思って、膝を指してやったら怒りだす。こいつも朝から扱いづらいなぁ。なんなんだろ。
「でもさ、オーシャブッチ自身もドーマに行こうとしているし、廻りの連中もそこまで馬鹿じゃないだろ。奴が我侭を言っても宥めて先に進もうとすんじゃないのか」
「……まあ、そうでしょうなあ」
「あいつも熱し易くて冷め易いタイプに見えたから、目の前から二人が消えれば、また違うことに関心向くと思うぞ」
「少し楽観視し過ぎじゃないでしょうか」
そうかな。言っちゃ悪いが、結構簡単に騙される奴に見えたぞ。まあこちらが何処に消えたか判らない以上、簡単に追ってもこれないだろう。当面は大丈夫だと思う。それまでに皇都に着いちゃえばいい訳だ。
「では、チーベェさまは今後彼等にも関わらず、放置するというのですか」
「うん」
皆が黙って俺を責める目で見てくる。なんだよ。
「昨日戦ったのはファーミィが俺達を巻き込んだからだろ。こっちには戦う理由はないじゃないか」
「それでもです」「戦いを挑まれて抗議もせず引き下がるというのですかな」「それでは向こうの横暴な戦いを認めることではないですか」「声明はだされないのですか」
なんか一斉に反論された。何だ声明って?
ぽかんとしているとリーダが困ったような顔で説明してくれた。
「例え誤解が発端だとしても、一度交戦してしまった以上、自分達の正当性は掲げる必要があるのです。そうしないと周囲からは、こちらが悪責と見られてしまいます」
「周囲って誰?」
「周辺諸国、諸領主達へです。具体的な影響を申しあげますと、皇都での活動や大神殿での面会に悪影響が出ます」
「あれま。まずいか。じゃあ、出さないと駄目なのか。声明って何すんだ」
「先方へ軍使を出して、今回の責について反論をしておくこと、合議の席を設けること。これから滞在する諸侯の土地でも常に公論しておく必要があります」
「待て、せっかく逃げてきたんだぞ。こっちからあいつら追いかけて使者出すの? 居場所がバレて面倒ごと増えるじゃないのか」
「はい。でもこれは戦時での取り決めですので」
嘘だろ。と見回せば皆が当然とばかりにうなずく。
変な話だ。ファーミィの巻き添えで偶発的に戦う羽目になったのに、使者を出し合って舌戦するのかよ。俺の世界の中世時代ってこんな感じだったっけ。
「ん-……。じゃあやっぱ駄目だな。そんなもんに関わってないで先に進もう」
「ええ?」「兄様?」「なんですと?」
俺の決断は非常識らしい。皆が非難めいた顔で声をあげてくる。でも曲げない。
「何度も言ってるけど、俺の目的は大神殿行って神に会って日本に帰ることだよ。散々あちこちで助けてくれとか仲間になれとかいうのを蹴っ飛ばしてここまで来てるんだ。いまさら何処の誰に、なんて思われようが気にしないよ」
「いや、でもよ」「それでは使徒殿の悪評が」「我等の道理が!」
「悪いがこっちの世界の風習なんか、俺にはどうでもいいんだって。大神殿行って日本に帰るんだから、知ったことじゃないんだよ」
悪いがきっぱり言っておこう。
「同行しているあんた達にとっては非常識で、俺がいなくなった後で自分達が悪評を被るのは迷惑かもしれないけど、それはもう諦めてくれ。俺は自分の悪評なんかどうでも良いんだ。駄目って言うならここで皆とも別れるぞ」
「「!?」」
ちょっと過激な言い方になってしまい、皆にぎょっとされた。
「……兄様、どうされたのですか。我等は何も抗議している訳ではないのです。現状を確認し、どのような事態が起きるかと対策を模索しているだけです」
「ああ……うん」
「なにか焦っておられるようにみられます。早急に結論をださずとも、皆の意見を聞いて状況を見極めながら決めるということでも問題はない筈です」
「うーん……」
リーダに理屈っぽく言われると弱い。こいつにそう言われると、そうかもしれないと思えてくるんだよな。
今は事態が好転したので、気が急いてる自覚はある。実のところ、俺は今すぐにでも走り出したい気分なのだ。
「まあ、それじゃあ当面はファーミィ本隊ともハヌマ-ルの使徒へも特別こちらからは働きかけず、先を急ぐってことで進めていいのかい」
ヴィルダズが話を棚上げて移動を優先しようとするのを見て、リーゲンバッハ団長は不満そうな顔をするが発言はしなかった。彼は王女を同行させている巡礼団の指揮官なので、悪評を被るのは看過したくないのだろう。それ以上に治まらなかったのはアンジェリカ姫だった。
「お聞かせください。チーベェさまはハヌマールの使徒の所業を許すとおっしゃるのですか?」
幼女姫なのに顔つきが怖い。一時とはいえ部下二人を差し出す羽目になったこの娘は、奴の言動に我慢がならないのだろう。
「……許すかどうかって話なら許せない」
「!っ」
「でも、それは俺がすることじゃない」
「……では誰が、とお考えで」
声を荒げてしまいそうになるのを自制し黙りこんだ姫さん。代わりにリーダが聞いてくる。
「そりゃ、ハヌマールのヴィスタ神殿や、使徒と認めた大神殿。いや、一番の責任は奴を召喚した神の野郎だろ」
「しかし、金司祭キャバリエ様の様子といい、どうも彼等には多くの謎があります。現状彼の使徒の勝手が抑制できていないように見えますが」
「それでもだよ。奴が羽目を外して暴走し始めたら止めるのは周りの責任だ。最終的にはあいつを召んだ馬鹿神の責任だよ。間違えて召ばれた俺じゃないよ」
「では、使徒殿は彼の者の無法を放置すると」
リーゲンバッハ団長に不満そうに言われ、こっちも腹が立ってきた。
「やらしい言い方しないでくれ。なんだよ、同じ様な力を持ってるんだから、あいつと戦って殺し合えっていうのか? 確かにやってることは調子に乗り過ぎてて駄目だと思うよ。二人を寄越せとか阿呆なことも言ってきた。絶対受け入れる訳にはいかないと突っぱねた。ちょっ、お前等後ろから頭撫でてくんな。だ、だから文句は言った。しかし聞き届けてくれなかったし、襲われて戦う羽目になった。でも敵う相手じゃないと分かった以上は逃げて終わり。もう関わる必要はないんだよ」
俺は正義の味方じゃないんだ。
馬鹿が現れた。抵抗したが、止められなかった場合は責任者に訴えるしかない。責任者は誰だ。あの馬鹿神だ。奴に訴えて責任を取らせるべきだろう。大神殿で会って陳情できるんだろうしな。少なくとも間違えられて召喚された俺が身体を張るのはおかしいだろう。俺は奴の巻き添えで召ばれ、同じ様な力を持って彷徨っているだけの小僧なのだ。
「だいたいっ……あんな感じじゃ、放っておいても自滅しちまうよ」
横柄で俺をよく小馬鹿にしたし、何かと自慢気に威張りたがる女好き。こうして挙げるとろくな人間じゃない。俺の状況に同情してくれたり優しいところもあったけど、あんなことをしていたらこの世界では……絶対長生きできないだろう。
あの人は使命と力を貰って浮かれている。この世界を舐めている。このままで上手く済むとは、俺には思えない。
俺の視線の催促を受けて、ヴィルダズが苦々しそうに同意する。
「まあ……あの調子じゃ使命とやらを果たしたら、用無しとばかりに周囲が造反する可能性は高いだろうな」
「謀殺されるというのですか?」
「大神殿が使徒を、ですと?」
「そんな馬鹿な」
「馬鹿じゃないだろ」
ここは優しい物語の世界じゃない。ぼーっと歩いてたら簡単に襲われる物騒な世界だ。俺なんかホイホイと誘われるまま王宮に付いて行ったら酷い目に会った。
キュビさんに過去の使徒について聞いたことがある。彼等の功績は多く残っているが、彼等個人の人格や生い立ち、そして使命を果たした後の記述は驚くほど少ないらしい。彼等の子孫の記録さえ存在しない。残っているのは使徒本人の功績だけだ。
つまりそういうことだ。
使徒は大きな功績を果たし、おそらく一時は英雄と持てはやされるのだろう。困窮している状況に現れて助けてくれると言われたら、そりゃあ使命を果たすまでは、好き勝手をしても文句は少ないだろう。でもそれも使命が終れば不要になる。それまで我慢していた連中が、掌を返す筈だ。オーシャブッチと周囲の様子を見たらそんな姿は容易に想像できる。あんな扱いがいつまでも許される筈が無いのだ。
「あの使徒を害することが出来るというのですか?」
「使徒様は神の加護を受けていると聞いておりますが……」
リッジラインと副長さんの意見には苦笑いしかない。
「そんな訳ないじゃん。俺、今迄散々死にそうな目にあったよ」
最初に入った村ではタコ殴りにあった。身包み剥がされそうになって、オラリアでは奴隷狩りにあって死ぬほど殴られ牢屋に入れられた。あっちこっちで殴られ蹴られ追いかけられて何度も死にそうな目にあった。
使徒は肉体的には普通の人間と同じなのだろう。神の加護とやらは確かに掛けられているかもしれない。しかし、司祭達の話やオーシャブッチの話を総合すると、それはあくまでも暴走した神獣への対策でしかないのだ。おそらく神獣の攻撃だけを無効化する魔法でも掛かっているのだろう。普通の人間相手にはなんの意味もない。
「ヴィルダズ、俺を殺そうとしたら簡単にできるだろ」
俺に指名されたヴィルダズが、言い辛そうに頭を搔きながら答える。
「あー……まぁ大将は警戒心ゼロだかんな。嬢ちゃんいるが……それはまぁ。なあ……」
「どうやる?」
「ん?……んん。殺気消して近づいて、話かけながら背後取って首を掻っ切るかへし折るか。まあ……簡単だな」
聞いたのは俺だが、ぞっとしない回答だった。実際に戦いで何人も殺している奴に言われると怖い。背後のラディリアとイリスカが両肩を掴んでくる。
「四六時中、嬢ちゃんが貼りついて警戒はしてるが、正直素人だし嬢ちゃんは司祭だかんな。横に立てたら終わりだ。背丈からも視界は低いしな。横で大将の首を掴んでも気付けねえ」
こら、リーダ。仮定の話だってば。凄い顔でヴィルダズを睨むな。たぶんお前がいても簡単に殺せるってのに、一応気を使って言葉濁してたんだぞ。このおっさんに勝てる筈ないだろ。
「皆聞いたろ。確かに準備されて遠くから踊られたら、色々やっかいかもしれない。今回みたいに軍を率いやりあうなら不利になることもあるだろう。でも面と向かわないなら、使徒なんかいくらでもやりようはあるんだよ」
もし使徒が無敵なら、俺はここまで一人で旅をしてきた。直ぐに大神殿に辿り着けただろう。出来ないくらい弱いから、こうして皆と旅をしているんじゃないか。
「戦いに巻き込まれた皆は腹立たしいとは思うけど、我慢してくれ。オーシャブッチは俺達が手を出す必要はないよ。俺達の目的は変わっていない。だからこのまま先に進もうと思っている」
「……まあ、今ちょっかいを掛けたらドーマを止めるのを邪魔することになるしな。下手すりゃ俺達が悪者になる」
「ああ、そうですね」
「なるほど……」
「彼の使徒がドーマを静めるまで、静観するしかない訳ですか……」
その後は誰も発言しない。この沈黙は当然了解の意味だろう。
「じゃ、いいな。皇都へ急ぐぞ」
他に何か問題は起きていただろうか。聞くと珍しくアルルカさんが手を挙げた。
同行していた商人達から不満が出ていたようだ。「使徒と同行するなら安全な道中になると見越したのに、戦いに巻き込まれるなんて聞いてない」という話らしい。俺としては自分達から要求して付いてきたくせに何を言ってやがるという感じなのだが、商人達と喧嘩をしても良い事はない。対応はアルルカさんへ任せよう。大丈夫、不満は直ぐに解消されるから。
「ではこれから皇都へ?」
「ああ」
「随分と後退したようですからな、旅程を組みなおしませんと」
「ハヌマールの使徒軍に見つかる訳にいきません。迂回路を検討しなくてはなりませんね」
「ここからですと、結構大回りになりますな」
「これは少し、予定より日数が増えてしまいそうですなあ」
そこで俺が挙手する。実は俺が言いたかったのはこれだ。重要な話はこれなのだ。
「いや。ここから二日程前にあった街道沿いの宿場町へ戻りたい。以前泊まっていた場所だ」
「戻る?」
「何故また?」
「そこから飛ぶ」
「「飛ぶ?」」
「あ……っ!」
皆が首をかしげる中、聡いリーダだけが一瞬で理解を示した。顔を向けると視線が交差する。
「……っ!」
リーダの驚愕の表情が泣き笑いになって、胸元を握りしめた指が震えだす。
「……俺は昨日集団での瞬間移動を覚えた。前の瞬間移動は一度行ったことのある場所にしか行けなかったけど、今回のはイメージが浮かべばそこへ飛べるってのやつなんだ。おそらくこれで俺達は何処へでも行けるようになった。自由に集団での転移ができるんだ」
「え……」
「あそこの宿には皇都を見下ろす風景画が飾ってあった。あれを借りる」
「なんだと、おい」
「それでは……」
状況を理解した皆が騒然とする。そうだ。俺の気が急いていた理由はこれに気付いたからなのだ。
「ああ……。一気に皇都へ飛べる」
「「おお……」」
皆がどよめく。もう徒歩で向かう必要はない。皇都への集団瞬間移動が行なわれるのだ。オーシャブッチ達の話なんか、もうどうでもいいのだ。
次々に驚きと賞賛の声を浴びるが、俺の心は浮き立たない。逆だった。感慨が大き過ぎて言葉が出てこないのだ。虚脱感の方が大きくて、息を吐きながらうつむいてしまった。
リーダの視線を顔に感じながらも大きく深呼吸。上を見上げて薄く目を明ける。これまで何度も見ていた天幕が、視界に映る。
(はーっ…………)
長かった。
ここまで長かった。
そうだ……これで、ようやく旅が終わるんだ。




