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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
3章 邪神王国ドーマ 使徒大戦編
72/100

07.大薮新平 リーダ聖女となる?

 大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎなスキルを得て異世界に召喚された。原因を知るべくウラリュス大神殿に向かう中、異様な気配を感じて飛び起きる。その元凶はトリスタ森林王国の神獣、天馬王トリスと女王フォーセリカだった。

 女王フォーセリカとの会談を終えて天幕を出たところ、今度は護衛騎士達が駆けてきた。なんか今日はよく声を掛けられる。促されるまま出向くと、神獣ラリアと天馬王トリスが顔を突き合せて喚いていた。

 神獣同士が唸り合って揉めている。どうすればいいか分からない。そうだ、会話の出来る俺に押し付けようということらしい。迷惑な話である。そんな担当になった覚えはないんだが。ほら、連中も俺に気付いちゃったじゃないか。

 仕方なく何を騒いでるんだと聞くと『ロリが良いか、処女が良いか』を言い争っていたという。


(はあーっ……)


 脱力して背を向ける。しかし、回り込まれてしまった。俺は逃げられない。騎士達に懇願され、リーダに諭され、くだらない論争に付き合わされる羽目になった。どっちがいいかと聞かれ、どっちも駄目だろと答えたら、凄く不思議そうな顔をされた。いや、違うから! 間違ってんのお前達の方だから! リ-ダ、無言で微笑んだまま下がって行くな。助けろ!


 集まったついでなので、ここで頼まれた要件を済ましてしまおうか。まず幼女クリオを呼んで、ラリアが逃げないように捕まえてもらう。理由を知らない神獣ラリアは身を小さくし、幼女の膝で鼻の下を伸ばしている。それを天馬王トリスが複雑な表情で見下している。


「で、だ。ドーマの神獣が何で国境越えて攻めてきて、お前と戦う羽目になったのかを教えて欲しいんだがな」

『応。それは我も知り得る必要に在るな』


 一緒にいる天馬王トリスも興味を示した。次は自分達の国に攻めて来る可能性もあるのだから当然だろう。まあ単にラリアに負けた時の話をさせて、おちょくりたいだけかもしれないが。


『……』

「あ、駄目ラリアちゃん」

「クリオ、喉を掻いてやれ……ストップ!」


 無言で立ち去ろうとしたが、背をクリオに抑えられ腰砕けになるラリア。次いでクリオに喉をくすぐらせ、恍惚とした顔になってきたところで止めさせる。


『……っ?』


 既にクリオは買収済みである。俺に協力してラリアから話を聞き出せたら、次の街で親父に休暇を与えてやる。一日一緒に遊んでもらえと言い聞かせてあるのだ。パパ大好き娘は凄いやる気になっている。


(悪いが今日は逃げられんぞ。話すまでずっとクリオの手の中で生殺しさせてやるからな)


 再び喉をくすぐらせ、さっと引かせる。媚びる様に喉を見せつけるラリアだが、クリオからだーめっとおあずけされた。対面にいる俺が笑っているのを見て、誰の手引きか気付いたようだ。


『主、ひっ……卑劣であるぞっ! 稚児よっ! !っ、!っ』

「だめでーすっ」


 催促とばかりに『ちんちん』を披露し、膝上でととと…と二足歩行迄するが、買収されたクリオには効かない。諦めろ。クリオからすれば大好きなパパと比べ、お前はペット止まりの犬ころだ。というかお前、何時の間にそんな芸まで仕込まれたんだ……。天馬王トリスが凄く哀れんだ目で眺めてんぞ。

 更に二回焦らされ、ラリアはあっさり屈服した。こうした経験がないのか、神獣って全然堪え性がないようだ。なんか俺まで悲しくなってきた。リーダなんか乾いた笑みのまま固まっている。


「で、奴の目的はなんだったんだ?」

『うム、彼奴の目的は我の力を奪うことであった』


 なんだそれ。


「力を奪う? そんなこと出来んの?」

『我も知らぬで在った。しかし、彼奴は我に牙を立て、現にその力を奪いおった』

「は? ……というか、お前等の力って何なの」

『我等は大地を看守すべく大神より使わされし在。印された地脈に神威を巡らし、災威異形より守るのがその役目よ』

「……?」


 なにを言ってるのか全然解らない。二度聞き返したが、同じことしか言わないのでやっぱり解らない。リーダにそのまま伝えてみる。


「聞き慣れない言葉で仰っただけで、以前お話した内容と変わりありません。要は大地の守護者だと仰っているのです。神より指定された土地に、授かった御力を往き渡らせる。それによって作物が実り災害が封じられる役目をなされているのです」

「じゃあそう言ってくれよ」


 リーダがいて助かった。手前で話が終るとこだった。


「でお前、ぱくりと噛まれたら、その力を吸い取られちまったと」

『うム、根まで奪われ素玉に至ったので在る』


 よくわからんが、力を全部吸われて、最初に見た時の光の玉状態になったって訳だろう。


『其の様なことが、在ろうものか!』


 天馬王トリスが突然いきり立ち、地面を蹴ってヒヒンと雄叫びをあげた。おい、いきなり野生に戻るな。こっちを伺っている騎士達やクリオが、凄いびびっているじゃないか。覗いていた商人なんか走って逃げて行ったぞ。

 トリスを宥め、怯えてしまったクリオからラリアを引き取り用は済んだと帰らせた。ここまで話したらもうこいつも逃げないだろう。一応俺がラリアの両手を掴んで抑えておくか。


「えーと、何だ。じゃあ噛むと力を奪われるって、お前等知らんかったの?」

『応』『無論』


 何故か自慢げに言い放つ神獣達。


「神獣は土地の守護者ですので、本来その場所から動かないものです。神獣同士が相対する機会が少なければ、知り得なかったのも道理でしょう。土地の所有権を巡って争うのは常に人間達で、彼等はそれに関知しませんし」


 リーダの説明に俺は納得したが、その当のリーダが首をかしげている。


「でも不思議ですね。ならば神竜ドムドーマはどのようにして、その方法を知り得たのでしょう」

「それもそうだな。おい」


 双方『知らぬ』としか返ってこなかった。どっかの神獣と喧嘩して偶然知ったとかじゃないのか。神獣同士って仲悪いだろうし、それなら簡単に噛み合いの喧嘩もするだろう。


「それはどうでしょうか。神の御使いである神獣さまが、些細な確執がおきようとも、そう簡単に噛み合う等の諍いをされるとも思えません。また、そのように簡単な行為で発見されるのであれば、大陸創生の折から幾度も同様の事態が発生したのではないでしょうか」


 確執なんて格好良いものじゃなく、汚い毒の吐き合いだけどな。お前はこいつらの会話を直に聞いて無いからそんな幻想を持つんだと思うぞ。まあそれは置いておいて、リーダの言うことはもっともだ。今回だけ偶然知ったというのは、話が都合良過ぎるだろう。じゃあ本当の原因は何だ。


「ラリア様は争いの際、神竜ドーマより何か手掛かりの様な言葉を伝えられなかったのでしょうか」

「――だってよ。おい」


 また、『知らぬ』としか返ってこない。使えない奴。何でふて腐れてんだよ。いや、そうか。自分の力に自信を持ってたのにコテンパンにやられたんだよな。プライド的に言いたくないのか。


「しょうがないやっちゃな。じゃあ何か、お前等がここで噛み合ったら、力を奪い合えるのか?」

『オオッ!』


 失言した。

 良いことを聞いたとばかりに天馬王トリスが距離を取って身構えた。ラリアも構えようとしたが、先程から俺に両手を掴まれ、バンザイ状態で吊るされてるので動けない。焦ったのかぺしぺし尻尾で俺の腕を叩く。危うしロリ神獣。


「止めろおい。それで片方が玉に戻ったら、また俺に治せって騒ぎになるじゃないか。【癒す女神のムスタッシュダンス】はもう一回分しか残ってないんだぞ。俺は使う気ないかんな」


 こんなくだらない理由で使い切ってしまい、事故が起きた時に助けられなかったなんて話は御免だ。


『しかし、之にて合力すれば、我は一躍にしてあの飛蜥蜴を地に堕とせよう! 其の機会見逃せまい!』


 天馬王トリスが興奮している。なんだよ飛蜥蜴って。あ、うんリーダ、こいつラリアを噛んで、ドムドーマみたいに力を吸収できれば飛蜥蜴倒せるって興奮してる。

 リーダは素早く理解し俺に説明してくれた。


「トリスタ森林王国が長年戦争しているのが北方のゲルドラ帝国です。其処を守護する神獣は、ワイバーンの御姿をされていると聞きます。その方を指して仰っているのでしょう」


 ワイバーン=飛蜥蜴なのか。まあ長年戦争してれば、相手国の神獣に恨みのひとつもあるか。


『無駄であるぞ。我に牙を立てた彼奴の牙には、何やら詛が宿っておった。おそらく何等かの印を施さぬと、牙を立てようとも力を奪うこと叶わぬで在ろう』


 情けないポーズで吊るされたまま神獣ラリアが言い放つ。なんだよ、それを早く言え。天馬王トリスも興奮して損したとばかりに嘶いてから座り込んだじゃないか。怒っていきり立ったと思いきや、事情を聞いてふて腐れる。なんかこの馬も子供みたいだな。


「あんたも意外と気が短いのね。若い神獣だからなの?」


 ジロリと睨まれた。あれ、失言したか。リーダが頭突きをかましてきて耳元で囁く。


(守護する国が幾百トュンに渡り争いの地となり心を痛めるのは当然かと思います。トリスタ森林王国臣民になり代わりまして、聖守護たる天馬王トリス様の慈悲溢れる御心、ありがたく存じます! 言ってください!)

「――なんだってな! おお、その通りかもな。凄い、格好良い!」


 焦らされたのでそのまんま伝えてしまった。我ながら下手糞なフォローである。おかげでリーダが頭を抱えてうずくまってしまった。すまんなぁ腹芸が下手糞で。

 トリスはしばし黙った後、静かに息を吐いた。怒るのを通り越して、俺に呆れたっぽい。


『まあ、使徒とも言えど、人の男児で在るからな。所詮この浅知恵と為るよ』


 男だから仕方ないか、という結論になったようだ。怒らなかったのは幸いだが、早とちりしてラリアに襲い掛かろうとした奴に言われる筋合いはないと思う。


『ふふふ、此の使徒は歴代使徒の中でも卑小為り』


 俺の拘束から逃げ出したラリアまで乗ってきた。先程危険に晒したので、恨みを晴らしたいのだろう。


『……使徒よ。何故主は、一々其の者の言を用いるのであるか』


 トリスが妙なことを聞いてきた。逐一リーダに相談して話す俺に不満気なようだ。


「いや、こいつ俺のブレインだし。わかるか。ブレイン、頭脳。俺は頭が悪いので、こいつに色々考えてもらって、その知恵を貰ってるんだよ」

『……主の知恵が物足りぬのは納得在るが』

「放っとけよ! ラリアに押さえつけせさて、マッ裸のおっさん達に、全身泥だらけで抱きつかせてやろうか!」

『恐ろしい言を吐くな!』


 あ、凄いびびってる。効くみたいだ。これは良いことを知ったぞ。後で女王さんへ言っておこう。


『……使徒たる者が只人の言い成りとは不甲斐ない也』

「いいんだよそんなこと。俺はこいつのお陰で、これまで何度も命が助かってんだ。頭の良い奴に頼って何が悪いんだよ」


 リーダが自分のことを話しているのに気付き、不安げな視線をよこす。いいから。お前が気にする話じゃないから。


「人間ってのは万能じゃないんだ。だから知恵を出し合うんだよ。俺はとりわけ馬鹿なの。少しでもましに進める為に頭の良いこいつが頼りなの。不甲斐なかろうがお前にどう思われようが、失敗して死ぬよりましだっての」

『確かに此の娘子なしにして、使徒の進退は立ち行かぬで或ろうよ』


 付き合いの長いラリアは認めてくれている。一方トリスは不満そうにブルルと首を振った。


「というかさ。面倒くさいからこいつも一緒に話せないか。そしたら話が早くなるし、どんだけこいつが優秀かも分かるだろ。もう一々説明すんの面倒臭いんだけど」


 良い案だと思ったのだが、俺以外にとっては意外過ぎる提案だったらしい。神獣達は何を言い出すのかと呆気にとられた顔をする。リーダも焦って腕にしがみついてきた。


(兄様、流石に不敬過ぎます!)

「なんで? 目の前で俺を通して話してるんだから同じことだろ。なら一緒に話せる方が早いじゃないか」

(そんな問題ではないのですっ!)

『使徒よ。我らと言の葉を交わせるのは神の許しを得た者のみよ。只人に資格あらず』

『ふふふ、正に卑小為る使徒の浅知恵』


 天馬王トリスの厳かな返答に対して、ラリアのイラつく言い方よ。後で絶対泣かしてやろう。


「何言ってんだよよ。こうやって俺が訳して相談してんだから、資格がどうだなんて拘っても意味ないだろ」

『其れは主の卑小故の問題で在る。世界の理には反す』

「違うね。絶対そんなのじゃないぞ」

『む……』

「言っておくが俺の翻訳機能はこの世界の人間と話す為のもんだぞ。それが相手を選ばない『ざる』な仕組みの所為で、人も馬もお前等も関係なしに話せてるだけだ。これはお前達と話す為にあるもんじゃないんだよ』


 違うか、とリーダに顔を向けると戸惑いながらも頷く。


「それはそうだと思います。本来使徒は神殿に降臨します。そして大陸の人々に新しい知恵を授けたり、災害の回避に手助けをされるのです。使徒が各地の神獣さまと交流をもつ必然はありません。現在言葉が通じているというのは、本筋と異なる副次的な要素が影響しているからと考えられます」


 リーダの言葉をさあどうだと伝えると神獣達は面白くなさそうに黙り込む。こいつ等は口が達者じゃない分、言い包め易くて助かる。では駄目押しといこう。


「あー、でもお前等じゃ力が足りないから出来ませーんって話なら別だったよな。悪い、悪い」

『ウム?』

『何を言うか。我等には……』

「あーそうだな。『でーきない』なんてプライド高いお前等は言ーえないもんなぁ。世界の理かー。そういうことにしておこーか。悪い、悪い。時間の無ー駄だったな。話を戻そうぜ』

『ぬ……』

『むむ……』

(まーったく。できないならでーきませんって素直に言えばいいのにな。役にたたねえよなーこいつ等)


 更に小声でぶつぶつ言ってやったら、二匹共憤然と立ち上がった。


『其処に在るは、穢れを知る年配者よ! 我が触れるに相応しからず!』

「格好良く叫んでも格好悪いかんな! 普通に幼女以外は触りたくないって言えや、ロリコン!」


 凄いぞリーダ、ラリアにとっては、お前もう年増らしいぞ。

 対して天馬王トリスは憮然とした雰囲気のままリーダに近づいてきた。


「……あ、あの?」


 おい、リーダがびびっているじゃないか。子供見下ろして威圧すんな馬。


『……少々男臭いが、其の身に穢れはないようであるな』


 なんだそれ。変な言いがかり……ってそれ俺の匂いか。毎晩一緒に寝てるからな。こいつは最近俺の寝相の被害を受けないように、斜め後ろから脇に巻きついて寝るという技を覚えたのだ。毎晩がっちり張り付いて寝るから俺の匂いが染みついてるのかもしれない。


「ちょっ、そんなこと神獣様達の前で言わなくていいですから!」


 リーダが顔を赤くしながら訴える。いや、別に馬やライオン相手なんだから、知られたってどうでもいいじゃん。子供のくせに一々恥ずかしがるなよ。


『杖を捧げよ』

「?」


 リーダが常に持ち歩いている愛用の杖を掲げさせる。亡くなった祖父から譲り受けた由緒ある杖らしい。天馬王トリスは、その杖に自分の顔を擦りつけ始めた。うわぁ、馬臭くなりそう。

 するとどうだ。突然杖が淡く光りだした。

 天馬と杖と光。トリスが鷹揚に翼を広げた所為もあって、なんとも幻想的な光景になる。ここがファンタジー世界だということを今更ながら実感する。離れて眺めている連中からも歓声があがった。もっとも、今迄の会話が会話なので、俺は全然感動出来ないんだが。


「こ……これは?」

「へー。これで出来るの」

『――解せるな。娘子よ』

「は、はいっ! 玉声が聞こえました! 天馬王トリスさま! ありがとうございます!」


 わぁ、わぁと感激するリーダと、ニヤついた俺を見てラリアが不満そうにぼやく。


『ふムン。拙な格好つけよ』

「文句ばかり言って、なーんにもしなかった奴は黙っててくれますかー」

『ふふむん。些末な問答が続くことに飽いただけのことよ』


 そう言いながらも、天馬王トリスはこれ見よがしにラリアを見下ろして嘲笑ってる。いや、絶対ラリアに見せ付けたかっただけだよな。意味なく翼を広げて二回転とかしてるし。憤然としたラリアは何故か足元の土を掘り起こしその中に身を横たえた。何だそれ。野生に戻るなよ。


 二匹が落ち着くのを待って、リーダから確認しなきゃいけないことを挙げてもらう。


「えっと、はい。では畏れ多くも神獣さま方に直弁させて頂きます。先程神獣ラリアさまの御言葉により大変な事実が判明いたしました。それは此度のドーマ王国による戦はドーマ王家の企みではなく、ドーマの神獣ドムドーマさまの思惑が大きな要因となっているということです」

「そうか、そうなるのか」

「はい。そこで次なる疑問が沸きあがります。ならばドーマ王国が掲げている侵攻理由が、実現可能なことかもしれないという疑問です」

「連中はどんな理由で他国へ攻め入っているんだ」

「はい。ドーマ王国は『神獣ドムド-マさまが新たな神へと至り、大陸が統一される』と掲げているのです」

「はい? 神になる?」

『馬鹿馬鹿しき也』

『愚かしき妄言である』


 凄い内容だったのだが、神獣二匹に速攻で切って捨てられた。お前等仲悪いのに、こういう時は息ぴったりなのね。


「……いや、本当にありえないのか? またお前等が知らないだけじゃないんだろうな」

『在り得ぬ』

『不可である。我等は神の作りし創造物、如何程に神威を内包しようとも神に成り代われる筈もなし』

『うム』


 完全に言い切るか。およそありえないことらしい。まあ普通はそうだよな。神に作られた者が、神になれる筈がない。リーダも神妙に頷いている。


「ただ、神竜ドムドーマさまの行動を見るに、もしや御自身はそれが可能だと考えておられるのではないでしょうか」

『浅慮であろうな』

『無能妄想に囚われたかよ』


 その自分以外は馬鹿と思う風潮止めい。


「そこで改めてラリアさまにお聞きしてよろしいでしょうか。対峙した際、神竜ドムドーマさまはどのような言を用いて攻め寄せたのでありましょうか。奪った御力を何に使おうとされているのか。彼の御方の真意に関する言を御聞きすることはなかったのでしょうか」

『……』

「いや、黙んなよそこで。黙るってことはなんかあるんだろ」


 むすっとして押し黙っていたラリアが、催促されてしぶしぶ話す。


『【贄と為れ】彼奴はそう言いおった』

「贄?」


 生贄の贄か? でも生贄って普通生き物を捧げるもんだろ。力を奪ってどこかに捧げるなんてできるのか。


「贄……つまり。神竜ドムドーマさまは獅子神獣ラリアさまの力を奪い、神アウヴィスタに捧げようとした……ということでしょうか」

「ん? 神に成ろうとしているのなら、今の神様とは対立するんじゃないのか。なんでアウヴィスタに力を捧げるんだ。変だぞ」

「そうですね……」

『……解らぬ』

『解せぬな』


 神獣達も分からないようだ。


「単に自分が力を高める為の糧となれって意味じゃないのか」

「どうでしょう。その場合、贄と呼ぶでしょうか」


 呼ばないか。糧は糧か。でもこいつら神獣の語彙なんて俺並だからなあ。


「神竜ドムドーマさまは既に三国の神獣さま方から御力を奪っていると思われます。このまま大陸全土の神獣さま方から御力を奪うことは可能でありましょうか」


 それはイコール、ドーマ王国が大陸中の国を征服するこということなんだが。


『……持たぬであろうな』


 首をかしげながらも呟くのは、五千年以上生きているという神獣ラリアだ。


『其れは器以上の神威を内包することに為る。器が壊れよう』

「そこで器が壊れるのではなく、神へと昇華していくという可能性はあるのでしょうか」

『有り得ぬ。試すことあらぬので憶測であるが……やはり持たぬであろう』

『我も同意する。我等とて神の創造物。分を超える量は持てぬ』

「御二方が断言されるならば、力を溜めるには限界があるのでしょう。ならばやはり、神竜ドムドーマさまが勘違いされている。または集めた力を何かに捧げようとしているというになりますね」


 すると問題は、奴は何に力を捧げようとしているかになるんだが、それをラリアは知らないと言う。


『……が、思い出した。彼奴の牙に在った気配。この若輩の授かる槍と同種の類よ。通りで彼の槍に嫌な気配を覚えるものよ』

『ぬ?』

「それは……神竜ドムドーマさまの牙に、神獣の力を奪う能力を付加させたのは神アウヴィスタであらせられるということでしょうか」

『解せぬ』

「なんだそれ。神がドムドーマに神獣殺しをさせようとしてんのか?」

『有り得ぬ。まして彼の竜は御神セラルーベの眷属』

「そう、ですね。神竜ドムドーマさまは慈愛なる神セラルーベさまが降臨させた神獣です。神アウヴィスタから何かを授かるとも思えません。すると神以外の者から、その牙に力を授かったことになるのですが……」


 そんなこと出来る奴がいるのか?


「ラリアさま、神竜ドムドーマさまはドーマ王国の人名を何方か語りませんでしたでしょうか」

『……無きよ』

『娘子は亜竜が只人に唆されたと言うか』


 ラリアは否定し、天馬王トリスが不快そうに聞き返す。


「はい。神獣さま方と会話が許されるのは、使徒を除けば契約一族である王族の方々だけです。力を有する者は数百トゥンに一度現れるかどうかという程に希少と聞きますが、皆無ではない筈です。仮にドーマ王国に優秀な王族が現れ、他の神獣さま方から力を奪う方法を知ったとします。その者が強い野心を刺激され神竜ドムドーマさまを唆したという可能性はないでしょうか」


 ドーマの王族か。オラリアで狂王と云われたギブスン・ジラードの家族なら、そんなおかしなことを考えてたとしても不思議はないか。


『ふむ……』

「私がドーマ王家を疑うのは彼等の宣言内容が根拠です。ドーマ王国が掲げた『神獣ドムド-マさまが新たな神へと至り、大陸が統一される』という言葉には、大陸の覇者となろうというドーマ王家の野望が読み取れます。深慮たる神獣さま方が神アウヴィスタを差し置いて大陸を統一する等と発言するとは思えないからです」

『成る程。故に契約した子孫一党に唆かされた、か』

『ふムン、其処までの浅慮者等、我等に居るまいよ』

「いやいや、数百年振りに話せる相手が出来て嬉しいからと俺について来たのはどこのどいつだ。そんでクリオに『ちんちん』まで仕込まれたお前が言うな」


 厳かに否定した神獣ラリアに俺はツッコむ。こいつらは簡単に騙される。チョロいなんてもんじゃない。


「じゃあ聞くぞ、ラリア。お前王族連中が隣の国に幼女の楽園がある。配下に置きたいので協力してくれと言われたら行くんじゃないのか? トリスもだ。隣の国に乙女の楽園がある。一緒に攻めてくれと言われたら行くんじゃないのか」

「おそらくその場合は『彼の地で乙女達が大変な不遇を受けている。救出に手を貸して欲しい』と、耳障りの良い言葉で説得してくると思われますが」


 成る程、リーダの例え話の方が現実的か。攻めようと言われるより、助けようと云われた方が動きやすいもんな。現に天馬王トリスは、反射的に言い返そうとしたのに考え込んでしまった。


『むう……其れでも……有り得ぬな』

『うム。我等は大地を看守すべき在。本分を蔑ろにし他領に渡るなど有り得ぬこと』

「いや、お前等今、自分達の土地を放っぽってここにいるじゃん。そんで現に喧嘩してたじゃねえか」

『否、これは分け身為り。奴は本体が来おった。印された地より離れるは、命に背く行為である。あ奴の行為はあらざる暴挙で在る』

『ふうム……為るほど。唆されたか』

「はい。最終的には神竜ドムド-マさまに直接伺うか、同行している筈の王族を捕まえるかしなければ、真実は判らないのですが」

「そうだな」

『……』


 疑問点は二つ、かな。

 ・何者かが神獣ドムドーマに他の神獣の力を奪う能力を授けて唆している。

 ・何者かは奪ったその力を、別の何かに奉げようとしている。


 しかし、ここまで考えても確認する方法がない。結局は想像で終わってしまうのがもどかしい。


『うム……其れを確かめる故、我は大神殿に向かっておる。此の主と共に、疑を奏上する』

「はい!? ちょっと待て初耳だぞ!」


 確かに下手にドーマ王国に乗り込むより、神アウヴィスタに事情を聞いた方が早いかもしれない。神様なんだから世界の動向を把握していない筈がないからな。


「成る程。理解致しました。獅子神獣ラリアさまの同行には、その様な大意があったのですね」

『うム!』


 偉そうにラリアがふんぞり返った。


「ええー……本当かよ。……お前、それ今思いついたとかじゃないよな」

『其れがどうしたで在るか』

「うおい!」


 神獣は嘘をつかない。ツッコんだらあっさり認めた。一瞬でも『こいつはその為に、俺と同行してたのか。今迄のだらしない姿は仮の姿で、本当はそんな格好良いことを考えていたのか』と思ってしまった自分が情けない。考えてみればこいつ空飛べるんだよ。以前から考えていたなら、びゅんと先に皇都へ向かっただろう。


『為らば真実は、獅子が邂逅した後に知れることに成ろうか』

「はい。そのようかと存じます。現状の情報だけでは全て想像になってしまいますので」

『では、我はそなた等が御神と邂逅した時を計り、また会いまみえようぞ』

「判りました。我々にはトリスタ王宮との連絡手段がございます。女王にお伝えし、時期になりましたら合図を送らせていただきます」

『うム』


 なんか二人で話がまとまってしまった。リーダがいると話が早過ぎてびびる。

 天馬王トリスは用が済んだとばかりに立ち上がり、翼を広げ舞い上がって行った。話が進展したことで高揚し、飛び上がった様に見えたのは気の所為だろうか。やっぱあいつも単純だよな。フンフンと鼻息が荒かった。


『主よ、先程の卑怯な次第、忘れはせぬぞ』

「言っておくが俺と喧嘩したら、クリオが不機嫌になっても助けてやらないぞ。お前あいつと喋れないじゃん」

『……っ!』


 凄い。ライオンの地団駄って始めて見た。

 ラリアはしばらく唸った後、もう用はないとばかりに去って行った。


「……兄様、神獣様方の前で神アウヴィスタの不評を申しあげる訳にはいかなかったので、お伝えしなかったことがあります。ドーマ王国の件、実は神アウヴィスタが把握されていない可能性もあるのです」

「え、そうなの。神様ってなんでも知っているから神様じゃないのか」

「どうでしょうか。ドーマ王国の侵攻が始まったのは二十トゥン(年)以上前です。神アウヴィスタはここ三十年程は毎年【シュル】の月に降臨されていると聞いています。神アウヴィスタが把握されていたならば、既に何かしら下知を授かって対応していないとおかしいのです」

「神も大神殿も把握してない可能性があるってか」

「ええ、真偽は判りませんが」


 結局。何もかも、大神殿に行って会わないと分らないってことか。


「あの……最後まで私がでしゃばってまとめる形になってしまい、申し訳ないです」

「あ、いや。助かったよ。その為にお前に入ってもらったんだしな」

「ありがとうございます。しかし、ドーマの件は難しい事態になりましたね」

「まあ、でも俺達には関係ないしな。こんなのドーマと周りの国の問題だし」


 後は今聞いた話を女王に伝えるだけだ。


「兄様はドーマにこれ以上関わる気はないのですね」

「そりゃそうだよ。俺はもう帰るとこなんだから」


 頼まれた役目はここまでだ。後のことを考えるのも、対抗策を考えるのも女王さん達の役割だ。日本に帰る俺には関係ない。あってたまるか。

 リーダが、思いだしたようにつぶやく。


「とんでもないことになってしまいました……」

「え、なにが?」

「私、使徒様を除けば、唯一神獣様と言葉を交わすことが許される様になってしまったのです」

「あ、そっちか。……なんかマズかったか」

「ええ? あの……なんと言いますか」


 リーダは迷ったように視線を彷徨わせた後、溜息をついて言葉を続ける。


「一介の従者である私が、大陸中の神獣さま方と言葉を交わせる力を得たのです。もしこのことが知れ渡れば、私とこの杖を巡って争いが起きるでしょう」


 あっ!?……あ、ああー。


「そ、それはマズイな。そうか。俺が帰った後、お前が大陸で唯一言葉を交わせる人間になっちまうのか。そりゃ目立ち過ぎるな」


 目立って良いことなんて一つもない。しかもこいつは俺と違って踊りの力を持ってない。自分の力で自衛しなきゃならないのだ。幾ら頭が良いったって、小学生くらいの子供が一人で身を守るのは大変だ。まずった。そこまで考えてなかったぞ。


「ギュピスター様に知られると大変困ったことになりそうです」

「そうだな。確かにあの人は大騒ぎしそうだ」

「大神殿に知られれば、私は大陸中の神獣と交渉できる者として強制的に取り込まれ、神巫女、聖女等と祭り上げられる恐れがあります」


 聖女リーダの誕生である。見てくれも素質も十分なので、現実味がありそうだ。


「じゃ内緒にしなきゃな。内緒」

「ええ、神獣様方と会話をする際は常に兄様と同席し、兄様の御力で会話が許されているとさせてください」

「分かった。悪かった。これは余計なことしちゃったな。面倒かけてすまん」


 頭を下げて謝る。俺は良かれと思ったのだが、負担となってしまったようだ。凄い力なんてあっても碌なことがない。俺はそれを一番実感している筈だったのに。

 神妙に謝る俺にリーダは微笑んで首を振る。


「……いえ、正直兄様の翻訳がどれだけ正確に伝わっているか常々心配しておりましたから。直答が可能となり、一安心している部分もかなりあるのです」

「お前っ?」


 舌を出したリーダは「あはは」と笑って、小突こうとした俺から逃げだした。



               ◇



 聞き出した結果をフォーセリカ女王に報告しておこうと向かうと、天幕前で近衛騎士の女子達が集まっているのに遭遇した。なんでも今、ラディリアとイリスカが女王に説教をくらっているらしい。あの二人、なんぞ失敗でもしでかしたんだろうか。

 聞くと女子達はすごく嫌そうな顔をして俺を見返してくる。なんだ、感じ悪いな。


(うわあ、隊長達かわいそ~)(こんな朴念仁の為に)(本当いい身分よね)


 目の前で意味不明な陰口を叩かれた。なんだよ。言いたいことあったらちゃんと前に来て大きな声で言え。意味が分かんねえよ。リーダ、苦笑いしてないで、何か知ってるんなら教えろ。


 とりあえず女王さんへの説明は止めて戻る。キュビさんに天馬王トリスを紹介してと頼まれて拒否したり、クリオに付きまとい過ぎて嫌がられて落ち込むラリアの愚痴に怒鳴り返したり、商隊内へ処女を探しにうろついて、騒ぎを起こしていた天馬王トリスを引き戻しているうちに女王の帰還となった。やっとだ。早く帰れ。あんたらがいると何故か俺が疲れる。


 夕刻前、散々皆を振り回した女王陛下は、最後にまたアンジェリカ姫さんを鯖折にして別れを惜しむ。理解した。姫さんが幼いのに妙に姿勢が良いのは、ああやって背筋を鍛えられている所為に違いない。


「そんな訳ないじゃないですか」


 リーダにツッコまれた。


『ではな獅子よ。老害よ』

『ではな天馬よ。若輩よ』


 天馬王のトリスの捨て台詞に、神獣ラリアも応酬で返す。仲良く喧嘩すんな。トムとジェリーかお前等は。

 傍目には厳かな神獣達の別れのシーンなので、見送りの騎士達は感動した面持ちで見守っている。会話が聞き取れるようになったリーダは、そっぽを向いて「私は何も聞こえてません」をアピールしていた。


「想像してみろよ。あれ、ちょっと突いたら、この状況でもロリコンと処女どっちが良いかって喧嘩始めるぞ」


 耳元で囁いたら、吹き出して叩かれた。




 その夜、イリスカが半泣きで俺達の天幕に飛び込んで来た。


「ジンベイ殿、大問題よ! 帰国した筈の天馬王トリス様が、このような御姿で現れ、私の元に居るの!」


 イリスカの肩には、ラリアと同様に小型化した天馬のトリスが貼り付いていた。馬が軽鎧に貼り付いていると、なんか飾りみたいに見える。イリスカはなんとかして、いや、しろ! と俺の腕を掴んだまま離れない。気付いた時にはさぞ悲鳴をあげたんだろう。

 天馬王トリスは俺の視線を受けてもわざとらしく無視している。飾り人形になりきっているようだ。


「……あんた、帰ったんじゃなかったのか? ……おい!」


 あ、この野郎。返事しない。完全に自分は人形だとしらばっくれるつもりらしい。誤魔化せると思ってんのか。


「イリスカ、その上着よこせ。おっさん達の汗臭いパンツと一緒に熱湯で洗ってやる!」

『やめい! この痴れ者が!』


 天馬王さまはあっさり動揺して飛び退った。


「痴れ者はお前だ! そんな下手ななりきりで誤魔化せる筈がねえじゃねえか! だいたいアンタ帰ったんじゃなかったのかよ!」

『……ム、うム。そう思うていたのだが。事態が火急を要する場合もあるのでな。分体を残すのも吝かでは在らぬと考えた迄よ』

 

 何か尤もそうなことを言っている。半眼のままリーダに顔を向けると、嫌そうな表情で目を逸らされた。今は言葉が通じるので指摘したくないらしい。俺の考えは当たっているようだ。


「……実はこの先にある町は、若い娘だらけのアマゾネスの町らしいぞ」

『なんと! 真実で在るか!』

「嘘に決まってんだろ! 喜んでんじゃねえよ!」


 絶対新たな地での処女探しがメインだ。今回収穫がなかったので、付いてきて捜す気まんまんなのだ。自分もアウヴィスタに会うという大義名分を得て居座ったに違いない。


「なに、何を話しているの」


 ラリアと同様に分身を置けばいいのかと思いついたけど、俺の傍に居たらラリアと鉢合わせる。仕方なくこの一団で唯一天馬に乗る資格のあるイリスカのところに潜り込んだのだろう。巻き込まれて可哀想な奴だ。


「イリスカ」

「ええ」

「頑張れよ」

「ちゃんと説明しなさいよ!」


 こうして新たな神獣が俺達に同行することになった。



               ◇



 翌朝。食事の席で何故かラディリアとイリスカが対面に座って来た。いつもは姫さんと一緒なのに珍しい。


「おお、そう言えばお前等、なんか女王様に説教食らったんだって。大丈夫だったの」

「っ! あ、ああ。何でもないぞ」

「っそ、そうよ。ああ貴方は気にしなくてもいいのよっ」


 なら、なんでそんなに動揺してるんだ?

 聞いたが答えてくれなかった。なんだろう。内緒話だったのかな。

 そのまま食事を始めたのだが、二人は妙にぎこちない。それでいてこちらをチラチラ覗き見ている。なんだよ、めし食ってる途中で上着脱いだり髪撫でつけたりすんなよ。ホコリが飛ぶじゃないか。

 聞き返しても問題ないわ、そんなことはないぞと強情に言い張ってくる。いや、だからどうしたんだ一体。

 リーダにチラリと助けを求めれば、つんとした仏頂面で黙々とスープを啜っている。関わる気はないらしい。

 ラディリアが急に声を張り上げた。


「ほう。これは上手いな。どうだ。チンペー殿、食べるか」


 いや、皆同じの食ってんじゃん。俺のもソレだよ。


「何なに、遠慮するでない。私のには特に大きな肉が入っていたぞ」

「いや別に」

「あ、あ、ああーん!」


 俺の拒否を聞き流し、なにやら声を上擦らせては匙をすくって俺に向けてくる。


「何を言っているの、こっちの方が大きいわよ。ホラ、ジンベイ殿、どうかしら」


 イリスカ迄張り合ってきた。なんだお前等。

 美女二人にあーんと匙を向けられて、どこぞの漫画かと一瞬思ったが、二人の雰囲気がギスギスしてて嬉しくもなんともない。

 そもそも俺、今日の食事あんま好きじゃないんだよな。アメリカのオートミールみたいに、どろどろで臭みが強いんだよ。正直酸っぱいのは苦手だ。

 というか、なにその手。震えてる。めっちゃ震えて匙から具が零れそう。なんだ。筋肉痛か。休憩時の鍛錬し過ぎじゃないのか。あ、女王さんに説教された上で、しごかれでもしたのか。見てて危ないぞ。筋肉痛ならとっとと食って休んだ方がいいって。


「な、はあっっ?」

「ち、違……っ!」


 間違って跳ねて服にでも落とされでもしたら、たまったもんじゃない。しかも、これ赤汁だからカレーうどんの汁並みに落ちないんだよな。後でリーダに小言を言われるから大変なんだ。危ないから近づけるんじゃねえよ。

 そう断ったのだが、何故か二人は頑として引かない。


「いや、自分の分は自分で食えよ。俺はこれで十分だってば。あーもう……んじゃ」


 なんか意地になってるみたいなので、ここは避難した方が良さそうだ。俺はリーダに声を掛けて、そそくさと席を立つ。何故かリーダはついてこなかったので、俺だけ離れて別席に座って食事の再開。


「「あ、ああー……!」」


 何やら呻き声を上げて打ちひしがれる女騎士二人。部下の近衛少女達が瞬時に囲んで頑張ってくださいとか励ましている。何だろうあのおかしな寸劇は。


(信じらんないっ……)(逃げやがったよあの人)(これならいけると思ったのにっ)(美女のあーんだってのに!)


 近衛女子達が俺を責める目で蔑み、ブツブツ喚いている。いや、お前等その上司の奇行を止めろよ。何一緒になって何を煽ってんだよ。


「はあー……」


 一人席に残ったリーダが、何故か眉間に指を当てて深く溜息をついている。

 妹がお疲れだ。

 色々あったから疲れているのかな。物騒な力も持たせてしまったし。後で肩でも揉んで労わってやるか。



 久々に次回予告


 大薮新平 女騎士に迫られる。(内容モロバレじゃねえかw)

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