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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
1章 トリスタ森林王国内乱編(全33話)
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05. 大薮新平 姫と城外へ脱出す

 女騎士さんの怪我は治ったが通路側から兵達の声がする。また、やり合わなければならない。狭い個室で踊るのは不利だ。二人を促して大部屋に出る。そこで数人の兵士が入ってくるのと出会う。当然、兵達は重症だったラディリアと幼姫に気づいて驚く。


「お前……どうして」

「おい、あれアンジェリカ姫様じゃ……」

「私が……」


 ラディリアが近くに立てかけてあった棒を掴み、前に出ようとするので抑える。


「いや、俺が相手する……待て、待ってくれ皆!」


 大部屋内はランプが二つだけで薄暗い。新平は兵士達と同じ格好だ。声を掛けて兵の気勢を削いでから、早速【睡魔の踊り】踊り始める。


「……?」「……」


 当然困惑する兵士達。


「何だお前?」「……馬鹿か」「いいからこいつも捕らえろ」「おう」


 悲し過ぎる。格好つけて前に出たらコレだ。ベットを避けながら剣を掲げて歩いてくる兵達。来る。来る。こっちに届くぞ。俺に届く。踊り完成!


「スゥリイィプッ!」


【睡魔の踊り】


「え?」「あ……」


 かくん。かくっ。

 バタバタと兵が倒れていく。全員ぐっすり夢の中だ。

 ああ…心臓に悪い。というか、剣より先に来る言葉がとても痛い。


「何と……」


 木の棒を構えたまま驚いて見下ろすラディリア。剣を奪ってトドメをさすべきか躊躇してるので止めさせる。


「外にも大勢眠らせてある。動けるなら早く逃げよう」

「……貴方は……?」

「救援じゃ。彼は魔法の舞踏を使うのだそうだ。私もこのようにして助けてもらった。先程ラディリアの怪我を治したのも彼だ」


 小さな拳を腰に当て、胸を張って幼姫が自慢する。君さっき思い切り引いてたよね。


「おお……なんと……感謝する」


 【魔法の舞踏】

 暗黒舞踏みたいな響きでイメージ悪いな。差別かもしれないが、黒人が腰蓑だけで生贄掲げて怪しく踊る姿が頭に浮かぶ。……まあ確かに混沌としか形容できない踊りなんだけど。


 さて、直ぐにでも脱出したいところだが……


「出来れば救出に来た皆と合流したいんだけど。実は今回の……あー、囮になってくれてる人達がいて、俺はその協力者なんだ」

「貴公は何処の手の者なのだ?」

「どこの手? あ、何処の手ね」


 何て答えたらいいんだ?

 そういえば突入の際、女の子達の名も身分も教えられてない。自分が捕まった時に尋問を受けても答えられないようにだろうか……単に忘れられてただけかもしれない。


「どこって……ごめん聞いてない。事情を聞いて、ついさっき協力する事になったんだ。盗賊っぽい……デニス様だっけ。と、なんか似てる女の子二人、名前がフランとか……」

「天馬騎士団なのか!」

「……え、ごめん。知らない」


 騎士団……騎士団ねぇ。あれが? まぁここは中世風の世界だからなぁ。でも女の子だったぞ。


「青い髪の双子ではなかったか」

「たしかに二人共似た顔だったけど……髪は暗かったから判らなかったよ。あ、二人共自分の事をボクって言ってた」

「フランとフラニーだ」

「おお」


 そうか。似てると思ったら双子か。見分けがつかなかったのは、自分が外人の顔を見分けられないからじゃなかったんだ。それは良かった。


 妙なところで新平は安心してる。

 

「城砦内に潜入なんて、何て無茶を」


 何故かラディリアは痛ましそうに顔を歪める。それを気遣う様に幼姫が声をかける。


「急いで合流しようぞ」

「はい」


 新平達は足早に城外を目指した。


                    ◇


 裏口みたいのがあると良かったのだが、城砦に勝手口があちこちある筈もない。捜してうろつくより、知ってる正面玄関を目指す。兵達が既に気づいていて騒ぎになってる可能性が高いが仕方が無い。

 基本新平が先行して人が居たら先に声を掛けて眠らせる。タイミングを掴んだのか順調だ。ラディリアは不思議な踊りの効果に唖然としながらも、奪った剣を持ち幼姫を庇いながら付いて来る。踊ってる最中、曲がり角から顔半分出して覗く顔が二つになって、更にやり辛かった。


「なんとも奇妙な……いや、失礼。しかし、それは一体何なのだ?」


 なんなんでしょうか。


 正面ロビーの二階に出たところで玄関から十名程の集団が戻ってくるのと鉢合わせた。そして集団の中心にはフランとフラニーの二人が捕まっていた。殴られたらしく顔が一部腫れてて痛々しい。


(城内で会わないと思ったら、捕まっていたのか)


 なんで臨時参加した自分が成功して、計画の立役者二人が捕まってるんだろう。


 兵達は当然新平達に気づき誰何してくる。


「なんだお前たちは」

「おい、アンジェリカ姫がっ」


 フラン達も顔を上げて新平達に気づいた。傍らのアンジェリカ姫を見つけて喜色を浮かべる。どちらも騒ぐ前に先制だ。新平が両手を上げて前に出る。


「待ってくれ! 公爵の命令なんだ。ちょっと見てくれ……まずいなら見るな」


 兵士の格好した新平に命令と言われ一度躊躇する兵達。手ぶらを示したまま階段を降りて、ホール前の大階段の踊場で踊りだす。呆気に取られる兵達。符丁が通じたのかフランとフラニーは咄嗟に下を向いている。


「……なんだ、おい」

「いや、お前どこの者だ?」

「誰か知ってる者……あ」


 公爵の命令と言って思考停止させて二秒。突然の踊りで三秒。我に返って疑問を浮かべるのに二秒。確認するのに……間に合った。ろくにこちらを見ていなかった一名を残し兵士が次々と倒れる。


「な、何だ。どうしたお前ら……うおっ?」


 残った兵に、下を向いていたフランとフラニーが飛び掛る。ラディリアが走って加勢に加わる前に残った兵は倒された。


「フラン! フラニー! 大丈夫か」

「姫様! ご無事でしたか。あぁ、良かったです」

「姫様御無事で!」!

「ああ、この魔道士殿に助けて貰った」


 喜色で両手をつかみ合う少女達。


「ラディリアさんもご無事で」

「ああ」

「他の近衛の方は?」


 苦い表情で首を振ったラディリアに、皆が俯く。


「……そうですか」

「でも、ラディリアさんだけでもご無事で良かったです」

「それで、何で二人は捕ってたの」


 場を読まない新平の質問に双子が嫌そうに怯む。


「……城の外部に火をつけて回ってから、城内に忍び込む予定だったのよ」

「ちょっと火を点ける場所を間違って、城に入り込めなくなったのよ。火の勢いも強くてさ。そしたら兵達に見つかっちゃって、逃げながら片端に火を点けて回ってたら……」


 放火犯か。


「……馬鹿だろお前ら」

「うるさいよ!」

「こういうの慣れてないんだから仕方ないでしょ!」

「……いや、火を点けてたら自分も城に入れなくなったってのは流石に……」


 これ、俺が姫さんのとこに辿り着かなかったら、どうなってたんだろう。


「うるしゃい! あんた生意気!」

「ちょっと自分が姫様を救出したからって調子にのって!」

「あたしらだって偵察隊で本職じゃないのに!」


 逆ギレされた。そんな事云われたら俺なんか一般市民なんだが。しかし涙目で訴えてきてる女の子相手では言い返しにくい。城内の明るい場所で見ると、二人共結構可愛い顔してるし。


「あ、デニスは?」

「……ごめん。はぐれた」


 後ろを向いたら居なかったと、正直に答えていいものだろうか。逃げたようにしか思えないのだが。


「何よあいつ! 使えない奴ね」


 ……そうだね。


「仕方ないわ。取りあえず足を確保しよう」


 あっさりデニス見捨たけど良いのだろうか。確かに目的は達したので逃げる準備はすべきだが。


 しかし、正面玄関から出るとそのデニスが馬に乗って目の前に現われた。


「おおーっと、お前たち。成功したのか! あーと、待ってたぜ。こっちだ。あっちに馬を用意している」


 いや待て。お前今迄どこに居た。というか今、完全に一人で逃げるところだったろ。


「って、あんたその膨らんだ鞄は何?」


 目聡くフラニーが指摘する。デニスの背嚢は来た時と違いぱんぱんに膨らんでいた。そして何かをやり遂げたようなその良い笑顔。


「あんた……」


 フラン達が城に火を点ける。新平が眠らせて回る。

 その隙に宝物庫のお宝をごっそり頂戴……


「少年、こいつ眠らせて置いて行こう」


 迷わずうなずいて構える。こっちは恐怖で震えながら進んだってのに、囮にして盗みをしてやがったのか。


「ちょっ、ちょっと待てよ。悪かったってば。俺も探ってたんだよ」

「何を探ってたんだよ」

「もちろん姫様の居場所に決まってるじゃねえか。途中で偶然お宝を見つけたので、そのまま通り過ぎるのもちょーっと勿体無いかというわけでだな」

「やっぱり、置いていこう」

「うおいっ」

「フラニー。兵が来るぞ、急げっ!」

「おうっ、馬小屋はこっちだ!」


 ラディリアの催促にデニスが馬首を返して走り始める。鮮やかな逃げ足だ。仕方なく皆が走って追いかける。馬を奪って逃げるのか。しかし自分は馬なんか乗った事ないんだがどうしよう。

 

 迷う暇もなく馬小屋に走りついた。当然脱出の準備なんてされていなく、馬は皆、小屋の中で寝むっていた。飛び込んだ自分達に起きて馬達が騒ぎだす。


「小僧、馬には乗れるか」

「さっぱりだ!」

「この馬鹿!」

「俺は平民だよ!」


 四頭が厩舎から出される。


「待てよ。残った馬で追ってくるんじゃないのか?」

「仕方ないわよ。全部殺してる時間なんか無いのよ」

「じゃあ、残っている馬を眠らせる! 注目させてくれ!」


 狼の魔獣には効いたのだ。馬にも絶対に効く筈。

 デニスが寝てる馬を叩き起こして回る。フラニーが置き火を掴んで翳す。フランが「注目ー」と声を上げて両手を回す。それは通じるのだろうか? 


「皆、向こうを向いてろ」


 踊りは、ばっちり効いて馬達の首が倒れる。見ていなかった一頭の首にデニスが容赦なくナイフを突き立てた。


「来たぞ!」


 兵が三名程走って来た。ラディリアが姫を抱え、双子は血路を開くべく、騎乗すると剣を抜いて走り出した。

 新平は残ったデニスに半切れされながら馬の鞍に押し上げられる。


「時間が無い。早く乗れ!」

「ちょ、まっ高い高い」


 初めて乗る馬の背が凄く高い。揺れる。いやこれは高い。怖い。


「いくぞ小僧!しっかりつかまってろ」

「うあっ、わあああ」


 馬の鞍に横にしがみ付いた新平の上に、デニスが乗ったまま走り出す。

 しがみつくだけで精一杯。というか揺れの度にデニスの尻に押しつぶされる。衝撃と揺れに吐きそうだ。


「道をあけろ!」


 フランかフラニーが叫んでるのが聞こえる。剣戟が響き怒声が行き交う。


(うわ! 切り合ってる!?)


 剣戟が怖くて必死に鞍にしがみついて丸くなる。デニスが何か叫んでるが聞こえない。何人かの兵とすれ違ったようだが、鞍にしがみついていたのでよく判らなかった。それでも、石門を潜り抜け街路を下ると風が変わったのを感じる。


「いやっほーっ!」


 デニスが歓声を上げてる。城外への脱出が成功したのだ。

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