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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
3章 邪神王国ドーマ 使徒大戦編
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03.大薮新平 講義を受ける

「それでですね、あのですね!」

「いや、もう少し落ちついて喋ってよ」

「これは失礼しました。それでですね、あのですね――」

「聞けよ人の話」


 街を出て一週間、俺達は自分達の馬車に司祭キュビスターを招き入れ、すっかり打ち解けて話をする状況になっていた。彼女は大神殿では歴史の研究をしていたらしく、使徒について少しでも俺から情報を得ようと離れなかった結果である。

 最初、彼女の同行を認めた時はこれでも距離を置こうと努めたのだ。彼女達が奉ずる神アウヴィスタを俺は嫌っているし、明確な使徒だという証拠も無い。下手に揉めて大神殿での交渉に悪影響がでては困るからだ。

 しかしこの人、まったく空気を読まない人だった。馬車に乗ってようと、どこに居ようとずーっと傍で俺に向かって話しかけてくるのだ。周囲から注意されてもまったく効果がない。大神殿所属の高位司祭なので、強く断ることもできない。用を足す為に馬車から降りただけで、満面の笑みで追いかけてきたりする。暗がりにこの巨体で迫られた時は本気でびびった。反射的に【睡魔の踊り】を踊って眠らせてしまったくらいだ。ああ、こんなくだらない理由で残回数を減らしてしまった……。おかげで馬車から出られず、気も滅入る。一方、キュビスターの監視役として付いてきた護衛兵士からは、迷惑をかけられる度に毎回心遣いを頂くので、地味に小金が溜まっている。ミャーン叔父さんも苦労してんなぁ。


「これは……一度話を尽くさせてしまわないと、いけないかもしれませんね。熱を冷まさせないと、こちらの身動きがとれません」


 リーダが無念そうな表情で告げるので俺も観念した。知恵者リーダも何を言っても聞かない相手には流石にさじを投げてしまったようだ。とにかく外に出られないのは辛い。

 夕食の席に呼んでインタビューを受けると言ったら彼女は文字通り飛び上がって喜んだ。ついでに巨乳もぼよんと跳ね、ついに片方の実がまろび出た。思わず凝視した俺の視界を塞ごうと、リ-ダがフライングタックルをかましてくるわ、火元を蹴飛ばすわで酷い目にあった。この司祭、あんだけ言っているのに一向に服装は改めてくれなかったそうだ。実にけしからんことだがこんな目にあってはもう制止する訳はいかない。くっそ、リーダめ邪魔しやがって。全然見れなかったじゃないか。次回こそは。


 しかし、俺達は研究中毒者というのを甘く見ていたらしい。……この人全然話が終わらないのだ。黙って聞いていれば疲れてくるだろうと思いきや、ひたすら話し続ける。時々持参している司祭杖がぺかぺか光るので、なんだと思ったら、リーダ曰く回復魔術で喉を治しながら話し続けているらしい。しかも本人は殆ど無意識なようだ。なんという高い能力。なんという能力の無駄使い。あっという間に夜になり、翌日も朝から捕まり今は三日目である。


 当初はのべつまくなしに質問された。どのようにして使徒になったのか。神とどんな会話をして降臨したのか。俺は流れるように会ったかも知れないが記憶にないし、何で召ばれたのかも分からない。凄い迷惑だと答えてしまった。焦ったリーダが、私達は何か事故が起きたと考え、確かめる為にトリスタ王国のヴィスタ神殿に協力して貰い、アウヴィスタ神へ拝謁いただこうと大神殿に向けて旅をしているのですとフォローする。言い含められていた癖に、あっさり神への暴言を吐いてしまった俺だった。リーダへ両手を合わせて謝る。

 戸惑っていた様子のキュビスターだったが、俺がここに来た経緯を知るにつれ「なる程、使徒様は今、アウヴィスタ神と意思の疎通が行なえず、隔意が生じているのですね。ほお、ほあ。凄いですね! こんなことが歴史上起きたのは初めてではないでしょうか! なんと興味深いのでしょう!」と昂奮し始めた。

 何を言っても新しい発見だと喜ぶので、これって大丈夫じゃね、とリーダと話し合って、こちらの状況を話し理解を得ることに方針を変更した。そうしないと自然と神への文句を垂れ流す俺とは安心して会話ができないからだ。

 リーダが表現に気を使いながら俺達の状況を説明した。すると彼女は「我々にとっては唯一神でありますが、異邦人の使徒様にとっては異なる世界の神なのでしょう。為ればそのような考えをされるのも致し方ないかもしれませんね」と意外にも話の判る態度を見せてくれた。これで助かった。

 そこからは打ち解けるのが早かった。なにせこの人は何をどう答えても喜ぶので、話していて面白い。気付けばアウヴィタへの文句と愚痴を散々言い放ってしまった。俺も随分と不満が溜まっていたらしい。リーダが仕方ない子だねぇという表情で、俺を呆れて見ている。

 じっくり話してみると彼女は博識で、説明が上手く聞き上手でもあった。おかげでこの三日で多くのことをこちらも教わり親しくもなった。呼び名もキュビスター司祭。キュビスターさん。キュビさん。とあっという間に砕けてしまった。

 アンジェリカ姫しかヴィスタ神殿の位階持ちがいないこの一行、地味にヴィスタ教についての知識が足りてなかったので、大神殿での交渉にも少し不安があったのだ。ここで彼女から神アウヴィスタとヴィスタ教について学んでおくのは、後々神と会って交渉する際にも、有効となるかもしれない。そういう意味で彼女との話は意義があった。

 だからと言って「この私が使徒様に教授させていただけるとはっ」とぶるぶる震えないで欲しい。胸が一緒にぶるぶる震えて視線に困る。リーダ、食事時じゃないんだからナプキンつけさせて胸を隠させようとすんな。


 一通りの聞き取りを終え、今は逆に俺達が聞く側になっている。この人を質問させておくと話が途切れなくて疲れるからだ。


「それでですね、あのですね。従者様のルーベ教は、本来神アウヴィスタの母神、慈愛なる神セラルーベ様を奉じる宗派なのですが、二度の宗教改革によって今はヴィスタ教の分派に属しております。これは強まる一神教新興を受けて他宗派への弾圧が強まった結果といえますね」

「なにだそれ? 母親を信仰する宗派が、なんで子供の分派になるんだ」

「それはあくまでも便宜上のものですね。強まる一神教ブームに押され、異なる神を奉じる宗派への弾圧が起こったのですよ」


 横でリーダもこっくりと頷くが、俺には納得がいかない。


「なんで争いなんて起きるんだ。アウヴィスタは何やってんだよ。今迄何度も降臨してんだろ。そんな争い止めさせればいいじゃないか」

「いえいえ、神アウヴィスタは其処まで人々の市井に干渉されません。宗教の興亡等は人間同士の諍いでしかありませんからね」

「それって自分の都合の良いときだけ構ってきてるってことじゃないのか」

「いえいえ、何をしろ、何をするなと事細かに指示をしては奴隷と同じ扱いではないですか。神は大きな慈愛の目で我々の行く末を見守っていてくださるのですよ」


 ……そうかなあ。それは放置してるって言うんじゃないのかなぁ。

 俺がアウヴィスタを嫌っている所為か、何を聞いてもアウヴィスタが悪いよう聞こえる。


「そもさ、なんでその母神はいなくなったんだ。というか、神様に寿命なんてあるの」

「言い伝えでは大いなる災厄により偉大なる創生神たる父神、オーヴィスタが身隠れになりました。それを知った母神慈愛なるセラルーベが、深き嘆きの末に長き眠りにつき、残された子神アウヴィスタがこの地を守ってくださることになったと云われております」


 なんだその災厄って。神が死ぬ程の災害なんてあるのか。そっちの方がやばくね。母神の後追い自殺ってのも不思議だ。神って自殺できるのか。そしてこの世界がこうも戦乱だらけなのは、一人残った娘が無能ってことじゃないのか。


「神様って、その三人だけなの?」

「いえ、創世神話によると遥か以前には多くの神が存在していたといわれています。しかし、そのうちの一柱たる、偉大なる父神オーヴィスタが我等の住まう大地を作ったと云われておりますので、私達にとって神々とはオーヴィスタを祖とした三柱のみですね。他は存在するのですが、殆ど名も語られぬ神々です」


 神はたくさんいても神話にでてくるのはこの三人(三柱)のみらしい。少ないな。

 創生神話ってそういうもんだっけ……自分の世界の創生神話なんてろくに覚えてないので比較もできない。人名で云えばアポロとかスサノオくらいしか俺は知らないのだ。ギリシャ神話と日本神話だって全然内容が違うらしいからなぁ。つくづく自分の無知が恨めしい。


「じゃあ戦争はどうなんだ。神って戦争してても何も言ってこないのか」


 俺が召喚されたトリスタ森林王国はずっと北のゲルドラ帝国と戦争をしていた。隣国オラリア王国は南国ドーマ王国に滅ぼされた。もうこの世界あっちこっちで戦争している。神がいるというのなら何で止めないんだろう。


「いえいえ、偉大なる神アウヴィスタにとっては全ての国々と人々が愛しき稚児であります。国々の争い等には干渉致しませんよ。神の存在からすれば、国々の興亡等些細なことなのです」


 納得いかん。何万人も殺し合ってるんだから些細じゃないだろ。それなのに神は止めないのか。

 キュビさんは「神は人々の思想や戦いに干渉しない。人々の自由にさせている」と言っているが、俺には放置にしか見えない。戦争は止めない。でも自然災害等には対策をするように啓示を与えて注意を喚起する。なんだろう、その変な基準は。戦争の方がもっと沢山死ぬし止めるべきじゃないのか。

 異世界の神と日本人の俺の価値観が同じ筈がないという理屈は分かるが、どうにも納得がいかない。


「確かに戦乱が続き、各地で人々が困窮しているのは不幸なのことです。ドーマ王国もどうしてあのようなことになっているのか……」


 現在このレンテマリオ皇国で一番注目されている話題はドーマ王国の動向だ。オラリア王国を攻めて支配下においたドーマ王国。実はオラリア以前にも南と南東の国を攻め滅ぼし現在南西の国にも戦争をふっかけているらしい。

 三ヶ国を滅ぼして四ヶ国目に挑んでいる超大国の出現に、周辺諸国は脅威を感じている。しかもその戦い方が尋常じゃない。国同士の戦いで出てくる筈のない神獣が陣頭に現れるという、前代未聞の事態が起きているのだ。


「神獣は人間の戦争に参加しないって言ってたよな。でもドーマと戦争になった時、神獣が一緒に攻めてきてラリアが負けて敗戦したって聞いたよ。何で神獣が戦争に出てくるんだ」

「其処は申し訳ありません。私共にも判らないところなのですよ」


 キュビさんも知らないと言う。

 神獣は無敵の化け物だ。自由自在に大きさを変え、こっちの攻撃は槍だろうが魔術だろうがまったく効かない。逆に奴が暴れるだけで人間は簡単に蹴散らされる。そしてコテンパンに叩かれた後を、敵兵達が攻めて来て制圧されるそうだ。

 神獣と戦うには神獣しかない。立ち向かった神獣もいたらしいが、あの獅子神獣ラリアでさえドーマの神獣に負けた。聞けば彼の国の神獣は竜だそうだ。竜かあ。そりゃあ地上でわんわん吠えててもビジュアル的にも勝てないだろう。


「神獣ドムドーマは三国へ攻め込み神獣を身隠れさせた上、現在は南国のワウル共和国へ侵攻していると聞きます。その真意は如何だとキュビスター司祭はお考えですか」


 会話の邪魔をしないようにと聞き役に撤していたリーダが、珍しく質問してきた。この娘も気になるのだろう。自国を滅ぼした元凶だもんな。


「……なんとも言えないところですね。神獣が自身の領域外に出て何を得るのか。神獣同士が戦ってどのような意味があるのか我々は知らないのですよ。逆に神獣とお話ができるという使徒様に、何かご存知でないかと教えを乞いたいくらいでして」

「そうですか……」

「本来、神獣とは神よりその土地を守護する様に命じられらた大精霊なのです。神獣同士が争うことに意味は無い筈ですし、殆ど記録されてもおりません」

「そうなのか。あいつら仲悪いんじゃないの。ラリアなんか、普通にトリスタ王国の神獣を小馬鹿にしてたぞ。若輩者がなんとかって」


 あれで俺は、獅子が鼻で笑うというのを初めて見たのだ。なんとも人間臭い仕草で気持ち悪かった。


「ほう! そうなのですか。それは興味深いですね」


 逆に感心されてしまった。

 俺は神獣と会話ができる。だから必然、神獣同士の関係を知ることがある。今の話でさえキュビさんにとっては目新しい情報らしい。

 この会話ができるというのは、俺がこの世界に召喚された際についた万能翻訳能力の所為だ。俺はずっと日本語しか話していないのに、相手の話が分かるのだ。TV映画の二ヶ国語放送みたいに知らない言葉と一緒に日本語が聞こえてくる。

 異世界召喚の定番かもしれないこの翻訳現象。強力なのか、手が抜かれているのか、細かいところがガバガバだった。どの国の人間だろうが、どんな知性体でも言葉が聞き取れるのだ。故に飛び回る天馬やその上位である神獣達とも会話ができてしまう。便利ではあるが、動物が喋るというのは非常に気持ちが悪い。人間相手も違う意味で気持ち悪い。相手の口の動きと話し声が全然違うのだ。想像してみて欲しい。相手の喋りが終わって口が閉じたのに、声が続いたり先に終わったりするのだ。一人だけ二ヶ国語放送の映画の中にいるみたいだ。逆に俺の声も翻訳されて聞こえているらしく、口の動きと合っていないそうだ。どこかに吹き替え声優が存在して毎回頑張っているのだろうか。俺の中の人。どこにいるんだろう。地味に気になっている。


「神獣同士でも隔意をもつのですか。それはつまり、ドーマの神獣ドムドーマが、オラリア王国の獅子神獣ラリアや、ザンデミルネ王国の牛神獣ミルネに対し敵意があったということでしょうかね」


 キュビさんは神獣同士が仲悪かったから戦いが起こったのかもと首をひねる。もしそんなのが原因なら、巻き込まれて敗戦した兵士達や国民はとんだ災難だろう。

 ドーマ王国は危険だ。これは何処へ行っても聞かされた。

 アンジェリカ姫のトリスタ森林王国だって、ド-マと国境を面しているんだから他人事じゃない。周りの国々と連携して圧力かけたりしてないのかな。俺がいなくなった後に姫さんの国も攻め滅ぼされましたなんて想像したくないよな。まあ俺なんかが気にするようなことじゃないのだろうが。


「やはり生みの親が違うと、神獣同士でも反意が起きるのでしょうかね」


 ん、神獣ってそれぞれ作った神様が違うのか。それは初耳だぞ。


「ええ、我がレンテマリオ皇国の神獣レンテ様は神アウヴィスタが作られました。トリスタ王国の神獣トリス様や東のハヌマール王国のハヌマ様もそうですね。ドーマ王国のドムドーマ様やゲルドラ帝国の神獣ルドラ様はは母神セラルーベが、オラリア王国の神獣ラリア様は父神オーヴィスタが作れました」

「ちょ、待って……」


 一度に言われても頭に入らない。なんだって。


「最初に偉大なる父神オーヴィスタ様により大地が作られ、母神セラルーベ様により命が吹き込まれました。そして人々が大地に増える度に、その土地の守護者として各地に神獣が顕現されたのです。最近では四百トゥン(年)前に、トリスディア湖に神獣トリス様が顕現され、トリスタ森林王国が興りました」

「ああ……どっかで聞いたな確か」


 なんかトリスタ王国で誰かに説明された気が……


「しかし、自国領内の独立国樹立を良しとせず、ゲルドラ帝国と長き戦いが始まったのです」


 そのまま首が落ちる。駄目じゃん。戦争になってんじゃん。


「えーと……神獣が生まれたら、そいつを主として新しい国が興るっていうのが、この世界の決まり事じゃなかったっけ」

「正確にはその神獣と契約を結んだ一族が、国を興す権利を持つ。ということですね。新しい国が興るということは、その地を支配していた者達の財産が失われるということでもありますので――、その地を治める氏族が認めず、新興国側と争いになることが多くてですねえ――」


 何故かキュビさんはてへぺろと恥ずかしそうに説明する。いや、そこ笑うとこ違う。

 でも言われてみれば当然か。いくら神様が決めたからって、国内で勝手に独立万歳がおきれば現地の王様は押さえつけようとする方が多いんだろうな。……やっこのような世界の仕組みおかしいんじゃないのか。

 詳しく聞くと、神獣と契約できた人が新しい国を興す祖となる決まりらしいが、二代目以降は神獣と意思の疎通はできても会話ができたりできなかったりするので、国境の線引きさえ曖昧になるらしい。そこで少しでも領地を減らしたくない地元勢力と、少しでも領地の欲しい新興国家側とで泥沼の領地戦争が必ず起きるそうだ。トリスタ森林王国もその例に漏れず国家樹立以降ずっと国境問題で戦争をしているらしい。なんとも酷い話だ。

 ……それって、アウヴィスタがほいほいと神獣を顕現させてんのがマズイんじゃないのか。先に現地住人達に言い聞かせてから神獣を降ろせよ。神の考えが現地の人間に伝わってないから戦争になるんだろ。


「いえいえ、繰り返すようですが、神は国家という枠組で我等を見ておられません。大地に人々が増え、既存の神獣では守護が行き渡らないと判断された場合に、新たな神獣を顕現させるだけなのですよ。愚かな我等は個人の利権を優先してしまうので、争いが起きてしまうのです。嘆かわしいことですね」


 キュビさんは説明しながらうんうんと頷いているが、それであちこち何百年も戦争しているなんて駄目だろう。

 建前は置いておいて、アウヴィスタが半端な統治をしているおかげで、戦争はなくならず、新しい神獣が出現する度に争いが起きているのだ。ドーマ王国なんて周辺国へ攻め込んでいる。大丈夫かこの世界。


「神獣の争いが神獣自身の意思でないならば、ドーマの王族によって神獣ドムドーマが操られ、各国へ攻め込んでいる可能性が高いとなりますが……キュビスターさまの見解は異なるようですね」


 リーダがキュビさんの表情を見ながら問う。


「ええ、なにせ一番最初に起きたアウケロー共和国との戦いは、神獣ドムドーマ様が単身で乗り込んだことが発端でしたから」

「そう……なのですか、それなら……」

「はい、後の経緯はともかく、発端は間違いなくドムドーマ様にあった訳です。なにせ宣戦布告もなしで両者の神獣が争う中、引き摺られる形でドーマ王国兵が越境し開戦となったのですから」

「そうなのですか……」


 リーダが深刻そうに考え込んでいるのを黙って眺める。俺にとっては何もしないアウヴィスタの方が問題なので、正直戦争のいきさつはどうでも良い。


「使徒様はドーマ王国に乗り込んで、神獣ドムドーマ様の暴威を治めるという予定はないのですか」

「ねえよ!」


 考えもしなかったわ。俺に神獣と戦えってのか。一瞬でぺちゃんこなるわい。リーダ、リーダ。目に星を浮かべんな。その手があったかみたいな顔すんな。冗談じゃねえぞ。


「いえいえ、使徒様はトリスタ森林王国の内戦を治め、オラリア王国の神獣ラリア様を御復活為されました。人々は救世の徒として期待されているのですよ」

「そんなん知るかよ! 俺もう帰るとこなんだよ!」


 勝手に人を正義の味方みたいに持ち上げて、戦わせようとすんな。勇者始めましたみたいな『たすき』をかけて、矢面に突き飛ばすつもりか。


「またまた。そのようなことをおっしゃって本当は――」

「フリじゃねえよ! なんで漫才ネタって思われてんだよ!」


 リーダが肩を震わせた。お前は漫才がなにかも知らんくせに何故受ける。


「そうなのですか、私はてっきりその為にこの地に降臨されたのだと思っていました。何せ現在大陸で一番の大事となっている話ですからね」

「だったらなんで俺はトリスタの山ん中に放り出されてんだよ。速攻で魔獣に囲まれて食われそうになったんだぞ! そんで町を見つけて入ったら袋叩きにあって、裸にひん剥かれて逃げ出す羽目になったんだぞ!」

「……それはまた災難、難儀でしたね。こうしてご無事でおられてなによりです」


 いきり立った俺を宥める為か、リーダが俺の好きな菓子を出して茶を入れ始めた。くそ、隠してやがったな。良いタイミングで出してきやがる。

 まあ確かにドーマ王国とその神獣は何を考えてんだろうな。実際に戦った神獣ラリアは何か知っているのだろうか。ラリアを呼んで聞いてみよう。



               ◇



 翌日キュビさんを神獣ラリアに引き会わせた。神獣ラリアが一行に付いて来ていることを説明すると当然会ってみたいと朝からうるさかった。


「うおおおおっ!! なんということでしょう。オラリア王国の神獣様にお目どおりする日が来るとは! 栄誉ですよ、慶賀ですよ! 喝采ですよ!」


 物凄く盛り上がったので逆に不安になった。奴は幼女以外の人間をゴミとしか認識していない。顔も名前も覚えないのだ。区別がついていないのかも知れない。

 休憩時にクリオ達を捜す。奴はだいたいクリオの周辺にいる。するとヴェゼルと一緒に薪運びの手伝いをしていたクリオと、その肩に乗った神獣ラリアを発見した。クリオは俺の声に反応して顔を上げたが、キュビさんが大声をあげながら駆け寄っていくのでヴェゼルにしがみついて隠れた。人見知りのクリオにとって、上背があり大声で迫る大女なんて恐怖以外の何者でもないだろう。クリオの変化を察知して、肩に座る神獣ラリアがじろりとキュビスターを睨みつける。するとキュビさんは雷に打たれたように停止し「おお…」と呟きながら両膝をついてラリアに拝礼を始めだす。ずっと喋り続けるキュビさんが黙って神獣を拝む姿に俺達は驚いた。


 傍目には怯える平民幼女に額づく大女の高司祭という異様な光景だ。周囲の騎士や近衛達が何事かと注目して集まって来た。状況が分らないまま間に挟まれているヴェゼルが、困惑した顔で俺に助けを求めている。仕方なくキュピさんに声を掛けてみたが、拝礼に夢中で聞こえていないようだ。相手が一応女性なのでひっぺがす訳にもいかず、俺も困ってしまった。

 するとラリアが不快そうにキュビさんを見ながら喋った。


『何と・・・何だ、こ奴は』


 驚いた。幼女以外はろくに興味を示さないこいつが、成人の人間に反応したのだ。自分を奉じる離宮の大神官だって無視してたくせに。実はキュビさんって凄い人なのかも。とりあえず説明できるのは、こいつと会話ができる俺しかいない。


「この人は、これから向かう大神殿の司祭さんだ。同行してもらうことになったんだよ」


 ラリアは俺の肩に飛び移ってきた。キュビさんは両手を組み拝礼しながら俺に向き直る。やめろ、俺迄一緒に拝まれるじゃないか。


『不快であるぞ』

「……なにが?」


 ラリアの心境は少し想像出来るが、一応聞いておこう。


『こ奴……存在が不快であるぞ』


 そこまでは思わないよ。というか、自分に拝礼している司祭を不快と言うなよ。俺にはお前の幼女趣味の方が数倍不快だぞ。


『滅して良いであるか』

「っ! こら、いきなり殺そうとすんな。これから向かう大神殿の司祭を殺したりしたら大騒ぎになるだろうが」

『我に関することに在らず』

「クリオ泣き出すぞ。こいつ臆病だからな。お前が人を殺すなんて知ったら、怖がって二度と近づかなくなるかんな」


 大女の視線が逸れてほっとしていたクリオが、物騒な会話を聞いて怯えた顔で俺を見上げる。当然ラリアも気が付いたようだ。


『む…………。う、うむ。それは困窮であるな。なんと繊細であるか。其処がまた愛しき姿であるが。致し方ないか。うむ。稚児はただ純粋に笑みを浮かべるべきで存在であるし……』


 肩に乗った獅子が尻尾をくねくね絡ませながら身悶える。気持ち悪い。

 こいつにとっては自分を拝む人間を殺すより幼女に嫌われる方が嫌らしい。不安そうにクリオが見上げているので笑って誤魔かすがあまり通じない。まぁ幼児はすぐ忘れるからどうでもいいだろう。しがみつかれている保護者ヴェゼルに相手を任せ、俺は膝をついて拝んだままのキュビスターからも離れ人気のない場所へ避難する。物騒なことを言いだしたこいつから、詳しく事情を聞いて釘を指しておかないといけないからだ。


「……で、あいつの何が不快なんだ」

『あ奴は成体の癖に半端に稚気を発する』

「なんだそれ」


 何度も聞き返してなんとなく理解した。どうやら幼女クリオ(八歳)をこよなく愛するロリコン神獣にとって、大柄大声の成人女性は存在自体が害悪らしい。幼女の反対なら老婆じゃないかと思うのだが、そっちは認識外のようだ。中途半端に幼女みたいな無邪気さを残しているくせに、身体は成熟した女性というが駄目らしい。

 ……頭が痛い。

 知らねえよこの変態。相容れないオタク同士のこだわりか。傍から見るとさっぱり意味が判らねえよ。


『もしや、今の大神殿には奴のような者が多数在するか』


 ぶるりとラリアが震えた。ぞっとしたらしい。こいつにも怖い物があったのか。キュビさんが集団で爆乳揺らして駆けてくる光景を幻視して俺もちょっと怖くなる。


「いや……そんなことあるわけないだろ。あんな個性的な司祭初めて見たぞ」


 と言った俺も、オラリア王国でファーミィ司祭長に怯えた経験がある。あれは本当怖い人だった。こっちの話をまったく聞かないで何を言っても信心が足りないからと言い返してくるのだ。初めて会った狂信者。まったく話が通じないくせに邪魔をするので、王国側に圧力をかけて幽閉させるという強攻策を取ったが未だに後悔はしていないくらいだ。

 俺にとってのファーミィがこいつにとってキュビさんなのだろうか。そう考えると少しは同情できる。同時に神獣と使徒に気味悪がられるヴィスタ教の司祭達って何だろうと思えてくる。


 とりあえず、クリオがお前を可愛がっているのは小さくて無害そうに愛嬌振舞っているからだ、絶対人を殺そうとすんなと説得する。唸っていたラリアも最後は尻尾を萎ませて丸くなる。このポーズはふて腐れたポーズだ。大いに不満そうだが説得はできたらしい。


 天幕に戻るとキュビさんが恍惚とした表情で、ラリアとの出会いを手記にガリガリ書き込んでいた。こっちも気色悪い。何故黙って祈りだしたのかを聞くと、ラリアの神気にうたれ質問どころではなかったらしい。クリオの横顔に鼻の下を伸ばしてた様にしか見えなかったんだが、どこら辺に神気を感じたのだろう。


「いざ間近で拝謁させていただくと、あまりの畏れ多さに言葉を失ってしまったのですよ」


 神気って俺もあるんだよな。あんた俺と会った時はべらべら話しかけてきたじゃない。

 聞けば神気を体内から発して威圧感のあるラリアに対して、俺は神気を纏っているだけなので威圧感はあまり感じないそうだ。まあ俺に威厳なんてある筈もないしな。同じく神気を見れるリーダに顔を向けるとうなずいた。


「火と光みたいな違いでしょうか」


 ラリアは熱いので近づけないが、俺は光っているだけなので怖くはないそうだ。街灯か。蛾とか寄ってこないだろうな。


「いま書き終えますので、少し御待ちください!」

「いや、今日はもういいよ。遅いし解散解散」

「ええ! そんな殺生な!」

「行くぞリーダ」

「はい」


 とりあえず日頃煩くなるくらい喋ってくるキュビさんが大人しくなる相手がいたというのは朗報だ。団長や護衛兵士にも知らせておこう。うるさくて我慢できなくなったらラリアの近くに置けば静かになる筈だ。そんでラリアが言うこと聞かなかったらクリオを使って黙らせよう。

 リーダに話すと苦笑いされた。


「『毒を用いて毒を御す』ということでしょうか」


 俺の周り毒ばっかりで困る。薬にあたる人はどこにいるんだろう。



               ◇



 夕刻過ぎ。自分達の天幕に戻る途中でラディリアとイリスカに出会った。俺達を捜していたそうだ。要件を聞くと良い燻製肉が手に入ったのでお裾分けをくれるらしい。


「おお、サンキュー」

「ちょっと待て!」

「何故帰ろうとするのよ!」


 そのまま持って帰ろうとしたら何故か怒られた。いや、もう夜になるし天幕入ってリーダと二人でゆっくり食おうとしたんだが……。


「待て、せっかく良い肴が入ったのだ。少し付き合ってくれても良いだろう」


 ラディリアはそう言って手に持った酒瓶を持ち上げる。

 いや俺酒呑めないし、一口でひっくり返るから嫌だよ。

 この世界って飲酒年齢の制限無いんだよな。ワインが中心な所為かな。皆は水と変わらないと言ってるが下戸の俺には辛いものがある。姫さんやリーダも平然と口にするので結構驚くのだ。子供が呑んで大丈夫なのだろうか。

 それでもとラディアはゴネたが俺は断った。小うるさいキュビさんからやっと解放されたので、今日はゆっくり休みたいのだ。


「ほら、言ったでしょう。呑めないから断わられるでしょうって。ならばジンペイ殿、少し仰門はどうかしら。今日は空も晴れててとても綺麗よ」


 イリスカがラディリアを小馬鹿にしながら、少し離れた丘に俺を誘う。

 仰門とは月見のことだ。この世界には月が無く、代わりに神門と呼ばれる柱みたいな隕石が浮かんでいる。『神の居城へ通じる門』と信じられており、それを肴に月見ならぬ仰門をするのである。


「いや、俺あの神門興味ないし。外で食べたら砂が入るから嫌だ」

「まあ、いいじゃないの。ここしばらく話してなかったじゃない。偶には付き合いなさいよ」


 それはキュビさんがひっついてたお陰で、俺の所為じゃないのだが。

 俺の不平を無視し、二人は俺を左右から掴んで引っ立てていく。美女二人に挟まれるなんて羨ましいシチュエーションなのだが、こいつらは鎧着てるし、力は強いし、人の話聞かないしで全然嬉しくない。

 リーダに助けを求めると「偶には息抜きをされるのも良いのではないでしょうか」と明後日の方向を見ながら見捨てられた。おおい。


 宿営地から少し離れた丘の上で、月見ならぬ仰門に付き合わされる。

 正直俺はあの神門と呼ばれる隕石群があまり好きじゃない。違和感が強いと言うか、月の壊れた後みたいに見えて不安な気分になるからだ。そしてここが異世界だと実感しては、早く帰りたい気持ちがぶり返してくるのだ。

 そんな気分で話していても楽しい訳がない。最初は最近起きた新しい出来事を話していたのだが、俺の気のない態度に次第に話題は途切れてきた。

 俺がつまらなそうにしていると、二人は妙に気を使っておかしな話題を振ってくる。しかし、この二人は相性が悪いのか互いの話題にケチをつける。普通に話してた筈が、気が付いたら舌戦になり嫌味の応酬を始めている。最後には話だけでは盛り上がらないな夜稽古といくか、なんて言いだして剣を振り始めた。迷惑このうえない。普通に人を切っている剣で、鍛錬と言って切り合うのだ。二人にとっては日常なのだろうが、素人が見ている分には危なくてハラハラする。とても落ちついて空を見上げてる場合じゃなくなってきた。それなのに二人は身体を動かしているうちに興が乗ってきたのか、笑いながら剣をぶつけ合っている。

 駄目だなこの脳筋達。もう帰ろうかな。

 リーダに同意を得ようと振り返ると、彼女は丘の下を眺めていた。なんだと目を凝らすと、遠くで近衛の女子達が数人隠れてこちらを伺っているのを発見する。アレはなんだろう。頭を抱えてのたうち回ってる。変なもんでも食べたのか。俺達が今食った燻製肉じゃないだろな。


 リーダに何だアレ、と小声で聞くと


(見なかったことにしてあげてください)


 溜息をつきながら苦笑いされた。





 そうした翌日の朝、再びキュビさんが来襲。もう天幕に勝手に入ってくる。止めてくれ。引っ付いて寝ていたリーダが、恥ずかしいところを見られたと大慌てで離れるから、寝床がぐしゃぐしゃになるのだ。


 しかし、今回彼女はとんでもない話を持ってきた。


「お聞きになりましたか。今皇都には東国ハヌマールから来た別の使徒がいるそうですよ! なんということでしょう。今年は使徒の当たり年なんでしょうか!? 二百年来の当たり年なのでしょうかね!!」

「「!?」」


 ちょっと待て。なんだそれ。


 俺とリーダは呆気にとられ、寝ぼけた顔を付き合わせた。

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