01.大薮新平 一行、山中を往く
再開です。たいへん、とっても、長らくお待たせしました。やって来ました。やっと来ました。神と対峙し召喚された理由が明らかにされる最終章。これより始まります。
突然異世界に召喚された大薮新平。そこは内乱が起きている国だった。踊ると魔法が掛かるというふしぎなスキルを得ていた新平は、虜囚となっていたアンジェリカ王女救出に貢献、王都に招かれ神の使徒と認められる。
しかし、新平は異世界召喚を了承した憶えも、使徒になる気も無い。日本へ帰還する為、自分を召喚したらしい神に直談判しようとウラリュス大神殿を目指すこととなる。だが道中で反乱が発生。引き止められた新平は新スキル【瞬間移動】を発現し、一人隣国へと辿り着いた。隣国オラリア王国は敗戦国として圧政が敷かれている。なりゆきで反乱軍と同行した新平は、道中助け出した少女、リーダを従者に加え王都にて神獣ラリアを復活させる。そこで自分を追いかけてきたアンジェリカ王女一行と合流。改めて神に会えると言うウラリュス大神殿を目指すのだった。一路、日本の家族の下へ帰る為に。
◇
「うらああああ!」
「おおおおっ!」
「はあっ!」
「ぎゃああっ!」
前方で多数の剣戟が響き合い、敗者となった者達の悲鳴が上がる。
「左翼、突出するな。戦列を整えろ! 面で対抗しろ!」
「第三隊、右翼側面を牽制。回りこませるな!」
オラリア王国反乱軍元団長ヴィルダズと元副長アルルカの指示が飛ぶ。
レンテマリオ皇国に入国した俺こと大薮新平とその一行は、山中で山賊の一団と戦っていた。
山賊といっても彼等はここら一体を根城にする大規模盗賊団だ。総数で百人近くもいる。対してこちらの戦力は、国境で合流したアンジェリカ王女の護衛騎士二十五名を加えても四十名程度。倍以上の数である。
だが、戦況は圧倒的にこちらが優勢だ。前線では護衛団の騎士達が勇戦している。そして、その身体は魔法を受けたかの様に淡く光り、戦闘力が向上していた。
「せああっ!」「押し返せ!」
「くそっ! なんだこいつら!」「動きが早いぞ!」「強過ぎるじゃねえか!」
倍する人数で、しかも行列の前後から挟撃する形で襲い掛かった山賊達。しかし、思わぬ劣勢に彼等はうろたえている。気が付けば半包囲の陣形に引きずり込まれ、三方向から袋叩きになっていた。これは歴戦を生き抜いたオラリア反乱軍元団長ヴィルダズの采配である。
後方も同様だ。アンジェリカ王女含め、非戦闘員の乗る馬車達を近衛騎士隊の娘達がガッチリとガードしている。少人数でしか戦えない岸壁と、急勾配の細い地形で迎え撃ったのは近衛騎士第二隊長イリスカの采配。人数の不利を補うどころかローテーションを回して対応する程の余裕ぶりだ。何せ彼女達個人の戦闘力もかなり上がっている。
「アハハァ! 凄い。凄いよ! 相手が止まって見えるよ!」
「凄いよコレ!」
「そいやあっ!」
「ハアッ!」
「楽勝、楽勝!」
近衛騎士隊の娘達も、身体を淡く光らせて敵を圧倒している。
「気を抜くな。戦場で慢心した者の末路を思いだせ!」
「「ハイ!」」
要所で近衛騎士第一隊長のラディリアが怒声を上げ、部下達の気を引き締める。おかげでこちらには未だ負傷者も出ていないようだ。
倍する数の敵に前後から挟撃されたというのに、この一方的な展開。
困難な状況を優勢に進めているのは、ヴィルダズとイリスカの戦術もあるが、騎士達の身体能力が向上していることが大きい。彼等は相手の剣を完全に見切り、電光の如く踏み込んで敵を切り捨てている。聞いたところによると、反射速度と思考速度が劇的に上がっているそうだ。
「相手が止まって見えるわ!」
「身体に羽が生えたよう!」
「なんと素晴らしい、これが使徒様の御加護か!」
「おお!」
前方の護衛騎士達も歓喜の声を上げている。迫る戦斧の軌道がはっきり見えるので、盾を使って危なげなくかわし反撃ができる。おかげで、まず負傷しない。
全ては俺のスキルによる加護――『踊り』の恩恵である。
俺はこの世界に来て何故か、魔法みたいな効果が現れる『踊り』を使えるようになっていた。そのスキルを使って戦況を優位に導いているのだ。
なんと凄い力だろう。
今、俺は一行の中心付近、アンジェリカ王女の居る馬車前方に陣取ってスキルを皆に発動するため踊っている。美声を奏で、手足を優美にひるがえし、肢体を扇情的にくねらせ、華麗に踊っ―――踊って―――……おど……うっ……嘘です。踊っていません。
じゃあ、何してんだお前、と思うだろう。俺もそう思う。俺は今――
ダンダンダン!
地面に置かれた木製二段の階段を上る。
「ハイッ!」
最上段で右手を大きく斜め上に振る。
ダンダンダン!
地面に降りる。
「ハイッ!」
今度は左手を大きく振る。
俺は戦場のど真ん中で――――踏み台昇降をしていた。
言い間違えじゃない。学校の体力測定でする、あの踏み台昇降だ。
どこから出たのか謎の木製二段階段を幾度となく踏みしめる。
俺の『踊り』はいつも意味不明だ。脳内に閃く感覚に合わせ、手足を振って声を上げて踊ると効果が発現する。何故こんな動作をする必要があるのか。どんな理屈なのか。現れる効果との関連性等全てが謎のままだ。この世界に存在する既存の魔術との違いに、一時期リーダは頭を抱えていた。恥ずかしい踊りを見られることに俺も一緒になって頭を抱えたものだ。
よりにもよって何でこんなスキルなんだ。普通異世界に来た主人公は、強くて格好良い能力を与えられ大活躍するのがお約束だろう。踏み台昇降で戦う主人公なんて聞いたことがないぞ。
一体誰の所為か。自分としては、俺を召喚した神とやらが、嫌がらせをしているのだと思っている。俺が毎回羞恥に泣き、煩悶しながら踊る姿を見て笑っているのだ。そう考えると踊る度に奴への怒りが吹き上がっていく。
だいたいゲームだって踊りのスキルといえば、薄衣を纏った美女が優美に舞って光が乱反射するやつだろ。艶やかなBGMを背景に幻想的な光景を広げて敵ならず味方まで翻弄するというやつだ――しかし、現実はむさい男子高校生が鼻息荒く踏み台昇降しているのだ。なんだこれ。
「――!」
手足の誘導が切れ、踊りの効果が切れたのが分かった。でも戦闘は終わっていない。即座に連続発動だ。
「それ行くぞ!――ピッ、ピッ、ピツ!」
俺が号令を上げると、ずどんと地面から木製の台が再び現れる。引き攣った笑みを浮かべながら思う。
(だからっ、どこから出てくんだお前!)
怒りと共に乗り上げて踏み台昇降を始める。この踊りは道中頻繁に山賊に襲われるようになってから、新しく発現した踊りである。その名も――
【踏みしめる戦軍の行進】
(名前負けしてんだよ!)
脳内で叫ぶ。
ご大層なスキル名に対して、やっていることは、ただ木製階段を上り下りしながら手を振って叫ぶだけ。
そんだけ。
こんなの踊りでも何でもない。こんな俺を誰が踊り子と思うだろうか。
「ハイツッ!」「はいっ!」
俺の声に合わせて、幼い掛け声が重なる。
すぐ横でヴィルダズの娘クリオ(幼女八歳)が、満面の笑みで俺の真似をして足踏みしているのだ。特に意味は無い。ただの物真似だ。幼女が俺の様子を見て、楽しそうだという理由でお遊戯してるのである。両手を振って行進、行進。すごく楽しそう。
(止めろクリオ! これ以上俺の緊張感を壊すな。泣き崩れそうになる!)
脳内悲鳴は彼女に届かない。先程馬車から飛び出してきたクリオ。何をするかと思ったら、横で行進ごっこを始めた。こっちは踊ってる最中で制止も文句も言えない。中断して他の行動をすると、効果が切れてしまうからだ。この娘の意図を知った時の驚きと、その後に沸いた羞恥と情けなさを誰か想像していただけるだろうか。
このふざけた踏み台昇降【踏みしめる戦神の行軍】の効果は周囲の味方への支援。簡単に説明すれば「ヘイ○ト」だ。反射速度と思考速度が劇的に上がるので、相手より数倍早く動けるそうだ。
効果は恐るべきもので、前方では護衛騎士達が山賊達を次々と切り倒している。その後ろで
ダンダンダン!
「ハイッ!」「あいっ!」
俺は幼女と一緒に踏み台昇降をしている。クリオは満面の笑みで掛け声をあげながら足踏みをしており、幼女の肩には小型化した神獣の獅子ラリアが恍惚とした表情でリズム良く尻尾を振っている。
なんと緊迫感の無いふざけた光景だろう。頼む、頼むよ、早く終われ。
両脇で護衛についてる近衛隊の少女二人が、俺のひきつった表情に気付いてさっきから肩を震わせている。ちくしょうめ。お前達最初は戦場の雰囲気に呑まれて硬くなってたくせにすっかり余裕じゃねえか。神獣がついてても流れ矢が怖いっつの。いいからクリオを馬車に連れて行けってのに。
もう一度言おう。普通異世界へ旅立った主人公は格好良い能力を与えられ大活躍するのがお約束の筈。果ては美少女達を助けてキャー素敵とばかりに好かれるのが定石ってもんだ。俺は今、活躍している。皆が優勢に戦えているのは俺のおかげ。大活躍している。なのに、なんでこんな恥ずかしい思いをして笑われてんだ! 責任者出て来い!
「なんだこいつら!」「まずい!」「強え!」「囲め!」「駄目だ!」「引け!」「引けえ!」
とうとう劣勢になった山賊達が撤退を始める。
「逃がすな! 騎馬隊突入!」「足並みを崩せ!」
前方でアルルカさんの突撃令が出た。以前も行なった必勝パターンだ。こうなるともう勝敗は明らか。
二度にわたる騎馬隊の突撃で敵リーダーが降伏したのを皮切りに、方々で山賊達が武器を捨てて降伏する。こちらに死者は無し。
圧勝であった。
◇
「いやぁ、たいしたもんだったぜ」
「まさに驚くべきは使徒様の御力ですな」
騎士達に指示を終えたオラリア王国元反乱軍団長ヴィルダズと、護衛団団長リーゲンバッハが戻ってくる。認めてないんだから俺を使徒呼ばわりしないでくれと言っているんだが、もう誰も聞きやしない。
手の空いた騎士達が戻ってくるなり次々俺へ礼を言うが、醜態にしか見えない踊りを晒していた自分としては素直に頷けない。というか正直恥ずかしいから顔を合わせたくない。彼等も俺の心情を理解しているのか、口元を微妙に歪ませたまま何も言わない。それもまた腹が立つ。おい、そこの近衛の娘達。いつまで顔を背けて肩を震わせてる。
「クリオ、大丈夫だったか」
「うん!」
クリオが迎えに来た父親に飛びついた。指揮を取っていたヴィルダズは見惚れるほど格好良かったが、今は只の親バカだ。娘のクリオも同類だ。お前そのやりきった感の笑顔で汗を拭うの止めろ。普段人見知りするくせに何故戦場は平気なんだよ。この世界の子供おかしいだろ。
「あたしも一緒に踊ったんだよ!」
「そうかそうか。俺達が勝てたのは、お前のおかげかもな」
「ほんと!? やったあ!」
「いや、意味なかったから! 本当意味なかったから! むしろ横で踊られた所為で、心を抉られて中断しそうになったぞオイ! 聞けよ!」
我慢できずに怒鳴りつけたが褒め合うバカ親子にスルーされる。このやりとりはもう何度もやっているので周囲の扱いも雑だ。逆に俺を見て苦笑いする連中が増える始末だ。俺に睨みつけられた騎士達が、含み笑いしながら拝礼してくる。ぐぬぬ。
なぜだ。この一行の代表は俺だと皆にも認めさせた筈だぞ。今回の功労者も俺の筈だ。なのになぜ俺は、こうして生暖かい目で慰められているんだ。
「大丈夫です。貴方のご心痛、私は分かって…ぷっ、くくっ……ひっ……くっ……」
イリスカがフォローしようと話掛けた途中で吹き出だした。振り返って目が合った時の俺の表情が、情けなさ一杯でツボに入ったらしい。そういえばこいつ笑いだすと止まらない女だった。その場にしゃがみこんで腹を押さえてヒクヒクしている。
「お前……フォローする気あるなら、最後まで頑張れよ」
余計傷付くじゃねえか。
幼女と一緒にいた神獣ラリアが、俺の肩に飛び移ってくる。こいつは男や成人に興味がないので、クリオが親元へ行くと逃げてくるのだ。
『うむ。甘露な発汗であった』
「良い汗眺めたじゃねえよ! 何でお前、一緒になって遊んでんだよ。危ねえから止めろよ!」
『喜悦の嬌声をあげる稚児を、何故我が制止できようか』
「気持ち悪いんだよお前!」
変態全開の返事をしてくる神獣ラリア。こいつは幼女が汗だくで遊ぶのを、間近で眺めることに喜びを感じるという真性のロリコンだ。とても気持ちが悪い。
というか、こいつが巨大化してわおんと一発脅してくれれば山賊なんて皆逃げていくだろう。全長三十メートルを超える巨体から感じる威圧感は計り知れない。それを『人間同士の争いは関知にあらず』と全然協力してくれないのである。何しについてきてんだこいつ。俺達死んだらどうすんだ。
「――ええ、先程はありがとうございました」
「すばらしい剣技でしたわ」
「いやぁ、この商売長いからね。でも連携拙くて悪かったね。ソロが多かったからさ」
「とんでもないですよ……」
後方で盛り上がっているのは、近衛騎士達と一緒に戦っていた女傭兵のデルタさん。近衛騎士達から感謝を受けながらも連携の改善について話を咲かしている。以前俺もあっさり倒されたが、どうやら彼女はかなりの腕らしい。近衛騎士達に尊敬の言葉を掛けられている。問題はデルタさんのエロ弟トッポだ。こいつは結局連携にも混ざれず後方で声を掛けるだけの賑やかしになっていた。出来もしない魔術をそれっぽく唱えて注意を引くという小細工を数回しただけである。それでいて戦いが終わったら下心丸出しで女性達にタオルを配って回るのだが誰も相手にしてくれない。いや、なんか協力して欲しそうにこっち見んな。
「チンペー殿、大丈夫であったか」
「おう……」
ラディリアが声を掛けてきた。指揮と共に最前線で戦っていたので血臭がする。何人も切り倒していたのを見ていたので今は迫力を感じてちょっと怖い。黙っていれば彫像みたいな美人さんなんだけどなぁ。
「見りゃわかんだろ。お前もうちょっと部下の教育ちゃんとしとけよ。横でゲラゲラ笑われて何度も踊り失敗するとこだったぞ!」
「む、それはいかんな。しかと視界に入らないところで笑え、と言い聞かせてあったのだがな」
「我慢させろよ!」
こいつも駄目だ。
アンジェリカ王女(十歳)が侍女達に手を引かれ馬車から降りて来た。リーゲンバッハ団長の報告を受け、周囲の状況を眺め騎士と近衛達に功労を称えた後、俺の下に来て協力の礼を述べる。憮然とした顔を返していたら、彼女は親父に抱きつき得意満面で自慢するクリオを羨ましそうに見て呟いた。
「……私も一緒に踊ってみたかったです」
「やめて! 俺が耐えられねえから!」
速攻でツッコむ。王女さん、守られているだけではなく、自分も何かをしたかったようだ。ええい、どいつもこいつも。誰かツッコミ用のハリセン持ってないか。幼女二人に挟まれてのお遊戯行進。想像しただけで恥ずか死ぬぞ。
……でも、少し気になったことはあった。さっきはああ言ったが、前回俺だけで踊った時より、効果が強かった気がしたのだ。皆が身体に纏った光も前回より少し強く見えた。しかし、クリオが俺と同じスキルを持ってる筈がないんだし、気のせいだろう。まさか本当にクリオの踊りに意味があったなんていわないよな。やだよ、これから毎回幼女二人と行進なんて。
そこへ俺の従者として契約した逃亡奴隷の元司祭、通称リーダが戻って来る。彼女は知恵が回るだけでなく、一行で唯一魔術を使える者として、前衛の後方から八面六臂の大活躍をしていた。
「戻りました。兄様はご無事ですか?」
オラリア王国内で兄妹と偽称して旅をしていた為、彼女は未だに俺を兄様と呼ぶ。ちなみに俺達の外見は欠片も似ていない。
「おう、お疲れ様。……お前こそ大丈夫か。顔色悪いぞ。早く馬車の中で休ませてもらえって」
「申し訳ありません。それでは少し休ませて頂きます」
クリオ達への愚痴や踊りの効果の違いについて、話を聞いて欲しかったのだが、魔術の使い過ぎかリーダの顔色は悪かった。以前俺が送ったリボンもへんにょりしていたので、ねぎらって馬車へ追い立てる。アンジェリカ姫さんが気付いて声を掛けてくれたから、リーダはそのまま侍女達に付き添われ馬車へと歩いていった。
前方ではアルルカと護衛団副長が、騎士達に命じて敗残兵への対応をしていた。死者の処分が目に入ったので溜息まじりに顔を背けた。そうだった。俺達は殺し合いしてたんだよな。これまで散々死体を見てきたせいで、いい加減慣れてきたが、未だに死者を直視する気にはなれない。
「ヴィルダズ殿、お見事な采配でしたな」
「いや、大将の踊りと、精鋭なるトリスタ護衛団の力あってのことですよ」
「そうおっしゃって頂けて、騎士達も喜びましょう」
少し硬い表情で賞賛するヒゲ面男リーゲンバッハに、ヴィルダズも気を使った返答をしている。まだ互いに会話が堅いようだが仕方ない。
なぜなら、現在俺達一行の指揮はこのヴィルダズがとっているからだ。
先日国境を越えトリスタ王国のアリジェリカ王女護衛団と合流した。これから俺達は一緒になり、対外的には巡礼団としてウラリュス大神殿を目指すことになる。そこで最初に問題になったのは一行の主導権だった。
前回は王女の護衛団に俺が同行するという形だった。その為、反乱軍の一味が潜んでいたと判明した際、アンジェリカ王女の安全の為に一度護衛団を王都に戻して団を再編成することになったのだ。同行していた俺はその時間が待てずに一行から逃げ出した。今後も同様のことが起きれば、必ず俺は【瞬間移動】で先に進もうとするだろう。今ならリーダさえ背負って同行させれば、道中もなんとかなるという考えがあるのでなおさらだ。なので今回の合流、護衛団が俺の行動に対して指揮権を行使しようとするなら一緒には行けないと答えたのだ。
俺の言い分は協力を申し出ているトリスタ王国からすれば無礼千万だろう。だが、オラリア王宮で再会した際、アンジェリカ王女は旅の主導権を俺に預け、自分達は俺の従者として従うと言ってくれた。近衛騎士達もそれに倣うと了承した。これが護衛団を預かるリーゲンバッハ団長には初耳だったらしく、彼は認められないと言い出し問題となったのだ。彼は女王となったフォーセリカに、アンジェリカ王女の護衛をしながら偽装巡礼団を率いてウラリュス大神殿へ向かえ、と命じられていたからだ。
団長が女王の命令を遵守するというなら、俺としては彼等と同行する訳にはいかない。ここで意見が対立し話し合いとなった。仮に揉めたとしても、今の俺には【瞬間移動】があるので、彼等は俺を拘束することができない。イリスカの預かった連絡用宝珠を使い、何度も本国と話し合いをした結果、俺が主導で団の行動を決めて良いことになった。おかげでリーゲンバッハ団長は、当初かなり憮然としていた。
一方、主導権を得たはいいが、一介の高校生にこんな集団を率いるなんてことが出来る筈も無い。そこで知恵者従者リーダの薦めもあって、付いてきている元反乱軍団長のヴィルダズに、俺の代理として指揮権を預けることにしたのだ。俺が方針を決めて、雇ったヴィルダズに皆を率いてもらうのである。
当然護衛団の騎士達からは反発があった。彼らにすれば当然だろう。王女の護衛として旅する筈が、使徒だと言われる訳のわからない異国の小僧が頭になった。しかもそいつが連れて来た隣国の男が自分達に命令するというのだ。更に言えばその男は、元反乱軍首領として国外追放された罪人なのである。
どうなるものやらと気を揉んだのだが、今のところ大きな問題にはなっていない。ヴィルダズは護衛騎士達と毎日手合わせをして(再生した肉体は筋力が落ちてる筈なのに、全員に圧勝しやがったこの親父)毎晩騎士達と呑んで騒いでいるうちにすっかり仲良くなってしまった。流石十数年以上反乱軍で戦い、団長にもり立てられた男である。ただの学生である自分なんかが、心配する必要はなかったようだ。
実際、ここ十数年を反乱軍として戦ってきたヴィルダズに対し、リーゲンバッハ団長と護衛団の能力は多少劣っていたらしい。トリスタ王国で戦争といえば、北方のゲルドラ王国の翼竜部隊と戦うものであって、対抗する部隊の主力は女性のみで構成される天馬部隊だ。男性達で編成される地上部隊の出番は少なく彼等の錬度が劣っていたのは仕方の無いことらしい。
護衛騎士達と俺自身については、アンジェリカ王女が何度も騎士達に話してくれたことで、徐々に風当たりは良くなっていった。そして道中実際に山賊達に襲われた際、俺の踊りで対抗したことにより劇的に俺を見る目が変わってきている。
そんなこんなで、俺達はヴィルダズの指揮のもと旅を続けている。道中死者も出すことなく、現れる山賊等を次々撃破しながらウラリュス大神殿を目指しているのであった。
◇
戦後処理を終えて、翌朝再出発。俺はリーダ達と一緒に馬車に揺られていた。アンジェリカ王女は近衛騎士達に囲まれ侍女と一緒に王族専用馬車、なのでこれは俺達専用の馬車である。しかも結構豪華。なんでも使徒として大神殿に向かう以上、それなりの装いを周囲に喧伝しながら向かう必要があるのだとか。良い身分になったもんである。
「でもおかしいよな。ここは大神殿のお膝元なんだろ。なんで、山賊が出るほど治安が悪いんだ?」
俺達が向かっているウラリュス大神殿はこの大陸の唯一神、アウヴィスタを崇めるヴィスタ教の総本山だ。地元への影響力も強く、この国レンテマリオ皇国は宗教国家でもある。当然人口も多く、周囲の国より栄えていると聞いている。それなのにこんなに多くの賊が出没するのは何故だろう。
俺の疑問に、リーダが悲しそうに目を伏せて答える。
「彼らの殆どはオラリア王国を逃げ出して身を崩した者達のようです。レンテマリオ皇国は裕福である分、身分格差が激しい国ですし、皇国民でない者の生活は厳しいと聞きますから……」
「…………」
俺達が抜けてきたオラリア王国の流民が元凶だったらしい。
敗戦国を逃げ出して過重な税から逃れた筈なのに、食い詰めて賊になるしかないとはなんとも嫌な話である。だからといって襲い掛かってくる以上は戦わなくては殺される。この世界は本当の意味で弱肉強食。なんとも悲しい事情に切なくなる。
「はあ……」
なんでこんなに物騒なのだろう。
自分のいた世界と違い、この世界ではなんと神様が実在している。しかも会って話すこともできて、教義を伝えてきたり、避けられない災害を知らせてくれて、対応の指示までしてくれるという親切振り。実に夢の様な世界であった。
そこまでしているのに、この世界は戦乱が溢れている。人々は俺達の世界と同じ様に争い合う。治安は俺のいた世界よりも悪いといっていいだろう。
これはもう、その神が無能じゃねえのとしか俺には思えない。一体何をしているのか。というかそいつは本当に神なのかだろうか。何か別の者が神に成りすましてるんじゃないんだろうか。
「なんとも釈然としねえよな……」
「なにがですか?」
「いや、うん……」
もっともこう考えるのは、自分がこの世界に勝手に召喚されて酷い目にあってるからなのかもしれない。以前、ここの神は怠慢だと声にだして文句をつけたら周囲に嫌な顔をされて一斉に諌められたからだ。彼らにとって神の所業に文句を言うのは不謹慎であり、あり得ない思想であるらしい。明確な信心をもたない典型的な日本人の俺にはどうにも理解できないことだ。
斥候から連絡が入る。
街が見えたそうだ。この国に入って始めての大きな街。名はワウーンというらしい。犬の街かと聞いたが特に関係はないようだ。
周囲から、やっと街で落ち着けると安堵する声が聞こえてきた。
すいません。さっそうと再開したは良いものの、途中までしかできてないので、完結までいきません。
最後まで書いてから公開したかったのですが、あまりにも先が遠くて……
前編として週一更新でキリの良いとこまで進んだら、またしばらく止まります。ご了承くださいm(__)m
来週からまた定時(毎週日曜朝9:00プリ〇ュア終了後)更新となります。




