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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
2章 奴囚王国オラリア騒乱編(全26話)
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閑話 ぽんこつ女騎士達とロリ従者の攻防

お久しぶりです。ごめんなさい。今更閑話かよです。しかもちょっと下品です。幕間三人称になってしまうのと、本編開始前に済ませておかないと二人が活躍できなくなっちゃうので、ここで公開となりました。

「困ったな……」

「困ったわね……」


 宿場町の宿屋の一室で、向かい合う女騎士。彼女達の名前はラディリアとイリスカ。使徒大薮新平を主人と崇めるアンジェリカ王女の護衛隊長を務めている。彼女達は揃って丹精な美貌を歪め苦悩していた。

 原因は先程行った本国との定時報告の結果だ。

 護衛対象であるアンジェリカ王女の近況、道中起こった問題と対応、こちらで下した判断の是非。どれも大きな問題とはされず、旅程の内容を評価され内心胸を撫で下ろしたその時、宮廷魔道士ミモザから叱責を受けたのである。


 曰く『大薮新平の篭絡はどうなっている。二人揃って何をしているのか』


 そう、彼女達はフォーセリカ女王から大薮新平を篭絡し、トリスタ王国へ取り込むよう密命を受けているのだ。

 篭絡。巧みに手なずけ、思いどおりに操ることだ。美醜を評価したとまで言われたので、自分達に何を求められているのかは分かっている。この容姿と肢体をもって、少年である新平を誘惑してたらしこめと言われているのだ。

 傍から見れば簡単な命令に思えるかもしれない。何せ彼女達二人は、王宮に勤める女性達の中でも群を抜いてその美貌を評価されている存在だ。宮廷内で声を掛けてくる男性騎士は数限りない。

 しかし、当の彼女達にとって、男を色仕掛けで篭絡させるというのは、とんでもなく難易度の高い命令だった。


 彼女達は『潔癖な脳筋』だったからである。


 幼少の頃からひたすら武人へ、天馬騎士になるべく研鑽を積み重ねてきた。色気のある経験は皆無であった。そのため男に迫れと言われても何をすればいいのかが分からない。肌を晒して迫れば良いなどと言う輩もいるが、彼女達が目指した天馬騎士の天馬は、清らかな処女しか騎乗させない性癖をもつ。故に天馬騎士を目指す少女達は、潔癖で貞淑な女性であることを幼少から徹底して教育されるのだ。それを馬鹿正直に受けて育った二人にとって、男に肌を晒して迫れということは、死ねと云われるよりも恐ろしいことであった。


「……普通なら、そんなに無茶な指示ではないのだけどね」


 二人の横で、含み笑いしながら肩をすくめるのは近衛副長イオネ。二十台半ば過ぎで、明るい雰囲気の既婚女性である。

 前回の巡礼団では近衛隊長を勤めていたが、部下に宰相派の内通者がいたことで降格となった。今回は対新平用の窓口としてラディリア達二人が隊長を任じられているが、実質内部を取り仕切っているのは彼女であった。今夜もミモザ宮廷魔道士への報告の際、補佐役という名目で同席していた。


「そうは申しましても……」

「なにをすればいいものか……」


 旧知の仲だけに、二人が元上司に返す言葉にも愚痴が混じっている。イオネは溜息でそれに返した。

 それ程難しい任務ではない筈だった。あの少年も木石ではなく、女傭兵デルタにひっつかれては、彼女の豊満な胸元に目を奪われてからかわれる程度の男だ。イオネからすれば、この二人の美貌なら楽勝な任務だろうと思っていた。だから、あの女傭兵の真似をしてみなさいと軽い気持ちでけしかけてみたのだ。

 するとどうだろう。この二人は額面通りに受け取り、鎧姿のまま囲んで逃がさず頭と肩に組みついてぐいぐいと身体で押し潰そうとするのだ。慌てて止めに入るも間に合わず、少年は悲鳴を上げて逃げていく。ぽかんと呆けて見送る二人。いや、あたりまえでしょう。……後続の馬上で若い部下達がうつむき肩を震わせている。

 違う、そうじゃない。女性をアピールするのだ。肌を見せて、胸を揺らせて男性を興奮させるのだとみなまで説明する。ようやく意味を理解して赤くなる二人、今度は自分達ができるのかと想像して青くなって震えだした。純情娘にも程がある。次いで自分達は軽鎧を装備しており胸を揺らせることができない。隊長という立場上、簡単に武装を解く訳にもいかないと尻込みする始末。命令違反で処分されたいのだろうかこの二人。そして、ラディリアなら確かに揺らせるが、彼女イリスカはそこまで胸が無いと失言して見苦しい掴みあいを始めてしまう。そう、この二人は従騎士養成所では首席を競い合ったライバル同士。平素では何かと反発し合う仲だった。

 痛くなる側頭部を押さえつつ、とりあえずできることから始めましょう。男女が親しくなる初歩の初歩。まず傍に立ち、会話を増やして仲を深めるよう薦めてみる。しかし、徒歩で進む少年と違い、近衛隊長である二人は鎧装備のまま馬から降りられない。武装した騎馬に挟まれながらも平然と会話に応じている少年の胆力は、平民としてみればなかなかのものであったが、彼は女慣れしていないのか冗談が下手だった。そして悪い事にラディリア達二人はその冗談が一番通じないタイプだった。

 女傭兵なら笑い飛ばしながら背中を叩いて終わるだろう下品な冗談に、潔癖症の二人は柳眉を逆立てラディリアが馬上から少年に蹴りを入れた。重装備しての馬上からの蹴りは重い。あっさり蹴り飛ばされる少年。部下達がフォローに入る間もなく、イリスカが制止をかける。そこで終わればいいものを、彼女はラディリアの粗暴さをしっかり揶揄して反発心を煽る。そして舌戦が始まり、殺伐とした雰囲気に新平少年はそっと逃げて行く。駄目だ。この二人は元ライバル同士だけあって、すぐ競争意識が前面に出てくる。二人一緒に相手させては駄目なのか。

 次にイリスカと二人きりで前を歩かせてみた。新平少年も先程は言動が悪かったと気付いたのか言葉を選んで話している。が、この少年、なかなか学習しない男らしく、舌の根も乾かないうちに同じ様な冗談を連発し始める。物覚えが悪いのか、はたまた話題の引き出しがソレしかないのか。イリスカはにっこり微笑みながら、反射ともいえる速さで少年の脇を槍の石突で突いた。

 同じ騎士同士ならたまにするじゃれ合いであるが、鍛えていない一般の少年相手には暴力だ。修練を重ねた身体は見事に人体の急所を一撃必殺。……少年はしばらく脇腹を押さえてうずくまり動かなくなった。追いかけてきてソレ見たことかと揶揄するラディリアと舌戦を始めるイリスカ。……後続の馬上で若い部下達が声を押し殺して笑っている。

 ついに見かねた彼の従者である少女、リーダが駆け寄って来て二人に謝罪。少年をなだめながらも、しっかり今の冗談のどこが未婚女性に対して非常識な物言いであったか説教しながら引っ張って行った。――傍目には悪さをした子供を引っ張っていく母親であったが――そして以後、少年は馬車から出てこない。


「上手くいかないものだ……」

「ええ、おかしいわね。……デルタと同じ様にしたつもりなのだけど」


 原因を理解できず首をかしげている二人を前に、イオネは眉間に指を当てて唸った。駄目だ。この二人は徹底的に女子力が足りない。どこから説明すれば……いや、説明しても理解してくれるのか怪しい。これはどうしたものかと。


「問題はリーダ嬢ですね」

「そうだな」


 こちらの意図を察したリーダが、あれ以降新平が馬車の外に出るのを止めているようだ。

(そうじゃない。まず、あんたら二人の方も問題だ)という言葉を呑み込んで、イオネも頷いた。おそらくここで言い聞かせても早晩二人の脳筋は治りそうにないし、確かにリーダ嬢の存在は問題であった。


 オラリア王国に入国した使徒の少年が従者を連れていると聞いた時、あの猪突少年の従者をするなんてどんな酔狂者だ。性根の甘い少年のこと。貧困の者が付いて来て断れない状態にでもなっているのだろうと誰もが考えた。しかし、実態を見て目を疑った。

 イェフィルリーダ・アルタ・ルーベンバルグと名乗った美しい少女は、歴史あるルーベ神殿の司祭位を若くして得たという才媛であった。

 内紛で奴隷落ちし火炙りにあうという死の淵から救ってもらったという彼女は、新平に絶対の忠誠を誓っている。彼の突拍子もない発言に振り回されながらも、話の主旨を理解して対応策を挙げる。無謀過ぎた要求にはきちんと理で諭して少年を納得させてもいる。そして決めたことを実行するに当たっては粗の無い計画を立て周囲への調整も怠らないと完璧な従者ぶりを発揮している。性格的な相性も良いのだろう。トリスタ王国では憮然とした表情が多かった新平の笑顔も柔らかい。彼女に信頼を寄せているのがわかる。こんな敗戦国で、とんでもない人材を掘り当てたものだと誰もが感心した。


 しかし、トリスタ王国首脳部として、これは困った事態だ。新平へ一番影響力のある立場を、彼女に取られてしまったのだ。

 トリスタ王国が新平を支援しているのは、アンジェリカ王女が使徒の従者となるべく天啓を受けたから――というのは建前で、これから彼が使徒として目覚めて功績をあげる際、一番の支援国として利益を得るためである。新平自身は使徒の責務を拒否しているが、それは彼が神より下された話を忘れているだけ。ウラリュス大神殿で直に神に接見することにより、正しく使徒として目覚めるに違いないと王国首脳部は考えているのだ。

 現在新平は全ての相談事をリーダに相談し、進言を受けて決定している。彼女の意思が、この部隊の方針を決めていると言っても良い。それはトリスタ王国としては危険視せざるを得ないことである。

 一時はリーダを殺害する案も出たが、新平に知られると関係が一気に悪化してしまう。一度ならずも自分達の元から逃げ出した前科がある危うい信頼関係で、その様な危険を冒すことは出来なかった。それに、強攻策を取り従者を自任するアンジェリカ王女を悲しませることにシスコン女王が難色を示したのだ。故に、こうして平和裏に友好度を進展させる為、美女二名による新平への篭絡が急がれているのである。

 幸いリーダ嬢は見目良い美少女であるが、新平は彼女を妹分、もしくは従者としか認識していない。女をあてがって篭絡できる余地は十分にある。リーダ嬢自身は身も心も全て捧げます状態なのは誰の目にも明らかであったが、新平が彼女を受け入れる兆候が欠片も無いのだ。

 確かに起伏の少ない肢体をしており女性として見るのは難しいかもしれないが、トリスタ王国では齢十五で成人。現在十四である彼女はもう一年もない。外見も整った美しい少女であるし、成長すればさぞ美しくなるだろうに。『あの使徒様、鈍いにも程があるんじゃないの』と近衛の部下達が囁きあうのも無理からず。我慢できなくなった部下が冗談まじりに聞いてみると『アホかい。俺はロリじゃねえぞ、ノーマルだ。変態神獣と一緒にすんな』とよく判らない返答を当のリーダ嬢の前でぶちまけた。

 意味は判らずも女性扱いしていないことは明白だ。リーダは怖い笑顔でつねったりして抗議を示しているのだが、新平は冗談だと思っているらしく楽しそうに騒いでいるだけだ。片時も主人から目を離さず。宿でさえ護衛と称して同室で同衾する程なのに一向に女性扱いされないあの不憫振り。王国の一人としては一安心でもあるが、同じ女性として見れば少し可哀想だとも思える。ラディリアにこっそり『どうすればそんなに胸が大きくなるのでしょうか』と相談してきたという話を聞くと、切なくなってしまう。

 その忠臣である彼女がこちらの意図に気付かない筈もない。というか、既に散々失敗を重ね、部下達が公然と隊長をけし掛けているグダグダな状態になってしまっているのが現状だ。


「仮に彼女を無事切り離せたとして、今の貴方達に彼を騙して迫ることができるのですか」

「そ、それは……」

「確かに心苦しい任務だとは思いますが王命でありますし……」


 言いながら口篭る二人。

 こちらも問題である。肝心の二人が新平に情を移し、任務と割り切れていないのだ。

 二人は共に重傷を負い、死の淵にあったところを彼の不可思議な魔術で命を救って貰った恩がある。幼少から騎士道を叩き込まれた二人はそれに強く恩義を感じているらしく、恩人である少年を騙していることに強い抵抗感を抱えているのだ。ここでも天馬騎士を目指した際の情操教育が裏目にでている。

 それだけでは無い。本人達は自覚しているのか最近は彼の言動に対して嫉妬を示すような態度をとりだした。イオネには情が恋慕に移りつつあるようにしか見えない。恋情を交わした訳でもない無骨な女達から悋気を向けられて、少年も可哀想である。


「もしかして貴方達……本気で彼に懸想しているのですか?」

「「……っ!」」

 

 びくりと二人が震えた。


「な……なにを馬鹿なっ……!」

「そにょようなこと、ある筈がないではありませにゅか!」


(えー……本当に。あんなのに?)


 天馬騎士を目指した少女達はその教育方針もあり、恋愛下手になりやすく口の上手い男や顔だけの男にコロリとまいってしまうことがままある。

 いくら使徒で将来性が高いとはいえ自分達の様な騎士身分では相手にもされず周囲も認めない。彼はこれから大陸中に偶像として祭られる存在なのだ。どれだけ情を交わしたとしても内々に愛妾にされるのが精々である。同じ女騎士としては薦められない。

 個人で見れば器量の小さい猪突気性。顔が良い訳でもない年下の異国人だ。よりにもよって王宮で一、二を争うような美女達が好きになるような相手じゃないでしょう。と、旦那の顔で婚姻を決めたイオネは自分を棚にあげたまま眉をひそめる。

 おそらく、ずーっと迫れ迫れとけし掛けられ、毎日異性として意識させられている内に本気になってきているのだろう。とんだ副作用である。


(あんなののどこが良いのかしら)


 少し興味を持ったイオネは、「そのようなことはありません」と誤魔化す二人から理由を聞き出した。懸命に言い逃れようとした二人であったが、五つも年上の既婚女性上司に対し、色恋初級者の小娘二人が対抗できる筈もなかった。


「気性が真っ直ぐで、裏表がないのは人物として好感が持てます。金銭や地位など、どれほど報酬を積み上げても迷うことなく家族を選び、彼等の下へ帰ろうという姿勢は頑固ではありますが、私には好ましいものです」

 とラディリアが気性を褒めれば。


「巨大な力を持っているのにそれに溺れることもなく、高慢にならない姿勢を私は評価してますわ。自分から騒動に巻き込まれる等うかつなところは多々ありますけど、どんな状況でもなんとかしてしまうのは使徒に選ばれた器の大きさと言えるのではないでしょうか」

 イリスカは器として評価する。


 交渉事の知識に疎く危なっかしい。一騎士である自分達から見ても隙があるどころか全身隙だらけ。それでいて無駄に行動的で後先考えずに突っ走る。この人は目が離せない。放っておけば、直ぐに揉め事を起こす。自分がしっかり監視しなくては。自分が世話をしなくては、という気にさせるのだと二人は言う。母性本能というか、姉さん気質を刺激されているようだ。


(あーダメだわ。これ完全に恋慕で目が霞んでいるわね)


 イオネからして見れば、物は言い様だとしか思えない。

 確かに彼は善良な人間だろう。悲惨な事態に相対すれば黙っていられず手を差し出してしまうところがある。その善性は流石に使徒と成った人物だとも言える。普通なら迷うようなことを、躊躇無く突き進み実現してしまうところは行動力があると言えなくもない。

 しかし、それ以外が駄目過ぎる。

 まず使徒としての自覚がない。故にその能力を十全に扱えず自分も周囲も振り回すことになっている。隣国で奴隷として売られそうになるなんてどんな間抜けだろうか。その結果反政府軍に巻き込まれ交流を持つなど迂闊にも程がある。使徒とは大陸に現れ新たな軌跡を示して人々を導く存在なのだ。売り飛ばされそうになってどうする。

 男としての評価はもっと低い。人の話を最後まで聞かない。強情で持論を曲げない。そのくせ決めたら段取りも気にせず即行動しようとする。そしてその時には周囲にしていた気遣いも配慮も全て忘れている。おかげで置いていかれた周りは呆然と立ち竦むのだ。

 『世話の焼ける弟みたい』と言うのは綺麗過ぎる言い方だ。考えなしに走りだして問題を起こす男は、世間では『迷惑者』と呼ぶのだ。

 天馬騎士を目指した二人に言い聞かせるなら、あれは駄馬だろう。正確に言うと人の話を聞かない暴れ馬に近い。目を放したり、手綱を引くのに失敗すれば、明後日の方向へ全力で走っていく駄馬だ。


 なにやら背中を痒きむしりたい気分になってきたのを我慢し、頬を染めながら駄馬を褒めそやす美女二人を冷めた目で見返す。

 さてどうすべきか。

 今回直接命令を受けている宮廷魔道士ミモザは自分達にとって天上の立場の方だ。篭絡に当てる彼女達が本気で惚れてきたみたいなので、別の娘を当てられませんかとは言える筈もない。そして彼女達が篭絡に失敗した場合、補佐役に命じられているイオネの評価も確実に下がるだろう。このままではいけない。ただでさえ前回の巡礼団で部下から反乱者を出してイオネの評価は下がっているのだ。なんとしても二人には頑張ってもらうしかない。


「ならば、あの朴念仁の少年に、少しは自分達の気持ちを理解させてみたいとは思わないの」


 ぴくりと二人が顔を上げる。


「このままでは、彼は貴方達の気持ちに一生気付かないままよ。彼の一挙一動に気を配り心配しているというのに、彼は一向に気付くそぶりもないまま自分勝手に動いているわね。こんなに貴方達が毎日頭を悩ませているのに。それは釈然としないのではないかしら」

「「……」」

「好意があるのなら騙すことにはならないでしょう。勇気を出して一度きちんと気持ちを告げてみると相手の見る目も変わるものよ」

「そうすると今度は向こうの方が意識してこちらを見てくるようになるわ。貴方たちは見てみたくはないのかしら。彼が顔を赤くして自分を意識して覗き見てくるようになる姿を」

「そうしなければ、何時までも彼は、貴方達を女性どころか少しだけ話しやすい同行者程度にしか見ないわよ。このままでいいのかしら」

「「……」」


 イオネは訴える様に喋り捲った。命令厳守の理屈を説くよりも、騎士としての矜持を持つ二人には女としての矜持を刺激した方が良いと判断したのだ。二人は黙ったままだが、目の色が変わったのが見て取れる。なんとか説得は成功したようだ。

 自分で言いくるめておいてなんだが、我が部下ながらこんなに色恋にチョロくて将来大丈夫だろうかと思わなくもない。しかし、自分の評価にも関わる件である以上、ここは二人に頑張ってもらわなくてはならないのだ。


 色々相談に乗ってはいるものの、実はイオネにも良い案はもう無いのである。今まで自分が思いついた案は彼女たちの女子力では全て使えなかった。親の決めた相手と会ったら顔が好みだったのでそのまま婚姻となった彼女の、女性としての経験値は少し低い。なんかもう好意があるなら、そのまま裸で飛び込んで身を任せた方が早いんじゃなんだろうかと彼女は考えていた。



 改めて考えよう。まず、現在新平を篭絡するにあたって一番の障害が何か。それはリーダ嬢だ。彼女がこちらの意図に気付き邪魔をしている。

 彼女は二人、いやトリスタ王国にとって一番の障害である。ラディリア達が二人きりになろうとすれば、どこからともなくやってきて釘をさし、場合によっては新平を諭し、言い負かし、耳朶を掴んでドナドナと少年に歌わせながら引っ張っていく。夜に寝所へ忍び込ませようとしても、新平と同じ部屋で同衾しており警護している。まず彼女を排除しなくてはならない。


 丁度明日より泊まる宿場の宿では湯場があるという。砂を落とせると近衛騎士の女性陣は揃って歓喜していた。

 森林王国であるトリスタでは水風呂が一般的であったが、牧草中心で、神獣ラリアが倒れてから砂漠化の進んでいるオラリア王国ではサウナ風呂が主流で数も少なかったからだ。

 ここでイオネは二人に命じた。


「使徒様をなんとかして一人で湯場に誘導するので、二人は浴室にて待ち受けて彼に自分達の気持ちを伝え迫りなさい」


 ラディリアは真っ青に。イリスカは真っ赤になった。


「そ、それは私たちに裸で彼に迫れということですか」

「な、なにも肌を露わにする必要はないのではないでしょうか」

「いいえ、正直に自分の心を伝え、そして相手にも心を開かせるには、本気を示さなくてはならないわ」


 もう、これしかない。裸で迫らせよう。そうイオネは決断した。

 この二人の話術で、色良い雰囲気にもっていかせるのは無理だ。練習させた口説き方では、酷い形相と迫力で脅迫をしているのと区別がつかない。こちらから迫るのは無理。ならば新平少年の方から迫ってくる様に誘導するしかないのだ。

 この美貌、そしてスタイル。この二人なら絶対イケる。彼女達を裸にひん剥いて浴室で三人のみにするだけで少年は獣に変わるだろう。

 たとえ今回失敗したとしても、美しい裸身を見た新平少年は、以降彼女達を女性として意識せざるを得なくなるに違いない。

 王宮一の美女二人を全裸にして男性の前に放り込む。イオネはだんだん自分の案に興奮してきた。


 ラディリアとイリスカはついに恐れていた命令が来たかと青い顔をつきあわせてる。しかし、ここで逃がすわけには行かない。彼女たちが反論を言い出す前に、イオネは残りの近衛である部下達を全員呼び集めた。そして協力を要求する。


「やりましょう!

「ついにこの時がきたのですね!」


 若いアリシアとラヴィアンが真っ先に喰い付いた。そしてイオネが浴室で二人を全裸にして迫らせると宣言したことに黄色い歓声があがる。一人冷静だったレレイムがいいのですかと確認を取るが、イオネが頷いたことに全員の目が変わった。若い娘たちがこの手の話に盛り上がらない筈がない。一斉にラディリアとイリスカに、どう迫るべきか妄想を膨らませた助言と言う名の要求が降り注ぐ。


 イオネは計画を告げる。

 風呂に入る場合、新平はいつも傭兵姉弟の弟トッポと一緒だ。外ではリーダ嬢が待機している。

 まずエルカ以下三名でトッポに声をかけて呑みに連れ出す。身の程知らずにもこちらに何度も声を掛けている少年だ。喜んでついてくるだろう。次にアリシア以下五名でリーダを宴席に引っ張りこみ拉致する。頭が良いと言っても所詮小娘一人。大人の女性五人で囲んで酒席で囲めば、そう簡単には逃げ出すことはきなくなるだろう。

 その隙に浴場でラディリア達二人を浴場に待機させ、大薮新平少年が来たら鉢合わせるというものだった。


 王宮一二を争う美女による男性の誘惑劇。それを演出するのは自分達。彼女達は大いに盛り上がってラデリィア達を応援する。いつの間にか前祝いとして酒が配られた。いつ用意されたのかイオネも気づかなかった。

 部下たちの手前、引くに引けなくなった二人は引き攣った表情で応じる。しかし周囲から散々「頑張って」「いけます」「大丈夫」「絶対」「自信持って」「間違いない」と褒め上げられて呑まされて、最後には二人揃って肩を組んでやってやるーと拳を突き上げた。周囲から拍手が沸いて万歳まで始まる。

 もうただの宴会だった。


          ◇


 そうした翌日の夜。計画は実行された。

 まずエルカ達がお邪魔虫に声を掛ける。トッポ少年は鼻の下を伸ばして付いて行った。あっちが使徒だったらどれほど楽だったことか。

 次はリーダだ。アリシア達五名が声を掛け親睦という名で無理矢理酒場へ引っ張っていく。

 ひとり残った新平少年に、後がつかえているから早く湯場へ行ってくださいとソノラが急き立てた。彼女はそのまま遠回りして全力疾走。浴場にたどり着いて任務成功を告げるソノラを、浴室の陰に隠れさせる。浴場の店員は買収済みだ。イオネは二人に振り返った。


「さあ、二人とも。覚悟はいいわね!」

「……」

「た、た隊長。わたしはやはり……」


 一夜明けて我に返った二人は、下着姿で真っ青になって震えている。


(この期に及んで、まだ躊躇しとるんかい)


 隊長はあんたたちでしょうがと突っ込みながら、無理矢理裸に引ん剝いた。酷い元上司である。


(おお……)


 現れたのは同性でも見惚れる程見事な裸身であった。

 普通なら騎士としての長年の鍛錬で傷だらけである身体、新平少年の治療の魔術で傷ひとつない身体で蘇ったのだ。以降の鍛錬で多少の傷があるとしても、まるで気づかない殆に美しい裸身である。はっきり言って王都の貴族令嬢より遥かに上だ。

 自分で決めた案だけれども、これならいけるんじゃないのとイオネは自画自賛する。


「大丈夫。いけるわ! 絶対よ!」


 涙目になってうずくまる二人に、たいして根拠もなく小鼻をふくらませてイオネは宣言した。


「そ、そうなのでしょうか」

「しかし、やはり、こんなことで……」

「この期に及んで何言ってるの!」


 身を隠す最後の砦のタオルさえ取り上げて浴室に押し入れる。緊張しているのか湯船の端に足を取られて揃って湯船に転落。日頃の凛々しい面影は欠片もない。とてもアンジェリカ王女には見せられない光景だ。


「大丈夫よ。打ち合わせ通りにやれば絶対間違いないから!」


 一度湯を浴びて赤味を帯びた裸身が艶めかしい。それでいて若い肌は水をはじいて照り輝いている。こんな裸身を見て黙っていられる男がいる筈がない。そう、自分は間違っていない。

 鼻息荒く激励の声を掛けてイオネは浴室をでる。振り返ると二人が並んで湯船の中で立ちすくんでいた。

 よっぽど心細いのか、手を繋いでいる二人を初めて見た。なんだ、仲良くやれるんじゃないか。


 そうして、新平がやって来て鼻歌を歌いながら浴場に入ってくる。さあ本番だ。ごくりと喉をならしてイオネは建物外壁から中を伺う。

 店員との会話、移動の音、衣擦れの音、そして浴室に向かう音。イオネは騎士として鍛え上げた神経を最大限まで集中させて聞き耳をたてた。

 ついに浴室への扉が開く音がした。浴場では湯船の中で全裸となった二人が玄関に向かって少年を出迎えている筈だ。


「……ん?」


 こうして―—ラディリアとイリスカ、そして新平は全裸で対面した。


「……」

「「……」」


 時が止まったかのようだった。


「「「……」」」


 まだ変化がない。


「「「……」」」


 まだ変化がない。


「うおおおおおおおおおっ!」

 

 突然新平が絶叫する。腹の底から雄叫びをあげていた。その大声は浴室どころか建物全体にまで響き渡った。


「ラッキーいいいいいい! すげええええええっ! すげえええええぞおおおっ! いいい今あっ! おお俺の人生でっ、一番熱い奇跡がああああ!」


 なんか馬鹿が、心から叫んでいた。


「きゃああああっ!」「いやあぁああああっ!」


 水音と共にラディリアとイリスカの悲鳴があがった。おそらく興奮した男の言動に羞恥を刺激され、反射的に湯船に潜ったのだろう。


 騒ぎを聞きつけたリーダが物凄い勢いで現れ浴場建屋に飛び込んで行く。脱衣場を駆け抜け主の下へ走りこむ。其処で彼女が見たのものは。


「いやっほおおおおう!」


 全裸のまま握り拳を振り上げぴょんぴょん飛び跳ねる新平と、浴槽の中で身を縮めるラディリアとイリスカの姿だった。


「……っ!」


 状況を理解したリーダは、一瞬呆れて遠い目をする。だが直ぐに我に返って首を振り、自分の主人を怒鳴りつけた。


「兄様、何をしているのですか!」

「うおっ!?」


 叱られた子供の様に飛び跳ねる新平。


「わ、わざとじゃないぞ! な、なんにもしてないぞ俺!」


 前科でもあるのか言い返す内容も、まんま子供であった。リーダは間に合った安堵と呆れ半分で深い溜息をつく。


「……いいから。わかりましたから。それで、いつまでそこに立って彼女達を辱めるつもりですか。早く謝罪して部屋に戻ってください!」

「わ、わかった。悪かったって。二人も悪かったな! 間違えて入ってきてごめんなっ!」


 快活に叫んで逃げ出していく新平。

 逃げながらも幸運な偶然に会ったと思っているのか、ひゃっほう等と意味不明な奇声を上げながら浴場玄関から外へと駆け出して行く。平和な少年であった。


(ダメだったかぁ……)


 それなりに苦労した計画が失敗した。頭痛を感じながらも、イオネは浴場玄関の影より走り去る新平を見送った。

 上手く彼女を排除したと思ったが、リーダ嬢の方が一枚上手だったようだ。これ程早くやって来たということは部下達は失敗したのだろう。おそらくなんらかの対処策を講じていたのだ。


 もちろんリーダは対策を打っていた。トッポについた女性達には姉のデルタを派遣して互いに動けない様に釘付けにした。リーダ自身を囲んだ五名に対しては護衛団の男性騎士九名に囲ませ宴席を拡大、自分はその隙に抜けだして新平の下へ走ったのだ。彼女は元リーベ神殿の司祭である。道中説法を行いその美少女振りと頭の回転、新平から預かった資金で護衛団騎士の半数近くを早々に味方につけていた。本気度の足りないイオネの部下達と違い、信心と金銭で対策網を作り上げているリーダの作戦勝ちであった。


 そこまで対策されていたとは知らないイオネ。彼女は何が悪かったのだろうかと考える。


(ただ裸で会わせるんじゃ足りなかったかも。でも抱きつけと言ったら殺気振りまきながら飛び掛って台無しにしそうだったしねえ……)


 問題は少年の反応にもある。あれだけお膳立てして全裸の美女の前に導いたというのに、当の本人が大声を上げて台無しにしやがった。まさか騒ぎ出だすなんて誰が考えるというのか。


(あれじゃあ、まんま子供じゃないの)


 仮に再びリーダを排除できたとしても、同じ状況におかれた新平少年が騒いだら台無しになるだろう。普通の成人男性なら裸の美女がいたら飛びつくものだろう。手を叩いて喜び叫んでどうするのだ。お前、歳はいくつだと胸をつかんでなじってやりたい。


 浴場から主人の無作法をラディリア達に謝罪してたらしいリーダが出て来た。彼女は警戒するように四方を窺った後で立ち去って行く。イオネは溜息をついて建物内に入った。脱衣室の影では隠れていた残りの部下一名が腹を抱え、声を押し殺して震えていた。役たたずめとその尻を蹴飛ばして進む。

 浴室に入るとトリスタ王宮で一、二を争う美女たちは頭まで湯船に浸かって身悶えている。羞恥で外に出られないのだろう。


(くっ……ううううっ!)

(も、もう殺せえええっ!)


 浴槽の中で喚いているが水中なので聞こえない。まあ内容はだいたい想像はできる。湯船に口元までつかり、真っ赤な顔を見合わせて、二人の女騎士は視線で会話していた。


(だだだ誰だ!裸で迫れば一発だといったのは!)

(アリシアか。いやラヴィアンもだ。後で殴ってやろう!)

(そうだ、絶対殴ってやろう!)

(声をかけるどころじゃないじゃないか!)

(歌なんか歌う暇なんかなかったぞ!)


 昨夜はしゃいで好き勝手意見して盛り上げた部下たちをなじっているのが聞こえる。歌ってなんだ。


(なにやっているんだか)


 イオネの存在に気付いた二人が、彼女にも恨めしい視線を送ってくる。イオネは眉をひそめて言い返した。


「なあに、文句でもあるの。失敗したのは貴方達自身の所為でもあるのでしょう」

((……ぶくぶくぶく))

「どうせ呆けて突っ立っていたんでしょう。考えていた台詞は言えたの。できなかったんでしょう。それなら有無を言わさず抱きつければ、彼も理性をなくして状況も変わったでしょうに。そんな度胸もなかったの?」


 こう言われると二人は言い返せない。もともと自分達が不甲斐なくてここまで世話をやいてもらってのこの体たらくなのだ。死ぬほど恥ずかしい目にあったのに不満を言える先が無くなり、お前がすれば、お前こそと二人が視線で喧嘩を始めた。


(仕官学校幼年課の女子みたいじゃないの。これは二人の教育を先に進めないと駄目なのかしら)


 イオネは長い道のりになりそうだと空を仰いだ。


 こうして近衛騎士達の作戦『浴槽にて裸でご対面。ドキッ、恋の始まりかしら』計画は失敗に終わる。



 大薮新平。高校一年の夏。初めてのクラス男女混合で海に出かけた際、クラス女子の水着姿を見て『うおおっ、凄えっ! なに、裸と変わらないじゃん。恥かしくないのお前等!?』と正直過ぎる台詞を叫んでしまい女子達が真っ赤になって逃亡&大激怒。男子もフォローしきれず総スカンを食らって、一人でずっと遠泳をしていた過去をもつデリカシーゼロ男であることを彼女達は知らない。


          ◇


 翌朝。リーダに連れられた新平が、母親に叱られた子供の如く、しょんぼりとした表情で二人に謝ってきた。まさかわざと待っていたのだとは言えないラディリアとイリスカは、揃って百面相を披露したうえで、謝罪を受け入れる。状況を知っている部下達も一様に気まずそうに顔を見合わせていた。


「でもエロしー様、良い体験だったろ」

「ちょっ、コラ。そういうこと言うなっての」

「アタシとどっちが大きかったい?」

「!……!!」


 傭兵姉のデルタにからかわれた新平が、デルタの大きく露出した胸を見た後、ちらりとラディリアとイリスカを見比べ鼻の下を伸ばした。


「い、いやああああああっ!」

「思い出すんじゃなあいっ!」


 真っ赤になった二人が新平に襲い掛かった。

 後ろで眺めていたデルタを含め護衛騎士の娘達が笑いだす。新平の後ろでは、小さな腕を組んで仁王立ちするリーダがフンスと息を巻いている。


(これで少しは彼女たちを女性として意識するようになるのかしら……なんか全然変わらない気がするわねぇ)


 眉をひそめながら眺めていたイオネとリーダの目が合う。彼女は一度姿勢を正し、元司祭と思わせる礼を優雅にこなしてにっこりと微笑んだ。昨夜の首謀者が誰かを理解した上で牽制している微笑だった。

 イオネは小さく溜息をついて、上空に視線を逸らした。

 今夜も宮廷魔道士殿への報告で、叱られるのは避けられそうに無い。

このまま三部に進んだら、まったく恋愛要素無しで終わりそうだったのでイベント差込回でした。

(散々放置しといて、2年振りに出来たのがコレかい……)

でも、そうです。作者も続編を諦めてないですよ。うん、たぶん。

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