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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
2章 奴囚王国オラリア騒乱編(全26話)
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26. 大薮新平 仲間達と大神殿を目指す

 大薮新平一行はサイールの東の山脈を越え、国境東へ十日の距離を歩いていた。昨日ようやくアンジェリカ王女達の騎馬一行が追いついたのだが、彼等の雰囲気はギスギスしていた。なにせ王女達が追いついた際、新平が反射的に逃げ出したのだ。それを随分と根に持ったらしく、明けた翌日になってもラディリア達の新平への当たりはきつかった。





「いや、だから謝ってるだろラディリア」

「謝れば済むという問題ではないぞ。ようやく追いついた私、……もとい私達の顔を見た途端、逃げ出した貴方を見て、我々はいたく傷ついているのだ。貴方にとって我等はやはりその程度の存在だった。後始末を引き受け、これだけ身を尽くしているというのに、貴方の本音は我等を蔑ろにするものだった。嗚呼、なんと報われない。なんと仕え甲斐の無い主だろうか」


 いつ俺がお前の主になった。

 そんなこと言われてもさ。晴れた空の下、やっと平和になった道中をリーダとのーんびり雑談しながら歩いていたのだ。そしたら、凄い勢いで騎馬の一団が叫びながら迫って来る。そりゃ驚いて逃げるってもんだよ。


「とりあえず、馬上から小突くの止めてもらえませんかね。痛いんスけど」

「む。そうであったか。それはすまなかったな。殿方の無体に嘆く女の情念が私を無意識に突き動かしたのだろう」


 怖えよ。従者何処行った。騎士馬鹿のくせに、こんな時だけ女を持ち出してくるんじゃねえ。似合ってねえよ。


「まったく。勝手に、行くなと、あれ程っ。あれっ程言ったのに。貴方という人はっ!」

「あ、ああはは。悪い」


 そういえば、そんなことも言われてたな。騒乱状態だったので、すっかり忘れてたわ。まあ一応、声を掛けはしたじゃないか。返事を聞く間もなく逃げちゃったけど。

 

「何しろ面倒なことを全部押し付けて行かれましたからね。まさか私共もあそこでジンベイ殿が逃亡するとは思いませんでした」


 爽やかに微笑んでいるイリスカの目も全然笑っていない。予想した通りこの人は交渉役として一番苦労したらしい。ちょっと痩せたようで頬がこけていた。昨日からリーダがたくさん謝っている。


「そう言って、お前も馬を寄せて、俺を土手に落とそうとするんじゃねえよ!」

「それはもう、こうして追いつく為に大変な苦労を強いられましたので、つい足が滑っているかと」

「馬に乗ってるじゃねえか。どう滑るってんだ!」



 公開処刑の騒動の後のことだ。

 公衆の面前で国王ギブスン・ジラードが処刑の終了を宣言して処刑は切り上げられた。その後俺がヴィルダズ団長を蘇らせたことで、処刑場は大いに盛り上がってしまった。

 俺は早速担当の官吏と重臣を捕まえて問い詰め、今更ヴィルダズ団長を再度処分することは出来ないだろうとの言質をとった。

 目的は無事達成。

 そして王都中が興奮で大騒ぎになっている中、荷物をまとめ瞬間移動【天翔地走あまかけるランドランナー】で南の都市アイールまで飛んで逃げたのだ。やることはやった。これ以上王都に残っていて面倒に巻き込まれるのはもう御免だった。


 大変だったのは、俺に逃げられて後事を押し付けられたアンジェリカ王女とイリスカ達だ。

 俺の代理人として説明する役目を押し付けられて、四方から不平不満や面会要望が殺到したらしい。それを全部宥めて言い含め、部隊をまとめて俺達を追いかけたのである。昨日追いついた時のイリスカとラディリアの形相は鬼気迫っていた。

 確かに『後は任したぞ。悪いが先に行く』とだけ言って逃げ出したのはかなり薄情だったかもしれない。これからの対応をイリスカに口早に頼むリ-ダを背負いながら、瞬間移動で消えたのだ。呆然としてる姫さんと、何をしてるのかと血相変えて走ってくるラディリアをかわし都市アイールの町に着いた時は、我ながら『俺って酷えな』と思ったものだ。リーダにも『先程まであれほど格好良かったですのにっ』と頭を抱えられた。


 でもあの周囲の興奮状態はちょっと異常だった。観衆も重臣達も目の色が変わっていたのだ。凄く嫌な予感がビンビンして一刻も早く逃げ出さねばならないと焦ってしまい、戸惑うリーダを背負って逃げだした訳だ。イリスカの話を聞けば、思った通り色々面倒事に巻き込まれる危険が高かったようだ。本当王都に残ってなくて良かった、良かった。ちょっ、痛い痛い。そこ肝臓。急所急所っ!


「確かにあの場に残っていたら、新たな騒動に巻き込まれ出立が遅れたに違いありません……がっ!」

「しかし、だからといって。我々の了承を得ず、押し付けて逃げ出すとはっ!」


 二人の言い分もまったくその通りである。せめて三人の合意を取ってから逃げるべきだった。大変悪いことをした。


「……でも、無事合流できてなによりです」


 近衛騎士の騎馬に同乗しているアンジェリカ姫が朗らかに微笑む。邪気の無い微笑は天使の様だ。


「そう、姫さんよく言った! まず再会を喜ぶべきだよな。素晴らしい! 何時までも過ぎたことを愚痴愚痴言ってるどっかの連中とは違うな!」


 ラディリアとイリスカが、無言で左右から馬で挟み込んでくる。そして微笑みながら、馬上越しに背中や尻をゴツゴツ蹴り飛ばしてきた。戸塚! 戸塚!


「ちょっ、痛い。蹴るな。馬に乗ったまま蹴るなコラ! 騎士がそんな無作法していいのか。慎みないぞって、痛痛痛いって、悪かったってば! ゴメンってば!」

「素直に謝罪すれば良いものを……」


 リーダうっさい。ああ言われれば乗っかるだろ普通。

 アンジェリカ王女もなんか苦笑いをしたまま二人を止めてくれない。やっぱ姫さんも怒っているのだろうか。わたくしも連れて行って下さいと言われた時に、二人は重くて無理だと返したら口を菱形にして固まったからな。いや、二人背負うのは無理だよ。第一護衛のラディリア達から引き離したら駄目じゃん。


 追いかけてきた一行は、アンジェリカ王女とヴィスタ神殿の憲兵団に扮した近衛騎士達。ラディリアとイリスを隊長とした十二名だ。そして案内役という名目で俺達が国外に出るのを見届けるオラリア王国の役人が五名。 ……だけではない。追いかけて来たのは実はこいつ等だけじゃなかった。


 右手を見る。


「……お前、なんでここにいるの」


 俺の呆れた問いかけに、以前別れた筈の傭兵姉弟の弟、トッポが慌てて言い返す。


「それひでえよ、エロ兄ちゃん!」


 その呼び名は止めろ。姫さんやラディリア達が、詳しく聞きたそうにピクピクしてるじゃねえか。

 トッポの後ろを歩くデルタさんが、苦笑いしながら説明してくれる。


「実はこのバカが、神獣復活させたのにあたし達が一枚噛んでたってのを自分からバラシちまってね、傭兵団や街中で騒ぎになっちまって、少しほとぼりを冷ましたいんだよ」


 どこに行こうかと彷徨っていたところ、俺達を追いかける一行にすれ違い。話を聞いて合流したのだそうだ。


「別に俺達は観光に行くわけじゃないんだぞ」

「分かってるよ。でも優秀な傭兵は一人でも多く居た方がいいだろ」


 そう言いながらニヤリと笑って胸を張る。当然の様にぶるんと大きな胸が揺れて目が奪われた。


「そ、そりゃあそうだけたたたっ」


 痛い、痛い。脇腹をつねるなリーダ。仕方ないだろ。普通見るだろ。これは反射だ。男の義務だ。


「金はあんまり出せないと思うけどな」

「当然です」

「そんな。酷えよ! おいらはまた旨いメシが食えると楽しみにしてたんだから」


 こいつ前回旨い物をたらふく食わせたので味をしめたらしい。そういうところが連れて行くのに躊躇している要因なんだが。


「酷くねえよ。リーダと交渉してくれ」


 今度は立場が違う。精々薄給でこき使ってくれるだろう。




 今度は左手を見る。


「――で、あの……」

「ジョンペエ!」


 クリオが腰にドスンとぶつかって、しがみ付いて来た。


「おお、クリオ元気だな。疲れてないか。足は痛くないか?」

「大丈夫! 父上と一緒だから!」


 理由になってないぞ。まあ、それだけ一緒にいられるのが嬉しいのだろう。父親と無事再会出来て、なによりである。


 そうなのだ。何故かヴィルダズ元団長とクリオ、ヴェゼルまで付いて来ているのだ。


「俺も国外追放になっちまってなあ」

「一緒に行くの!」

「お守り役なので」


 処刑の執行は終了してしまい、あの盛り上がりで今更処刑し直す訳にもいかない。公的にはヴィルダズは処刑されたことになったのだ。かといって放逐して反乱軍に合流されても困る。そこでリーダの依頼のもと、アンジェリカ王女からオラリア王国側へ提案。国外追放を兼ねて、身柄をトリスタ王国一行で引き取る事になったのだ。正直俺は助けるとこまでしか考えていなかったのでリーダの咄嗟の提案に助けられた。助かれば後はとにかく生きていれば良し。国外に出たら親子揃って召喚して改めて二人と相談しようかくらいしか考えてなかったのだ。脱出後にリーダに話したら『助けるところまでしか考えていなかったのですか』と凄く呆れられたものだ。

 ヴィルダズ元団長はまだ手枷を嵌められており、国外退去を見届ける役として役人が三名ついて来ている。しかし、こちらは融通の利く役人さん達だった様で、道中クリオ達が飛び込んで来たのを黙認してくれているのだ。まあ、あの会場に同席して親父の娘への愛情を知ってほだされたのだろう。同行も見て見ぬ振りをしてくれている。


 しみじみ助かって良かったと思う。


 アレは賭けだった。


 ヒントは反乱軍のマーク夫妻が襲われ【快癒する女神のムスタッシュダンス】で治した時のことだ。あの時二人は血溜まりに倒れていてピクリとも動かなかった。もしかしたら心臓も止まっていたのかもしれない。しかし治すことは出来たのだ。神獣ラリアが国王ギブスン・ジラードを叩き潰した時もそうだった。

 何故か。

 あの踊りは治療だから死者は治せないと自分は思いこんでいた。踊りの名前に【癒し】とついているからだ。試したことも無かった。しかし死ぬとは一体いつからだろう。


心臓が止まった時か、脳死になった時か。魂とやらが抜けた時なのか。判らない。判らないから賭けた。少しでも脈が、意識の欠片でも、『細胞の一つでも生き残っていたら』治せるのかもしれないと賭けたのだ。


 刑の執行は止められない。だから刑を一刻も早く終わらせて【快癒する女神のムスタッシュダンス】で治す方法を考えた。既存の踊りに使えそうな踊りはない。新しい踊りを発現するしかないが、その条件はただ一つ。俺が絶体絶命な状況に追い込まれた時だ。 だから問題を起こした場合、自分の命を差し出すという契約書にサインをして、リーダ達にも何一つ相談せずに自分で自分を追い込んだ。失敗したら終わりだった。凄く胃の痛い状況。そこまでしても、自分からわざと追い込んだ擬似的な状況なので、本当に発現してくれるかは確信が無かった。集団の前に飛び出て成功するかの一発勝負の賭けだ。心臓はバクバクするわ、火炙りになってる団長の姿は恐ろしいわ、歯は鳴るし足は震えるし涙は出てくるしと酷いものだった。上空に映像が浮かんだだけと分かった時は、失敗したかと気が気じゃ無かった。意地で踊り続けて、内容が望むように変化してくれて本当良かった。


 結果は目の前にある。


 クリオが満面の笑顔で父親に貼り付き、ヴィルダズ元団長もそれに応えている。団長の娘への想いを知った今では万感の光景である。実に報われた気分だ。

 でも、もう二度とやりたくない。あんなの心臓に悪過ぎである。毛根が丈夫な大薮家の俺でも抜け毛が心配になってしまう。


 すっかり完治したヴィルダズ元団長は、背が高く髪の長いイケメン細マッチョになっていた。【癒す女神のムスタッシュダンス】はその人物が本来の成長した場合の姿に再生させる。長年戦士として鍛え上げ、筋骨隆々の赤黒い体躯は影も形も見られないスリムな体躯だ。本人でさえ知古の友人でも分からないんじゃねえかと笑う始末。そこは笑うとこなんだろうか。


「父上、格好良いでしょ!」


 どんな顔になろうとパパ大好きなクリオが満面の笑みで自慢する。それには同意だ。なんかメチャクチャ男前になってて、笑うと何故か俺までドキリとさせられるのだ。自分にその気があったのかと心配になったくらいだ。ラディリアの配下で後ろに控える近衛騎士の女子達なんか目がハート。ひそひそと囁き、覗き見ては、はやし立てるので結構イラッとする。


「悪いが国を出ても行くとこがねえんだ。同行させてくれや」

「え、やだよ」


 命を救われた相手に敬語使われるとやりにくい、と言われたのもあって素で言い返す。

 でも、これ以上反乱軍達の騒動に巻き込まれるのは御免だ。そして、せっかく親子揃って解放されたのに、俺の旅に付いて来られて、変な騒動に巻き込んでしまうのも、また御免なのである。せっかくなのでこれから二人には平和に暮らして貰いたいと思う。


「まあそう言うなよ。筋肉は落ちちまったが、それでもそこらの傭兵よりは役にたつと思うぜ」


 そりゃあそうだろ元団長なんだから。迫力が全然衰えてないしな。これは本人がやる気だからと頷くべきだろうか。

 でも、別に世直し珍道中をしてる訳じゃなし、行く先々で何かと戦う気も無い。なのにどうしてみんなして腕前を売ってくるのかね。そんなに俺が物騒なことに首を突っ込む様に見えるのだろうか。こちとら平和主義のつもりなんだが。

 リーダにぼやくと、凄く乾いた笑いが返ってきた。 ……お前も本当最近容赦ないね。


「それに、こういう一行をまとめるのは慣れてるしな。そっちでも力に慣れると思うぜ」

「ありがたいことです」

「本当に助かっていますわ」


 リーダやアンジェリカ王女達が礼を言う。

 確かにそうだった。俺達もだがアンジェリカ王女達も女子供なので集団の旅には慣れていない。この人は一団をまとめて何年も転戦してきた経験があり、俺達では気づかない指摘を先々でしてくれてイリスカやリーダ達は凄く有り難がっているのだ。気がつけばすっかり相談役に納まり、貫禄的にも代表に見られる始末である。さっきすれ違った商隊のおっさん達は、全員俺をスル-してこの人に挨拶して行った。複雑な気分であった。


「ひとまず国境迄ですが、道中よろしくお願い致しますわ」

「おう、任しときな」


 この集団って、俺の旅に協力する一行の筈なんだけど、なんで俺に拒否権無いんだろう。泣いていいかな。


「……反乱軍いいの?」

「まあ、今更どうもならんさ。合流する訳にもいかんし、正直心残りはあるが……ここでの俺の役目は終わったんだ」


 少し寂しそうに苦笑いして後ろを見る。監視の役人達が騎馬で歩いている。失言だ。内心どう思っていても、こう言わざるを得ないか。頭を下げると肩を叩かれた。


「まあ、よろしく頼むわ」

「はあ……」


 まあ、上手くいけば、この先で大神殿に着き次第召還した神と面会。即お別れとなるのだから、長い付き合いになることでもないだろう。あまり深刻に考えなくてもいいのかもしれない。 


 はしゃいで駆け回るクリオにヴィルダズが歩いていく。その後を俺と目を合わせて微笑んだヴェゼルが追いかける。その後を当然の様な顔でアルルカさんが歩いていく。


「…………………………っ!?」


 なんだ今の。

 思わず見返した。

 えっと、解放軍の副長アルルカさんですよね。なんで貴方そこにいるんですか。クリオ達を連れて来たってのは聞いてたけどアジトに帰ったんじゃないんですか。役人そこにいるんですが、大丈夫なんですか。実は団長に懸想してて解放軍を抜け一人救出計画を練って仲間達に取り押さえられてたとか聞いたんですけど嘘ですか本当ですか。

 呆然とした顔で指差してリーダを見たら、私は知ってましたけどねという自慢顔をされた。言えよ。何で驚かして、してやったりみたいな顔してんだよ。お前もまだ俺が相談しないで処刑場に向かったことや逃げ出したこと根に持ってるのかよ。


 そして更に


『ふむ、騒々しい一行だの』

「お前が一番問題なんだよ! なんでお前までいるんだよ!」


 俺の肩には全長五センチ程の小さなサイズになった神獣ラリアが乗っていた。

 こいつまで、付いてきやがったのだ……

 説得した筈だった。本人も了解した筈だった。なのに何故か横に居るのだ。気がついたら肩に乗っていた。指摘したら尊大な態度でこう答える。


『……少々話し足りなくてな』


 神獣と会話が出来る人間は現在俺しかいないからなのだろう。なんというツンデレ。なんという、さびしんぼう。別れる前に、下手に同情して長々と話し相手をするんじゃなかった。うずくまって頭抱えて唸れば、肩に乗ったまま尻尾でぺしぺし頭を叩いてくる。超イラツク。引っ掴んで地面に叩きつけてやろうか。 


「いやお前、他の国に行ったらまずいんじゃないか。縄張りとかあるんだろ。他の神獣と会っていきなり戦いとか始めるんじゃねえぞ。怪獣大決戦に巻き込まれて死ぬのはゴメンだかんな」

『ふむ、善処はしよう』

「善処じゃねえよ。すんなよ!」


 おい、リーダ助けろ。わざとらしく離れて、遠い目をして山を見上げてんな。これって国際問題とかにならないんだろうな。頼むよ安心させておくれ。


「お前がここにいるってことは王妃さんどうなってんだ。守ってくれって言ったろ」

『問題ない。この身は分体のひとつ。本体は離宮にある』


 何体かに分離して個別に行動できるってやつか。腐っても神様が直接生み出した不死の神獣である。

 しかし、裸の美少女妖精ならまだしも、話の通じない横柄なロリコン神獣だ。有り難くもないし、居るだけで凄い騒動を起こしそうな奴だ。そんなんいらん。誰か引き取ってくれ。


「ジョンペエ、何それ?」


 俺の肩に乗るラリアを目敏く見つけてクリオが駆け寄って来た。子供は珍しい物を見つけるのが早い。

 神獣ラリアがピクンと耳を立てて、クリオの肩に飛び移る。そのまま肩から頭へと駆け回る。その動きはまるでリスの様だ。正体に気づいたヴェゼルやアルルカさんがびびって後ずさっている。


「うひゃあ。何これ。何これー! ちっちゃーい。凄い可愛いー!」


 幼いクリオには神獣と言われても言われてもピンとこないようだ。ただ小さく愛らしい獣としか見えていないらしい。ノッて来たラリアがキュオーンとか可愛いで鳴きだす。お前今どっから声を出した。獅子のプライドはどこへ行った。


『おお、おお。愛い反応であるぞ』


 恍惚とした表情でラリアがクリオの頬に顔を擦り寄せる。気づかないクリオがきゃっきゃっと喜ぶ。

 おいコラ、触るなロリコン。その肩から降りろ。クリオが穢れる。

 天馬王トリスの処女好きはまだ男として判るのだ。しかし幼女趣味は全然理解出来ない。俺が体育会系だからかもしれないが、変態にしか見えなくて心底気色悪いのだ。苦手とかじゃない。俺はこの変態が気色悪い。


「父上、見てー!」

「おお、どうし……うおわあ!」


 嬉々として父親に見せに走った先でヴィルダズ元団長が驚きの声を上げてる。あの人もあんなに驚くことあるんだな。


「……楽しい道中になりそうですね」

「た、楽しいか。ううん、まあそうか」


 リーダが嬉しそうに微笑んで話しかけてくるが、同意したくない気分だ。


「これならこの先も大丈夫でしょう」


 含みのある言葉に我に返る。


(あ、そうか。こいつは)


 俺はリーダを国境迄の道先案内人として雇った。契約はこの国を出るまで。もうすぐ国境に着くということは、この子と別れるということなのだ。


「契約、終わっちゃうか……」

「……そうですね」


 この世界に来て、俺が唯一信頼を寄せることが出来た仲間。今回焦って王都から姫さん達を置いて逃げたことで、結局自分はこの娘以外は誰も信じきれていないと自覚してしまった。その子との別れが来るのだ。

 この子と会えなかったらどうなっていたか、考えるだに恐ろしい。心を許せる、信頼のおける仲間が傍にいるのがどれ程ありがたいことかを実感した。自分より遥かに頭が良くて頼りになるので、たくさん助けて貰った。

 これまで俺と同じ立場で物を考えてくれる人はこの世界にいなかった。みんなそれぞれの立場があって、自分達の利益を得る為に接してきた。何処にも所属しないが故に自分と同じ立場で考えてくれる彼女は、心底安心できる存在だったのだ。

 ここで別れるのは惜しい。不安でもあるし寂しくもある。でも契約だ。名残惜しいけど、人にはそれぞれしたいこと、やりたいことがあるだろう。


「今迄ありー……いや、なんでもない」


 辛気臭いことは苦手だ。それにまだ時間もある。

 肩を寄せてきたリーダが足並みを揃える。自然と頭を軽く撫でた。


「……お前、これからどうすんの」

「そうですね……私もこの国には居られないので、一緒に国境を出ることになります」

「ふうん……………………ふへ?」

「とりあえずルーベ神殿の司教位は取り上げられてしまいましたので、一度ウラリュス大神殿にでも仕官の相談に行こうと思っています」

「…………」


 立ち止まって、あんぐりと口を開いたまま呆けると、いたずらっぽく微笑まれた。


「どうでしょうか。私は幼少の頃ですが、一度だけウラリュス大神殿には行ったことがあります。案内役は要りませんでしょうか」

「お……あ……おお?」


 リーダが吹き出した。つられてこちらも笑い出す。おそらくこの子は最初からそういうつもりだったのだ。

 かなわない。

 どうしたって、この子に頭では勝てない。そして一番頼りになるのである。


「頼むな」

「ハイ」


 肩に手を置けば、嬉しそうに小さな手を重ねてきた。


 振り返る。

 トリスタの巡礼団に偽装した王女一行。ヴィルダズ団長一行、傭兵姉弟。リーダとロリコン神獣。なんとまとまりの無い集団だろう。

 この国に入った時は俺一人だった。それが出る時はこんな集団だ。まあ、旅は一人より人数が多い方が安心かもしれない。安心なのだが……。


「あーあ……」


 自然と苦笑いがでてくる。呆れると言うか、気恥ずかしというか。


「まったく、なんでこうなったんだかなー。俺はただ早く大神殿に行きたかっただけなんだけどなあー……」

「「「…………」」」


 皆が一斉に立ち止まってこっちを見た。馬まで止まった。



 …………お前等なんでそこで黙るの。その白けた視線向けるの止めてくんない。





 先頭から声が聞こえてきた。

 

「おおーい。ヴラージュ山が見えたぞー」


 あの山を越えると国境の関所があるらしい。

 来たのだ。


(もうすぐだ。帰れる。帰るぞ日本に!)


 山を見上げる。目指すウラリュス大神殿のあるという、レンテマリオ皇国はもう直ぐそこであった。




          ◇




 異国ニッポンから来訪したという魔道士、アーヤベエ・シッバイこと大薮新平。


 彼が起こした功績について真っ先に挙げられるのは反乱軍の将校を火刑場で生き返らせた『処刑場の奇跡』である。これは長年に渡り吟遊詩人達に詠われ、数百を越える歌劇が公演される程の大人気作となった。

 助けられる者が反乱軍の将校であった為、公式の記録からは削除されている。よって、オラリア王国で彼の成した功績は只一点。神獣ラリアの復活である。しかし、それが与えた影響はオラリア王国史でも類を見ない程に大きい。

 神獣ラリアの復活により荒廃した国土が蘇えり、減少の一途を辿っていた人口が急速に回復を始める。それは国民精神へ大いなる高揚を促したのだ。



 彼が国外へ退去した同年、宗主国ドーマ王国の衰退が始まり、期を持して反乱が勃発。二年後の冬に国王ギブスン・ジラードが討たれる。女王となったレイオーネは息子のアイヤール王子が成人すると同時に八年で退位。王位を譲ると同時にドーマ王国から主権を取り戻し、国号を『新オラリア王国』へ改めた。その際、レイオーネ女王は復興を促したアーヤベエ・シッバイに『救父』の称号を贈っており、彼の功績がアイヤール王朝の始まりだと云われる要因ともなった。

 国王アイヤールは隣国トリスタ王国と国交を回復、ワウル共和国とも貿易を広め、レンテマリオ皇国へとつながる大陸行路を開いたところから、後に『豊王』の名を贈られる名君として歴史に名を残すことになる。



 王宮奥の神獣ラリアの住まう離宮には、見上げる程の大きさのアーヤベエ・シッバイの黄金像が立っている。

 普通の英雄像と違うところは、何故か片足を上げ、両手を脇で締め、少し悦に浸った表情で中空を見上げているその独特なポーズである。彼の功績同様に類を見ない像であった。

 像の碑文には、本人が最後まで否定した為、『使徒』の名は記されていない。碑文は彼の希望だったらしく驚くほど簡素な文章が記されている。


 『神獣ラリアの復活を成した異国の魔道士アーヤベエ・シッバイ。その偉業を回顧し、功績を永く後代に伝えるため、この像を建立する』


 また、碑文には後年追記がなされている。


 『愚かな女の目を覚ました導人。誰よりも凡庸を求め、英雄を厭い、故国を求めたる求道者の歩む先に感謝と祝福を』


 後年に追記されたこの一文は、レイオーネ女王の指示という説もあるが、真偽の程は不明のままである。




第二章 奴囚王国オラリア騒乱編 終了


第三章 邪神王国ドーマ 使徒大戦編(終章)へ続く。




お疲れ様でした。


いやーこの章グロくてすいません。きつかったらすいません。新平もうざかったらすいません(新平はいつもですか)

異世界召喚物の定番に沿って、普通に奴隷ゲッド、処刑場で救出劇とかの話だったんですが、背景世界が酷かった為か凄惨な展開になっちゃいました。なんでこうなるの。


 それで、次回なんですが――何も書けてないので、前回より充電することになります。申し訳ないです。

エタるつもりはありませんので、凄ーく気長にお待ち下さい。

書きたいところは、もう殆ど書いちゃったので、全然湧いてこないんですねぇ……


三章はなんだろう。軍団同士の合戦とか。戦記編?

インドの集団ダンスみたいので、踊り合戦とかしてみたいですね。(それ戦記と違う。絶対違う)


それではまたm(__)m


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