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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
2章 奴囚王国オラリア騒乱編(全26話)
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14. 大薮新平 凶報に震える

 大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎな踊り子スキルを得て異世界に召還された。王国の反乱軍に救われ、仲間に誘われるも新平は拒否。出会った少女を従者に迎え、二人は東に旅立った。そこで新平は、自分が国内で指名手配されていることを知る。賞金目当てに追われた末、新平達は傭兵を雇うのだった。




 賞金目当てに襲ってきた傭兵姉弟を護衛として雇う事になった。指名手配された今となっては、リーダと二人だけでの逃亡は苦しく、地元に詳しい協力者が必要だったのだ。また、襲ってきた時の姉弟の腕前が見事だったのもある。特に姉の方は強かった。彼女の名はデルタさんと言って、二十代半ばの大柄の女性だ。長い金に近い赤髪がライオンみたいで、見た目通りワイルドで口調も荒い。そのくせ結構な世話焼きらしく、母親や弟が何かする度に声を掛けてるので見てるとちょっとニヤニヤしてしまう。全身を皮鎧で固めているのにデカイ胸元と太腿は大きく晒しているので目の保養が止まらない。更には希少な戦乙女の紋を所持している凄腕の傭兵だ。

 弟の方はトッポと言って歳は十五だという。姉に習って傭兵になったらしいが、まだ気弱なところがあるらしく、姉によく叱られている。魔道の素質があるらしくてマナやオドを感知できてるらしい。リーダの魔力を感じて本物の司祭だと看破したのも彼である。本人は魔道士を目指したかったらしいが、魔道士になるには莫大な金が掛かるし、風聞も悪いので剣士を目指しているのだとか。姉からの評価は低く、さっさと辞めて商売でも始めろと云われている。確かに向いていそうにはないが、危険なことをさせたくない姉心が多分にあるのだろうとはリーダの評だ。


 報酬の一部として彼等の母親を治療したところ、凄い、奇跡だと手放しで感謝された。なんでも掛かった医者全員から匙を投げられ殆ど絶望視してたらしい。それが一瞬で治ったんだから確かに奇跡の所業なのだろう。足に縋って涙ながらに感謝するトッポは大変うっとおしかった。どうせ抱き付かれるならならと姉の方を見るが彼女は母と抱き合って喜ぶばかり。がっかりしていたらリーダに尻をつねられるというオチがつく。この娘もだんだん遠慮がなくなってきた。

 翌朝会ったデルタさんは目を赤く腫らしてた。母親と良い時間を過ごせたようである。昨日と違って笑みが深く、声にも張りがあって明るい。リーダが張り詰めいていた緊張が緩んだのでしょうと言ったのが印象的だった。


「それで、あの魔術は一体何なんだい? アタシは十年この稼業やってるが、あんな凄いの初めて見たよ」

「そうそう。凄っげーねアレ。見た目あんななのに」


 一言多いトッポに軽く蹴りを入れる。この子は年下だし、口調が軽いので扱いが楽だ。


「詳しくはお答えできません。この他にもいくつかの術は驚かぬ様にお教えしておきますが、道中やむをえない場合以外に、使用する予定はありません。基本はあなた方の力で、北の街アイールへ入れる様に計画を立てて下さい」

「えー、そんなあ。同行するんだから教えてくれたっていいじゃんか」

「トッポ、雇用主の守秘義務って奴だよ。しっかりしてんね司祭様。ちっちゃいのに」

「馬車の足代や宿代はこちらで用意できますが、兄様は馬に乗れませんので注意を。関わる人員は最小限にしておきたいので、基本はこの四人の移動で計画を立てて下さい。あと小さいは余計です」


 相手に流されずに要求を述べていくリーダ。自分が話すと余計なことを口走るので交渉はリーダの役である。うんうんと頷いていたら俺まで軽く睨まれた。いや、お前確かにちっちゃいだろ。


 治療して貰った礼をしたいというお母さんの誘いを断り、急ぎ馬車を手配して四人でアイールに向かう。トッポは病み上がりの母親に付いていたいと駄々をこねたが、当の母親に恩を返してこいと蹴りだされた。あの姉にしてこの母であった。

 下準備として、黒髪黒目は目立つとの事で、染料を使って髪を赤毛に染められる。真っ赤である。まさか異世界でヤンキーになる日が来るとは思わなかった。このまま帰ったら母親達にどんな反応されるか想像するだに恐ろしい。

 更に道中はずっと頭に布を巻いた上に外套まで被せられる。馬車の中でさえ外すのを許されないくらいデルタさんの指示は徹底していた。胸はデカイくせに指示は細かい人である。町間の検問は、リーダが渡した金を地元民のデルタさんが門兵に掴ませて難なく通過。異世界だろうと世の中結局金とツテである。世知辛い話であった。

 馬車内でもずっと隠れているので結構辛い。自分の苛立ちを察したリーダが間食等を差し入れてくれたり、旅の話題を振ってくるので気が紛れる。本当この娘には助けられている。危険な目に会わせているは心苦しいが、あの時に意地になって同行を拒否しないで良かったと思う。


「お前には本当迷惑かけるな」

「とんでもありません。お役に立てて何よりです」


 格好良いやりとりであるが、返している方が小学生くらいなので台無しである。傭兵姉弟にも頼りない兄ちゃんだねと囁かれマーチス、マーチスと連呼される。だから誰だよそいつ。


 都市アイールにあっさり入ると、少し町が騒然としてる感じがした。聞けば今日、火炙りの刑が執行されるというのだ。……またか。


「……兄様」

「分かってる。首を突っ込むなって言うんだろ。 ……分かってるよ」


 しかし気は重い。あの時は助けて今度は見捨てるのかという言葉が脳裏をよぎるのだ。そうじゃない。火炙りの刑は、この国の法制に則ったもので、気に入らないからって俺が口出してはいけないのだ。無視して正解なのだ。見て見ぬ振りするのが正しいのだ。


「……っ」


 自分の苛立ちを感じたのか、リーダがそっと手を握って宥めてきた。優しい子である。

 リーダが刑場に近寄らないように指示をして、そのままデルタさん見知りの宿に向かう。馬車内から市街を見れば、広場に向かって何人もの市民が歩いていた。嫌な光景だった。


「まったく、ふざけた話だよ。何百年前の話だってんだよ」


 吐き捨てたデルタさんを見て少し安心する。自分から見ればここは中世の世界なんだが、この世界の連中にとっても火炙りは古く野蛮な風習であるらしい。感性が同じなのはとてもありがたい。そして、不思議なことでもある。


「ふざけた話なのに、なんでみんなで見物に行くんだろな」

「兄様……火炙りに立ち会う者の多くは義務とされているからです」

「……はあ?」

「納税が滞っている者、危険視された者等、徴税管に命令された者達は刑の執行に立ち会う義務があるのです。石を投げ罵声を浴びせているのは前回納税が危なかった者達で、殆どの者が好きでしているのではありません。あれは未納した場合には次は自分達がこうなるぞとの脅しも兼ねているのです」


 唖然とした。リーダを火刑場から救おうとした時、俺の言葉を聞いても誰も動かなかったのはそういう訳でもあったのだ。彼等も追い詰められている者達だったのか。なんて胸糞の悪い話だ。見れば姉弟も苦い顔をしている。

 全ては無茶苦茶な税と刑罰が原因だ。この国はおかしい。誰も彼もが苦しんでいる。


「高いよなあ……」

「まったくだよ。あんな税馬鹿げてるよ」


 気を許しつつある姉弟の口も軽くなってる。傭兵達も納税の取立ては厳しく、姉弟は母親が寝たきりだった為、姉のデルタさんは馬車馬のように働いているらしい。


「この国どうなっちまうんだろう……」


 トッポの陰鬱な声に答える者はいない。喉の奥がいがらっぽく感じ、胸元を押さえるとリーダが水袋を差し出してくれた。


「そういえば西の都市グランデールで、反乱軍が火刑場に現れ審問官達を全員叩きのめしたっていうじゃんか」

「ぶほっ!」


 吹き出した。リーダが慌てて背中を擦ってくる。思わず顔を見れば苦笑いしている。やっぱり俺達のことなんだろう。誰だよ叩きのめしたって。話が盛られてんぞ。


「痛快だよなあ。こっちでも起きないかなぁ」

「馬鹿。にしても連中未だ息あったんだね。すっかり壊滅したと思っていたけどさ」

「……壊滅って?」

「ああ、あんたは知らないのかい。西方の反乱軍は三ウィヌ(年)前と七ウィヌ(年)年に大掛かりに討伐されたんだよ。まだ残ってたとは驚きさ」

「……」


 確かにヴィルダス団長は何代目かと言っていた。彼等は何度も敗退してたのか……


「あーあ……何処でも良いから、連中が王政を討ってくんないかなぁ」

「トッポ。めったなこと言うんじゃないよ」


 流石に不穏な発言にデルタさんが弟をたしなめる。密告や聞き耳を警戒しているのだろう。それはこっちも同じだ。自分が反乱軍の一味にやっかいになっていたどころか、火刑場に乗り込んだ張本人だと、こんなところで話す訳にはいかない。

 それにしても、クリオ達はそんな厳しい状態なのか。


「リーダ。クリオ達反ら……連中は、勝て……いや、ちゃんと生きていけると思うか?」


 姉弟の前なので少し濁して聞いてみる。しかしバレバレだったみたいで、気づいたトッポが突っ込もうとしてデルタさんに黙らされる。そして、リーダは暗い表情で首を横に振る。

 えー……、ええーっ。


「難しいと思います。年々税の取立ては厳しくなっており密告も奨励されています。現にエンデールやスウェンデールの分隊は密告により討伐されたのですよね」

 

 クリオ達が焼け出されて町を逃げ出した件だ。それで彼女達は奴隷狩りに捕まり俺と出会う事になった。


「自分達から騒動を起こさない限り、本来積極的に討伐軍が向けられる事はないでしょう。しかし、先日の一件で討伐隊の騎士団一部隊を失ったサウール領主は黙っている事はないでしょう」


 討伐隊が出て俺達は追われる事になった。そして、その討伐軍は俺の目の前で反乱軍と戦って壊滅した。


「各地の名主が彼等を保護し支援しているようですが、それも領内の魔獣討伐や街道の治安維持が滞っていることによる利害関係からなのが大きいのです。そのバランスが崩れれば、即時討伐軍を招くことになるやもしれません」


 団長達のいる都市グランデールでも、微妙な均衡のうえで滞在できているということなのだろう。


「既に国軍との彼我の戦力差は決定的です。彼等が王都に攻め上り乱を起こしたとしても、成功する見込みはかなり薄いでしょう。仮に奇跡が起きて現国王と政権を打倒できたとします。それでどうなるとお思いますか」


「どうなるって……今より良くなるんじゃないの?」

 

 話を横で聞いていたトッポが、きょとんとした顔で口を挟んでくる。


「いいえ。確実に悪くなります。敗戦から既に十トゥン(年)以上が経ち、国軍や政体の上層部、各領主は全て親ドーマ派になっています。そしてドーマ自体も南に健在なのです。各地の領主は反乱軍討つべしと軍を挙げ、内戦が始まるでしょう。そうしなければ彼等自身が成り立たないからです。仮にそれさえも下したとしても、今度はドーマが軍を引きいて攻めてくるでしょう。神獣も身隠れ、内戦で疲弊しきったわが国ではとても対抗できません」


 聞いているトッポの顔色がどんどん悪くなる。


「二度目の侵攻は旧オラリア王国派を殲滅するまで止まらないでしょう。各地で以前よりも凄惨な炙り出しと弾圧が起きるのは間違いありません。そして再び敗戦した後には、次の国王候補がドーマから来て王女と再婚し新たな王と成ります。結局今までと何も変わりません。いえ、更に過酷な生活が我々には待っているのです」


 リーダは恐いことを淡々という。神殿で説法を開いていたというだけで、ここまで政治にも詳しくなるものなのだろうか。それともこの分析力は本人の資質で元来視野が広いのだろうか。とにかく話が分かりやすいだけに救いの無い話だと分かる。トッポが半泣きで声を荒げた。


「そんな……じゃあどうすれってんだよ!」

「生き延びることだけを目的とするならば、国を捨て国外に逃げるべきです。現国王の政を見る限り、彼の後ろにいるドーマは我が国を属国として扱う様子は見えません。死滅しても構わないから絞り取ろうとしている風にしか見えないのです。足が動くのなら国外へ避難すべきでしょう」

「そ、そんなのおかしいよ!」

「その通りです。通常属国とした場合は税制を改め治安回復を進めます。それが逆に強められ国民が次々と倒れています。国王ギブスン・ジラードが敵対していた我々国民を嫌っているからだと言う者もおりますが、それだけで十トゥン(年)以上政策が変わらないのはおかしいのです。まだ神獣ラリアが身隠れになり、土地からの収穫が先細るのを嫌がって短期的な収益を得ようとしていると考える方が理に適っています。どちらにせよ現状のまま進めば、この国には滅亡しかありません」

「そんな……」

「フン、胸糞悪い話だね」


 呆然とするトッポと吐き捨てるデルタさん。彼女も反論はしないということは、リーダの言う事にある程度真実があると認めているということだ。

 自分の住んでいる場所に未来が無い。生きる為には国を捨てて国外に逃げるしかないという話にトッポは呻いて震えだした。想像以上の危機感を実感したのだろう。姉のデルタさんが不機嫌そうに弟の頭を抱き寄せる。


「現在オラリアは属国より悪く、奴囚国家と成り果てています。ドーマ本国の政策を転換させない限り、この国の窮状を救う手立てはありません。残念ながら反乱軍は……。いえ、この国も遠からず滅びる事になるでしょう」


 リーダの重い言葉に皆が黙り込む。二人に話しかける言葉が浮かばない。

 ふと、自分の足に貼り付いてはしゃいでいた、クリオの笑顔を思い出した。




 デルタさん最寄の宿に着いて一休み。自分は顔を見られる訳にはいかないが、下手な化粧や変装では逆に怪しまれる。仕事に失敗した傭兵見習いを装って、化粧ならぬ泥化粧で顔を埋め外套を被ってへろへろな体で担ぎ込まれる芝居をうった。巻き添えを食ったのは、自分を背負って泥にまみれたトッポである。散々文句を言ってたが、料理食べ放題の一言であっさり黙った。扱い易い弟である。

 休憩していると、新しい情報を仕入れてデルタさんが帰って来た。

 ひとつは隣街ラィールで発見されたのが知られていて、この街でも自分は手配されてたそうだ。賞金目当てにうろついてる連中もいるらしい。もうひとつはグランデールの市長が反乱軍と通じていると判明し捕まったという話だ。


「「……」」


 リーダと顔を見合わせる。反乱軍を匿っているのがバレたとすれば、ヴィルダズ団長やクリオ達の安否が心配だ。話し合いをしてても全然集中できない。ちょっと行って見てこようか。今の自分には瞬間移動がある。瞬間移動でさっと市長別邸まで飛んで、中を少し覗いて戻ってくるなら大丈夫じゃないだろうか。


「危険です。まず邸宅に彼等は残っていないでしょうし、逆に見張りを置いている可能性が高いです」


 当然リーダは反対する。分かっている。


「我々は彼等の仲間ではありません。道を違えて別れた以上、関わろうとするのは筋違いです。逆に我々が彼らに接触しようとすることは彼等を危険に陥れます。彼等も十トゥン(年)以上、地下活動している組織です。対策は取っているでしょうし、早々捕まる事はないでしょう。仮に捕まっていたなら市長逮捕ではなく、彼等の捕縛が報じられている筈です。それが無いという事は無事に逃げおおせたと考えて大丈夫だと思われますが」


 分かっている。分かっているのだそんな事は。

 でも気になるのだ。じっとしていられないのだ。思いついてしまったら、動かずにいられないのだ。


 立ち上がるとリーダが溜息をつく。


「兄様はお人が良過ぎます……」

「そっかな」


 善人というよりは、堪えの効かない子供なのだろう。駄目な人間だという自覚は一応ある。


「じゃあ、ちょっと見てくる。すぐ戻るよ」

「私も同行します」

「いや、ちょっと行って来るだけだぞ」

「いけません。現地で何があるのか分かりません。仮に着いた途端に囲まれたらどうされるおつもりですか。私が一緒なら少しは対処の幅が広げられます。それに雇った彼女達はどうされますか。戻って来た後のことも調整しておかねばなりません」

「うーん……」


 言い合いになれば負けるのは常に自分だ。深く考えてないんだから当然だろう。確かに現地で何かあったとしても、この娘がついてれば正直心強い。俺の我侭で危ないところに連れて行きたくないんだけどなあ……今更か。


 ぽかんとしてる傭兵姉弟に簡単に説明して、もし明日朝までに戻ってこなかったら契約は解除と話す。デルタさんは説明を求めたてきたが、リーダが上手く説得してくれた。早く行こう、もう夕刻になる。暗くなったら、この世界はすぐに動けなくなるのだ。


「よし、行くぞ」

「はい」


 最低限の荷物を持ったままリーダをおぶる。


「ミッ、ミッ、ミミミミィーッ!」


 突然奇声を上げて飛び跳ねだすので姉弟が慌てだす。しまった。この踊りの説明をしてなかった。


「ちょっ、床、床抜けるよ。静かにしてよ!」

「ぶははっ! 何それ。それも魔術なの?」


 二人の言葉を背に受けながら、グランデールの市長別邸に飛ぶ。



 当然、飛び去った後に顔を見合わせ、大騒ぎする姉弟の姿は見られなかった。



              ◇



 市長別邸はまるで放火されたように焼け落ち、焼けた建物の臭いがくすぶって荒れ果てていた。

 廃墟と化していたのだ。


「「……」」


 リーダと二人、声を失ったまま焼け落ちた建物を見上げる。気がつけば手をつないでいた。傭兵団の皆と逃げ込み、リーダを介抱して過ごした場所が見る影もなくなっていた。まだあれから二ケ月と経っていないのに……。


「火を放たれたようですね……」


 崩落の危険があるので中に入るのは危険だと止められる。仕方なく窓から中を伺うが、酷い状況で何がなんだか分からない。


「……死体は見当たらないようですが」


 一緒に覗いていたリーダの言葉に少しだけ安堵する。よく分かるな。自分にはみんな黒い残骸で何がなんだか分からないぞ。ついで、死体が出ていたら、ここではなく火刑場のあった広場に見せしめとして吊るされている筈だと言われる。納得すると同時に、もしあったらと思うと気が重くなる。

 さて、ではどうする。廃墟と化した邸宅の中には入れない。このままここに居ても、もうすることは無い。


「……街で噂を聞いてみますか?」

「いいのか?」


 頼む様に聞き返す。街の中は警戒体制が取られているだろう。下手にうろつけば危険だと言うリーダの意見も理解してる。でもこのまま帰りたくない。

 リーダの承諾を受けて、街への林道を二人で歩きだす。


「見つけてどうなさるつもりですか?」

「うーん……どうするつもりもないんだ。じっとしてられなかっただけなんだわ。無事でいる情報を聞いて安心したいんだと思う。ごめんな、こんなんで」


 瞬間移動という足を得てしまったので、気になったら即走り出せてしまえる。自分としては助かるが、正直、旅の案内役として雇われたリーダからすれば、えらい迷惑な話だろう。


「お優しいのですね」

「うええ……いや、本当迷惑かけてすまん」


 褒められると逆に申し訳ない。これは優しいとはちょっと違うと思う。

 

「それでも彼等の列に加わる気はないのですね」

「そりゃそうだよ。殺し合いなんてまっぴらだし。難しい政治の話は分からんもの。連中の事情は分かるし可哀想だと思うけど、こっちも巻き込まれてる場合じゃないしな」


 その割には何度も舞い戻って首を突っ込んでいる。言葉と行動が合っていないんだよな。理屈で物事を考える人から見れば俺の行動は矛盾だらけだ。見ていて、さぞイライラすることだろう。


「では何故?」

「あー……、なんでだろなあ……」


 溜息ついでにへたり込みそうになる。

 たぶん自分は、知り合った人が、世話になった人達が悲惨な目に会うのが嫌なんだろう。それを見たくないだけなんだろう。

 処刑されそうなところを助けて貰ったリーダから見れば、自分は凄い善人に見えている。だからやることなすこと人が良いと思えるんじゃないだろうか。本当は嫌なものを自分が見たくない。なんとかしたいという、ただの子供じみた我侭で動いているだけなんだ。


「……振り返らないで下さい。追って来てる者がいます」

「……!」


 裾を捕まえれて警戒を促された。凄いな。どうやって気づいたのかさっぱり分からない。


「どうしますか。捕まえて尋問しますか。それとも排除しこのまま街に向かいますか。ただし、ここに居た以上は処刑場でも監視の者が配置されていることは間違いないです。かなり危険な事態になるのは覚悟して下さい」

「……」


 追っ手の人数までは分からないとリーダは言う。どうすべきか。

 このまま進んで敵に囲まれたら危ない。戦うといっても殺し等はしたくない。眠らせて、起きたところを魅了の踊りで吐かせようか。でも魅了は常に効くかは相手次第なんだよな。その上、一度捕らえたら、そいつが起きだすまで連れて逃げないといけない。敵が何人いるか分からないこの状況では結構危険な賭けだ。

 街まではまだ遠く、無事着いても監視は居るという。危険を冒して街に入っても、クリオ達の情報を得られるとは限らず、広場に晒されているかが分かるだけだ。


「……宿に戻ろうか」


 考えた末に捜索を断念する。


「よろしいのですか」

「人数も分からないんじゃ、このまま進むのはマズイよな。広場に晒されているかどうかだけなら、近くの町でも噂話で聞けるだろうし、諦めて逃げよう」

「……お役に立てず、申し訳ありません」

「あ、いや。助かってるって。ゴメンな。こんな無駄なことにつき合わせて」

「無駄なこととは思いません。親しくした者の安否を気遣うのは、人として当然のことと思います。私も気になっておりました。建物の様子は悲しかったですが、代わりに無事だろうとの確信が持てました。ここに来れて良かったと思います」


 気遣いが嬉しい。

 追っ手が姿を現して襲ってくる前に、再び【天翔地走あまかけるランドランナー】で瞬間移動。

 市長別邸から監視していた人物は、突然奇声をあげて踊りだした挙句に消えた二人組を見てさぞ驚いたことだろう。




 一度近隣の村に飛んで、噂を聞いてから姉弟の待つ都市アイールの宿に飛んだ。話では反乱軍が捕まって殺されたという話はなかったので、リーダの言う通り、ここは無事に逃げおおせたと考えておくとしよう。


「うひゃあ! いきなり出てくんなって!」

「うわあ! っどろいたあ!」


 宿で姉弟の激しいリアクションに迎えられる。


 デルタさんに改めて説明を求められた。リーダが『グランデール市長と親しかった者と知古だったので、安否を確認に行った』とだけ説明する。完全には納得した風ではなかったが、雇い主への気遣いとして追求は止めてもらえた。


「というかさっきの一体何。エセ司祭様達消えたよね? それでグランデール行ってきたってことは空でも飛べるの?」


 トッポがとても司祭と思えないということから妙なあだ名で呼びだした。止めろコラ。おまえなんかポッキー菓子だろうが。そう呼んでやろうか。

 瞬間移動が出来ると説明したら姉弟揃って大騒ぎ。


「すっげーな! あんな病気を治せたり、離れた場所にも飛べるなんて!」

「本当にあんたら只の司祭なのかい。 ……もしかして、本当はもっと偉い方だとか?」


 単純に昂奮するトッポと違って、守秘義務を越えて疑念を抑えられないデルタさん。どうやら難病を治した所為で司祭の関係者と思い込み。見たことも無い力を奮うので、もっと偉い人じゃないかと勘違いしているようだ。バックの底に潰れていた、現国のテスト三十二点を見せたらどう反応するかちょっと見てみたい。


 リーダが適当に誤魔化して、その晩は早めに休む。傭兵姉弟が交代で見張りに立ってくれているので、夜も安心なのはありがたいことである。

 朝方に酷く嫌な夢を見て飛び起きた。あのグランデールの市長別邸を騎士団の連中が囲んで火を放ち、火と煙の中でクリオやヴェゼル、女房達が泣き叫び倒れていく夢だった。火に焼かれ、建物から逃げ出した者達は次々と待ち伏せしていた騎士団に射殺され、または切り捨てられていた。


(正夢じゃないだろうな)


 汗びっしょりで飛び起きて吐き気を抑える。

 日本でなら笑い話にできたが、ここではありえる話なので洒落にならない。重い不安が胸に圧し掛かった。リーダは建物の中に人の死体は見えないと言っていた。近くの町の噂でも討伐された噂は聞かなかったので、逃げおおせたのは間違いないのだろう。でも本当にそうか。さっきのは正夢でないと言い切れるだろうか。自分はこの世界に召還されて訳のわからない能力を得ている。あの夢が何かを予知した結果だという可能性もゼロではないのだ。それともこれは、自分が不安から悪夢を見ているだけなのだろうか。

 つられて起きたリーダになんでもないと手を振ったが、彼女も心配気な表情でこっちを伺っている。


 いっそのことクリオを召還して無事を確認しようか。彼女の髪を編んで中に仕込んだ腕輪は今も身につけている。召還することは可能なのだ。しかし、親元に無事でいるのなら下手に召還するのは迷惑でしかない。逆に親元から引き離すことになってしまい、先方も大騒ぎになるだろう。一度引き離せば合流するために今度は連中の跡を追って探しださないとならなくなる。とてもこの手は使えない。


(無事でいてくれ……)


 結局、今の自分には祈るしか出来ない。



 日が昇ったが移動は人目を避けるので夕刻過ぎだ。自分はそれまで一歩も外に出られない。食事の後に姉弟は新たな情報を得る為に外出、部屋にはリーダと二人きりだ。宿の者には怪我をして看病してるといってるので不審がられてはいないようである。

 しかし、昨日の件と朝方見た夢が気になって、リーダとも話が弾まない。


「――!」


 突然建物の外から奇声が聞こえ、外が騒々しくなった。びくりと飛び上がって聞き耳を立てるが、外の声は聞き取りにくい。窓から外を眺めていたリーダが説明してくれる。


「どうも男が何かをしたか、または見つかったようですね。街の衛兵に取り押さえられて、連れて行かれました」

「そうか……」


 自分達には関係なかったと安堵する。その後にぞっとした。反乱軍の連中はずっとこんな人目におびえる生活をしているのか。

 この国はおかしい。敗戦した後に取られた異常な政策で国民達はどんどん死んでいる。しかし既に反乱を起こす力も残ってなく、頭の良いリーダから見れば手遅れな状況だ。生きる為には国外へ逃げるべきとまで言われてるのだ。

 

「本当にこの国が良くなる方法ってないのかな……」


 ぼそりと呟いてしまったが、珍しくリーダから返事はない。


「あ、悪い。なんでもない」

「いえ……」


 無神経だった。先日の彼女の説明で、そんなのは無理だと判っているのだ。それなのに聞き返されるのは、この国の人間である彼女にとっても辛いことだろう。

 夕刻、日が落ちる影に紛れて宿を後にする。馬車に乗り込み向かう先は都市の東門前の宿屋だ。既に昼間に傭兵姉弟によって予約は終えている。彼女達とは明日街の門を無事抜ければ契約終了、そこでお別れである。

 トッポの今日の苦労話を聞き流しながら、御者台の隙間から市街を覗き見る。こうして見ると新築の建物はまったく見当たらない。開いている店も少ない。トリスタ王国と比べ、街の活気が明らかに劣っているし治安も悪い。そしてリーダの話を聞くには、この街も今まで来た村々にも明るい未来は無く、滅びが待っているのだという。


「二人共どしたん。最後の夜だってのに暗いじゃん」


 宿に着いて部屋内で四人、明かりを囲んで最後の食事をする。こっちの金で腹いっぱい食事にありつけるのでトッポは喜んでいる。彼にとっては良い物を食べてるのに黙り込んでいる自分達が不思議でならないのだろう。姉のデルタさんは何か察してくれているのか、肩をすくめるだけだ。リーダが気遣わせな視線を向けてくるが、不安を飲み込めない自分は明るく返せない。

 しばらく黙っていたリーダが、思い切ったように顔を上げ、声を掛けてきた。


「兄様……本当に、この国をどうかされたいとお思いですか?」


 リーダの言葉に、自分だけではなく傭兵姉弟も興味深そうに顔を向けてきた。

 じっと見つめているリーダに頷き返す。良くなって欲しい。出来ることならなんとかしたい。それは確かだ。


「ひとつだけ考えがあります。反乱軍に加わらず、乱を起こす訳でもなく、この国の状況を少しだけ良い方向に進める策。しかも、これは間違いなく兄様にしかできないことだと思います」

「……どうするんだ?」

「身隠れになった神獣ラリア様を、兄様が復活させるのです」



次回タイトル:大薮新平 王都潜入

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