表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
2章 奴囚王国オラリア騒乱編(全26話)
44/100

07. 大薮新平 殺人を犯す

 大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎな踊り子スキルを得て異世界に召還された。行き倒れた末に騙され、奴隷として売られたところをある傭兵団に救われる。介抱を受け、改めて東を目指した矢先、今度は何故か領主の私兵団ドルア西方騎士団に襲われた。その原因は彼等傭兵団の正体にあった。彼等の本当の名は『新生オラリア解放軍』国政への反乱軍だったのだ。新平は急報を告げるべく団舎へと瞬間移動する。




 自分のもたらした情報で、団舎に残っていた人達は騒然となった。とても信じられる話ではなかったが、俺がマークさんから聞いた『新生オラリア解放軍』の名を出すと皆の表情が変わった。その名を知っているという事はマークさんが俺を信頼した証拠だ。話の信頼度が跳ね上がった訳だ。


「まずい。本当にいやがった。裏手にもだ。囲まれてる」


 外に確認に出た男が青い顔で戻ってきた。


「何人いるんだい?」

「わからん。しかし二箇所隠れてるのを確認できたから、こっちの人数を考えても十人近くはいるだろう。全員が一気に突入してくるとは限らんが……」

「十人……」


 皆が青くなる。クリオも自分との再会に喜ぶ暇も無く女房の一人にしがみついておびえている。

 団長や男達は魔獣討伐に向かい、まだ帰ってきていなかった。ここに残っている者は女子供老人が大半だ。男でも怪我や年老いて引退した者か、戦い以外を生業としている者達ばかり。戦える者は四名もいない。厳しい状況になるのは避けられないだろう。知らせはギリギリ間に合ったのだが、事態はまったく好転していなかった。

 団舎のロビーに集まったのは全員で十四名。女子供老人が主体で十四名もいるのだ。これからどうするか。

 沈黙の後、老人の一人が呻くように決断した。


「わしとインシグで囮になる。お前達は女達とクリオ様を連れて逃げろ」

「じいさん無茶だ」「俺も出る」「お前は皆を守るんだよ!」「駄目よ。相手は十人以上いるんでしょ、皆殺されちゃうわよ」


 ロビー内が騒然となる。


 自分達が会った騎士団本隊はまだ到着していないようだった。しかし討伐にでた仲間達も戻って来ていない。ここは自分達だけで切り抜けなきゃならない。

 男の一人が嵌められたと愚痴る。今回の討伐依頼は領主の依頼案件で少し遠い場所らしかった。騎士団が襲撃し易い様に遠ざけたのだ。彼が言うには、今ここに来ているのは先遣隊。おそらく夜襲を掛けて女子供を人質にとって男達は殺害。後続で来る騎士団本隊に合流し、後から団長達がのこのこ町に帰ってきたら人質を盾に投降を促す腹だろうと言う。

 傭兵団の皆が投降してくれれば戦わずに事が楽に済む。抵抗しても騎士団で殲滅する。最終的には誰一人生かすつもりは無いだろうとも言う。


 成る程。討伐と言っても、馬鹿正直に騎士団が団舎を囲んで市街戦を始める訳じゃないのか。ちゃんとより楽で確実な作戦を立てているんだ。厄介なことだ。


 さっきの瞬間移動で全員飛べればいいんだが……無理な気がする。何度も飛び上がって、空中で身体ごと光の中に飛び込むんだ。幼児一人をおぶさるとかならまだしも、誰かを抱えてなんて無理だ。おそらく自分一人でしか移動できない気がする。じゃ、どうする。待ち伏せて睡魔で眠らせるか。しかし夜襲を掛けてくるだろうと言ってるぞ。何時何処から何人来るか分からないんじゃ話にならない。踊ってる最中に次々周囲から襲われたら終しまいだしな。攻勢にでようにも、こっちは女子供が多くて動けない。足の悪い人や老人だって居るのだ。基本方針が防衛しかない。

 下手にこちらから接触すればその場で戦いになるかもしれない。まともに戦うのは無理。迎え撃つにしても何処から来るか分からないので難しい。そうなると使える手は……


「逃げよう。一つ手がある」


 使うのは【失笑と失影のサイレントターン】だ。

 全員で集まって姿を消して逃げる。自分は誰かに抱えてもらう。問題は、アレは掛かっている最中は構造物に触れられない事だ。最初に一度出入り口のドアを開けてから踊り、姿を消して屋外に逃げ出しても、最後にドアが閉められない。不審に思った連中が調べに来る可能性が高い。

 それでも後手に回って待ちに徹してたり、無謀に突っ込むよりはよっぽど良いだろう。


 まだ夜まで時間がある。まず実演してから説明だ。

 半数に背中を向けてもらい、こちら側半数に【失笑と失影のサイレントターン】で姿を消して数秒後に解いて姿を現す。それを交代で二回実演。皆、大騒ぎになった。


「すげえ」「なんだいそれ」「これが魔法ってやつなのかい」「初めて見たよ」「魔法ってさ。こうなんか火とか光とかでるもんじゃないのかい?」「どうして踊らないといけないんだい?」

「……」


 今はそれどころじゃないだろう。うん、聞くな。な。話が面倒になる。


 とりあえず、この踊りの特徴を説明する。対象が見ていたら掛からない。踊り最後のポーズを解いたら解除される。消えてる最中はこっちから触れないが向こうからも触れない。声も向こうからは聞こえなくなるので、消えてる最中は相談できる。皆神妙な表情で聞いていたが


「ほえー……すんごいんだね」「やるもんだ」「なんで、そうなるんだい」「どうして踊らないといけないんだい?」


 だから聞くな。な。


「こう、こうかな? えいっ、えいっ!」


 クリオ、皆が興奮してるからって真似して踊るな。くるくる回るな。恥ずかしくて死にたくなる。ヴェゼルも褒めるな。終わらねえだろが。

 そこへ窓際で外を警戒していた男の叫び声が響く。


「まずい! 連中が動いた! 来るぞ!」

「「!!」」


 皆は一斉に顔を突き合わせる。

 しまった。間抜けを晒した。初めて魔法のような現象を見て、全員が興奮して騒ぎ過ぎたのだ。

 それを、こちらが気づいたのかも知れないと感じ、連中が行動を起こしたに違いない。的は十人近くと言っていた。夜襲を掛けず正面から来ても、彼等の戦力なら制圧できる。


「ど、どうすんだ?」

「四…六人いやがる」

「六人……」


 皆が息を呑んだ。十分多い。正面から来ても六人相手じゃ戦ったら厳しい。 ……いや待て。正面から来るならバリケードで突入さえ押さえれば、その隙に眠らせれるんじゃないか。


「大丈夫だ、固まって来るなら【睡魔の踊り】っていう眠らせる踊りが使える。テーブルとかを入口に置いて塞いで五秒。五つ数える間だけ防いでくれ」


 皆に協力してもらい、テ-ブルをずらして扉の前に置いた途端、扉が叩かれた。


「我らはドルア西方騎士団の者だ。勅使である。戸を開けよ!」


 皆が顔を見合わせる。直ぐに返事すべきかどうか。少しでも時間を稼いだ方が良くないだろうか。女達は身を寄せ合って壁際に引いている。男達は武器を後ろ手に隠し持ちながら顔に緊張を走らせる。ヴェゼルも剣を取り出したが女達に止められている。

 皆が黙り込んで息を呑んだ。


「いるんだろう。分かっているんだぞ。おい!」


 堪え性が無いのか、戸を叩く音はすぐに強くなった。緊張に胃が縮む思いだ。


「早く開けるがよい。プロナード子爵の勅使である!」

「……な、なんじゃいのぅ、こんな夜更けに。いんま行くからのう」


 じいさんが名演技をしながら、ゆっくりとドアに近づく。男衆と俺に目配せをして、ドアノブに手を掛けようとしたその時。突然、裏手からドアを叩き、蹴破る音が響いた。 


「!?」


 皆がぎょっとして裏口方向を振り返る。裏口からの襲撃だ。二段構えなのか。逃がさないよう入り口両面から乗り込んで来て襲うつもりなんだ。ドアの木板が蹴破られた音がした。続いて鍵を外そうとしている音。ここまで乗り込まれるのは時間の問題。ヴェゼルが一人で小剣片手に裏口に行こうとして、女達に慌てて抱き止められる。ドアを抉じ開けて、ドカドカと歩いてくる音が迫ってくる。


「どうした! 早く開けろ!」


 玄関を叩く怒声もヤバイ声色になってきた。蹴破ってきそうだ。爺さんが開けるべきか戸惑った顔を向けてくる。でも、裏からも来てる。玄関の連中に踊ってる最中に後ろから来られたら間に合わない。【睡魔の踊り】は使えない。ならば、方法はひとつしかない。


「消えてやり過ごすぞ!」


 両手を広げ、足を交差、アヒル口でスピンターン! そして素早く両手を屈伸!


【失笑と失影のサイレントターン】


「「!!」」


 皆の姿が透ける。

 その直後、裏手から武装した男達がロビーに乗り込んできた。







「いないぞ?」「どこだ!」


 団の女性達が身を寄せ合って息を呑む。男衆達は意味が無いと知らぬまま兵士達に剣を向ける。

 【失笑と失影のサイレントターン】で姿を消せば、襲撃してきた連中には認識できない。視線は新平達を素通りし、扉の前にテーブルが置かれ、玄関が塞がれているのを発見する。


「気づかれたか!」「逃げたか」


 兵士達はテーブルをどかし、玄関で立つ仲間達六名を引き入れる。


「いないだと?」「どこだ?」「わからん」


 乗り込んできた兵士達は総勢で九名だった。まともに戦えば勝てそうに無い人数。兵士達は部屋を探すべく、別れて奥や二階に上がっていく。残ったのは二名。リーダーらしい男と副官のような男だ。彼等はしばらく周囲を見ていたが、テーブルを戻し椅子に座り込んだ。隊員の報告を待つようだ。


「いないぞ」「探せ」


 遠くから兵達の声が聞こえる。新平は考える。


(このまま無事やり過ごせればいいんだが……)


 しかし、ここで団員の男が新平に小声で要求する。


(坊主、魔法を解け。今なら殺れる)

(!?)


 目で問い返せば、団員の男達は刃物を構え、テーブルに座る敵兵士達の脇や背後で構えている。顔付きで本気で言っているのだと分かる。


(馬鹿な。このままやり過ごせばいいだろが。腕が辛かろうが何時間でも我慢してみせるって。なんで戦う必要があんだよ)

(急げ。今がチャンスだ!)

(オウバヤイ!)

(そんなの騙まし討ちじゃないか。卑怯どころの騒ぎじゃないぞ)


 男達が焦れるが新平は目で拒否する。そんな事は絶対出来ない。

 それは人殺しだ。それは殺人なのだ。

 しかし、気の強い女房の一人が、新平が動けないのかと考え、近づいてきて腕を取る。


「なっ!?」


 踊りの効果が解け、全員の姿が現れた。

 座っていた兵士達が驚いて声を上げる前に、団の男達は次々と兵士の脇腹と背中に剣を突き立てた。タイミングは正確で恐ろしく手際は良かった。悲鳴を上げる口を押さえるのも忘れない。 


「がっ……」「ぐふっ……」


 少し暴れた後に兵士二人はテーブルに崩れ落ちる。 


「あんたらっ……!」


 新平が叫ぶ前に、奥から兵達が戻る足音が響いてきた。やばい。その場の全員が視線を向ける。新平は迷う間もなく再度【失笑と失影のサイレントターン】を踊り直す。再び姿が消えた。

 そこへ、兵士達が戻って来た。


「なっ、隊長!」「どうした」「来てくれ!」


 兵士達は慌てて隊長達の様子を見るが、既に話せる状態ではない。

 団の男達は頷き合って再びチャンスを待つ。気の強い女達も対抗方法を知ったので数名が前に出て身構える。姿を現した瞬間女達で手足を掴み、男達で刺そうというのだ。

 新平だけが恐慌状態にあった。怒りとおびえで、アヒル口の奥で歯が震えている。


(なんで、なんでお前ら殺す! 待てばいいじゃないか!)


 冷静に考えれば何時間も待って、逃げるチャンスを待つより、隙を見て倒してしまった方が早い。しかし、今迄新平は自分の踊りをこうも直接殺害に利用した事がなかった。何度と無く相手を眠らせた場合も、逃げるか相手を縛るかしていたのだ。ラディリアやイリスカも承知しており、相手を昏倒させた後は捕縛してくれていた。

 未だ直接人を殺した事のない新平にとって、自分が作った隙を襲って殺害するというのは考えもしない発想だった。自分が殺人に加担した、殺人を犯したと実感した瞬間だった。


 進入してきた兵士達は怒り狂い、そこら中をひっくり返して隠れた者を探すが誰も見つかる筈も無い。全員姿を消して傍に立っているのだ。振り回した手足が新平や女達を通り過ぎ、思わず上げた悲鳴が相手に聞こえていないのを知って、団の者達は逆に落ち着きだした。そしてどう倒すか対策を話し始める。彼等にとって戦いは日常。今ここで敵兵士達を殺さなければ自分達が殺されるのだ。

 誰も見つからないので、兵士達は再度部屋を探しに分かれた。ホールに残ったのは……三名。


(駄目だ。駄目だ。やめろ)


 新平は目で必死に拒否するが、男の合図で女が新平の腕を動かす。全員の姿が現れた。


「なっ?」「ぐはっ」「うおっ」


 女達が手足を押さえ、男達が兵士達の脇を、背を、喉を掻き切る。


「ぁああ~っ!」


 新平の泣きそうな悲鳴は届かず。相手兵士達は血溜まりに倒れた。

 騒ぎを聞きつけ、ホールの上の階から三名、奥から一名が駆けてくる。新平はショックで姿を消す踊りができなかった。団の皆の顔に緊張が走る。それでも兵士達が迫ると新平は殆ど反射的に【睡魔の踊り】を舞う。


「う……」「お……」


 怒声と共に迫って来た兵士達が、身構えた団員達の眼前で次々と昏倒する。隙を見つけた男達は止めを刺すべく飛び掛る。


「やめっ! だっ!」


 新平の声は届かない。ここで止めを刺さないと自分達は逃げられないと彼等は信じている。



 

 ……そうして、ホールには襲撃してきた兵士九名の死体が転がった。


「そんな……こんな風に……」


 新平は呆然とその死体を見下ろす。



 殺した。 ……俺が殺したんだ。



 確かに直接手は出していない。でも自分の踊りによってこいつらを罠にかけて殺したのだ。

 仕方なかった。対抗しないと皆が捕まっていた。殺されていた。自分も一緒の殺されただろう。でも殺してしまった。

 自分は殺人をしたのだ。


 床が斜めになったような気がして、その場にへたり込む。ヴェゼルが不安気にこっちを見ている。


「あ……ああっ……くっ、なんでっ……そっ」


 転がされた死体と目が合った。何も写さない空洞の様な目だ。おもわず出た悲鳴を呑み込む。

 その場にうずくまって吐いた。泣きながら地面を叩く。

 こんなつもりじゃ、こんなつもりじゃなかったのだ。


「ああっ……ああ~っ!」



 戸惑う団員達の中で、老人が新平の姿に理解を示した。この様子は戦に出て、初めて人を害した新兵によく見る光景だ。彼が説明すると皆も心得たもので、相次いで新平の背中を叩いて慰め、感謝の意を伝える。


「お前の所為じゃねえ」「お前が皆を助けたんだ」「お前のおかげだ」「助かった」「ありがとね」

 

 真っ先に襲い掛かった男が新平が新平の肩を叩く。


「そうだ。ありがとな」

「……っ!」


 新平は掛けられた手を振り払い、怒鳴りつけようとした。しかし、『ありがとう』という言葉に身体が止まる。それは万感の篭った感謝の言葉だった。


「……ぅああっ!」


 新平の嗚咽は止まらない。泣きながら、吐きながら彼は床を叩き続ける。



 大変な事をしてしまった。

 生き残る為だった。仕方ない事だった。

 それでも、大変な事をしてしまったのだ。



「ジョンペェ、どうして泣いているの?」 


 痛ましそうに皆が見守る中、クリオだけが新平の慟哭の意味を理解しない。幼い彼女には、襲ってきた敵をやっつけたのに苦しむ新平の考えが理解できないのだ。


「……あんたも大きくなると分かるよ」


 女房の一人がクリオを抱きしめて宥める。ヴェゼルは痛ましそうに新平を見詰めている。新平は泣き崩れたまましばらく動けなかった。



             ◇



 何時までもここには居られない。慌てて皆で逃亡の準備を始め、荷物をまとめ団舎を出た。駆け足ながらも振り返って自分達の家に別れを告げる団員達。完璧に夜逃げである。

 新平は青い顔で一緒に歩く。精神的なダメージから立ち直れていなかった。若い男が肩を貸して何やら声を掛けているが全然聞こえてはいない。ヴェゼルはそれを不安そうに見ながら足の不自由な老人に肩を貸していた。クリオは女房の一人に手を引かれている。

 町の出口で多少のやり取りがあったが問題なく出る事はできた。

 どこかで隠れてやり過ごす手もあったが、すぐ近く迄ドルア西方騎士団が迫っているかもしれない。町を封鎖されれば脱出は困難になる。故に一行は町からの脱出を決意したのだ。

 今は夜中。これから魔香を焚きながら夜を徹して歩き、一刻も早く暁の傭兵団の団長達に合流しなければならない。一度は助かって安堵の顔を見せたが、今は全員厳しい表情で北に進んでいた。

 足取りは遅い。旅慣れない女子供や年寄りがいる所為だ。残っていた馬二頭は荷物で満載である。 


「……魔獣が出たら……石を投げてでもいいから牽制してくれ。奴らが立ち止まって隙が出来れば俺が眠らせる」


 ようやく喋れるようになった新平の話を聞いて皆が手に石を持ち歩く。この対策案は正しかった。一度ならず現れたローウォルフの集団に皆で石を投げ足止めし、明かりを掲げて貰って、新平の【睡魔の踊り】で昏倒させる。皆が更に新平を見直した。戦える者の少ない今、新平は一向の戦力の中核を担っていた。

 しかし、昏倒した魔獣をすかさず殺害していく団員達に対して、新平は心から笑い返す事ができない。

 自分から進んで助けに来たのだから、当り散らす訳にもいかない。彼らにとっても自分にとっても、この殺害は生きるために必要な事なのだ。頭では判るが感情的には全然納得できない。これは理屈じゃないのだ。


 先は長い。団長達は町を三つ越えた林に向かっていたという。追っ手に捕まる前に合流できるかどうか、かなり難しいところだった。

 夜が明け、体力の限界を訴える者達が出始める。横の藪に入って身を隠し、見張りを立てて休む。しかし、新平だけは休む事は許されない。いざ襲われた時に即時踊らないといけないからだ。新平は凄い勢いで消耗していった。


 自分から助けようと決意した筈なのに。

 自分が選んだ選択だった筈なのに。


 新平の頭は殺人を犯した恐怖で一杯だった。

 何度もあれは仕方ない事だと思い込もうとするが、吐き気と嫌悪感は収まらない。

 そして翌日の夕刻。背後に騎馬隊の馬影が出現した。間違いなくザールの町の手前で出会った連中。あの軍隊だ。




 本隊に追いつかれたのだ。


次回タイトル:大薮新平 限界を越えて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ