02. 大薮新平 虜囚となる
「るーるーるるるー」
体育座りで地面にのの字を書く。
町には入れました。
真っ直ぐ町外れの小屋に連行され、尋問されて牢屋に放り込まれました。
牢屋の床は土で、用足しの臭い小箱が隅に放置されています。臭いです。冷たいです。荷物は没収されました。
「怪しい物がなければ返すから」
と最初は言ってくれましたが、ここの世界の人にとっては怪しい物ばかり入っていました。もちろん気づかれました。
今、彼らは大騒ぎ中です。
唯一良かった事は、食事を貰えた事。硬いパンが一つだったけど。この世界、栄養失調とか大丈夫なんだろか。
「あー……失敗したなぁ」
あれから一日が過ぎた。
最初の尋問は穏やかだった。しかし荷物から衣類や鞄が発見され大騒ぎになってしまった。町長が呼ばれ助かったのかと思いきや、村長自身が荷物を見ては大興奮「これは何処製だ」「いくらするのだ」と質問攻めが始まった。
なんとか誤魔化そうとはした。
しかし相手は長の付く人物。門兵だって尋問は本職。こっちはその手の事に経験のない子供。しかも嘘が下手。誤魔化そうとする言葉は端から論破され、怒られてもう嫌になって全部ぶっちゃけて説明したら。
逆に妄想狂、夢見な子供。フルリヤの民?……頭が……可哀想な子と判断されたようだ。
今では話が通じない男として放置、奪った荷物の処遇を巡って兵士達と町長連中が相談してる様子だ。いや、気のせいかもしれない。本当は不運な子の処遇を検討しているだけかもしれない……
いきなり殺されて持ち物を全部奪われる事はないだろう……ないといいな。
ここは逃げ出すべきだろうか。幸い自分には【睡魔の踊り】という武器がある。
尋問中に踊ってみようかと手を振ったら、例の引っ張られる感覚が起きたのでおそらく可能だろう。たぶん人にも効くと思う。
尋問される時にできるだけ兵を集めてから眠らせて、荷物を回収して町から逃げ出す。
問題は逃げても行く宛が無い事だ。町の外には人を襲う獣はいるし、街道で人が殺されているくらい治安も悪い。宛もなく町の外に出る事は危険だ。宛が無い以上、最終的にはどこかの町に滞在が必要になる。
それにまだ、この世界の情報を殆ど得ていない。貨幣価値や最低の常識くらい知っておきたい。金を稼ぐ方法も。生活する為には食べなければならない。その為、むやみに事を荒げずに町に置いてもらえる様に兵達にはへり下り、日銭を稼いで生活する方法を模索すべきじゃないだろうか。ここで逃げ出したとしても、いつかはどこかで落ち着かなくてはならないのだ。なら我慢して『僕は危険な人物ではないですよ。欲しいものがあったら交渉しだいで少しは差し上げます。だから仲良くしてしばらく町において下さいね』と交渉すべきだと思う。しかし、自分の世界への繋がりや証拠品を失うのも困る。一度失ったらもう戻って来ないだろう。根本的に悪いことをしてないのに、自分の持ち物が奪われるというのも納得できていない。
結局プライドを取るか、安全を求めるかという選択だ。
本人なりに色々考えてはいるのだが、善意で接すれば必ず善意が返ってくる筈という甘い発想は、欲に目を眩んだ相手には通じないという事を新平は知らなかった。
「おい。町長が来たぞ。話しを聞こうじゃないか」
顔にいやらしい笑みを張り付けて兵士が二人入ってくる。当初の友好な感じは既に欠片も残っていない。
「……はい」
嫌な予感は当たった。
尋問室で町長を含め六名ほどに囲まれ質問攻めを受ける。
既に質問は新平の持つ物に関してのみである。他に珍しい物は持っていないのか。どこで手に入れた。教えたら出してやろう。違う世界から来たという話はスルーされ、どうやって持ってきた。そこからもっと持ってこれないのかと怒られる。
自分が出てきた場所に残ってないかと探しにも行ったらしい。何もなかったと怒られた。知らんがな。こちらは迷ったんだ。困ってる。荷物はそれだけだと言っても、嘘をつくな。他にもある筈だ。どこにある。どこから持ってきたと噛み合わない。
こっちの事情は無視され欲に目がくらんだ体で尋問が続く。焦れた兵がスニーカーに目を付け奪われた。
「なんだその靴は?」「すごい縫製だ」「この素材は何を使用しているのだ」「柔らかいぞ」
靴はサイズも合わず、履き心地が悪かったので自前のスニーカーのままだったのだ。
「ゴムだ」「原料は石油だ」「石油ってのは燃える黒い液体で何万年も堆積した何かが…」「加工方法は知らない」
分かる限り正直に話したが通じない。この手の召喚物の定番主人公と違い、新平は雑学がさっぱりで説明も下手だった。
「もう他にはないのか?」「嘘をつくな」「まだあるだろう」
新平の下手糞な説明に既に理解を止めた連中は、自分の欲求を満たす事のみ聞き返す。町長なんかは目の色が変わってる。煽られて兵士もギラついてる。
遂にズボンを脱がされた。下着のパンツがこの世界のと違う事に気づかれる。
「あった。あるじゃないか!」「嘘つきやがったのか小僧!」
更に次を要求される。下着なんで汚いと言っても関係ない。裁縫はズボンと同じだから意味無いと言っても聞いてくれない。
「いい加減にしろよ。小僧」
後頭部を殴られる。
「……!」
おもわず見上げたらまた殴られた。腹が立って立ち上がろうとすると左右から押さえつけられる。
「ちょっ、ちょっと待て! 何すんだ。おい。殴ることないだろうが!」
「舐めるなよ小僧」「嘘ばっか、つきやがって」「他にないか」「全部脱がせろ」
これも我慢すべきなのか。説明下手な俺の方が悪いのか。しかしパンツまで脱がされるとなると話は別だ。暴れて抵抗する――が相手は本職の集団。ボコボコにされて全裸にひん剥かれた。地面に裸で転がされ、彼らは新平のパンツや靴を見て興奮している。パンツの伸びるゴムに大騒ぎだ。
これでも、我慢して仲間に認めてもらえる方法を探すべきなんだろうか……
いや……駄目だこれは。低姿勢で対応すると、どこまでも踏み込まれる。これじゃあ全て奪われる。こいつら俺の事情なんか聞いてくれない。自分達が儲けになる事しか頭にないんだ。
「……分かりました。縫製に関する踊りがあるんですが見てくれませんか」
「踊り?」
「……なんで踊りが出てくるんだ」
「自分にもわかりません。ただ、この踊りのある世界から自分は来ました」
顔を見合わせ、了解してくれた。踊るくらいなら危険はないだろうと判断してくれたようだ。
「……よくわからんが、ちょっと踊ってみろ」
「……」
武器を持ってる訳でもなく、こちらは多人数で危険は無い。異国の踊りとやらにも興味がある。机をどかし場所を空けてもらって、素っ裸で新平は踊りを始めた。
◇
小屋の中、全員が倒れて眠っている。町長、役人、兵士も全員夢の中だ。
怒りのあまり全員殴りとばしたいが、それで起きだされたら多勢でまた捕らえられる。逃げるしかない。服を着て自分の荷物を回収し、ずた袋に入れ直す。全て小屋の中にあって良かった。外に持っていかれたらとても捜せなかった。
「くそっ……甘かった」
低姿勢な応対で、いずれは友好関係を築いて情報を得て、町に滞在させて貰って生活基盤も整えたいとか考えたら――殴られて、全て奪われ全裸にされてしまった。
日本人的なこちらが友好を示せば相手も応えてくれるだろうという考えは完全に裏目に出た。もっとも自分が相手の欲を刺激する物を所有していたのも大きいだろうが。
さて、このまま逃げるのも癪だ。これからの為に足りない物をこいつらから奪いたい。
金は……どうだろう。盗んで下手に怒らせ過ぎると、恨まれてどこまでも追っ手が掛かったりしないだろうか。金の恨みは怖いしな。
恨みがあっても、基本的に小市民の新平には犯罪に及ぶ暴力を振るうという事に躊躇がある。迷った挙句、小屋の中にある食料のみかき集め、袋に入れて小屋を出る。
いつ起きだすか分からないので急いで町を出よう。
町中に潜むという方法もあるが、眠らせた中には町長もいる。捜索されるのは間違いない。捕まったら今度は逃げられない。この町からは逃げた方がいいだろう。町の入り口側には門兵が居る。顔見知りの兵かも知れないから、行ったら呼び止められる可能性がある。逆方向にも門はないだろうか。この町まで来た道を戻っても意味がないだろうし。町の反対側へは進めないだろうか。
足早に町中を歩く。どこに行くべきか。こんな小さな町じゃ危ない。田舎は閉鎖的だから最初の交渉を間違えたら全部が敵になる。目指すは大きな街だな。そこなら多少変な人間でも紛れるだろう。
……何か犯罪者が潜伏先を探しているようで悲しいが仕方が無い。
すぐに町を出ようと思いながら歩いていたが、誰も自分に振り向かないので少し警戒を緩める。
(町を出る前に最小限の情報は仕入れたいよな)
少し欲が出た。広い通りに露店が数件並んでる。人相を見て一番人の良さそうな芋焼き屋に近づく。おお、じゃがバターだ。じゃがバター。異世界にもあるぞ。流石でっかい道、北海道。
「おや、兄ちゃん見ない顔だね」
「……どうも。一つ貰えます」
「あいよ。二セントだ。……って兄ちゃん舐めてんのかい? 足りねぇよ」
「あ、ああゴメン。こっちでいいのか」
銅貨っぽいので、試しに一番貧相そうな硬貨を二枚渡したら怒られた。もちろんわざとだ。違う硬貨を渡すと受け取ってくれた。こいつが一枚一セントと。これで貨幣の基準が少し分かった。セントか。どっかで聞いた単位だな。チヒロはないのか。
「なんだい。あんたこっち始めてかい」
「そうなんだよ。ごめん。親方に連れられて初めて来たんだ。この金、みんな同じような顔だからどれが上なのか分かんないよ。これ十枚で、これ一枚って事だよね」
「おう、そうだ。一番醜男が一番高ぇって、そうじゃねいよ! それで……」
芋を貰ってぱくつきながら、四種類あった貨幣の基準を聞く。
「あと、ここらで一番大きな街ってどこ?」
「あ-レオスクだな。火酒が美味いぜ!」
「へー……あっちの方向? ここからだと何日くらい?」
「馬車かい? なら三日ってとこだな。そんな事も知らねぇとは間抜けな親方だなおい」
「あはは。世俗に疎い先生なんで……どうも、ありがと―……ってはい」
ボロが出ないうちに逃げようとして――外国はチップを渡す習慣があったのを思い出し慌てて銅貨をもう二枚渡す。芋屋の親父はニヤニヤしながらもうひとつ芋をくれた。あれ、チップ分はいらないのか? これはサービスなのかな。よく分からない。
そのまま芋屋を後にする。
貨幣の数え方は少し分かった。次は物価だ。職業もどんなのがあるか知りたい。自分に出きるのはないだろうか。こういう召喚物ってのは、まず冒険者ギルドに登録して日銭を稼ぎながら、いづれ巨大な敵と戦うってのが定番の筈。ギルドに行けば優しいお姉さんが無一文でもギルドカードとかいう身分証を発行してくれて簡単な仕事と宿も紹介して貰って――
すれ違った男にギルドの場所を聞いてみる。しかし逆に聞き返された。
「ギルドってのは商会ギルドの事か?」
「えーと……はい?」
確かにギルドってのは「組合」という意味だった筈。
「は、はいそうです」
「商会なら向こうの右手奥にあるが……」
行って見ると少し大きな木造の建物だった。ノックして玄関から入ってみると四人程男達が雑談していた。受付らしき場所もない。話をしてみるが通じない。自分を行商の小僧と思ったようだ。更に話して、どうやらここは商人の商工会議所みたいな場所だと気づく。全然違うじゃねえか。
「ここって冒険者ギルドってないんですか?」
「冒険者? なんだそりゃ」
「小僧。冒険家にでもなりてぇのか」
どっと笑いがおこる。返す愛想笑いが引き攣る。この町に冒険者ギルドは無いみたいだ。
「子供のうちから一攫千金狙い過ぎるとろくな大人になれねぇぜ」「こいつみたいにな」「おめぇもだ」
また笑いがおきる。詳しく聞くと、どうやら冒険者=冒険家みたいな常識らしい。未開の地を旅したり航路を作ったり。って、大陸発見のコロンブスかよ。
(うげ。どうする? 定番が崩れたぞ)
剣を持ち、魔法使って魔獣を倒す自分を想像して、少しはわくわくしてたんだけど当てが外れた。最初に魔物みたいな狼に襲われたので、てっきりそんな世界かと思ったんだが。
「職にあぶれてんならの兵に応募した方が早えぜ。いい身体してんだからよ」
一七五あるかないかの身長で、いい身体と云われても不思議な感じだ。確かにおっさん達は全員自分より背が低い。門の兵士達も一七〇前後だったので、ここって平均身長が低いのかもしれない。
「今なら即採用してくれるだろうさ」
兵とは……兵隊か。冗談じゃない。こんな物騒な世界で。兵士とは即殺し合う職業じゃないか。
「お、俺。人を殺すの駄目。駄目っす」
びびったら何故かうけた。昔からバイト先でも年寄りには受けが良いんだよな。年寄りと子供にだけは。
「じゃあよ……」
色々薦められが全部自分には難しかった。
やはり兵役関係が多いようだ。徴兵もあるようで怖い場所に来てしまった。逃げるには商業系みたいだが、できそうな業種は皆どこかに徒弟として弟子入りするみたいでそんな悠長な事はしてられない。
何でも渋る新平におっさん達は、切れたり馬鹿にしながらもきちんと話をしてくれた。やっと普通の人に触れ合えた実感を得て地味に嬉しい。おかげで自分の目的が再確認できた。定職はいらない。でも日銭を稼ぎ生活ができるようにしよう。その次に日本に戻る方法を探すんだ。畜生、やっぱサバイバルか。
礼を言って商工会議所を後にする。
かなり時間が経ってしまった。もう町から逃げ出すべきか。まだまだ知りたい事はたくさんあるが、捕まったら終わりだ。
しまったな、兵舎に地図が貼ってあった。持ってくれば良かった。今からでは危なくて戻れない。
先に進むと外壁が見えてきて、入り口と同じように門があった。町の前後に門を設けて街道に面してるのだろう。予想通りで助かった。
通行人が居なくなるのを待って門兵に声を掛ける。
「すいません」
「ん。どうした」
門兵の二人が振り返るのを待って
「ちょっと踊りを見てください」
「……ん?」
「なんだって」
あっさり眠らせて門を越え、街道をダッシュする。目指すはレオスクの街とやらだ。
――こうして大藪新平は名も知らない町を脱出したのであった。
◇
街道沿いを歩く……一応周囲に注意は配ってはいたが、疲れると普通に歩いてしまって、慌てて廻りを確認しては先を急ぐ。
注意が足りない。こんな状況に陥った経験が無い為、集中力が持たないのだ。これでは茂みから獣が飛び出してきたら殺されてしまう。危険だ。もっと注意しないと。
そして道半ばで夜が更ける……日本と違って周囲に町の明かりが一切無いので真っ暗になった。曇ってるのか月明かりも少ない。すると視界はゼロに近い。本当に暗い。こんな経験は初めてだ。暗過ぎて先に進めない。伸ばした自分の手が見えない。これは怖い! 超怖い。何も見えない。何時、何処から人を襲う獣が現れるか分からない。気づいたら襲われてるんじゃ踊る暇もなく殺される。
町を出たのは早計だったかもしれない。しかし、町に残っていたら確実に捕まったろう。町長を敵にしてしまってるのだ。おそらくロクな事にならない。
「ちくしょー……早まったかなー……でもなあ……」
せめて明かりを捜して持ってくるべきだったのだろうが後の祭りだ。簡単には物語の主人公みたいにはいかないようだ。道沿いの木に登る。できるだけ上へ、太い枝へ登ってしがみ付く。これで不意に動物に襲われる事はないだろう。ヘビとかいないだろうな。気づけないぞ。しかし降りていても、暗くて道も判別できないから歩けはしない。ならより安全な木の上にいるべきだ。
不安にかられたまま、木の枝にしがみ付き新平は一夜を明かした。
朝になった。流石に獣に脅え木にしがみついてではろくに眠れなかった。虫の鳴き声が煩くて周囲の気配が分からないのも不安を掻き立てた。
木の枝から落ちてきた虫らしいのが、身体を這うのに気づいた時はパニックになった。
町から追っ手が来る可能性もある。心配だ。とにかく先を急いでレオスクの街に入ってしまおう。幸い食料はある。休憩なしで街道を進む。幸か不幸か人にも獣にも会わず歩き続けまた夕方になった。疲れた……今夜も木の上で野宿か……
疲労がかなり溜まっているのを感じる。いつ獣に襲われるか、追っ手が来るかという恐怖。満足に取れない睡眠。思ったよりも心身が衰弱してきてるのが分かる。
馬車で三日と言ってたな。歩きだと最悪倍で計算したら六日? 六日か。体力には自信があったんだけど、この調子で持つか正直不安だ。
しばらく歩くと前方の山頂に建物の一部が見えた。あれは……城か?
「……何か凄いな。お城みたいだ」
というか近づいて見ると普通に城だった。山頂に城砦が建っている。西洋風の城を見るのはもちろん初めてだ。
「うおー……凄え……」
眺めながら近づいていく。何かわくわくする。
「事情を話して……無理か。少しの間でも下働きか何かに雇ってもらえないかな」
農家とかがあったら手伝って、小屋でも借りて眠れないかと考えていたから、城でも応用できないだろうかと思いつく。とにかく疲れているので一夜でも安心な宿が欲しい。身の安全と暖かい食事が欲しい。一晩の完徹くらいと思うかもしれないが、牢屋でもろくに寝れなかったし神経の磨り減りが半端無い。
とりあえず行ってみて、もし困った事になったらまた相手を眠らせて逃げ出そう。
……なにか悲しい基本方針が決まりつつあった。
夕刻過ぎ城に辿り付く。村の入り口と違い、高い城壁に立つ門兵も強面で緊張感があって、ちょっと怖い。
「す、すいません」
「何だお前は」
「旅の者です。一夜の宿をお借りしたく!」
あっさり追い払われた。
何が悪かったんだ?
交渉力が低過ぎる自分。所詮学生の子供だからかな。城の門番相手に日本昔話みたいな田舎の宿を頼むのは流石に無理があったのだろうか。志願兵を装った方が良かったかも。でも兵になる気もないのに話が進んでも困る。荷物を検査されるとまた騒ぎが起こる可能性があるし。
「どうしようか。また先を目指すか?」
横道に逸れて登って来たので、レオスクの街は遠くなった筈。また今晩は木で眠るのか。おそらく明日も。げんなりしながら道を下ってると突然横の茂みから人が飛び出してきて、中に引っ張り込まれる。
「うおっ?」
相手を確認する前に二、三発ボコられて転がされ、背中に圧し掛かられる。
凄い手際だ。相手が誰か確認もできず動けなくされて、目の前に脅しの刃物が突き立てられる。なんでここの連中は直ぐにボコるかな、世紀末かよ畜生。もうどうにでもしやがれ。
「動くなや。首がすっと切れるで」
「……さて、少年。ちょっと教えてくれるかな?」
「君の素性と目的、城の様子とかね」
意外にも、掛けられた声には少女の声が二人混ざっていた。