01. 大薮新平 介抱される
すっかりお待たせしました。今度は反乱軍側。圧政吹き荒れるオラリア王国。右も左も凄惨な死体だらけ。バケラッタ、スプラッタの騒乱編です。
異世界に放り出された大薮新平。そこは内乱が起きている国だった。踊ると魔法が掛かるというふしぎな踊りを得ていた新平は、虜囚の王女を救出。王都にて神の使徒と認められる。その後、自分を召喚したと思われる神に会えると聞き、一路大神殿を目指す事となった一行は反乱軍一派に襲われ旅が中断されてしまう。待ち切れない新平は新たな踊りを発現、瞬間移動をするが失敗。見知らぬ砂漠で行き倒れてしまったのだった。
新平の新たな旅が始まった――
◇
白い世界で二人が口論をしていた。一人は自分だ。もう一人は正確には人では無い。忘れもしない、自分をこの世界に召還したらしいあの神だ。
そうか、これは一番最初に召喚された時の情景を思い返しているんだ。
『奴……蘇え……て……。印……』
神が何か横柄な態度で告げているのだが、声が遠くて聞こえない。こんなところばっかり召喚物の定番を踏まないで欲しい。どうせ踏むなら俺勇者とか俺モテモテとかにして欲しかった。何でキテレコな踊りをして、行く先々で笑われにゃならんのだ。修行中のお笑い芸人じゃないんだぞ。せめて召んだ理由くらいきちんと説明しろと言いたい。
神と対峙してる自分が手足を振り回して怒ってる。怒鳴り返しているようだ。
ああ……やっぱ喧嘩になってたか。さぞ、ろくでも無いこと言われているのだろう。となると、やはり奴は喧嘩した意地悪で自分を戦地の国へ放り出したのだろうか。ではその後一度も俺に連絡が無いのは何故だろう。あれが予定通りだったとでもいうのだろうか。アンジェリカ王女に手伝えと天啓を与えた以上、俺にまだ何か用がある筈なんだが。
何を言ってるのか聞きたい。しかし聞こえない。畜生、もっとはっきり喋れ。活舌はしっかり、ア・イ・ウ・エ・オ・ア・オ! さんハイ! 畜生、聞こえてねエ!
そして、そのまま二人は白い靄に包まれて行って――
「ばーちゃ、起きた! 起きたぞ!」
「おきたー!」
目を開けたら、幼児二人が覗き込んでいた。
「おきたー! キャー!」
叫びながら揃って掛けていく二人。寝起きに子供の高い声はきつい。 ……今迄何か夢を見ていたような……くそ、騒がれたので忘れちまった。 ……ここはどこだ?
周囲を見回していたら、幼児二人に張り付かれながら痩せたおばさんが歩いて来た。赤味のある金髪茶眼。肌の色も焼けていて少しアラブ系の雰囲気だ。
「ほう……やっと起きたかね」「オキタ-!」「キタキター!」
「……ここは?」
草の臭いが濃い小屋の中だ。なんだろうここ。家屋の中じゃないよな……茅葺き? でかいテントかな。まるでTVで見た遊牧民のテントの中みたいだ。おばさんが横にしゃがみこんで顔を覗き込んでくる。
「熱は……下がったようだね。あんた砂漠の中で行き倒れてたんだよ」
「あ……」
思い出した。
足止めされてしまい、なんとか先に進む方法は無いかと苛立っていたら、新しい踊りがを発現したので試したんだ。そして――着いた先が砂漠で、具合が悪くなって倒れたのだ。
アンジュエリカ姫やラディリア達の顔を思い出す。怒ってるだろうな……いや、何も言わずに消えたから、あの連中なら先に心配してくれてるだろうか。
幼いアンジェリカ姫が、泣きそうな顔で俺を捜しうろうろしてるところを想像して申し訳なく思う。
それで焦った結果がコレか。成功したのかな。失敗だろうなぁ……神殿の影も形も見えなかったし。踊りが変な形で終わり、視界が真っ赤になったと思ったら砂漠に放り出されて倒れたんだ。どう考えても失敗だったのろう。
身体に力が入らない。参ったな起き上がれないぞ。ここは命があっただけでも良かったとするべきなのか。それとも失敗するような踊りを誘導させやがったのをあの悪神に怒るべきか。
これなら無茶をしないでアンジェリカ王女達と一度王都へ戻り待ってから再出発するべきだったか。 ……無駄だろうな。俺は身一つで路頭に迷うかもしれなかったのに、かまわず飛び出したんだ。戻ったとしても、また待ちきれずに飛び出したろう。
自分を覗きこんでいた幼児二人がニカッっと笑う。つられてニカッっと返すと受けたのか大笑いされた。ノリ良いガキ達だ。お前等俺の顔に落書きとかしてないだろな。
「異国の人みたいだからどうしたもんかと思ったんだけど、言葉が通じて何よりだよ。あんた、何であんなとこに倒れてたんだい」
「えー……」
説明に困る。まさか身一つで逃げ出して来たとは言いにくい。別に犯罪をしてきた訳じゃないんだが誤解される自信だけはある。説明下手だからなぁ。
「……まあ、いいさね。食事入るかい」
「あ……、はい。すいません」
助かった。介抱してくれた挙句、食事の世話までしてもらえるらしい。良い人達に出会えてよかった。別室に行ったおばちゃんが小汚い小皿を持って戻って来た。皿には粥が盛られている。王宮での食事に比べたら天地の差だが、貰えるだけでもありがたいだろう。元々自分は食事には無頓着だ。とにかく体力をつけなければ。
「起きれるかい」
「は……ふんっ!……無理デス」
首から下に力が入らない。滑稽な動きだったのか、母のスカートに張り付く幼児二人に笑われた。
おばさんに起こされ、粥みたいなのを食べさせてもらった。あぁ、温かい。ありがたい。身に染みる・……でも止めて、幼児達がやりたがったからって、代わらないで。ホラ僕達、無理に口に突っ込まないで。熱い。熱い。くく苦しい。痛え! ぶっとばすぞお!
「荷物は無かった様だったけど、どうしたんだい」
「はぁ、はぁ……そ、そうですね。 ……魔獣から逃げる時に落としたんだと思います。たぶん、見つからないでしょう」
魔獣に襲われて逃げて来た旅人を装う。……これ前回もやって失敗したよな、大丈夫かな。不安がよぎったが咄嗟に代案が浮かばなかった。
「そりゃあ災難だったねえ。起きれるまでここに居ると良いよ」
「ありがとうございます。お世話になります」
とにかく助かった。動けない以上ここで世話になるしかない。
「おや、随分きちんと礼を言えるんだね」
おばちゃんが目尻をさげて微笑むと
「あたしも出来る! ありあとーぜます!」
「あーがとー!」
幼児達も真似をしたので、おばちゃんと二人で苦笑いした。
◇
ここは行き倒れた場所から一日程離れた場所にある集落らしい。
おばちゃんの名前はエルーマ。幼児二人はエンデルとスィーダ。旦那さんはミード。後はおばあちゃんと別室に寝たきりのおじいちゃんが居た。他には兄が二人居るらしいが、兵役に出ていてしばらく帰って来ないという。
一週間程でなんとか歩けるようになった。その間に色々情報を得る。まずここはサウールという地方名らしい。
えーと……何処でしょう。
確か俺達巡礼団はトリスタ王国の南東の国境からドーマ王国に向っていた筈だ。其処を通過して北東に抜け、大神殿のあるレンテマリオ皇国に向かうという旅程だった筈。
サウールという国名は知らないと言うと、ここの国名はオラリアと言われた。オラリア……聞いた様な覚えがあるが、何処だったろう。
自分はドーマ王国に向かっていたと話したら嫌な顔をされる。理由を聞くと、この国はドーマと戦争をして十二トゥン(十二年)前に負けたのだそうだ。ちなみにドーマはどっちと聞けば南を指す。じゃあ西がトリスタと聞いたら頷かれた。隣国じゃん。覚えてなかった自分がちょっと情けない。
つまり、自分はドーマ王国との国境付近から北東のこの砂漠に飛んだ事になる。何故だろうか。
大神殿はトリスタ王国から見て東の方角と聞いていたから、神殿への直線距離を飛び、移動する途中に失敗したので進路上に転げ落ちたというあたりじゃないだろうか。なんかそんな漫画を姉ちゃんの部屋で読んだ気がする。
歩けるようになって家屋の外に出て驚いた。辺り一面が牧草地なのだ。山羊みたいな集団が蠢いている。毛皮は茶色いし顔は渋柿をつぶしたように不細工顔で、泣き声は「ゲー、ゲー」と蛙みたいに鳴く。川が近いのかと思ってたよ。
毛を刈ったり乳を搾ったりするのかと聞けば頷く。成る程、飼い方はまんま山羊な訳だ。しかし妙な話だ。自分が行き倒れた場所は一面砂漠だった筈だ。
夜に色々聞いてみたところ、自分が行き倒れたところを含め、元々ここら一体は牧草地だったそうだ。それが前回の戦争でオラリアの神獣が滅び、加護を失って砂漠化が進んでいるという。
さっぱりわからん。神獣って死なないんじゃないの。なんで神獣が死ぬと砂漠になるの?
詳しく聞いたが本人達もよく判ってないらしい。前回の戦争でオラリアとドーマの神獣が戦って負け、滅ぼされてしまった。神獣同士の怪獣大決戦。巻き添えで近隣の村々の多くが滅んだとか。ぞっとする話だ。その後急速に砂漠化が進んだので、地元の者達は皆、神獣が死んだから大地の加護が失われたと言っている。だから、そうなんだろうという事らしい。田舎では誰も説明してくれないので現実から推測するしかないのだ。
神獣ってただのファンタジーな化け物だと思っていたのだけど、この話ではどうも土地神様みたいなものなのかな。迷惑な連中だなよ。土地が枯れるんなら下手に殺し合いなんかすんなよ。死んだらもうその土地は終わりなのかと聞いたところ、復活するか新しい神獣が顕現するかどちらにせよ何十、何百年も掛かるらしい。ならその間は他の土地に行くべきじゃないかと聞いたところ、横で呑んでいたミードさんにいきなり怒鳴られた。曰く先祖代々歩んでいた土地を捨てて逃げろと言うのかと。
遊牧民生活なんだから移動すれば良いんじゃないのと思うのだが、どうも縄張りがあって簡単にはいかないらしい。平謝りして、酒の相手という名の愚痴の相手をする。酔っぱらいを相手にする場合はひたすら頷く事。一度ツッコミ入れたら凄い暴れだしたので流石に覚えた。ひたすらフンフフンと頷く首振り人形を演じる。ミードさん普段は温厚でニコニコしてるんだが、呑むと人が変わった様に暴れ出す人だった。簡単に奥さんや子供達を殴るので凄く焦った。古き昭和の時代の親父さんみたいだ。お兄さん達が不在なので体力で対抗できる人がいない。毎晩酒の相手をしながら暴れそうになったら押さえつける役を担っておばさん達に感謝された。正直まだ体力的にきついのだが仕方ない。
この集落はミードさん一家以外にも五軒程他の家族が居て、小さな集団で牧草地を渡り歩いているらしい。挨拶をして回ったのだが妙によそよそしかった。皆さん内気なのだろうか。田舎だから髪や目の色が違う自分を見て戸惑っているのかもしれない。トリスタ王宮や王都には凄い髪や目の色の人も居たので、さして気にもされなかったけど。ここは田舎っぽいし珍しいのだろうな。
動けるようになって改めて助けてもらった礼を言い、謝礼として金を渡そうとする。実は盗賊デニスに言われて硬貨数枚を服の裏側に縫い付けていたのだ。教わった当初は漫画かよと笑い飛ばしたものだったけど、助かったよデニス。初めてあんたに感謝したかもしれない。
ちなみに、王宮での事。自分で硬貨を服に縫いつけようとしたら、裁縫が下手な自分では上手くいかず、部屋詰めの侍女さんに頼みこんでみた。しかしその侍女さんも裁縫は駄目だったようでひどい形に。ラディリア、イリスカ、アンジェリカ姫に助けを請うてみたが全員揃って視線を逸らす。結局、偶然来た侍女長のマイヤーさんに頼みこんだという顛末があった。マイヤーの小言には全員揃って小さくなったものだ。なんか懐かしい。
しかし、硬貨をだそうとしたらおばさんに止められる。こんな土地柄行き倒れていたら助け合うのは当たり前だとか。もう落涙物だ。ええ話や。やっぱ田舎は良い人が多い。王宮なんて人を利用しようとする輩ばっかりだったから、心が洗われるようだ。田舎万歳。田舎へ行こう。俺、定年したら田舎で暮らそう。まだ就職もしてないけど。
お爺さんはずっと寝込んでいる。どうも腰をやられているらしかった。助けて貰った礼として治してあげるべきか少し悩む。
ここで下手に治して噂が広がり他の人も治す羽目になるのは困るのだ。残り使用回数をチェックしてないので判らないが、下手すれば【癒す女神のムスタッシュダンス】は残り一桁になっている可能性がある。ここで残回数を使い切ってしまう訳にはいかないのだ。
結局見て見ぬ振りをしてしまった。毎晩痛みに呻かれていたら、耐えれなかったろうが、おばあさんが常に傍に付いてるし、重症という感じでもなかったので割り切った。 ……少しモヤモヤした気分は残ったが。
さて体力も回復した。先に進まなくては。とにかく東を目指すとしよう。なんとかこの国を抜け、大神殿のある国へ渡るんだ。
聞けば東の町ヴラーダに行く予定の馬車が数日後に通るという。乗せてもらって、町で足を捜そう。路銀が心許ないが少しの間は大丈夫だろう。道中金策を考えなくては。
数日後、東に向かう馬車が来た。今迄世話になった礼を言って別れを惜しむ。
御者達は屈強なおっさん達だらけだ。ちょっと怖い。牧草地や砂漠を渡る男ってのはこんな荒くれ者じゃないと無理なんだろうか。
握手を交わし、幼児達を振り回し。頭を下げて馬車の後部に回る。無理に頼み込んだせいか御者さん達の態度は横柄だ。まあ仕方ないか。
背中を押されるままに馬車の中に。暗いな。しかも狭い。ボロいのか補強みたいな縦枠が何本もある。奥に進む。同じ様に町を目指す人なのか、同乗者が二人居た。一人はうずくまっているが、もう一人は目付きの悪いおっさんで睨まれた。ちょっと居心地悪い道中になりそうだ。愛想笑いしてしゃがみ込もうとして……
ガシャン。
背中の方で、鉄門みたいなのが落ちる音がした。振り返ると音の通り鉄門があった。
……なんぞこれ。
触ってみると本当に鉄の棒みたいだ……鉄格子?
よく見回すと馬車の中に鉄檻があって、自分達はその中に入っている。
目の前で御者のおっさんが檻の鍵をかけた。
「え?」
呆然として鉄格子に手を掛けたら、御者さんに怒鳴られた。
「ちょっ、え? 何これ?」
業者さんが二三話して、お婆ちゃん達に硬貨を渡す。若い男で健康そうだから幾らとかなんとかって……え?
「お婆ちゃん?」
お婆ちゃんとエルーマさんが、目を細めたまま無表情で俺を見返す。揃って深々とお辞儀をした後、そそくさと顔を背ける様に小屋に戻って行った。
え? これって……もしかして。
『お前、奴隷狩りにでもあったのか』
以前デニスから聞いた『奴隷狩り』というのが、この世界にはあるのを思い出す。
脳内で全国中学生の名曲アルバム。ド○○ナの歌が始まった。
(……いや、まさか)
しかし何度見ても目の前にあるのは鉄格子。補強に見えた縦枠も鉄格子。鍵は既にかけられた。まるでTVで見た捕らわれた動物扱いだ。世界・動物不思議な発見の時間です。檻の中にいますのは、世にも珍妙な踊りをするという――
「ちょっ、待って。何これ? 嘘だろ!」
「やかましい! 静にしろ!」
御者さんではなく本当は奴隷商だった親父に、槍の石突で脇腹を突かれた。
「がふっ! てっ、おいっ」
痛みでうずくまる。顔を上げた時にはもうおばあちゃんもエルーマさんも見えない。幼児の二人だけが陽気に手を振っている。お前ら意味判ってないだろ。また来てねじゃねえよ! 親、呼んで来いよ!
ド○○ナの歌が大きくなる。
馬車が出発した。幼児達が楽しそうに走って追いかけてくる。違う違うよ。そうじゃねえよ。満面の笑みで手を振ってるので、思わず振り返しそうになるけどそうじゃねえよ。説明しろよ!
あんなに親切にしてくれたのに。和やかに過ごしてたのに。幼児達にも懐かれたのに。一緒に羊の世話とかもしたのに。金も払おうとしたのに。
嘘だろ。騙されたのか。俺、売り飛ばされた?
ド○○ナの歌はサビに入った。コーラスも入って絶唱だ。
「うっそおおおおっ!?」
新平も絶唱した。
――彼は奴隷として売られたのだった。
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