《二章予告》
異世界に召喚された大薮新平。そこは内乱が起きている国だった。踊ると魔法が掛かるというふしぎなスキルを得ていた新平は、虜囚となっていたアンジェリカ王女の救出に貢献、王都に招かれ神の使徒と認められる。
しかし、新平としては異世界召還を了承した気も、使徒となる気も無かった。日本への帰還方法を探し、ついには当の召還したと思われる神本人に会うことが出来るウラリュス大神殿を目指すことになる。
協力してくれたアンジェリカ王女一団と共に王都を旅立った新平は、宿場で反乱軍の王子・元宰相派に襲われる。新平は踊りを駆使して反乱軍一派を捕らえる事に成功。しかし内部から反逆者を出した一団は、人員再編の為に王都に戻る事になる。待ちきれない新平は新たな踊りを発現。一人先に進むべく、瞬間移動で皆の前から姿を消したのだった。
王都へ戻ると通達した夕刻、新平は宿場から姿を消した。アンジェリカ王女達が目を離したほんの束の間の出来事であった。
直ぐに宮廷魔道士ミモザの主導によって捜索が開始され、近隣所領へも捜索網が引かれた。
当初はなんらかの方法で彼が宿を抜け出し、一人で関所に向かったのだと誰もが考えた。ならば土地勘の無い彼は直ぐに見つかる筈であった。しかし、一向に彼の姿は見つからず、関所近辺にも姿を現さなかった。どこかで迷っているのではないかと周辺の捜索や、山狩りまで行われた。宮廷魔道士ミモザの探査魔法にも引っ掛からない。
幾日にも及ぶ捜索にも関わらず、新平の消息は不明のまま十キン(十日)が過ぎた。
仕方なく一行は王都に戻る。先に戻っていたフォーセリカ王女は、政務の傍ら、じきに見つかる筈と妹姫を慰める。しかし、アンジェリカ王女の顔は晴れなかった。彼女は自分達が彼を押さえつけた所為で、自分達を見限って立ち去ってしまったと考えた。天啓を受けて仕えると決めた人物に対し、自分は王女の身分に拘泥し、彼の気持ちを汲むことが出来ずに見捨てられてしまった。自分は従者失格であると深く後悔していた。
アンジェリカ王女は新平の気が変わり、何時自分が召還されてもいいようにと、常に旅支度を整え小さな身体に新平の荷物を一日中背負うようになった。周囲が止めても頑として聞かず、新たな天啓を得ようと毎日ヴィスタ神殿にて祈りを捧げていた。その健気な様子に周囲は心配を重ね、姉姫フォーセリカ王女は嫉妬に歯軋りをしていた。
アンジェリカ王女を見守る近衛騎士のラディリアとイリスカの表情も同様に暗かった。
新平は彼女達にも何も言わずに立ち去った。当然であろう、新平の勝手な行動を諌めるだけでなく、率先して所持品を奪い自重を強制したのは自分達である。彼の信用を得られる筈が無い。
帰還して家族に再会した後で、彼女達はこう考えた。自分達が今、生きているのは誰の所為か。こうして健康な身体を取り戻し、家族と団欒を迎えることができるのは誰のおかげなのかと。彼はその家族の下へ帰るべく一途に動いていたのに、自分達はその妨害をしていたのである。信頼が得られる筈がないのだ。
自分達は騎士の立場に拘り、彼に受けた恩を返すことをしなかったのではないか。それは騎士以前に人として許されざる行為ではなかったではないか。彼女達は自分胸のうちを親に打ち明け、騎士としてもあるが、己に恥じぬ生き方を大事にせよと諭され、自分達の成した事に思い悩んでいた。
新平の消息は以前不明なままだった。
反乱首謀者達は処刑され国内の政情は安定に向かっている。新平失踪の件は元団長アイズバッハの謀反の所為にしているので内部に混乱も無い。しかし彼は数百トゥン(年)振りに降臨した大陸に英知を授ける偉大な神の使徒。国としてはこのまま放置しておく訳にはいかない。
既に国内には居ないのではないかという意見が出始める。異国の風貌の彼は目立つ。彼の性格的にどこかに隠れているとは思えない。隠れながら行動するなど器用な事が出来るとも思えない。その身が無事ならば動いている筈なのだ。そう、無事ならばだ。その仮定が一同の不安を掻き立てる。彼に何か起きているのか。もしや誰かに誘拐されたか、はたまた殺されたのか。 ……それとも自国に帰還したのか。
官吏の中には彼が既に元の世界に戻ったと主張する者もいた。彼の使命はこのトリスタ王国の内乱を終結させる事で、それを果たした故に元の世界に帰還したのだと。しかしそれはミモザ達宮廷魔道士達に否定される。使徒とは特定の国ではなく大陸全体に大きな影響と恩恵を与える偉大な存在なのだ。一国の窮地を救っただけで帰還するなどありえないというのだ。
であるならば、彼は一体何処へ行ってしまったのか。宮廷魔道士ミモザの考えではアンジェリカ王女に天啓を与えた以上、アウヴィスタ神が危害を加えたとは思えない。ならば、新平自身に、故意か望まずか行方をくらます事態が起きたのだと言う。
色々な意見が交わされているが、内心ミモザやフォーセリカ王女を含め、彼の性格を知る一行は皆こう考えていた。『彼は絶対なんとかして逃げだしたに決まっている』と。失踪する直前の本人の様子から、待ちきれずに不満を抱えていたのは間違いないのだ。彼は何らかの脱走方法を見つけ、何処かへ逃亡したに違いない。そしてその予想は完全に当たっていた。
新平が失踪して一ウィヌ(一ヶ月)が過ぎた。
有力な情報は何一つ入ってきていない。トリスタ王国は、ついに国内だけに及ばす周辺各国に新平の手配書を出すことにした。
アンジェリカ王女はすっかり塞ぎ込んでしまっている。それを見守る姉姫や両女騎士達の顔色も暗い。
今何処にいるのか。何処へ行ったのか。今、無事でいるのだろうか。
使徒新平の従者として仕えるとしたトリスタ王国第三王女アンジェリカ、傍に控える近衛騎士のラディリア、イリスカ。女性達は彼の安否を心配し、夜空に浮かぶ神門に祈りを捧げる。
(チーベェさま……)
(チンペー殿……)
(ジンベイ殿……)
願った気持ちは同じだったが、誰一人、新平の名を正確に呼んだ者はいなかった。
しかし、その声なき祈りは神門にも新平に届いていない。
既にその時、新平は暴行を受け、治療も食事を与えられず、血まみれで鉄格子の牢の中で転がされていたのだから――。
なんとか目処が立ったので来週から復活します。たぶん、おそらく、きっと大丈夫……。色々御指導頂きましたが、あんまり内容に反映できませんでした。うわああ。 ……満足頂けなかったら申し訳ないです。




