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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
1章 トリスタ森林王国内乱編(全33話)
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32. 大薮新平 敵将と対峙す

 異世界に召喚された大薮新平。そこは内乱が起きている国だった。踊ると魔法が掛かるという文字だけなら綺麗なスキルを得ていた新平は、アンジェリカ王女一団と共に王都を旅立つが、宿場で敵対勢力の王子・元宰相派に襲われる。新平は踊りを駆使してさらわれた王女を奪還。一団の中の敵勢力一派を捕らえる事に成功したのだった。



 団内の敵対者達の捕縛に成功した新平一行は、変わらず宿屋に滞在していた。団長含む多数が敵一派と判明した以上、先へ進めなくなったのだ。

 実に護衛騎士二十三名の内、十六名が王子・元宰相派の一員だった。料理人や案内人、御者等にも存在し総勢で二十七名。一団の半数以上が敵勢力の一派だった事になる。今迄よく無事だったものだ。イリスカ曰く団長が人員を選抜する責任者である以上当然の結果との事。しかし、こんなにいては近隣の町牢に引き渡す訳にもいかないし、内一名は元東方守護騎士団長なのだ。扱いにも相応の処遇が必要だった。


 アンジェリカ王女とユエル司祭を擁する新平達は自然皆をまとめる立場になった。残った騎士達から不満は出なかったので、とりあえず敵一派は残った騎士達を見張りに立てて縛り部屋に放り込んだ。

 しかし残った兵達だって完全には信用出来ない。眠らせた条件は『今回の王女の拉致に加担した者』だからだ。今回の件に絡んでいない、同じ目的を持つ別派閥の敵が潜んでいる可能性もあるとはイリスカの弁。何それ怖い。


 しかし、これからどうすべきか。責任者たる団長と副長、小隊長は軒並み敵の一派だった。近衛隊長リプレが亡くなった今、高位の者がおらず、指示を下せる者が居ない。決定権自体はアジェリカ王女とユエル司祭にあるのだが、彼女達は承認する立場なので方策を立てれない。

 そんな事はどうでもいい新平は『いいから、こいつら縛って放置したまま先に進もうよ』と言ってはみたが、当然全員から却下された。当たり前である。


 とにかくこのままでは進めない。王都と地場の領主へ伝令を飛ばし指示や応援を仰ぐ事になった。次に安全を確保する為に敵一派の計画を知る必要がある。残っている哨戒員には付近の偵察に走って貰った。手が足りないので案内人のデニス達にもだ。王女を誘拐したという事は協力者が近隣に居る筈だ。その規模、人員、計画を確認しなければならない。王女拉致失敗に気づいた一派の残りがこの宿に襲撃を掛ける可能性もある。

 そこで団長への尋問が必要となったのだが、残っている者は平騎士ばかりで尋問が出来る者は一人も居なかった。しかも相手は歴戦の猛将、東方守護騎士団団長だ。普通の騎士達は一喝返されただけで威圧されてしまい詰問にもならない。数名の騎士に頼んで尋問してもらったが扉の向こうから団長の怒声が延々と続き、憔悴した騎士に我等では力不足ですと謝られた次第だ。ラディリアやイリスカも経験が無いし、例え任せても小娘扱いされてまず無理だろう。アンジェリカ王女が説得してみたいと言い出したが、あの団長が拉致しようとした王女に情報を漏らすとも思えない。何より彼女にあの怒声を向けさせるわけにはいかないと両騎士は首を縦に振らなかった。


 最後の手段で新平の魅了の踊り【親愛なる魅惑のタンゴ】の出番となったのだが、興奮している相手では掛かり難いのか誘導が起きず、踊りは発動しなかった。睨まれ、蔑まれ、唾を吐かれて、すごすごと新平は部屋から逃げ帰った。何故だろうか。怖くて腰が逃げていた所為だろうか。

 考えてみるに今迄の魅了というのは、心の隙をついて相手の望む話をし、意識を誘導して説得する様なものだった。

『本当はこんなつまらない事をしたくなどないと思っていた翼竜』『もっと褒め称えて欲しかった婦人』『小姓に飽きて英雄譚に憧れていた少年』皆そうだった。対してアイズバッハは自分の行動に大義と自信を持っており、それを覆させて吐かせようとする魔法は掛からないのではないかという事だ。


 しかし、時間の猶予は無い。こうして手をこまねいているうちに敵一派が襲来する可能性があるのだ。何人で何処から来るも分らなければ対策の打ち様が無い。このまま襲われたら、ろくに対応出来ず殺される可能性だってある。困った。


 結局打てる手が見つからず、アンジェリカ王女の三度目の要望に負け全員で尋問する事になった。


                ◇


「それで何だ。王女の威を借りれば、俺が平伏するとでも思ったか」


 縛られたアイズバッハは開き直ったのか、アンジェリカ王女への敬語も失せ、恫喝するかの様に吐き捨てる。アンジェリカ姫とラディリア、イリスカ、自分。そして抑え用の騎士二名とユエル司祭にも同席してもらったが、アイズバッハは気にもせず泰然としている。

 改めて対峙するとやっぱり怖い。まるでヤクザの親分を中学生だけで囲んでいるような心許無さを感じる。対面してるだけで足が震えそうだ。


「アイズバッハ団長、王国騎士としての礼節も無くしましたか」

「ハッ! 笑わせるな。今更ヴェールルムの者に下げる頭など無いわ。そやつ等こそがこの国を貶めた元凶ではないか」


 ラディリアの諌める言葉も届かない。完全にこちらを敵として蔑視している。アンジェリカ王女は威圧され青くなっている。ヴェールルムって何だ。アンジェリカ王女達の苗字だったかな。


「……どういう事ですか、アイズバッハ」

「貴様の様なガキが今更知る必要も無い事。どうせ貴様らはもう終わりだ。姉妹揃って王宮前に首を晒し、新生王国の礎となるがいい」


 凄く物騒な事を言い始めた。


「……何故そのように憤るのですか。貴方は長きに渡り東方を守護し我が国を支えた勇士と聞きます。その方が何故このような暴挙を……」

「ハッ! 暴挙? 何が暴挙か! 貴様等ヴェールルムがあの獣にかしずき、こんな歪んだ国を興したのが元凶ではないか」

「……?」

「この国はおかしいのだ。あの様な妖獣にかしずき、専横を許す事によって全てが奴ら中心に回っておる。この国は人の興した国なのだぞ!」

「……」

「何を言うか! 一団長ともあろう者が我が国を守護する天馬達を妖獣と呼ぶなど! 」


 ラディリアの反発を、アイズバッハは更に大きな威圧によって跳ね飛ばす。


「守護だと、これは支配というのだ! 奴等こそが元凶ではないか! 竜を従え天を舞って敵を狩る事こそ我等祖霊から続く本来の姿ぞ。それをあのような好色な奴等に征されたおかげで、我が国は周辺国の笑い者だ!」

「……」

「貴様らには判るまい、隣国オラリアやドーマから我等がどのように笑われているかを。奴等に支配され、国政を女郎共が締めた為、遠視で物を見れる物がいなくなり、何時も場当たりな対処を繰り返し蝙蝠と揶揄される現状を。ドーマの横暴を。オラリアの崩壊を。ギブスン・ジラードの暴政を! 目の前でどれ程の暴挙を振舞われようが、侮辱を浴びようが、何と奏上しても我等は応戦さえ許されず、ひたすら国境を堅持させられるのだ。何万の命を見捨てたを思っているか! 分かるまい、あの妖獣達に誑かされ、逢瀬に浸り外界を見渡さぬ王宮の者達には。伝わるまい。ひたすら耐え忍ばねばならぬ国境の兵士達の怒りを!」


 どうも東の国境でも色々あるらしい。


「あの天馬どもは処女の娘にしか興味を持たない野獣共だ。知っているか。この国の男子の扱いを。子を成した女の扱いを。奴等にとってはそいつらは虫以下の存在だ。目の前で、どのような悲劇にまみえ様が苦しもうが奴等は欠片も興味を示さぬ。それどころか自分達から女を奪う者として国の男子共を排除しようとするのだ。こんなおかしな国があるか! 誰が支配者なのだ。これではあの馬共の植民地ではないか! 我等は何の為に存在するのか! 奴等の好色を満足させる為の種馬だというのか!」


 北のゲルドラ帝国とは違う視点。東方の国境で別国と戦ってきた兵の、そして男としての積年の恨みが吐き出された。見方を変えれば違った事実が見えるというやつだろうか。天馬達を国の象徴とし、その傍で生きてきた王女や騎士達には辺境で周辺国と小競り合いをする立場の男達の状況や心境は判らない。その証拠にアンジェリカやラディリア達は初めて聞いたらしい表情で、言葉を返せなくなっている。

 その中で新平は一人、ひどく冷めた心境から徐々に苛立っていた。彼はこう考えていたのだ。


(――だから、なんだよ。そんなの俺に関係ねえよ)


 最初は皆と同じく団長の怒鳴り声に俯き萎縮していた。しかし段々と話の内容がこの国の成り立ちと自分達の境遇の不満になるうちに冷めていった。馬鹿だから難しい話が理解できないというのもある。確かに同情する面もあった。しかし、ある物に目が止まり、気を奪われたのだった。

 それは自分の靴だった。母から誕生日に貰い、日本から履いて来たスニーカーだった。


(――あ……)


 これまで服は色々借りて着たのだが靴だけは合わなかった。この国の縫製は荒く、皮のみの靴は痛くて歩きにくい。厚底ゴムのスニーカーに慣れた自分にはどうしても靴だけは変えられなかったのだ。肉親に貰った物なので捨てられないというのもあった。

 その靴を見た瞬間、ふと我に返ったのだ。


(俺こんなとこで、何やってるんだろう――)


 日本に帰る筈だったのだ。そのために向っていたのだ。それなのにまた、知らない連中に邪魔をされている。

 だんだん頭に血が昇って来る。


 おかしい。おかしいよな。どいつもこいつも自分勝手な理由で俺の行く先の邪魔をしやがる。


 連鎖的に幾度も足止めされた事が思い浮かぶ。何度も引き止められて頭を抱えて唸った事を思い出す。


 またかよ。またなのかよ。ふざけるな。ふざけんなよ。


『お前根性座ってねえんだよ。他人の事情に一々揺れやがって、その程度の気持ちしか持てねえ奴は何にも出来ねえよ。死ぬまで他人に、良い様にこき使われて死ぬだろうさ』


 デニスに小馬鹿にされた言葉が脳裏に響く。


 その通りだ。俺は覚悟が足りない。我を通せない。周りの事情や状況に気を配ってたらこのザマだ。それでも内乱を終息させてやっと逃げ出せると思ったら、また残党に巻き込まれた。その通りだ。我慢すべきじゃなかった。誰が文句を言おうと目標が見えたらすぐに進むべきだった。やっぱり城を抜け出して、一人で走って行くべきだったんだ。


「あの妖獣共に国を支配され男子達は隷属を強いられているのだ! 何故だ! 我等は古来より覇者であり獲物を狩る狩人ではないのか! 国を奪われ、地位を奪われ、矜持を奪われ、何故このような仕打ちに耐えねばならぬ! ここは我等の国であるぞ!」


 歴戦の威風を備えた団長の一括に呑まれ、誰もが言い返せない。彼に比べればここにいる者達は全員若造でしかないのだ。まるで小学校の授業参観で、乗り込んできたヤクザに生徒も親も呑まれて誰も喋れない様な状況だ。

 皆が威圧され黙りこんだ中、一人苛立っていた新平はぼそりと呟いた。


「……くっだらねえ」

「……なんだと……」


 アイズバッハの殺気が膨れ上がる。歴戦の猛将の殺気に皆が呑まれ、身体一つ動かせなくなる。室温が急激に下がったかの様に感じ、息が詰まり視界までもが黒く染まっていく。


「……知ったことか……」


 しかし、それ程の殺気の中で、新平は吐き捨てた。

 新平はアイズバッハの話を聞いていない。彼の脳裏には別の光景が浮かんでいる。姉の顔が、母親の顔が。行かなくては。戻らなくては。こんなとこに止まっていられるか!


「そんなの知った事かよ!」

「小僧っ……」


 アイズバッハの顔に怒色が沸く。彼にとっては元はといえば全てこの小僧が原因だ。王女の拉致も、一団内での反乱も全てこいつによって狂わされた。先程の尋問時に罵声を浴びせたくらいでは全然足りない。


「黙れ小僧! 部外者の分際で……」

「部外者はてめえだ!」

「何を言っ……」

「あんた知ってんだろうが! この集団は俺があの馬鹿神の神殿に行く為のもんだ。王女も司祭もただの付き添いだ! これは俺の旅なんだよ! 邪魔してんじゃねえ!」


 怒鳴り散らすついでに蹴り掛かろうとした新平を、咄嗟にラディリアが抑える。縛られているとしてもアイズバッハに近づくにのは危険過ぎる。


「お前等の主張も、この国の成り立ちも情勢も知ったことか。どっちが正しい? 間違ってる。苦しい? 辛い? 知るかよそんなん! あんたが正義だろうが悪だろうが、俺には関係ねえんだ!」

「ならば口を挟むな小僧!」

「うるせえよ! 口挟んで来たのはてめえだろうが! 勘違いしてるのはてめえだ! これは俺の旅なんだよ! 俺のもんだ! あんたがどう思おうが何考えていようが関係ねえんだ!」

「では貴様には関係の無い事だ! とっとと失せるが良い!」

「阿保かよ! お前がその邪魔したんだろうがっ!」


 今ひとつ話が噛み合っていないが、アイズバッハを相手にこうも言い返せる者はいない。皆が事の成り行きを見守っている。

 新平は怒りで逆上している。言葉を飾りもしない。


「何が天馬だ、竜だ。狩人だ。全部くだらねえ。知ったことかよ! こんな世界で誰が何人死のうが苦しもうが俺には関係ねえだろうが! 他所でやれってんだ!」


 アンジェリカ達が目を伏せる。酷い暴言ではあるが、異国人である関係ない彼を、この国の政情に巻き込んでいるのは自分達なのだ。

 一方、アイズバッハは怒りで身体を震わせる。己の命を懸けたこの大乱を蔑視する物言い。絶対に許せるものでは無い。


「貴様アァ! その侮辱許さぬぞ! 我等の大義をなんとするか!」

「知らねえっつってんだろうが! そんなもん!」

「ふざけるな! 貴様のような道理も知らぬ小僧風情が!」

「その小僧にあっさり眠らされて、捕まった馬鹿はおめえだ!!」

「……っ!」


 瞬間、アイズバッハが口篭る。ついに口論で新平が優位に立った。何を言おうとも、アイズバッハは今、新平達によって王女拉致に失敗し捕縛されているのだ。


「てめえらの事情なんて知るか! 俺はこの旅の邪魔する奴は全部ぶっとばして先に進むんだよ!」

「ハッ……ハハッ! それでどうする? ここで我等を切るか。人を殺める度胸も無い小僧が!」


 アイズバッハは鼻で笑う。新平の挙動を見て、こいつは人を殺した事が無い、殺す度胸が無い小僧だと看過している。例え捕らえられているとしても、幾多の死線を越えてきた自分に取って、こんな小僧は恐れるに足りない。

 すると新平は正面のテーブルを蹴り飛ばし、胸元からペンダントを取り出して床に放り投げた。


「?」


 アイズバッハも勿論の事、ラデリィア達も新平の意図が判らない。続けて新平は奇声を上げて踊りだす。


「なん……だお前。気でも……」

「ドンドコ、ドンドコ……ホウ、ホウ、ホウ!」


 アンジェリカ達には新平が何をしようとしているか判ったが、アイズバッハには分からない。自分を小馬鹿にしているのかと怒りだす。


「……ばっ、馬鹿にしているのか貴様!」


 しかし、逆上したアイズバッハの罵声も気にせず踊り叫ぶ新平。アンジェリカ王女は一度は驚いたものの、直ぐにラディリア達と頷きあって場所を空け、期待の眼差しを向ける。新平が逆境において何度も踊りで未来を切り開いてきたのを彼女達は知っているのだ。それだけの実績と信頼があった。


「こっ……何だ?」


 アイズバッハもアンジェリカ王女や近衛騎士達が、新平に期待を込めた顔を向けているのを知り、これが道化でもなんでもなく何かの策だと気づく。そして、先刻自分達が眠らせられた原因が、この異国の魔道士の踊りだった事に思い至った。


「なんだ。なにをするつもりだ小僧。何をししても、もう遅い。お前等はもう終わりだ! 十人にも満たぬ貴様らでは我等の援軍に抗せず屍を晒すだろう!」

「ホウ、ホウ、ホウ!」


 新平は構わず飛び跳ね踊り狂う。


(こいつを抑えれる奴がいないって?)


 眼前に半透明の等身大の卵が浮かびあがる。アイズバッハは見た事もない現象に息を呑む。


「なん……」

「それならっ……!」


 卵の上に亀裂が走る。


「ホウ、ホウ、ホウ! ミモザ・ヴァン・ビーリスラ・アブ・ヴェリアシュ・モーディア! ハイヤァ!」


 新平の脳裏に言葉が響く。


【半熟英雄の護摩壇招き】


 パリンッ!


 殻が中空に砕け散って消える。そして、その場には一人の人物が立っていた。


「お……お……」

「はー、はー……じゃあ、抑えれる奴を召べば良いんだろうが」


 アイズバッハはその召還された人物を見て、衝撃に声を震わせる。


「なん……だと……」


 殻が弾けたその場には一人の人物が立っていた。ここにいる筈の無い人物。一団長よりも上位に位置し、宰相と共に国政の舵を担う者。アイズバッハの祖父の代より以前からこの国に仕え、幾多の戦場を駆け近隣国からトリスタの炎獄の魔女と恐れられた女。

 その人物は手にしていた書物を閉じ、周囲を見渡した後にゆっくりと呟いた。


「……何じゃ、ここは」


 宮廷魔道士筆頭 ミモザ・ヴァン・モーディア がその場に立つ。

 新平は息を整えながらアイズバッハに向って吐き捨てた。


「……宮廷魔道士達で足りないなら、皇天も北天の騎士連中も天馬ごと全員召んでやる。それならどうだ」

「馬鹿…な……」


 アンジェリカ姫とラディリア達の表情に歓喜が浮かぶ。ユエル司祭は目元を微笑ませたまま口を開けて固まっている。


 アイズバッハはようやく新平の力を理解した。実はアウヴィスタ神の使徒等とは眉唾だと信じていなかったのだ。威風も感じられぬ只の小僧にしか見えなかった。異国の口先だけの魔道士風情が王女に小賢しい詐欺を働いたのだと思っていたのだ。しかし本当だった。自分の理解を超える遥かに巨大な力。召還魔法――伝説級の魔術が今、目の前で行使されたのだ。

 浮き上がった腰が力なく床に落ちた。


「事情を説明して貰おうかの、アイズバッハ卿」

「……くっ」


 宮廷魔導士ミモザの言葉に、遂にアイズバッハは頭を垂れた。

次回タイトル:《一章 最終話》  大薮新平 一人、大神殿を目指す

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