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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
1章 トリスタ森林王国内乱編(全33話)
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01. 大薮新平 召喚される

 気が付くと見知らぬ丘に転がっていた。


「がっ…ふげほっ……ごほっ……うう」


 というか、地表数mの空中から放り出された。

 痛みに身悶えた後、大薮新平はやっと起き上がった。


(くそ……ここ何処だ? 何でこんなところに……)


 記憶を辿ると、先程まで白い空間で誰かと話していたのを思い出す。


 『……で……として…この世界で……』


(ええと……確か……あれ?)


 ――よく思い出せない。夢のように薄ぼんやりした記憶しかない。何でだ。ついさっきまでの記憶なのに。白い空間で白衣を着た白髪長髪の女性と話していた。ドラマでよくある焦点が定まってない映像のようだ。

 しかし、何を話していたのかが思い出せない。


 ――口論してたような気がする。


 そうだ。突然不思議な場所で目が覚めて、そこに人が居て……神みたいな存在と言われても信じられなくて……どこぞの物語みたいに。『使命を授けたい』とか云われたんだ。

 そりゃあ迷惑だと思いつつも、ちょっと喜んだんだ。自分に特別な物語が始まったかと思って。しかし、その後に呼ばれた名前が違ったので、思わず突っこんだら『む…違えたようだ』とか言い出しやがって

 更には『お主でもいいか』とか云われて口論になったんだ。


――で……どうなったんだ? ……覚えてないぞ?


 辺りを見渡す。


「どこだ……」


 自然しかない。山の中腹の丘だ。日は高くない。朝方だろうか。

 太陽の反対側に反対側に月が……丸くない棒切れみたいな月が二つ浮かんでる。


「何だ……あれ」


 何度も目を擦って確認するが景色は変わらない。色合い的には月なんだろうな。なんか壊れた月の欠片みたいだけど。


「夢……とか」


 頬つねりからビンタ、頭突き。ジャンプ。でんぐり返しとしてみたが状況は変わらない。


「あ……あー……ああーっ……ああーっ!」


 声を上げてみる。喉を触って震えてるのを確認する。夢にしてはリアル過ぎる。自分の夢って白黒だったり、結構いい加減だったし。


「そ、そうだ。携帯。携帯!」

 

 背負いのバックから中学時代から使ってる古い携帯電話を取り出す。しかし予測していた通りアンテナは立たない。

 それでも一縷の望みを掛けて自宅に掛けてみるが……メッセージが流れる訳でもなくひたすら呼び出し音のみが続く。


「……」


 諦めて携帯を切り、立ち上がって手足を振り回してみる。何も起こらない。鳥の声らしきものが遠くで聞こえるだけだ。

 しばらく呆然と待ったが変化は無い。夢ならいい加減、何か進展するよな。立ちすくんだまま終わる夢なんておかしいし……


「……夢じゃない……と」


 後方は山脈だ。山頂に雪が残ってる。下を見渡すと、なだらかな丘が広がっている。


『この世界で……して欲しい』


 って言われた。確かに言われた。肝心の何をして欲しいのかは思い出せないが、今の問題は『この世界で』だ。


「違う世界に放り出された……本当に?」


見渡す木々は細く見慣れない種類。たぶん針葉樹林なんだろう。ここは緯度の高いところなのだろうか。町らしき物は一切見えないが、下方に林道みたいなのが見える。


「いや、でもまさか……まさかね……あはは」


 異世界なんて。そんな事がある筈ない。錯覚だ。何かの勘違いに違いない。妄想にも程がある。漫画じゃあるまいし。だいたいああいうのは漫画とかアニメとかに詳しい連中が出会うもんじゃないのか。俺みたいな体育会系バカに起きる筈がないのだ。空にあるのは光の角度か何かで変に見えてるだけさ。

 たぶん、誰かに騙されたか何かで拉致されて、途中事故とかあって、山の中に放り出されたとかそんなオチだろう。

 現実逃避して深く考えるのを止める。月だけじゃ証拠にならない……というか月が変に見えるくらいで異世界なんて認めたくない。空を飛んでる鳥が聞いた事の無い鳴き声を上げた。思わず見上げると……手足のある鳥が空を飛んでいた。


「……何だあれ。……あはは」


 自分の常識が揺れるのを感じる。夢じゃない。夢じゃない。いや、夢だといってくれ。

 とりあえずと林道に向かって丘を降りていくうちに、廻りの木々から音がするのに気づく。

 誰かいるのかと顔を向けると、狼みたいな動物が左右からこちらを見つめていた。


「……!」


 犬かと安心するのも一瞬、背筋に寒気が走った。

 犬じゃない……目が……怖い……あれは捕食者の目というやつでは。


(あれ……なんか……なんかヤバくない?)


 よく見るとその後ろにもいる……その横にも……反対側にも音がして振り向くとそちらにもいる。


 ……囲まれてる?

 足を速める。変わらずついて来る。

 茂みの中から聞こえる音が段々大きくなってくる。


(いや、ヤバイって、ヤバイって!)


 本能的な恐怖を感じる。

 追い立てられるように慌てて走りだすと、茂みから獣が次々と飛び出してくる。


「おおおおっ! 嘘だろおおおお!」


 全力で走る。走る。早い! 絶対にあっちの方が早い。即追いつかれる! やばい! このままでは襲われる!


「ちょっ、嘘っ、来るなって!」


 土手を越え、木々を走り抜け、崖を転げ廻り、怪我を気にするどころじゃなく走る。


「何か、何か武器って無いのか?」


 自分はいつもの外出時の格好だ。ポロシャツにカーゴパンツ。バックには携帯とペットボトル。バックの中には傘と飴くらいしか入ってない。しかもミルキーだ。


「武器、何か武器は無いのか」


 【異世界召喚】といえば特殊な能力を受けて、それを使って活躍するのがお決まりじゃないのか? しかし足が速くなった様子は無い。今にも追いつかれそうだ。やばい。やばい。やばい。死ぬ。召喚されて数分で肉片だ。


「あいつらを防ぐ方法とか無いのかよ!」


 くんっ!


「!!」


 急に手足が引っ張られる感覚がした。

 瞬間に理解する。これが対抗策だ。武術か魔法か知らないが、これがこいつらを倒せる唯一の方法だ。


(これだ!)


 立ち止まって振り返り叫ぶ。


「いくぜ!」


 狼達は両手を広げて動き出した新平に驚き、一度留まって襲い掛かるの躊躇する。

 新平は頭に沸くイメージに沿って体を動かす。掛け声も必要なようだ。


「ハッ! ハッ! フッ! ハッ!」


 掛け声で気合を入れながら大きく手を広げ、小刻みにステップを踏む。

 ……が、特殊な武術や武器が出てくる訳でも、魔法が発動する訳でもない。一向に身体は敵に向って行かない。その場で手足がリズムを刻むだけ。違う。今、自分は踊ってるんだ。ただ単に踊ってるんだ。


(って、何だこりゃあ! 敵はあっち! あっち! 何で踊るんだよ! 呪文とかじゃないのかよ)


 しかも珍妙な踊りだった。

 クラシックでもワルツでも無い。まるで幼稚園児がお遊戯でするような稚拙な創作ダンスだ。


(おおおっ。恥ずかしいっ)


 手の振りを間違えたりステップを間違えると効果が消え、最初からやり直しになるのが分かる。間違える訳にはいかない。

 どうやら自分に危害を加えるものでは無いと判断した獣達が再び駆け出す。目の色が赤い。よだれ垂らしてる。迫り来る死の恐怖。でも今更止める訳にはいかない。

 踊りには笑顔が必須らしい。冷汗と涙と鼻水顔の引き攣った笑顔で迎えうつ。


(嫌だ。こんな死に方嫌だあっ! ひいいっ!)


「シュシュシュ、スリープ! スリープゥ!」



 ……こうして大薮新平は獣達を眠らせたのだった。



                    ◇



 ――起きないよな。


 死んだように眠っている獣達を眺める。起きだしたらと思うと怖くて触れない。

 やはり犬というには大き過ぎる。昔TVで見た狼みたいだ。よく見ると……角がある。角?


「何だ……こいつら」


 見た事のない動物だ。狼と鹿が合体でもするとこうなるのか。いやこの真っ赤な角は変だろう。

 どちらにしろ襲われたら死んでた事は間違いない。


(逃げよう)


 眠りの効き目が何時まで続くのかも分からない。他の獣も来るかもしれない。立ち上がって歩き出す。

 丘を降りていくうちに、林道に出たので反って歩く。


(何だったんだろうあれ)


 いや、分かってる。理解したくない。認めたくないんだ。ここが異世界で、あれが人を襲う獣だって事を。ここが簡単に死にそうな世界だって事を。

 道は細い。人は誰も見当たらない。両脇の藪から何か出てこないかと不安に駆られながらと急ぎ足で降りていく。

 小一時間程歩いて林を抜け、広い街道へ出る。そしてやっと人影を見かける。


「おおっ」


 道外れに人が一人寝そべっていたのを見つけ走り出す。嬉々として声を掛けるが反応がない。嫌な予感を感じながら近づく……倒れてるのか。動かない。

 おそるおそる起こしたら冷たい死体だった。


「ひいいいっ!」


 もちろんこうした死体を見るのは初めてだ。葬儀で見た蝋人形みたいになった肉親の死体とは違う生々しさにひっくり返る。

 ナイフか何かで切られたのだろうか、動物の仕業とは思えない切り口で首が切られてる。血溜まりはもう乾いていた。しかし腐臭が強くない事から、死後それ程時間が経っていないとも考えられる。

 道端で旅人らしき人が首を欠き切られて死亡。所持品は荒らされた形跡が……あるな……強盗?


「何? もしかしてここ治安最悪? 盗賊とか普通に居て簡単に殺されるのか?」


 もう半べそ状態。冗談じゃないぞ。知らずに膝が笑い出す。


「か、勘弁してくれよ」


 武器なんて持ってない。頼りは先程の【睡魔の踊り】のみ。のみ? あんなの頼りになるの? 相手が踊りを見ないで攻撃してきたら瞬殺じゃないのか。


「なんてこった……」


 死体はどう見ても外人。遺体の服装からすると中世くらいだろうか。妙に背が低い。コスプレや遊びなんかじゃないのは流石に死体で分かる。腐臭もするし。

 とにかくこれで、ここが日本じゃない事は確定した。

 白い円柱みたいな月が二つ浮かんでるので、やっぱり異世界も確定なのか。認めたくないけど。死体が目の前にあるんだ。現実逃避してる場合じゃない。


『この世界で……して欲しい』


 あの神みたいな者に云われた言葉が浮かぶ。


「ちょっ、こんな所に召喚されたって無理だって。死ぬって。帰してくれよ、おい!」


 見当たりもしない神とやらに怒鳴る。やっぱり返事は無い。


「困るってば……」


 へたりこんだまま、子一時間文句を空に叫んだが反応は無し。

 もしかして口論した後、神が怒って適当に捨てられたのか? 自分、怒ると結構口が悪くなるからな……何をやらかしたのか分からないが、ありそうで怖い。


 絶望感で地面にへたり込む。


 死体が腐敗してない事から、殺されてからそんなに時間は経っていないようだ。殺害者は近くにいるかもしれない。あの狼崩れ達も起き出して、自分の声に引かれて追いかけてくるかもと気づき、宛てもなく歩きだす。

 死の危険があり過ぎる世界。こんなところで、どうやって生きていけばいいんだろう。

 自分は高校生だ。サバイバル知識なんてひとつも無い。

 言葉は通じるのか。食事は。金は。金は……金……

 散々迷ってから戻る。

 遺体から服装を調べ、ポケットを漁り小銭らしきものを入手する。ずた袋と上着とズボンを盗む(靴はサイズが合わず履けなかった)予想した通り縫製はかなり荒い。やっぱり召喚物定番の、ここは中世設定で現代日本の物と比べると粗悪って話なのか。ゴムも無い汚そうなパンツ迄は奪って履く気にはなれない。

 怪しまれないように自分の外見を現地人に似せないと……上着とズボンを交換し、転がってたずた袋に自分の鞄を詰めて歩き出す。

 上着に飛び散った血の跡の匂いに吐きそうだ。


(最悪だ……状況も俺も)


 ずた袋から見つけた乾し肉をかじる。


(俺が何かしたってのかよ……)


『――主でもいいか……』『む……違えたようだ』


 神の言った言葉を思い出す。


(あああ糞、畜生。ふざけやがってっ。全部あいつのせいだ)


 自分は間違えて召喚された挙句、この地に放り出されたのか。

 もしかして何か説明受けたのかもしれない。特殊な力や情報を得てるのかも知れない。

 指定された特定の人物に会えば胸躍る冒険活劇が始まる予定なのかもしれない――実際に踊ったのは自分自身だった訳だ。わぁつまらない。


 召喚物といったら、王城で神官達に囲まれて召喚されるのが定番の筈だ。何故あんな野っ原に。事故があって別の土地に飛ばされた……とか。違う気がするな。あいつは確かに『使命を授けたい』と云ったんだ。という事は召喚者はどこかの国の神官とかでは無く、神自身だろう。それなら、この世界で自分が召喚されたと知っている人間は居ないって事だ。誰も自分を捜したり助けたりしてくれる予定も無い。

 ……泣きたくなって来た。


 神とやらは何処に呼んで自分に何をさせるつもりだったのだろうか。

 ……困ったな。思い出せない。神にも腹が立つが、覚えてない自分にも腹が立つ。

 でも召喚後に即、命の危機になっているんだぞ。神も少しはアフターフォローくらいすべきだろうに。なさけない文句だと自分でも思うが命が掛かってる状況では愚痴らずをえない。

 神とやらは今の自分を見てないのだろうか? ここで自分が死んだら召喚した事が無駄になるだろうに。どういうつもりなんだろう。


 文句を呟きながら道なりに進み夕方。やっと村らしき集落が見えてきた。

 町だ……やっと着いた。良かった。人が居る。獣しかいない世界という可能性もあったので一安心だ。

 高い木の柵に覆われた集落みたいな場所に辿り付く。


 うわあ……レ、レトロだな。


 結論は出ていたがどう見ても現代じゃない光景に、これで完全にここが異世界と確信できて悲しくなる。門には二名兵士が立っていた。つまり門兵を置くくらい治安維持が必要って事だ。近づくと門兵に誰何された。


「何処の者だ」

(おおおっ)

「は、はいっ!」


 よかった。言葉は通じる。通じなかったら途方に暮れるところだった。

 しかし金髪碧眼の人が、流暢な日本語を話すのは凄く違和感がある。

 副音声みたいに日本語と同時に変な言葉が発音されてるので、自動翻訳されているみたいだ……どうなってるんだろうコレ?


「あ、あの、商隊で下働きしてたんですけど途中で賊に襲われて……みんな……みんな。俺だけ……」


 あらかじめ考えていた『襲われて着の身着のまま逃げてきた小僧』を装う。

 着替えた上着に、遺体となった旅人の返り血がついてるので信憑性は高いだろう。うん。


「そうか……災難だったな。何処の者だ?」


 こっちの言葉も通じる。いいぞいいぞ。


「…………ひ、東からです」

「いや、どこの商隊かと聞いてる。名は?」

「………おおや……ま、マンマミーヤ!」

「聞かない名だな」

「あはははは!」


 やばい。日本人名はマズイかと思って、とっさに適当に叫んでしまった。アドリブ駄目なんだ自分は。


「ちょっとその荷物見せろ」

「い、いや襲われて身分証明するもの何もないんス」

「いや、武器等がないかの確認だ」


 マズイ。ずた袋の中は日本でのズボンと鞄。携帯なんて見つかったら大騒ぎだ。ミルキーは没収されちゃうのだろうか。いや、ズボンだって生地や縫製の技術のレベルがが全然違うから目を付けられるに決まってる。


「いやいやいや、ホント何もないですって本当! 身包み剥がされたんですから!」

「じゃあその荷物は何だ?」

「あうっ」


 しししまった。そうだよ。荷物持ってんじゃん。

 言えば言うほどボロが出る。


「あんた本当嘘下手だね」「全部顔に出るよな」「動揺すればする程、ボロが出るよな」


 今迄友人達に散々言われた言葉が脳裏をよぎる。

 そう。自分は嘘が下手なのだ。


「い、いあや実は俺、記憶喪失で去年商隊に拾われたんス」

「だからその商隊の名前は?」

「ど、どどどドラ○エ商隊で!」

「……さっきと違ってるじゃないか」

「!」


 青くなる新平。門兵が不審な顔を見合わせてアイコンタクトしてる。

 冷汗が止まらない。もう自分でも何を言ってるのかテンパリ過ぎて訳が分からない。


「……分かった。ちょっと付いて来てもらおうか」

「な、中に入れてくれんですか?」




………牢屋に放り込まれました。

三人称単数が上手く書けない……

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