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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
1章 トリスタ森林王国内乱編(全33話)
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15. 大薮新平 関所を越える

 【失笑と失影のサイレントターン】で姿を消した新平は、アヒル口で両手を広げて固まったまま天馬が飛んでいくのを感じいていた。


(おいてかれたあ! 畜生! あの馬あああ!)


 関所を越えられず頭を抱えていた新平達は、救出部隊の天馬達に見つけられ、敵兵の追及を逃れて天馬に飛び乗って関所を越えた……筈だったのだが、何故かフラニーの天馬が新平を助けるのを拒否し、新平は敵中に一人取り残される事になったのだった。


 その新平は現在滝の汗状態。周辺を殺気立った兵達が、武器を手に自分を捜して走り回っている。

 騎馬が馬蹄を響かせ何頭も自分を通り過ぎていく。分かっていても自分を通り抜ける感触に思わず身動きしそうになる。


(ひいっ! 動くな。動いたら死ぬ!)


 動いた瞬間、踊りの効果が消え姿が現われる。視認されたら【失笑と失影のサイレントターン】は掛からないので、もう消える事ができない。つまり逃げられない。というか馬に蹴られるか轢き殺される。助かっても取り押さえられて今迄の恨みを晴らされる。それはもう熱烈歓迎バーモンドカレーにされてしまうだろう。


(どどどうすんだ。どうなるんだ俺)


 天馬達は既に飛んでいったようだ。ポーズの変えられない限られた視界では満足に確認も出来ない。味方はいない。周囲は殺気だった兵達。動けないから、ろくに目を瞑る事もできない。正直、小便ちびりそうだ。


(耐えろ。耐えるんだ。大薮新平。こんなところで死んでたまるか)


 ラディリアの待っていろという声は聞こえていた。ここは我慢して迎えを待つべきだ。ひたすら救援を信じて待つ。少なくとも兵達が引いて、林に逃げ込む事が出きる迄は耐えなければ。


 しかし、何故あの天馬は自分を避けたのだろうか。偶然? いや、ありえない。あの瞬間、確かに天馬と目が合った。天馬は自分を認識した。その上でフラニーの指示を拒んで自分を避けたのだ。考えられる原因としては……やはりあの夜同乗した時、騎手のフラニーの胸を触ってしまった事だろう。あの時も地上に急降下し、自分だけ降ろされたのだ。


『不埒な雄め』


 そうだ。あの時、あの天馬はそう言って自分を蹴ろうとしたんだ。何だよ只の嫉妬かよ。冗談じゃねえぞ。


 だんだん新平は腹が立ってきた。


(何が清らかな乙女しか乗せないだ神獣だ。ただの淫獣じゃねえじか!)


 天下の神の使徒を言いたい放題だった。


(手が無いから自分は揉めないんで羨ましかったんだろ。目の前でフラニーの胸を揉みしだいてやろか。けけけ)


 そんな度胸も無いのに威勢だけは良かった。


(無事生き残ったら【睡魔の踊り】で眠らせて顔にペコちゃん描いてやるからな! 油性だ。油性マジックでだ。あれこの世界マジックあるのか…)


 単純馬鹿の割りに、意外と恨み事を引く新平は、あの手この手の子供っぽい仕返しを想像して一人盛り上げっていた。

 周囲では罵声と馬と歩兵が行き交っている。普通の人間だったら緊張に耐え切れず動いてしまったろうが、気が逸れて妄想している新平は、結局一時間以上を耐え切った。

 素晴らしき一人上手だった。



 そして待ちに待った天馬が再び現われた。


(来たぜ! 来い。こっちだ!)


  フラニーの天馬は関所周辺を旋回し牽制している。フランの天馬だけがこちらに向かってくる。しかし天馬達にも新平は認識できていない。敵兵達は先程からはかなり減っている。


(どうする。姿を現して走るか。いやまだ遠い。せめてもっと近くに来てから……)


 ラディリア達が【失笑と失影のサイレントターン】の特性をどこまで説明したか分からない。

 一周して諦めて戻っていく可能性だってあるのだ。自分は部外者だ。この国とは関係ない。見捨てられても誰も気にしない。うわ、泣きそう。

 時間を掛けるとまた赤鎧達が戻ってくる可能性もある。どうするか。解くか。待つか。今、自分の見える範囲に兵は二人いる。全速でダッシュして天馬に拾ってもらうか。


「って、あっ!」


 迷っていたが。天馬の影が来て通り過ぎようとした瞬間に(行くなよ!)と思わず動いてしまった。当然踊りの効果は解けて姿が現れてしまった。もう進むしかない。


「こ、こっちだフラン!」

「あ、いた!」

「「あ」」


 フランと同時に目の前の兵達も新平に気づく。彼らからすれば突然新平が現われたのだ。驚いている隙に逃げ出さなくてはならない。さあ、人気のない場所へダッシュだ。


「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」

「……え?」


 振り返ると、すぐ後ろに十名以上の兵達がポカンとした表情で立っていた。


「うわあああ!」


 全力で街道をダッシュする。後ろにいっぱいいるじゃねえか!


「追いかけろ」「おおっ!」「てめえ!」「殺せ!」「何処に隠れてやがった!」


 兵達が殺気だって追いかけてくる。必死に逃げる。畜生、ずっと固まっていたので足腰が硬い。負けんな、元陸上部根性みせろ。


「気をつけろ! そいつは怪しげな術を使うらしいぞ」


 怪しいってなんだよ。そうだよ怪しいよ。でも俺のせいじゃねえよ!


「おかしな踊りをするらしいぞ!」


 好きで踊ってんじゃねえよ! 畜生、本当に自在に魔法使えたら蹴散らしてやんのに。こいつら知らねえだろうがよ!


「!」


 振り向いて両手を向けて大声で叫ぶ。


「一生、女にモテなくなる魔法!」


 ぎょっとして兵達が立ち止まる。掛かった!


「地面に伏せないと解けないぜ!!」


 ドヤ顔で両手を広げる。すると立ち止まった兵達が思わず互いを見返す。それを尻目に再度ダッシュ。


「「「「「「「あ」」」」」」」


(逃げろ! 逃げろ!)


 走り去る新平を見て、騙されたと気づいた兵達。一層怒声をあげて再び追いかけ始める。しかし鎧装備の兵達は、一度立ち止まると走り出しても初速が遅い。その間に新平はかなりの距離を稼ぎ、そこへフランが降りてきた。


「オヤベ!」

「だから大薮だっつーの!」


 天馬からフランの手が伸びる。手を伸ばす新平。そしてまた天馬と一瞬目が合う。嫌な予感が一瞬よぎった。この馬は違う筈。いくらなんでも言い聞かせてくれている筈。


「格好良い御馬様! どうか乗せてくださいませえ!」


 しかし気がつけば媚びていた。生死が掛かると人間の本性が現われる。新平のプライドは紙の如く薄かった。


「あんたって……」


 呆れ顔のフランの手を握るのに成功する。


「おおっし!」


 そのまま引き上げて貰って鞍に抱きついて騎乗。上空へ上がる。


(助かったあああ!)


 嬉しくて涙ぐむ。歓喜と落ちないようにフランに抱きついたら悲鳴をあげられる。


「うひゃあ!」

「うわあゴメン! 御馬様、他意はないのです。もうこの娘には触りませんので、どうか怒らないで下さい!」


 ここで天馬に嫌われて落とされたら適わない。とことん低姿勢な新平。後で我に返って自己嫌悪で壁に頭を打ち付ける事になる。


「ボクに謝るのが先でしょう!」

「うわあそうだ。ゴメン。謝る。だから馬にチクらないでえ」


 慌てている新平は混乱している。天馬は不機嫌な嘶きをしたが、そのまま舞い上がった。 地上の兵達が取り逃がしたのと、少女と同乗しやがって羨ましいぞ、との妬みで怒声をあげるが、二人には届かない。


「さあ行くよ! 抱きつくのは駄目だけど落ちないでね」

「ガッテンだ!」


 有頂天になり過ぎて意味不明な言葉を返す新平に、フランは苦笑いしながら天馬を駆って関所の向こうへ向かう。



 こうして新平の長い逃避行は、ようやく――本当にようやく終わったのだった。


                    ◇


 フランとフラニーの天馬が陣内に降りたつと、救出の成功を知った兵達から歓声が上がった。ここはもう王女派の陣営だ。関所の向こう側より、かなり多い兵達が陣を広げていた。


「チンペー殿!」

「小僧!」


 その中からラディリアとデニスが顔をだして救出の成功を喜ぶ。

 フランとフラニーはヒラリと下馬し、満面の笑みで手を振って歓声に応える。新平は慣れない様子で苦労しながら鞍から飛び降りる。

 そこへラディリアとデニスが駆け寄る。しかし新平は二人を掻き分けて前にでて……


「この糞馬ああ!!」


 怒声を上げてフラニーの天馬に向かって行き、ドロップキックを放った。


「「!!」」


 周囲が凍りついた。

 天馬を足蹴にするとはこの国ではありえない暴挙だ。なにせこの国は天馬が多く発生した事から、ゲルドラ帝国から独立して興った国なのだ。彼らは国の象徴であり神獣であった。

 蒼白となって周りが慌てて新平を取り押さえようとするが、それより先に動いた者が居た。蹴られた当の天馬エリックだ。彼は唸り声をあげて新平に突進する。新平はヒラリとそれをかわし、再度キックを放とうとしたところを天馬の後ろ蹴りが襲う。新平はこれもかわし、上半身へ回って殴りつけようとする。それを避け突進しようとする天馬。ぐるぐると回る一人と一頭……まるで子供の喧嘩だった。


「ふざけんな、この糞馬ぁ!」


 駆け寄った者達で一斉に新平を取り押さえる。フラン達も蒼白で天馬に駆け寄って抑える。


「何するんだこいつ」「なんてバチあたりな」「止めろ馬鹿者」


 取り押さえられても、周囲の制止の声も聞かずに新平は天馬に向かって叫び続ける。


「だからって寸前で拒否すんじゃねえよ! ……お前のせいで死に掛けただろうが!」


 尚も天馬に暴力を振るおうとする新平に周囲の怒気が高まる……が、何かおかしい事に気づきだす。


「そんならお前が先に断っとけばいいんだろが! ……小せえぞお前! ……知るかよ、そんなの!」


 フラン達が懸命に抑えてる天馬も、何度も嘶いては前足を掲げる。 ……まるで会話をしているようだ。


 ラディリアが新平の前に立ち、視界を塞ぐ。


「待て! チンペー殿、落ち着け! ……その、貴方は天馬と話ができるのか?」

「はあ? だから分かるって! 翼竜追い払った時だって話してただろうが!」


 取り押さえていた者達がぎょっとする。この少年は何を言ってるのだ。


「いや、あれは一方的に話しかけていたのかと……」

「前にも言ったじゃねえか。俺は翻訳の魔法で、喋る奴全員と話せるって! そいつとも話せんだよ!」


 ざわりと周囲の空気が変わる。


 天馬と会話ができる。それはこのトリスタ森林王国の開祖ゼネビィア女王と、その孫のシルヴィア女王しか成し得なかった偉大な才能だ。天馬騎士は全員天馬に認められ騎士となるので、有る程度の意思の疎通はできるが、実際には喋って会話が出きる訳ではないのだ。

 皆が顔を見合わせる。しかし真偽が分かる筈も無い。だが、組み伏せた少年と荒ぶる天馬はどう見ても会話を、いや喧嘩をしている。

 天馬が首を振りながら珍しい声で嘶く。


「何がおかしい!」


 今、笑ったのか。いや笑った。確かにそう言われると笑ったように見えた。


「俺が色ガキなら、お前だって只の女好ぎじゃねえか! しかも処女好きの変態が! どスケベが!」


 その言葉を受けて天馬が大きく嘶き足を掲げる。フラン達が慌てて抑える。今度は怒ってる。絶対怒ってる。確かに会話をしている。というか誰もが密かに思ってたが、この国では絶対言ってはいけない事を口走ったぞこの小僧。


「え、何? 本当に話してるの?」


 天馬の騎手たるフランの問いかけが、会話をしてるという事実を一層裏付ける。知らずどよめきが起きる。


「天馬と話す事ができるだって」「魔法、魔法と言ったか?」「何と凄い」「信じられん」「しかしどう見ても」「只の大陸公用語ではないか」

「ちょっ、離せ! ケツに花を突っ込んで吊ってやる!」

「駄目だ、落ち着けチンペー殿」

「ああ、退いた退いた」


 デニスが兵達やラディリアを押しのけて新平の前に出る。そしてしゃがみ込んで尻を向け……屁をこいた。


「ぶはあっ! ちょっ」

「落ち着けよ小僧。皆お前にびっくりしてんだ。やっと助かったんだ。怪我の手当てもあんだからゆっくり座って話そうぜ。喧嘩は後々」

「……でもこの糞馬が」

「頭が冷える迄、水桶の中にでも突っ込んでやろうか? 皆でお前を抑えてる手間も考えろよ」

「……くそぅ……畜生め…」


 場を治めたのは、何とデニスの屁だった。


                    ◇


 暴れた事への謝罪で四方の兵達に頭を下げた後、これからの事を話すと云われ、大きな天幕へ新平は招かれた。集まったのは関所の責任者という壮年の男性二人と、包帯を巻いて腕を吊った天馬騎士エルダ。フラン達は来ず小隊長たる彼女が出席するとの事。そしてラディリアと新平。デニスは来ていない。歓待を受けてもう酒を呑んでいるそうだ。じゃあ、なんで俺は呼ばれたのかと新平は首をかしげる。


「改めて助けて頂き礼を申し上げます。ありがとうございました」


 天幕内で各々が席についた後、ラディリアの礼から話が始まった。彼女が頭を下げたので慌てて新平も頭を下げる。助けてもらい感謝はしてるのだ。本当に。


「ご無事でなによりでした」


 この関所の責任者たるドルク卿がラディリアに敬語で返した。近衛騎士団員のラディリアはこの国ではかなりの高位の存在なようだ。


「アンジェリカ姫はランドリク伯の城にお送りしたわ」


 怪我を押して出席しているのはラディリアがエルダと呼んだ女性。王立予備軍という騎士学校みたいなところでの、ラディリアの一年先輩にあたるらしい。肩の包帯が痛々しい。


「ランドリクへ?」

「アンジェリカ姫の亡命式に対して、ナラントリムと交戦する可能性があるので前線をそちらに移動してるのよ。でも姫様が救出されたので、いずれ王都へ陣を戻されると思うけど」


 ランドリクはここから馬で三日程の距離にある南東の城下町との事。


「そうか、それは良かった」

「交戦の可能性が回避されたので部下達も皆、安堵しています」


 何やら一戦する可能性があったらしい。回避できて何よりだ。


「フラン達の功績だな」

「私が居ない隙に、勝手に城に潜り込むなんてね。こんな命令違反、本当は厳罰物なんだけど……」


 エルダが嘆息する。

 そうか。フラン達は哨戒が任務と言っていた。つまり偵察隊が勝手に潜入捜査した事になるんだ。隊長の命令無視しての独断先行の城砦潜入。とんだ問題児達だった訳だ。

 しかし、あの赤鎧達が砦に到着してたら、彼等を出し抜いて幼姫を助けるのは確かに難しかったろう。結果として良い判断だったのだろうか。


「それにしても良く見つけてくれました。正直助かりました」

「アンジェリカ王女から救出を頼まれていましたし、貴方なら必ず関所まで辿り着くと思って、要所の関所前での哨戒を増やしていたの。見つけられて良かったわ」

「苦難の連続でしたが……」


  ラディリアは薄く微笑んで視線をよこすので何度も頷く。本当に酷い目にあった。


「それで彼が報告にあった……」

「ええ、異国の魔道士チンペー殿です」


 間違いの名前を教えるなよと言いたいが、場の雰囲気から指摘し難い。皆に頭を下げて挨拶する。


「……大薮新平です。色々あって一緒に逃げてきました。よろしくお願いします」

「オヤブシペ……?」

「オオヤンシペ?」


 もう嫌だ。この連中。


「姓がオヤベで名がチンペーです。ニホンという異国から事件に巻き込まれ、この国に流れてきたそうです。聞いておられるでしょうがフラン達と一緒に姫様の救出に協力して頂きました。今回の成功は、彼なくしてありえませんでした」


 おお……どよめきが起きる。しかし新平は居心地が悪い。彼としては兵の一人とも戦ってなく、不意打ちで踊っては、眠らせ回って逃げて来ただけなのだ。褒められると騙している気分になり、なんかすいませんと言いたくなる。

 周囲は経緯ではなく『救出行を成功させた』という成果で判断しているのだが、新平としては居心地の悪い事このうえなかった。


「そうですか。ありがとうございました。オヤブシ殿」


 それよりも、また新しい誤名が増えた方が気になった。


「私共からも礼を言わせて下さい。アンジェリカ王女を助け出す事が出来、また無用な戦を回避できたので兵達も喜んでいます」

「あ、はい。どうも……」


 成る程。内乱なのだから同国の兵同士が戦うのだ。兵達にとっては回避できる方がありがたいのだろう。しかし本音ではあるが、関所の責任者達の言って良い台詞では無いのか、もう一人の男性から窘めれている。

 ラディリア達は聞かなかった事にしてるのか、あらぬ方向を向いて茶を飲んでいる。


「それで、これからの事なのですが……」


 ドルク卿が話を進めようとするので、新平は手を挙げて制した。


「えっと……それよりその……エルダさん? の怪我が痛々しいから先に治そうよ。していい……だろ?」


 ラディリアに同意を求める。この人は矢を受けて大怪我してるのだ。気丈にも同席して喋っているが顔色は悪いし包帯から血が滲みだしてる。正直気になって仕方が無い。


「貴方が良いのなら、構わないと思いますが……」

「治すとは?」

「いや、私は……」

「どういう事ですかな?」

「彼は魔法の舞踏で医療魔法も行えるのです。私も城で負傷し、身動きできない程の重体だったのですが、今はこの通りです」

「ほう……舞踏でですか。それは珍しいですな」

「杖も書も無しにですが? 凄いですな」


 関心する男性陣。今の会話だと、この世界には治療する魔法はあっても杖や本が必要なのかな。……本でどう治すんだ。叩くのか?


「失礼ですが、あまり魔道士という風には見えませんな」

「そうですね。かなり遠方の国の出自との事で、こちらの魔道士とは生業や様式も違うようです。……あまり詳しくは話せませんが、彼は我が国では見られない独特な魔法を使います。エルダ、どうでしょうか」

「……いいのですか。ここに着いたばかりでお疲れなのでは」


 あの変な踊りで魔法が掛かる理屈は自分達も判っていないのだが、ラディリアが上手く誤魔化して説明してくれた。

 それよりもエルダさんが自分なんかに敬語を使う方が気になる。何故だろう。魔道士って偉いのだろうか。というか俺、魔道士なんでしょうか。そんな自覚ないんだけど。


「い、いや。その格好で居られる方が落ち着かないんで、治させてもらえばありがたいっていうか……」


 彼女は平静を装ってるが、敵の矢が肩を貫通したのだ。重症だ。普通だったら寝込んでいるだろうし、骨や神経への影響も怖い。完治するには何ヶ月も掛かるに違いない。経過が悪いと下手をすれば腕が上がらなくなる。中学時代、怪我で部活を辞めた自分にとっては気が気ではない。顔色も悪いし、正直見てて落ち着かない。


「しかし……いや、ではお願いできますかオヤブシ殿」

「あー…………はい……うん」 

「?」


 間違えた名前なら、呼ばないでくれた方がありがたいかも。地味にやる気を失くすんだけど。


                    ◇


 天幕を出て場所を探す。聞かれたので別に広ければ何処でもいいと答えるとラディリアが歩き出した。皆で後ろをついて歩いていると、エルダさんが小声で話しかけて来た。


「申し訳ないのですが、今はあまり持ち合わせが……」


 意味が判らず首をかしげる。ラディリアさん翻訳お願い。


「普通、司祭等から魔法の治療を受ける場合は、高額の献金を必要とする場合が多いのです」


 だから最初遠慮していたのか。


「おお。何、俺金取るの?」

「聞かれているのは貴方ですよ」


 ラディリアが苦笑いを返す。考えもしなかった話だ。あれ、俺これで金を稼げば、この世界で暮らしていけるんじゃね。


「そりゃ殆ど無一文だから、少しでも貰えりゃ嬉しいけど……俺から言い出しといて、それで金を取ったら詐欺じゃね? 嫌だぞ、それ」

「……ぷっ……そ、それは……大変だ」

「……では後日、改めてお礼をさせて頂くという事で……よろしいでしょうか」


 思っている事を全部喋ってしまう馬鹿な男にラディリアが吹き出す。エルダも呆気にとられていたが、次第にくすくすと笑い出す。新平は何故笑われてるのか分からない。エルダの微笑みが子供に笑いかけてるようで少し気味が悪い。後ろでドルク卿達も生暖かい笑みで眺めてる。学校のクラスでも時々向けられた事のある笑みだ。気色悪い。


 後日、司祭は金に汚く、魔道士は胡散臭く嫌われており、共に非常識な献金を請求する事から、新平の誠実で純朴な反応は堪らなく微笑ましい物に見えたと云われ、新平は憮然としたものだった。


 遠くにフラン達が居たので声を掛けて呼ぶ。ついでだ。あの糞馬も一緒に治してやろう。少しは見直して感謝しやがれ。

 何故かドルク卿達も付いて来て眺めてる。すると何事かと周りの兵達も注目してくる。


「え……俺、こんな注目されて踊るの?」


 流石に恥ずかしい。こんな集団監視の中で『アレ』を踊るなんて、何という羞恥プレイ。


「では、場所を変えようか」


 ラディリアが提案してまた歩き出した。彼女としても、この特異な魔法をあまり人目に見せるべきでは無いとも判断してるのだが、当然新平は気づいていない。暢気に兵士の様子を眺めてる。


「……やはり、チンペー殿でも皆の前でアレを踊るのは、恥ずかしい事だったのか……」

「あたり前だろ。え、何? 俺好きであんなおかしな踊りしてると思われてたの?」


 言い返すとラディリアが口篭った。思われてたのか。俺って変態だったんだ。


 今度は人気の無い天幕の裏に来た。これはこれで何だかな。校舎裏に呼びだした気分だ。


「……なんか、コソコソといけない事をするみたいだな」 

「どうすれば良いのだ?」

「あ、いやゴメン。踊ります。ハイ」


 勝手な事を言った自覚はあったので謝る。なんで、怪我を治してあげようとしてるのに謝ってるんだろう。


 天馬エリックと包帯を巻いたエルダがよりそう。不機嫌そうな糞馬は放っておいて、青い顔で立っているエルダさんは可哀想だ。急ごう。

 新平は大きく両手を挙げた――



 ――タップを踏み、両手を上下し、掛け声を挙げ、腰を回す。

 両手でパンツの紐を肩まであげるように引っ張り上げ、手足を伸ばしステップ! ステップ! ステップ!


(はあっ!)

「ヒッ! ハッ! ヒッ! ハッ! ハチュ! ハチュ! ハチュ! ハチュ!」


 いつもの言葉が脳裏に響く。


 【癒す女神のムスタッシュダンス】


「うわっ!」「ブルッ!?」


 突然自分の身体が発光して驚くエルダと天馬。そして光が治まった後も呆然としている。


「ふー……終わったよ」

「?」

「エルダ。肩の調子はどうですか」

「え、ああ……何だ? え?」


 肩をくるりと回し違和感が無い事に気づく。


「治ってる?……い、今のは……何だ?」


 動揺している。事前に魔法と説明してあったのに、実際に踊りを見て『何だ』呼ばわりされるあたり実に悲しい。

 フラン達双子は踊りが可笑しかったようで、途中から腹を抱えて笑いだした挙句、息も絶え絶えで、寄り添いうずくまっている。踊りの途中で吹き出された瞬間は死にたくなった。ちくしょう、覚えてろよ。


「チンペー殿の魔法です」

「これが……一瞬ではないか…なんと凄い」

「おお……なんと珍みょ……いや、不可思議な」

「ま、まことにおか……、不思議な。杖も使わずにとは」


 ドルク卿達も関心している。あんた達も口元押さえて震えてたよな。見えていたぞ。


「凄い。あんなので本当に羽が治ってる。エリック本当に大丈夫?」


 さらっと酷い事を言いながら、フラニーが天馬に飛びついて喜んでる。待てコラ。違う、飛びつくのはこっちだ。散々笑いやがって、それくらいサービスしろ。

 天馬は状況を理解できていないのか唸ってる。馬の真似すんな。喋れよコラ。礼を言え。


「どうだ! 感謝しろ糞馬!」


 天馬はしばらく唸りながらうろうろ廻っていていたが、犬の様に後脚で土を蹴って新平に引っ掛け去っていった。


「ちょっ、何すんだこの糞馬! 犬かお前は!」

「ああもう、どうどう」

「俺は馬じゃねえ! 馬はあっちだフラン!」

「あはは。やー面白かった。でもすっごい助かったよ。ありがとね。待ってフラニー」


 フランが軽く礼をして、フラニーと天馬を追いかけていく。俺は芸人じゃねえと怒る新平。それを眺めているラディリアの元へ、エルダが歩いて来る。


「助かった。ラディリアにも感謝している……本当に会話してるようだな」

「そうですね。不思議な人物です」

「本部に連絡すると、これは大騒ぎになるぞ……」

「……はい」

 

 天馬と話す人物が出現したのは、この国にとって一大事だ。しかも、見た事も無い高度な医療魔術まで使う。小声で話し合う会話は新平には届いていなかった。


                    ◇


 その夜は結構な野宴が行われた。敵国へ売り渡される予定の幼い姫が救出され、その救出者達も全員無事で生還したのだ。何より不安視されていた直近の奪還作戦が回避されたのが兵達には嬉しい。もし王女がナラントリムに攻め入っていたら、程近いこの関所でも交戦や徴兵の可能性があったのだ。内乱前迄は関所の向こう側とも普通に交流があり、兵舎同士では特に仲が悪い訳でもなかったので、交戦が回避されたのは嬉しい事だ。

 陣中の兵達は殆ど男達なので、今回救出の立役者たるフラン達はちやほやされている。偵察隊でろくに武勲も挙げれなかった双子は、褒められて浮かれ捲くっていた。城砦に潜入して放火して捕まっただけなのに。

 デニスは自分から酒を注がれに行っては嘘臭い自慢をしまくるので敬遠されていた。

 ラディリアはエルダやドルク卿達と話し込んでいた。


 新平は渡された果実酒一杯で沈没し、天幕へと運ばれた……



 翌日、新平達三名に、今度はランドリク城に向かう様、要請があった。

何時までたっても、一人称と三人称がこんがらがる……でもどちらかに統一すると、読み返して面白くない……ううむ。


次回タイトル:大薮新平 ランドリク城を目指す

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