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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
1章 トリスタ森林王国内乱編(全33話)
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10. 大薮新平 敵地が封鎖される

 異世界に召喚された大薮新平。そこは獣がうろつき治安も悪く、しかも内乱が起きている国だった。知り合った少女達と捕らわれの姫様を救出した新平。しかし、逃亡中に辿り着いた町が敵兵に閉鎖され、自分達が再び追い詰められた事を知ったのだった。



 朝。デニスに叩き起こされた。


「少年。早く起きろや。まずい事になったぜ」

「……ん? ……んー」


 泥のように寝てたのを起こされて頭がはっきりしない。デニスから即ビンタをくらう。


「……い、痛ってえなおい」


 しかし二人の硬い表情に目が覚める。嫌な予感がしながらも仕方なく聞く。


「……まさかまた何か」


 苦い表情でデニスが吐き捨てる。


「ああ、まずい。出入り口を固められてやがる」


 どうやら自分が寝ている間にデニスは外を見てきたらしい。


「……追っ手?」

「ついさっきだ。夜明け頃に着いたようだな。見張りも立てずに寝ちまったから来てたら危なかったぜ。東西両方の門に、城砦にいた兵や知らない兵達が立ってやがる」

「町に閉じ込められてしまったようだな」

「見た事ねえ連中もいる。ありゃあ、姫さんの護送予定だった部隊だな。逃亡したのを聞いて慌てて四方の町に兵を派遣したんだろうさ。お目当ての姫さんは、もうとっくに天馬で関所越えて王都に向ってんだろうに。馬鹿な連中だ」


 確かに敵の目的はもう叶わない。しかし、自分達が捕まっても見逃して貰えるとも思えない。


「困ったな……」

「ああ……」


 頭を掻きながらデニスが床板に座り込む。ラディリアも難しい表情で考え込んでいる。さすがに昨日の今日で追いつかれるとは思わなかった。いや、下手すりゃ昨夜歩いてるうちに捕まるかもしれなかったんだ。ここは不幸中の幸いというべきか。


「強行突破は難しそう?」

「たった三人じゃな。無理して突破できても馬二頭。すぐ追いつかれるぜ」

「……眠らせるしかないか」


 【睡魔の踊り】を使って眠らせれば通過できるだろう。


「それが、門の前後と外にバラけて立ってやがる。しかも何人か弓を持ってるぜ」

「!!」


 ぎょっとして顔を上げる。渋い顔でデニスが頷く。


「ああ。お前さん対策だろう。あんだけ城でやらかしたんだ。あの変な踊り見たら、眠らせられるって流石に知られてるわな」

「それはマズイな。踊ってる最中に射られるぞ」


 それは困った。遠くから弓でナイスショットが現実になる。当たっても景品は貰えませんよ。


「私が盾を持って、庇いながら踊るのはどうだ?」


 ラディリアの案に新平は首を振る。


「難しいと思う。【睡魔の踊り】は相手が見ててくれないと効かないんだ。庇ってもらって相手から見えないんじゃ意味が無い。しかも有効な射程範囲が十m……十歩くらい以内の距離が必要なんだ」

「十歩か……」

「相手が一人、二人ならいいが、門には十人近くいるから無理だな。俺は盾になるのはゴメンだし。数人で切りかかって来られたら終わりだぜ」


 正面切って戦うのは困難か。


「では、少しずつおびきだして眠らせるというはどうだ」

「十人を?」


 現実的じゃないか。眠らせても一時間くらいしか効果が無い。走り回っておびき寄せて眠らせているうちに、最初に眠らせた連中が起き出す可能性がある。


「消極的だが、しばらくこの町に隠れてやり過ごすのはどうだろう」

「そうだよ。追っ手の目的は姫様なんだろ。姫さんが王都に到着したのが知れたら戻っていくんじゃないのか」


 無理して戦う必要は無いんだ。やり過ごすせるならそれに越した事は無い。フラン達もいないし、切った張ったは出来れば回避したい。


「『天馬が東に飛んでいった』と噂を流すという手もある」

「成る程な。でもそれじゃ、ここまで来たのに成果無しの手ぶらで帰る事になる。すぐに連中は引き上げるかね。それに王都に着いたと噂が出て、王子派へ連絡行って、それからやっとこっちにも撤退命令が来る。それまで隠れてるとなると長いんだぜ。この小さな町で逃げ切れるとは思えねぇな」


 ラディリアが色々案を出してくれるがデニスがあっさり駄目だしする。何だろう。そんなに逃げるのはマズイのか。


「でも目的は姫さんなんだろ。なんとか姫さんはもう関所を越えた事を知らせられないかな」

「そうだな。連中も私達を捕まえるのが目的じゃないのだから。無駄に戦いたい訳ではないだろう」


 新平とラディリアがなんとか潜伏してやり過ごそうと話していると


「いや、うーん……それがなぁ……」


 言い難そうにデニスが背嚢からある物を取り出す。


「……何、これ」

「デニス……貴方」


 それはどうみても家宝級に見える黄金の箱だった。純金だ。凄い。金って生で見ると存在感あるな。何が入ってるんだろう。


「ラオリーデ公爵家の華押ではないか!」


 その家の大事な物なのかな? まあ金で出来てるならそうなんだろう。 


「いやー。売ったら高くなりそうだったんでつい」

「何て事を。これは華押だぞ。しかも公爵家の」

「やばそうな品なのか……」

「いや、普通持ってくるだろ。こんなのに出会っちまったらよ。巡り合せは大事にする性質なんだよ俺は」


 良い言葉を使えば、許されるってもんじゃない。駄目だこの盗賊。


「それじゃこれ、姫を逃してもこれだけは絶対取り返せとか命令されてるくらいの物なのか?」

「捨てても逃がしては……くれないだろうな」

「これを捨てるなんてとんでもねぇ! ……それよりもだ。まず移動しようぜ」

「何処に?」

「とりあえず、何処か隠れられる所にさ。この宿も一泊くらいはいいかもしれんが、そこまで仲が良い訳じゃねえんだ。連中はまず宿屋から虱潰しに回るだろうし、ここの店主じゃ尋問されりゃ直ぐ売られるぜ」


 物騒な話だ。慌てて準備して宿を出る。朝なので外はまだ人通りが少ない。


「……一見すると町に変わった様子は見られないが」


 ラディリアがざっと見渡す。この町は人口五百人に満たない小さめの町らしい。隠れるのも苦労しそうだ。


「とりあえず門での兵の配置を見てみたいな」


 ラディリアの提案に従って出口側の門の近くまで来る。物影から覗いてみるが、かなり固い配備だ。

 町の門兵や城砦で見た装備の兵の他に、赤い鎧を着た兵士が何人か居る。

 門の左右に二人づつ、その横に馬車が一台。門の外にも馬車が居て中に何人いるのかは分からない。新平は唸る。


(全部で十人以上いるんじゃないか。思ったより厳重だ。集めて眠らせるのは難しそうだし、弓を背負ってるのが二人もいる)


 合図されたので戻る。再度建物の影でしゃがんで話し込むと、ラディリアが苦い表情で答える。


「まずいな。あれは王国騎士団だ」 

「何だって?」

「王国?」


 あの赤い鎧の連中か。なんか偉そうな名前だけど何でこんなところに。


「何人か見覚えがある。考えてみれば王女の護送だ。そこらの私兵や傭兵に任せる訳がないだろう」


 デニスが両手で顔を覆う。


「かー、まいったな。かの王国騎士団が出張って来たかよ。姫さんがいなくなって手ぶらで帰れないんで、あいつらも必死って事かい」

「よく判んないけど、王国騎士団ったら偉いんだろ。城内から逃亡されたのは騎士団の責任じゃないんだから出張って来ないで城主に文句言ってる筈じゃないのか。なんでここに?」

「逆だろ。現実に奴らが来てるって事は、ラオリーデ公爵の権勢がそれだけ強くなってるのか、王国騎士団達も共謀してて、今回は失敗が出来ない程、焦ってるって事だ」

「王国騎士団達はレジス元宰相によってアルクス王子の元へ集められた。あの方の指示なのだろう」

「あ、ラディリア。顔見知りって事は、説得して通して貰えるとかは」


 ラディリアは首を振る。そんなには甘くはないのか……そんな連中と戦うのか。


「……」


 王国騎士団は女性のみの天馬騎士団に対して、男性のみの重装甲騎士団らしい。空は天馬騎士団。地からは王国騎士団というのが、この国の基本的な布陣だとか。しかし王女達は天馬騎士団と、王子は王国騎士団と交友が深い為か、互いに懇意になり易い。今回の内乱で当然のように王国騎士団は王子についたという事だ。

 名前から格好いい忠誠心も高い無骨な男集団と思ったけど違ったようだ。ここまで追って来るって事は、その王国騎士団は王女を他国に売り渡すのに賛成な連中という事か。


「切り合いは出来れば避けたいな。王国騎士団は精鋭だ。正直一対一でも相手は苦しい。まして私には剣しかなく、体調も万全とは言い難い」

「……へえ」


 意外だった。騎士と云うからには見得を張って嘘でも『大丈夫だ。絶対に負けない』というタイプかと思ったんだけど。

 でも正直に話してくれたので、無謀な作戦をとる危険が減ったのはありがたい。おそらく原因は昨晩判明した剣ダコが消えてるというあたりか。再生した影響で鍛えた筋力が平均値にまで戻ってる可能性もあるし。彼女にとっては思った以上に自分の身体が動かなくて危機を感じているのだろう。


 十全に戦えない騎士。切り合いには不安な盗賊。踊るしか脳のない新平。相手は精鋭王国騎士団。詰んでる詰んでる。どうしよう。

 とても正攻法では突破できない。


「何にせよ、先に武器を調達したいな」


 ラディリアの提案はもっともだ。切り合いになった時に当てになるのはラディリアだけだ。


「武具屋を叩き起こそう。こっちだ」 


 裏道を駆けて武具屋へ押し入る。早朝なので当然閉まっていたがデニスが強引に起こし店内に押し入った。


「おおっ……」


 武具、武器屋。男のロマン。鉄臭い店内の壁には格好良い武器が飾られている。もっとも売物の武器は全てカウンターの奥の木箱の中みたいだが。防犯の為なのかな。

 年寄りの爺さんが嫌そうな顔で、のそのそ奥から出てきたが、外を警戒していたラディリアが入って来たのを見て目を開いた。そして彼女の武具を揃えたいと聞くと、目に見えて上機嫌になる。


「ほう……ほうほう…ほっほ……これはべっぴんの騎士様だ」


 エロ爺だった。何処の世界も同じだな。でも気持ちはよく分かる。


「すまないが一揃い頼む。予算は気にしなくて良い」

「ちょっ、おい」

「命を守る物だ。ここで下手な物を買うと取り返しがつかなくなるぞ」

「そうさのー。嬢ちゃん分かっておるのー」


 爺さんの揉み手が気味悪い。カウンターから身を乗りして胸元見ようとしなくていいから。


「……好きにしろ」


 吐き捨てるデニスにニコリと微笑み爺さんと向かい合うラディリア。

 形やサイズを要求して爺さんが後ろの箱から出す武具を選んでいく。男のロマンとして興味津々眺めていた新平だが、真剣な表情で剣の刃を見る様子に少し引いてしまった。

 これらの品はこの後実際に切り合い、殺し合いに使うのだ。そう気づくと高揚感が萎んでしまう。


(これ、俺も護身用とかで持った方がいいのかなあ……)


 しかし、自分が剣を持って兵士と切り合う姿が思い浮かばない。無理に持って切りかかっても、あっさり避けられて返す刃で切り殺されるドラマの雑魚の姿が浮かんでしまう。

 召喚物語の定番では主な敵は魔物だった。一般的な日本人は簡単に人を殺める事なんて出来ないからだ。しかし、ここで起きてるのは人間同士の殺し合い。相手は兵士。一番最初に出会った旅人の死体を思い浮かべて唾を呑む。ああはなりたくない。死にたくない。こんなところで死にたくない。しかし、ここでは一歩間違えると簡単に殺されてしまう。

 するのか。殺し合いを。

 こちらは危害を加えるつもりはなくても、向こうが害意を持って武器を振りかざしてくれば対抗しない訳にはいかない。

 では、自分も剣を取って振り回すのか。脇に除けられた剣を持ってみる。重い。やばいくらい重い。こんなのを振り回して殺し合うのか。城砦の中では狭く一人だったので『踊りが効かなかったら捕まるだけだ』と妙に達観していたが、いざ仲間と助け合って逃げるとなると考えてしまう。


万が一、踊りの効かない場面で自分が剣を持っていない事によって、自分や二人が死ぬ可能性もある。持つべきじゃないだろうか。

 胃が痛くなってきた。


「大丈夫だチンペー殿」


 顔を上げるとラディリアが既にあらかたの着替えてを終え、椅子で脛当を取り付けていた。自分が悶々と考え込んでいたうちに、もう購入を終えてしまったようだった。

 彼女はこちらを見ながら優しい表情で微笑む。


「大丈夫だ。貴方は私が守る」


 頼りになる台詞に、感謝を伝えようとして『でも男としてそれはどうなんだ』『いやお前剣士じゃ無いじゃん』『適材適所だろ』『本当は一人でも武器は持ってた方が良いだろ』と色々浮かび、言葉が詰まってしまう。


「お前に剣を持てなんて言わねえよ」


 デニスも苦笑いしながら新しい短剣を腰に刺していた。なんで俺の考えてる事が分かったんだろう。二人の顔を見れない。


「俺は……」

「ま、素人が下手な剣振り回すと、逆にこちらも迷惑だしな」

「俺は……」

「貴方の役割はあの力をふるう事だ。剣を持つ事ではない」

「そういうこった」

「……大丈夫だ。私が二人を守ろう」


 新平は顔を逸らしたままだ。新平は……


「着替えを見逃しちまったのか……」


 椅子に掛けられたラディリアのワンピースを見ながら呆然と呟いた。


「「捨てて行くぞ、お前」」


 武具屋の外に蹴り出され、新平は慌てて扉に縋り、謝罪の悲鳴を上げた。


                    ◇


 胸甲、ブーツ、脛宛、手甲と部分鎧を着けたラディリアは騎士というよりは剣士のようだった。まあ町の武具店で騎士みたいな装備が手に入る筈もない。しかし、髪を括って帯剣すると城で見た兵士達より遥かに迫力がある。町娘風のワンピ-スも似合っていたが、こちらは凛々しい姿だ。美人は何でも絵になるな。

 新平は目立たないようにと外套のみ渡された。何、この差別。

 さて今後の計画を練るにしてもどこかに落ち着く場所を確保しないと。宿はもう駄目。どこかの納屋とか―……こそ泥みたいだな。ふと下衆な手を思く。他に案が……思いつかない。


「嫌な手だけどさ……」


 二人がこちらを向く。言いたくないが思いついてしまった以上は相談すべきだ。


「町の人を【魅惑のタンゴ】で魅了して、家に匿ってもらうのは……どうかな」


 デニスはニヤリと笑ったが、ラディリアは嫌悪感に顔を歪める。


「反対だ。何も罪のない民を騙したうえ、見つかった時には匿ったとして罪を背負わせる事になってしまうぞ」


 ラディリアはそう言うと思った。自分も同じ考えだったので躊躇したのだ。


「俺は賛成だね。少年にしては良い案だ。ちょっと羽振りの良い家にこっそり匿ってもらおうぜ」

「見つかった場合、無関係なその家人達が罪に問われるというのにか」

「今はそんな事言ってる場合じゃねえだろ」


 デニスもラディリアも譲らない。自分も詐欺みたいな汚い手は使いたくない。しかし宿屋も宛にならず、捕まったら終わりの状況ではどこかに潜まなくてはならない。

 ラディリアとデニスで口論が始まるかと思いきや、デニスが両手を挙げニヤリと笑う。


「わかったよ……相手が善人じゃなければ良いんだろ」

「……どういう事だ?」


 デニスのドヤ顔は、凄く嫌な予感がした。

次回タイトル:大薮新平 夫人を誑かす

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