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国王陛下の恋のお悩み【連載版】  作者: 新田 葉月
一章 ラーシェ編
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第四話 4

てくてくと長い廊下を歩きます。


感じるのは孤独。

―――というわけでなく、暇だなぁと。そもそも周りに大勢人がいるので孤独なんてちっとも感じません。あのあと必死な顔をした陛下に引き留められそのうえ何故か休暇までいただいたわけなのですが……。正直言ってすることがありません。

いつもの休暇は友人と出掛けたり、ひとりで茶葉屋さんを巡るのです。けれど、友人は仕事だし、この前大きな買い物をしたのでしばらくはお金を使わないと決めたので茶葉屋さんも巡ることも出来ず……。


「はぁ……あ!」


溜め息をついたところで視界の端に知り合いの姿が見えました。

流れるような黒髪に怜悧な美貌。イリアだ!

つい、笑みが零れます。イリアとは平民時代からの付き合いです。私が平民から貴族になったときも一緒についてきてくれました。目まぐるしく変わる環境で変わらず側にいてくれたイリア。

それにどれほど助けられたことかわかりません。


冷たそうな雰囲気ですが、優しく頼りになる唯一無二の親友なのです!


能力も高く、侍女としての私の王宮入りが決まったときに女中となって同じく王宮入りを果たし、ぐんぐんと出世していき、ついには侍女長にまでなりました。コネで侍女となった私とは偉い違いです。実力が認められたイリアは現在コトル侯爵家の分家、トレイシー伯爵家の養子となりイリア・トレイシーと名乗っています。


つくづく凄い子です。


ただ、勿体ないのはどうしようもないくらいの美人さんなのに滅多に笑わないことです。というか表情を変えることさえほとんどないのです。あ、でも私の前では割と笑ってくれて可愛いんですよ!

イリアを見かけて嬉しくなった私は勢いのままぴょーんと飛びつきました。


「イーリアっ!」 


勿論、イリアが何も持っていないことや誰かが近くに居ないことは確認済みですからね!

「……リディー、何してるの」

飛びついた私をあっさりとかわし、イリアが冷たい視線を注ぎます。

「イリア、イリア。何してるの?」

「質問したのは私よ?」

むぐっ!  イリアが無表情のまま私の頬をつまみました。

「いりあがいひゃから、らきつこうとおもっへ」

イリアがいたから抱きつこうと思って。と言ったのですが頬をつままれているせいで上手く言えません。


「意味の分からない理屈ね」

しかし、優秀なイリアには伝わったようです。ため息をはかれました。

「イリアは何してるの?」

解放された頬を抑えつつ尋ねます。イリアが何もせずに王宮を歩いているなんて珍しい。

「私は医務室の帰りよ」

「えっ!? イリア体調悪いの!?」

大変だ!慌てて顔をのぞき込むとふいっとそらされました。


「……ただの付き添い」


あ、この反応は照れていますね! イリアは可愛いなぁ。

「そっかぁ、良かった」

にこーっと笑います。イリアの前だとつい平民時代の癖で敬語が抜けてしまいますね。

「リディーこそどうしたの?」

うむ。と頷きました。

「これには海より深いわけが……」

「いいからとっとと話しなさい」 

むぅ。私は仕方なくここにいる経緯と暇だという意志を伝えました。

なぜかあきれ顔をされましたが私悪くないよ!?


「でね、イリアは何してたの?」

お仕事手伝うよ! と期待の目を向けます。

「さっきまでは新人教育」

「じゃあ、私も一緒に」

「駄目」

有無を言わせぬ即答でした。

「なんでー?」

「リディーは新人に甘いから教育にならない」

うっ。確かに甘いという自覚はありますが……。

「でも私暇なんだよ。何でも良いからさせて!」

「へえ、なんでもいい、ね」

あ、嫌な予感が。

「丁度良かった。頼みたいことがあるの」

イリアの反応をみるに絶対面倒事ですね! しかし、何でも良いといった手前しぶしぶ聞きます。

「……なに?」


「書類整理」


冷徹な一言をイリアが淡々と告げました。

「うっ!」

よりにもよって私が一番嫌いな仕事を! 鬼ですか! 

「仕方ないでしょ? リディーはお茶入れと書類整理以外役に立たないもの」

辛辣! 確かに全てにおいて不器用っぷりを発揮する私はお茶入れと書類整理以外役に立ちませんが! それでも言って良いことと悪いことというものがですね……!


「でもその代わりお茶入れは他の追随を許さないくらい上手いし、書類整理も侍女では一番だから、リディーは凄いわよ」

ふふふ。イリアは本当の事しか言わないからそう言われると嬉しいですね!

「書類整理、私より得意だからお願いしたいんだけど」

もう、褒めたって何も出ないんですから! 

「……しょうがないなぁ」

仕方無く同意します。まぁ、どうせ暇ですし。別に褒められたからではないんですからね!


「じゃあ、東塔の二階の端の部屋に書類があるからお願いね」

「はーい」


元気よく返事をして、私は東塔に向かいました。


■□■□


「…………」


目の前には山のように積み上がる書類。こんなにあるなんて聞いてない!


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