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国王陛下の恋のお悩み【連載版】  作者: 新田 葉月
一章 ラーシェ編
24/35

第二十二話 三度目の正直9

短編「国王陛下の恋のお手伝い」の後半とほぼ同じ内容です。

 ………………ええっと。

 何を血迷っていらっしゃるのでしょうか。ルシアン様は。


 熱? ……は違うようです。頬は上気していますが、わたしの手を握る滑らかな手は寧ろ冷えているくらいです。

 では、悩みすぎて頭でもおかしくされたのでしょうか? 真面目で、些細な問題にも真剣に取り組んで下さるルシアン様の事です。そうなってしまうことも有り得ないとは言い切れません。

 わたしはじっとルシアン様の目を見つめました。

 うーん?

 いつも通りの思慮深く綺麗な碧眼です。怪しい要素はないでしょうか? わたしは剣士のごとき鋭い目でジトーッと見つめ続けます。あ、ルシアン様、目をそらさないで下さい!

 ……くっ。わたしの鋭すぎる眼力はルシアン様を怯えさせてしまったようです。でも、逸らしてはいけません。キョロキョロしだしたお顔をガシッと掴みました。


「り、リディー?」

「動かないで下さい」


 普段なら、恐れ多くて出来ない事ですが、わたしも必死なのです。

 一度ルシアン様のお悩みになかなか気がつけなかった屈辱を二度と繰り返すわけにはいきません。


 じーっ


 わたしには読心術などありませんが、こうして見つめ続ければきっと少しは分かるはずです。


 じーーーーっ。



「リディー、その、これはちょっと」

「静かに」 

 ふむ……。

 どこかがおかしいのは確かなのですが……、どこか分かりません。そうしている内に触っている頬がどんどん温かくなっていきます。


 …………なんといいますか。

 美男子が頬を染めていると非常に色っぽいですね! わたしが頬を染めてもこんな色気はでないでしょう。同性でも落とせてしまいそうです。

 しかし、この火照りはなんでしょう?


 ……は! やっぱり熱? 急に出てきたんですね?


 額に手を当てて確認します。そんなに熱はないような気がしますけれど……。

 もう少し顔を近づけて確認しようとすると、ルシアン様に手を掴まれて下ろされました。


「……頼む。勘弁してくれ」


 まだ、確認は終わっていませんのに。それにルシアン様耳まで真っ赤です。

 これは完璧に熱ですね!! もともとの体温が低い方は対して熱くないと感じても苦しく感じるとききましたし。

「……熱はないから」

「え!」

 心を読まれたのでしょうか。

 呆れ顔です。確かに優秀なルシアン様なら自分の体調くらい分かりますよね。信じることにします。


 と、なると。やはり悩みすぎておかしくなったのですね。


「陛下」

「リディー」


 わたしたちは同時にお互いの名前を呼びました。おっと、うっかり前のように陛下と呼んでしまいました。


「なんでしょうか?」

「あ、いや。リディーが先でいいよ」

 では、失礼して。

 わたしは先程きいた、ルシアン様の想い人であるエカチェリーナ様の結婚式が二カ月後だということを伝えようと顔を引き締めました。


「さっきのは一体どういうことですか?」

「……」

 きゃぁぁぁあっ!

 違うんです! これが聞きたかったわけじゃないんですよ?! 口が勝手に……!

 この聞き方だとまるで意味を深読みしているようではないですか!


「やっぱ「誤解しないでくれ違うんだこれはその二カ月後に控えるアスルート帝国での結婚式で婚約者役をお願いしたいという意味なんだすまないすこしからかおうとしたそれだけだ!!」

 やっぱり、なんでもありません。という前にルシアン様が重ねるように言いました。

 長台詞を一息で……。

 誤解されたくないという必死さが伝わってきます。ルシアン様は「なにをやっているんだ俺は……」と呟いて頭を抱えました。珍しく冗談を言ってみたら本気にされて恥ずかしがっている様です。


 ルシアン様の気持ちは分かってますよー。大丈夫ですよー。

 そう伝えるためににっこりと微笑みました。

 要約するとさっきの求婚は軽い冗談で、実はエカチェリーナ様の結婚式に婚約者役として付いてきて欲しいというわけですね!

 理解しました。


「婚約者 ()なら、喜んで!」


 誤解していないことを伝えるため役というのを強調していいました。何かルシアン様がますます落ち込んだ様な気がします。

 なぜでしょう。


「では、実家に手紙を書いてきます。出立はいつになさいますか?」

 二カ月で行って帰ってくるのは厳しいですから実家に連絡をいれねばなりません。こういう事情なら、いくら実家も里帰りを延期してくれるでしょう。

 ふふふ。

 思わず笑みが零れそうになりました。

 これまでの恩返しも出来ますし、ルシアン様とのお別れも延びるなんて……不謹慎にもとても嬉しいです。わたし、ルシアン様のお手伝いが出来るように精一杯頑張りますからね!

 わたしの仕事はほぼルシアン様付きとしてのものなどで大した準備はなく、いつでも行くことが出来るのですが。……あ。でも、六日後以降でないと駄目ですね。六日後は……アルフさんと、約束しましたから。


「ルシアン様……?」

 どうなさったのでしょうか? うなだれているルシアン様の名を呼びかけると弾かれたように顔をあげました。

「! 今ルシアンと?」

「あ、お嫌でしたか? 先程、陛下がルシアン様と呼んで良いと許可を下さった気がしたのですが、嫌だったら止めます」

 うう……。やっぱり馴れ馴れしすぎましたか。落ちこむわたしの頭をぽんっと軽い衝撃が来ました。

 え……? 驚いて顔をあげます。

 ふわりと微笑みを浮かべるルシアン様がいらっしゃいました。思慮深げな瞳は優しく細められ喜びを表すように唇は柔らかく曲線を描いています。


「ルシアンと、これからもそう呼んでくれ」

「~~っ!」


 な、何でしょう。顔が火照るし、心臓が信じられないくらいの速さで動きます。

「リディー?」

 あ、あああまい! 甘いですよルシアン様!

「しゅ、しゅ出立はいつですか!」

 うう。舌も回らないし。そういう色気は好きな方にだけ向けて下さい! も、もう! ルシアン様は自覚がなさ過ぎなんですから!!


「出立は……出来れば十日後にしたいんだが、だい――」

「大丈夫です!! わたしもう下がりますね」

 ルシアン様の言葉を遮ってそう叫ぶとだだだっと部屋まで走りました。


 本日二回目の出来事です。


 ※※


 部屋に戻る頃には既に頬の火照りは消えていました。今すぐにでもベッドに倒れて枕に色々訴えたいところですが、我慢してまずは忘れない内に実家に手紙を書きます。


『ルシアン様の婚約者としてアスルート帝国の結婚式に参加することになりました。実家にはしばらく帰れません』


 よし。

 さっと書き上げた手紙を伝書鳩のルーちゃんに託し、わたしはさっさと出立の準備を始めました。

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