第二十話 三度目の正直7
さて、さっそく、陛下に伝えにいきますよ!
鼻息荒く、執務室の前の廊下を歩いていると昨日慰めてくださったアルフさんがいました。ちょうど良いタイミングです。
「ああ。アルフさんっ! 昨日はありがとうございます」
「あ、うん。どういたしまして」
アルフさんは朗らかな笑顔で応じます。爽やかですねー。
「これ、クッキーです。よかったらお食べ下さい」
「えぇ!? いいの? たいしたことしてないよ」
照れたようにアルフさんは頭をかきました。謙虚な所も美徳ですね。これなら王宮の侍女達が放っておかないでしょうに……。なぜ、決まった方がいらっしゃらないのかわかりません。
実は、理想がとても高いとかでしょうか? きっとそうですね!
「これって、手作り?」
「はい、ですからお口に合わなかったら捨ててください」
「いやいや、リディアナちゃんの手作りなんてうれし……―――」
なぜか、アルフさんの顔が青白くなりました。
「る、ルシアン様っ」
陛下? 後ろを振り返ると陛下がいらっしゃいました。
「陛下っ! ちょうど良かった。わたし、陛下に用事があるんです」
「執務室に」
「はい」
執務室に入ると陛下はなんだか怒っているようでした。掴まれている手首いたいです。やんわりほどこうとしましたがとけません。
「なぜ、あいつにクッキーを?」
「えっと、この前慰めて頂いたので」
う……。心なしか美声に怒りが……。どうして怒っていらっしゃるのでしょうか?
「慰める?」
そ、そこまでききますか。あと、今さらに手首に力いれましたよね! ちょっと痛いですよ。わたしはしぶしぶ答えます。
「お恥ずかしながら泣いてしまったので」
「なぜ?」
流石のわたしもカチンときました。手首の痛さもあったと思いますが、その発言は頂けません。きっと睨みつけます。
「なぜって、陛下があんなこというからではないですか!! わ、たし、そこまで、たより、ないのかなって、お、思って」
「え……」
涙がほろほろとこぼれます。ああ。わたしはなんてことを言っているのでしょう。国王陛下ともあろうお方に。けれど、どうせ不敬罪になるのならこのままぶちまけてやります!
「だいたい、なんなのですかっ! ふーふーふーふーため息ばっかりついて! 好きなら好きと言えば良いんですっ!」
「俺のことを嫌ってるんじゃないのか……?」
まさに、恐る恐るといった様子で陛下は尋ねました。
「……は?」
なにを言ってるんでしょう。この方は。陛下を嫌いな方なんていらっしゃいません。陛下を嫌うなんてどれだけ性根が曲がっているのでしょう。勿論、わたしも嫌いになんてなるはずかありません。むしろ好きです! 敬愛しています!!
「だって、君は、いつの間にか俺のことをルシアンではなく、陛下と呼ぶようになったじゃないか」
「それは陛下が先でしょうっ! わたしのことリディーって呼んで下さっていたのに、いきなり、コトル嬢って呼ぶようになったから。てっきり、馴れ馴れしすぎたのかって思って、変えたんですよ!」
あのときは本当に辛かったのに! なんですか!! 陛下はキョトンとした表情をしたあとクスクス笑い始めました。
んん? わたし怒ってるんですよ? ぼそっと男として意識とか、余計だったとか言う声が聞こえます。笑い終えた陛下はそれはそれは穏やかな笑みを浮かべました。
……卑怯です。陛下がそんな顔で笑って下さるだけでわたしは許せてしまうんですから。
「リディー」
あぁ、懐かしい呼び方です。
「おいで」
優しい声につれるように自然と足が陛下の方へ向かいました。
「ぇぐっ」
色気のない悲鳴が口から出ます。な、なにが起こっているのでしょうか。わ、わたしの目が確かなら陛下がわたしの腰を抱き寄せて膝に乗せているように見えるのですが……。
えっと……。もしかしなくても子供扱いですか? 一応もう結婚適齢期……をやや過ぎた女性ですよ! 何をトチ狂ったか膝の上に越せた陛下はわたしの目を真っ直ぐにみます。
「俺のことは嫌いじゃない?」
「はい」
というか、俺? 陛下、口調が……。ま、まぁそれはいいので離して下さいませんか! とりあえず頷きます。
「好きか?」
「はい」
敬愛していますとも!
「どんなところが?」
「お優しい所、頑張りやさんな所、常に国のことを考えて下さる所、勇気のある所……」
指をおって数えます。
「へ、陛下っ!?」
数えていた指が止まりました。少し顔が近すぎではありませんか!? わたしだって照れますよ。はーなーしーてー。
「失礼しまーす」
「ちっ」
ぐいぐい手を引っ張っていたらいきなり扉が開きました。マグナム様です。
た、助かった。この隙をついてわたしは陛下の拘束から抜けます。
「しっ、失礼しましたっ!」
出て行くときの声が裏返っていたのはご愛嬌です。
フィリス (あ、やばっ。大事な所で邪魔しちゃった……。イリアに怒られる……)




