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国王陛下の恋のお悩み【連載版】  作者: 新田 葉月
一章 ラーシェ編
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第十三話 9 剣技大会[2]

「陛下!」

 頭がその声の主を認識する前に口が動きました。なぜ、ここに陛下が! 陛下はにっこりとその美貌をふんだんに使って微笑みます。ふう。神々しくて目が……。


「おはよう、二人とも」

「おはようございます陛下」

「おはようございます、ルシアン様」


 陛下はわたし達と挨拶を交わしてから、アルフさんに向き直ります。

「それで、体力があるようだね。ちょうど良かった。身体を動かしたかったんだ。手合わせしてくれないかい?」

 ……なんだか、笑みの種類がいつもと違う気がするんですが……。黒いオーラが漂っているような? 背後から見ただけなので気のせいでしょうか。

 アルフさんは分かり易く顔をひきつらせました。

「お気持ちは有り難いのですが……、この後予定がありまして」

「そうか、残念だ。なら、もう行っていいよ」

「失礼しました」


 去っていくアルフさんに同情の目を向けます。……陛下お強いですものね。マグナム様には適いませんが、同じ師範から受けていますので、陛下もかなりの剣の腕前をお持ちです。恐らくですが陛下とマグナム様がこの国のNo.1、No.2だと思います。そんな陛下からのお誘い。そりゃ断りますよね。うんうん。分かりますよ。


「ルシアン様はおひとりでここへ?」

 イリアが訝しげに問いました。

「あぁ、君たちを呼びに来たんだ。ついでに悪い虫もついていたようだしね」

 あぁ、陛下も先ほどの……えっと、ササド様? に絡まれているのをみてらしたのでしょうね。それで、イリアが話しかけられていたから大切な親友のためにちらしにきたんですね。

「さぁ、私たちのいる所にいてくれないかい? あちらの方が見やすいし、君たちは目立つ容姿だから心配だ」

「有り難う御座います。ルシアン様、ではお言葉に甘えて……。いいでしょう? リディー」

「うん!」

 元気良く返事をします。お休みの日にも陛下のお顔が見れるなんて嬉しいです。ふわりと笑った陛下に付き従い、王家の席につきました。


 観覧席は王族他、重臣用なので豪華です。


「あれ……。わたし達の居た所ここから見辛いのによく気づかれましたね」

 王家専用の席からはわたし達のいた所はやや死角気味になっていて、よほど注意しなければ私たちの髪色が珍しいとはいえ気がつかないでしょう。

「それは、勿論二人を探していたからだよ」

 二人とは言いましたが、イリアだけでしょう。マグナム様に頼まれたのですね。わたしまで探していてくれたというような物言い、お気遣い痛み入ります。


「ああ。コトル嬢さえよければお茶を入れてほしいな。君のお茶を飲みながら観戦したいと思っていたんだ。探していたのはトレイシー侍女長だけじゃないよ」

 光栄なお言葉にふにゃりと笑顔が漏れました。

「喜んで! えっと、マグナム様達のことを考えて紅茶ではなく、ルボのお茶なのですが、よろしいですか?」

 紅茶は体に取り入れた鉄分を吸収しにくくする働きがあるので、運動後にはむいていません。なので、今日は健康にも良いとされるルボの茶葉をもってきました。

「あぁ、大丈夫だ」

 ルシアン様は快く了承して下さいました。


 ルボの茶は、ルボと呼ばれる植物を乾燥させたものです。本当は煮沸させた方が美味しいのですが器具がないため、出来ませんね。

 王家の観覧席ですので、すぐにお湯は手に入りました。勢いよく注ぎます。一見はしたないですが、この方が対流運動ジャンピングが起こり、美味しいのです。

 

 入れ終えて、観覧席に戻ると既にマグナム様の試合が始まっているようです。わたしはイリアの隣、そしてお茶を入れるのを名目に陛下の隣……―――の隣に腰掛けました。隣は流石に図々しいですよね! 

 お茶をお出しし、試合を見つめます。あまりにも強いのでマグナム様には重りのハンデがついています。にしても軽やかな動き。

 隣のイリアが食い入る様に見ています。目は爛々と光り、頬は上気し……イリアは実は戦闘狂だったりします。いえ、戦うのが好きな訳ではなく、強くなるのが好きなので少し違いますが。

 イリアの輝く瞳をみて、次の被害者となるマグナム様に黙祷を捧げました。



 試合を終えた哀れな被害者(マグナム様)が戻ってきました。

「あ、イリ――」

「フィリス様……!」

 爽やかな笑顔でイリアに駆け寄る―――前にイリアが駆け寄り手を握りました。

「えっ、ちょっイリア!?」

「教えて下さい。あの滑らかな足裁きはいったいどこのものなのですか」

 ああ、この子は……。

 やや潤んだ目で至近距離で見つめるイリア。マグナム様が真っ赤になっているのにどうか気がついて。

「剣の避け方はラーシェ、攻め方はアスルートですね。けれど足裁きは? よく見えなかったのですが、最後の一手。右、左、ではなく右、右に出して突いていましたよね? あれならば咄嗟に反撃されても避けやすい……。目から鱗でした。他にも変わった足裁きがあって、気になるのです。教えて下さい」

 イリアが珍しく長文を話しています。長文を話すイリアもですが、赤面したマグナム様もなかなかみれませんよね。

「う、うん……。わ、わかったから、移動しよう!?」

「ええ。こっちに座って下さい」

 イリアはマグナム様の手を取ると、避けられないように壁側の椅子に座らせ、すぐ隣の椅子に座ります。そして、質問の嵐。マグナム様は普段無表情のイリアの上気した頬や距離の近さにもうたじたじです。いえ、今も決して笑みを浮かべているわけではないのですが。


 至近距離で話す上気した頬の男女……みているだけならとても甘い雰囲気ですが、残念ながら内容が内容ですね。


「席を移動しようか」

 至近距離から麗しい声が聞こえて驚きました。振り返るとすぐ近くに陛下のお顔が! 驚いているうちにさっと手を取られ、少し離れた席に誘導されました。

 席に座ると悪戯っぽく微笑ます。

「邪魔しては悪いだろう? そういえばトレイシー侍女長。フィリス様と呼んでいたね」

「あ! 確かに!」

 え、もうなにがあったのか凄く気になるのですが!

 くすりと陛下は目を細めました。

「お互いに事情を聞き合おうか」

「ええ、そうですね!」

 お互いに親友の事なので、応援したいのです。わたしと陛下は悪い顔をして同盟を結びました。 



 暫くしてマグナム様が顔を仰ぎながらこちらにやってきました。陛下は席を外しています。

「あれ? イリアはどうなさったんですか?」

「あぁ、方法教えたら、試してくるってどっか行ったよ。……ど、どきどきした……」

 そうでしょうね。あの状態のイリアは普段より色気倍増ですし、距離もかなりつめますものね。

 でも、方法さえ教えればあっさりと解放されます。わたしは思わずマグナム様に同情の目を向けました。

「前途多難な恋ですね」

「……まぁね。でも僕は諦めないよ。それにルシアンよりは前途多難じゃないしね!」

 そうなのですか。陛下より……。……陛下より!?

「マグナム様、いったいそれはどういう!?」

 え、まさか陛下恋をなさっている!? え!?

「あ、もう試合だから行くねー」

「えっ、ちょっちょっと!」

 マグナム様はわたしの伸ばした手をするりと抜け、下に降りていってしまいました。

 ………へ、陛下が恋をなさっている。

 それはわたしにとって、とても、とても……嬉しい事です!! 気になりますがきっといつか話して下さる日が来ると信じて、今は見守らせていただきますね!




 ……あれ、そういえば結局陛下のお隣に座っていますね、わたし。

 そう気がついたのはそろそろ試合が終わる頃合い。

 試合はあまり知識のないわたしにも陛下が隣で解説して下さったので、楽しめました。結果はやはりマグナム様が優勝です。アルフさんもぎりぎり十本指に入り、栄誉の称号を貰っていました。


「あ、陛下」

 わたしは陛下のお茶のカップが空になっているのをみて声掛けました。


二杯目おかわりはいかがですか?」


 微笑む陛下。


 ―――わたしの、至福の一時でした。




元々の席順

壁¦■■■■ル■リイ■¦壁

その後

壁¦リル■■■■■■イマ¦壁


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