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赤い猫と白の少女

作者: 子津秀也








今日は、





真冬の、





どんよりと空が重くなった日で





大きな桜の咲く公園に、





真っ白な猫が、





真っ赤になって、




独りぼっちで、





倒れていて、





鳴くことも、




動くこともない






「うわ・・・」


「ねぇ、ママ。なんでねこさん赤いの?」


「見ちゃだめよ」


いろいろな人が、見て見ぬふり。

面白がって写真を撮る学生がいても、誰も猫を気に掛けようとはしない。

そんな中、白い少女が猫に近づいた。


「ねこ、大丈夫?」


彼女は猫に話しかける。

案の定、猫はピクリともしない。


「死んだの?」


息すらしていない、真っ赤になってしまったその猫は、彼女の友達だった。

触ってみても体温は残っていない。


「ちょっとごめんね。」


彼女がその細い腕で猫を抱き上げると、白い腕にも、ワンピースにも、カーディガンにも、真っ赤な血がついた。

かまわず、抱き上げた猫に話しかける。


「痛かった?」


ところどころ見える殴られたような痕や、石をぶつけられたような傷から、猫が人間に迫害を受けていたことがわかる。


「寂しかった?」


彼女はふと思い出す。

この猫にはじめて出逢ったのも、こんな風にどんよりとした曇りの日だったことを。


「怖かった?」


親猫が自転車に轢かれて死んで、その傍らに寄り添うように隠れていた。


ふと、彼女は足をとめ、猫をおろす

ある木の根元。

そこは、昔彼女が親猫を埋めた場所だった。


「今まで、ありがとう。私は、あなたがいて幸せだった。」


そこまで言うと、穴を掘るためシャベルを手に取った。


「ニャー」


ふいに、猫が起き上がる。

驚いて、目を見開くと、猫は彼女の近くに来た。


―― ぺロ


彼女の指を一舐めして、最期にもう一度鳴いた。


「ニャー」


少し、嬉しそうに。

笑っているような、幸せそうな顔だった。

猫は彼女の膝の上にのり、眠るように目を閉じる。

もう、目覚めることの無い眠りだ。



「おやすみ」



猫を抱きしめ彼女は言った。









                     少女は泣く。




                     猫を抱きしめ。




                    声を上げずに泣く。




                    傷だらけのその、




                   小さな体を震わせて。




                   傷だらけの猫を想って




                     ただ泣いた。












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― 新着の感想 ―
[良い点] とても純粋な女の子の気持ちがこもっていると思いました。 短い文章の中で、工夫された構成と描写が多くみられ、素敵だと思います。 [一言] はじめまして。 ケータイ小説のようなテンポで読ませて…
2013/05/23 04:10 退会済み
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