01 始動
1時間ほど街を探索して分かったことは、ルーエリエはこの世界で最先端の技術が集まった都市であること。そして、ほとんどの転生者がここに集まっているということだった。
しかし最先端とはいえもとがファンタジー重視の世界であるため、電気はあるのに電化製品は少ない、宿と言っても小さな民宿レベル、極めつけは交通手段としての乗り物の概念が動物に限定されていること。科学を上手く利用できていないのがこの街だった。
とりあえず街見学はこれくらいにして、本格的に彼女を捜すことにする。
(今まで結構歩き回ったが、俺は手っ取り早い方法を思い出した!)
腕についた端末、このメニューにある【友達】で名前検索をしてしまえばいいのだ。そうすればチャットが出来るし、結果合流が可能だろう。
正常に機能するのかどうかが問題であるが、とりあえずやれることからやっておく。
それが彼、弥太郎、もといヤタローの理念である。
早速、名前を入力する。機械を扱うのは得意なので、あまり手間取らない。
しかし何度見ても奇妙なペンネームだ、とヤタローは思う。女性であることが確定しているからこそ持てる疑問だった。
まぁその名前の理由も、合流したときに聞くとしよう。
ヤタローは名前検索を実行する。候補に挙がったプレイヤーは一人、女性であることから確実だろう。
さっそく友達登録を申請、チャットに移行する。
◆
ヤタロー:見えてる?
カラス丸:繋がった! あれ、何で私の名前知ってるの?
ヤタロー:親切な神が教えてくれた
カラス丸;アレは疫病神よ! 今度であったらタダじゃすまないんだから…………
ヤタロー:まぁアイツの対策も練るとして、とりあえず合流しないか?
カラス丸:そうね。一人歩きは物騒だし
ヤタロー:あの規則が本当に適用されているか定かじゃないからな。今どこにいるんだ?
カラス丸:ヴェルチアって所なんだけど……分かる?
ヤタロー:ヴェルチア……? ルーエリエじゃないのか
カラス丸:そんなこと言われても、転生した場所がここだったの。ルーエリエに行けばいいの?
ヤタロー:ルーエリエとヴェルチアって所はどれくらい距離がある?
カラス丸:ゲーム内ならともかく、現実だと考えると徒歩で一日はかかるかも。ま、テレポートがあるし?
ヤタロー:あぁ、ならそれでルーエリエまで来てくれ
カラス丸:あ、テレポートチケットが丁度無いんだけど…………
ヤタロー:それは買えないのか?
カラス丸:生憎、ヴェルチアは山奥の村だから品揃えが悪いのよ。悪いけど迎えに来てくれない?
ヤタロー:ちょっと待てよ……
◆
一度チャットを切りアイテム覧を物色する。もちろん捜し物はテレポートチケットだ。
だが、彼は一通り目を通して、肩を落とした。
◆
ヤタロー:残念だが、ヴェルチア行きのテレポートチケットは一枚しかない。ルーエリエ行きもだ
カラス丸:仕方ないわね。ルーエリエは都会だから売ってるはずだし、少し待ってるね
ヤタロー:了解。なるべく早く迎えにいくよ
カラス丸:何かあったら連絡ちょうだいね。じゃ
◆
目標が定まった。やることが分かれば足取りも軽い。
(まずは雑貨店、それからテレポートセンター訪ねてヴェルチアへGO、だ)
テレポートチケットは一枚1000ゼニーが相場だ。所持金は10万ゼニー、十分たり得る。
ここで資金を失うのは痛いが、2000ゼニーで仲間が一人増えるなら安いものだ。
「超美少女が2000ゼニーで仲間になるのは今だけ!ってな!」
少し上機嫌で地図を取り出すと、雑貨店の位置を調べ始めるヤタロー。
しかし彼は侮っていた。
この世界が、ゲームという概念を超えてしまっていることを。
◇◇◇
「売り切れ!?」
「申し訳ございませんお客様……」
これで3軒目だ。3軒回っても売っていない。
テレポートチケットが。
「なんで売り切れるんだ! 在庫とか無いのか!?」
「それが在庫も全て買っていかれた方がおりまして……」
「なんだそれは……」
ヘコヘコと頭を下げる店員見る限り、嘘ではないようだ。
これがゲームの世界であったなら……。在庫切れ、などというものは存在しなかっただろう。
なぜならゲームはデータであり、資源など無限なのだから。
だがこの世界は本当に存在している。
何らかの法則が働いている世界であり、それを無視した事象は神が関与でもしないかぎり発生しない。
ヤタローは、今一度考える。
在庫切れ、つまり誰かが買い占めたのだとしたらそれはもう転生者だろう。それも、頭の冴えたヤツだ。
おそらく買い占めたチケットの転売か、貯蔵が目的。
なら次にやるべきことは1つ。
(そいつを見つけて、売ってくれるように頼むしかねぇ……)
「オイ店主、チケットは今日完売したのか?」
「は、はい、男性が買い占めていかれました」
「どんなヤツか覚えてるか?」
「はぁ……黄金の鎧を着ておられましたね。それ以外はよく覚えていません……」
黄金の鎧、それくらい特徴があるなら見つかるだろう。
だが半端な額では売ってくれないはずだ。1万、いや10万は超えるはず……。
最低2枚買う必要があるが、それでも20万ゼニー以上は必要になる。
(金が足りない。だったら借りるしかない!)
街を探索した一時間、ただぶらぶらと人捜しをしていたわけではない。
利用できそうな施設はほぼ全てチェック済みだ。その中にはもちろん、銀行もある。
とにかく今は無駄な事は考えずに、次の目的を達成することに集中することだ。
◇◇◇
「こんにちわ、神様バンクです!」
神様バンクは街でもトップ5に入るほどの大きな建物だ。ちなみにトップ5は、議事堂や図書館など国の施設で埋まっている。神様バンクもその1つだ。
その名の通りこの世界の銀行の役割を持っており、ゼニーを借りることもできる。
もちろん、俺は金を借りに来たわけだ。
一番左にあった受付に向かい、手続きをする。借りる額は100万、保険を翔意味でもこれだけ借りれば十分だろう。
金を機械から受け取り、店内を出ようとした瞬間誰かに呼び止められた。
「おーい! ヤタロークン!」
神だった。胡散臭い爽やか神が駆け寄ってきたのだ。
「なんすか。利息無しボーナスでも付けてくれるんすか?」
「いや、利息はもともと無いように設定してある。破産されても困るからね。
伝えたいのは、借りた分のお金は目標返済額に加算されるということだよ」
つまり、1兆セニーが1兆100万ゼニーに上がるのか。
「借金とは別扱いだから、実際は1兆200万ゼニーだけどね」
と言われても、単位がでかすぎていまいち実感がわかない。100万増えようが200万増えようが……と感じてしまうのが怖い。金はないのに金銭感覚だけ狂っていてはダメだ。
「それだけ頭に入れて頑張って! 君が探してる黄金の騎士は時期に見つかると思うよ。ヒントはフレンドリスト、だ。んじゃね!」
神はそういうと、姿を消した。消失した、といったほうが正しいかもしれない。
バンクからでた俺は、とりあえず忠告通りフレンドリストを見てみる。焦っていて気づかなかったが、フレンドリストにいるのはなにも烏丸だけではないのだ。一応プレイヤーだったし。
フレンドリストのなかでもログイン扱いされているのは2人だった。どうやらそれ以外の奴らは被害に遭わなかったらしい。確かにどはまりしているような奴らでは無かったかもしれない。
ログイン扱いの2人のうち1人は烏丸、そしてももう1人は高校卒業と共に離れていった、旧友のアカウントだった。さっそくチャットで連絡を取る。
◆
ヤタロー:久しぶりだな。津田
ツダ :お、ヤタローやん。お前も転生してるとは驚きやな。ゲームから縁を切ったんじゃないの?
ヤタロー:いろいろあってな。お前はまだバイト生活なのか
ツダ :僕はもう就職しとるがな。それよか、この転生はなんやろな。まだ混乱してるんやけど
ヤタロー:神のいたずらだよ
ツダ :? まあそんなことはええねん。お前どこおるよ
ヤタロー:あー、ルーエリエなんだが
ツダ :なんや、一緒やないか
ヤタロー:お前もルーエリエにいるのか? なら少し助けてほしいんだが
ツダ :女がらみか? どーせそうやろ?
ヤタロー:よく分かったなお前……テレポートチケットをわけて欲しいんだ
ツダ :お迎えですね分かります。しゃーない、さっき買い占めたから余裕はあるわ
ヤタロー:物わかりがよくて助かる。お迎えなわけですよ。てか買い占めたのお前かよ
ツダ :あって困ることはないけんね
ヤタロー:その方言混じりまだ直ってないのか。混ざりすぎでわけわからんぞ
ツダ :アイデンティティやからな
ヤタロー:アイデンティティの意味分かってる? とにかく、神様バンクの前で合流しよう
ツダ :りょーかい
◆
ほどなくして黄金鎧のツダと合流した俺は、無償で必要分のチケットを受け取った。100万借りたのが無駄になった気もするが、仕方あるまい。
ツダはどうやら自分のミッションを早く終えたいようなので一旦解散する。ツダのミッションが何かは分からんが、俺より簡単なのだろう。。良いなぁ。
落ち込んでいても仕方ないので、さっそくチケットを使用するために郊外のテレポートゾーンを目指す。チケットはゾーンでしか使用できない。
転生してから4時間が経過した。このまま順調に元の世界に戻ることができればいいのだが……。
実際、転生したらまず足を確保するんだろうな、という話です。
買い占めに動いたツダはその点で優秀ですね。
次回、ヤタローは無事利佳(烏丸)と合流できるのか。