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プロローグ 転生

 そして事の重大さを再確認した。


 日差しは強く、風は穏やか、心地よさを感じさせる空気。


 そんな世界に訴え掛けるように、彼は叫んだ。







「ッ一兆ゼニーだとォォォォォォォッォォォォッォオ!?」



 話は少し遡る。


 

 ◇


  


 真っ白な空間が広がっていた。まるで何もない、虚無。自分が立っているのか、浮かんでいるのか、それすらも分からないほどに純白なその空間で、彼は状況が飲み込めずにいた。

 

 そもそも、いつからこの状況なのかもはっきりしない。ここに来るまでが思い出せない。記憶があやふやなのだ。


「なんだここは……?」

 つぶやいてみても、返事はない。


「誰かーーーーーっ! 誰かいないのかーーーーーーー!」

 叫んでみる。返事を期待したわけではない。ただ、なにかを言わずにはいられないほど静かだったのだ。気が狂いそうになるほど。

だから、彼はとても驚いた。



「ここにいるよ、弥太郎やたろうクン」

 答えるように、凛々しく透き通った声が聞こえたからだ。しかも、彼の背後から。

 先程まではそこに誰もいなかったはずなのに。


 驚いて振り返ると、そこには高校生くらいの年齢であろう爽やかな男が立っていた。穏やかな目、微笑をたたえた口元、銀髪はストレートで肩にかかるほど長い。


「アンタは……? そもそもなぜ俺の名前を知っているんだ?」

 彼は尋ねる。


 答えは、一言だった。


「それは、僕が神様・・だからだよ」

 

 わけがわからなかった。何かの夢だろうか。

 自分の頬をつねってみる。痛い。夢じゃない……?


「神様がなんのようなんですか? もしかして、俺は死んでるんですか?」

 考えられる理由をぶつけてみるも、神は笑って首を横に振る。

「君は、ネットゲームをしていた。それが答えかな」

「ネットゲーム……? もしかして……」


 彼、弥太郎は、昔プレイしていたネットゲームのことを思い出した。社会人になってからはプレイしていなかったから、詳しくは覚えていない。まだ運営していたのか、と驚くくらいだ。

「そう、[BlackWhite]。そのゲームさ」

自称神が言ったタイトルは、確かに聞き覚えのあるタイトルだった。


「確かにそんな名前だったような……それがどうかしたんですか?

 というか、まだ現実味があまりないんですけど」

 落ち着いているように見えるだろうが、彼の動揺はまだ収まっていない。

「まぁ、とにかく聞いておくれよ。

 ここ数年、人間達はネットゲームに夢中だろう?

 別に、娯楽は人間の文化であるしそれをやめろというほど私は厳しい神ではないが……最近は度が過ぎているとは思わんかね?」

 神は呆れたような口調でスラスラと問いかける。


「度が過ぎている……?」

 神様の口からネットゲームという単語が出ていると、妙にシュールである。そんな考えがチラっとよぎるも、話についていくために神経を集中させる。


「仕事をせずにゲームに没頭……あげくゲームが原因で自殺する人間まででる始末。私が与えている命はそんなことに使われるべきではないと思うんだよ。ね?」

「ね? と言われましても、一人の一般人としてはどうも言えないのですが……」

 一体どこに着地するんだこの話は、彼は少し不安になりつつも、神の話を聞き続ける。


「まぁそんなこともあり少子高齢化とかもいろいろ絡んできて、そういう現代の問題って全部それが理由なんじゃないのー的な考えを神様は持ったわけよ。あ、これは僕より偉い神様ね。だから、そういう人間達に試練を与えるってわけ。

 ――みてごらん、あの人たちを」

 神が指差す方に視線を向ける。

 すると、さっきまでは何もなかった空間に、人だかりができていた。その数は、ざっと見ただけでも1万はいるだろうか。


「…………さっきまで何もなかったはずだろ……何なんですかあの人たちは?」

 突如現れた人だかりに驚いた彼は、咄嗟に質問する。

「先ほど言ったような人間だよ。ろくでなし、といっても良いかな」

 言われてみれば、人だかりのメンバーはインドア派、のような人たちが多い。よくいえば色白、悪く言えば……不健康?

「彼らには実際にゲームのなかで暮らしてもらう。転生、だね」

 今はやりの異世界転生、というやつだろうか。彼もそちらの方面は少し囓っていたので思い当たるシチュエーションはある。だからといって納得はできないのだが。


「しかし、ゲームが好きな奴らですよ? その世界に転生できるなんて本望なんじゃないですか?」

「案外理想の世界ではないかもしれないよ? ゲームと違って痛みも恐怖も感じるのだからね。

 それに、好き放題やれるわけじゃあない」

 言いつつ笑う神様を見て、彼は恐怖を感じた。同時に、この状況をようやく理解した。

 



「俺はそこまでゲームにのめり込んでなかったですよ? なんで連れてこられたんですか!?」

 それを聞いたとたん、神の表情が曇る。

 そして一言。


「………………すまない」


 神が頭を下げた。

「なんで謝るんですか! 元に戻してくれたらいいですから!」

「本当に悪いことをした!

 僕のミスだ!」


 なんだか雲行きが怪しいような……。


「神様……もしかして自分、間違って連れてこられました?」

「…………てへへ」

 言葉を失った。




 神が言うには、プレイ時間が300時間を超えているプレイヤーに今回の試練は与えられるらしい。

 【BlackWhite】はプレイ人口が2万を超えないマイナーゲームである。しかしその奥深いゲーム性と、高い難易度でコアなファンを獲得しているのだ。難易度が高すぎて、人口が増えないのでは、とも言われているがそれでもゲーム運営が続いているのは課金者が多いことと、運営会社が他のネットゲームに利用するためのシステムをこのゲームで試験運用するからだろう。実験台も兼ねている、ということだ。【BlackWhite】の技術が流用されることも多い。


「と、とにかく、手違いと気づいたときにはもう遅くて、君たちを現実に戻す手続きは受理されなくてさぁ!」

「受理って……神様の世界にもそんなまどろっこしいことが……

 ――――というか、今君たち(・・)って言いました?」

「あぁ、君たちだ。

 後ろを見てごらん」


 ん? と振り返ると、同じように振り返った姿勢の女性と目があった。

 黒く艶やかなミディアムヘア、色白で薄い唇、日本人だと一目で分かる顔立ち。身長は彼より低く、168センチ、といったところだろうか。協調性のないボディ、しかしそれは細身であることを意味している。


 3秒ほど見つめあっただろうか、彼が口を開く。


「や、やぁ」

無難な挨拶、彼にはこのような状況でジョークを言えるような度胸はなかった。


 だがしかし、

「に、人間よね!

 あぁぁぁぁ言いたいことはいろいろあるけど、これって現実!?」

彼の緊張を含んだ挨拶などお構いなしに彼女は質問をぶつけた。


 そうとう戸惑っているらしく、手足をバタバタさせ、どもりつつも彼女は言う。

「この胡散臭い神が言う通りなら、私たち、とばっちり受けたってことよね!?

 あぁぁもう! 今日は面接があったのにぃぃ!」

「ちょっと落ち着いて! 君も神に言われたのか!?

 その……間違えられたってこと」

「そのとおりよ!

 でもゲームしてたのなんて2年前くらいの話だし、とっくに足洗って社会人になろうとしてたのに!」

 どうやら神はなかなか適当らしい。


 今にも泣き出しそうな彼女をどうしたものかと考えているところに神が割って入ってくる。

「とにかく、君たちが脱出できるように努力はしよう。まぁ僕の権限で何ができるわけでもないんだけど……。

 ちょっとした手助けはできるかもしれないから、さ?」

「ふざけないでよ! 責任者をだしなさい!」

「責任者は僕なんだよ……まぁ、プロデューサーみたいな?」

 神は本当に困っているようで、彼女に謝罪を重ねている。


 そうこう押し問答している間に、白かった世界がだんだんと薄暗くなってきた。

「あぁぁぁ始まるぞ!」

 神が焦りだした。先ほどまでとはまた違う、何かに追われているような焦り方だ。


 それと同時に彼らの体が薄くなっていく。まるで、映画にでてきそうな幽霊のように、半透明に。

「始まるって……転生がですか!?」

「そのとおりだよ!

 一応、転生したあとに脱出のための条件やら規則やらルールが通知されるから、あとはそれに従いながら頑張ってくれ!」

「ちょっと! 私たちは結局でられないの!?」

「出られるさ! 条件を満たせばね!」


 世界が闇に飲まれていく。もうあと少しで彼らをも飲み込んでしまう勢いだ。

 もう成り行きに任せるしかないらしい。彼は決意を固めた。

「君! 名前は? 俺は弥太郎だ!」

「なんで名前なんか……いや、そうね。お互い協力したほうがいいかもしれないわね!

 私の名前は利佳! 利用の利に人べんと土二つで利佳よ!」

「利佳さんだな! 覚えておく!」

「君たち! 始まるぞ!」


 

 

 そして、彼らは闇に飲まれた。




 ◇

 

そうして、目覚めた場所がこの緑あふれる野原だった、というわけだった。

(異世界転生…もっとリアリティがあってもいいんじゃないかな…)

とにかく、人生はファンタジーな方向へ進んでいるようだ。現在進行形で。


短めのマントの下に短パンとTシャツというちぐはぐな格好に気づき、すぐにカバンの中をあさる。着替えたい。だがアイテムは見つからない。


カバンをあさっていると、自分の腕にタブレット端末のような機械が装着されているのが目に入った。

画面には、mail、チャット、アイテム、友達、その他、の五つの項目が綺麗に整列している。

(これでアイテムを探すのか?)

少し操作すると予感は的中、回復アイテムや便利アイテムをたくさん所持していた。カバンは見かけだけらしい。

肝心の防具は持っていなかった。

 

 いろいろと機能を確認していると、mailがいきなりピコンと光った。メールが来たのだろう。

 神が言っていた、通知、だろうか。

 おそるおそるメールを開いてみる。


 

 

『異世界にきた気分はどうだい? 最高だろう?


 さっそくだが説明にはいろう。この世界では戦争はない。ただし、奴隷制度や小さな争いが無いわけではない。女性プレイヤーはそこのところ、注意したまえ。

 また、各自にオリジナルのクエストを用意してある。期限はないが、クリアしないと元の世界に帰ることはできない。もともと帰る気がないプレイヤーは特にクエストに気を配る必要もないだろう。

 

 大まかな説明は以上だ。ここからは規制や注意、ルールについて書いてある。

 

  ・ゲームではNPCだったキャラクターも、こちらの世界では自我をもった生命体である。

  ・異性キャラに対する合意がない性的な行為は、街であろうとダンジョンであろうと即刻牢屋行きである。

  ・プレイヤー同士の戦闘は基本認めない。注意を行い、度が過ぎている場合これも牢屋行きである。

  ・ゲームで行えていた機能は、ほとんどが君達が今扱っている端末で使用できる。

  ・生命力がゼロになると教会からのリスタートになる。クエストは初期化され、また一からの出発となる。

  

 これらを守って楽しい異世界ライフを送ってくれ。また、この世界がゲームの中、ではなく実際に存在する(・・・・・・・)世界であることを念頭に置いておけ。

 

 健闘を祈る』


 


 読み終えると、また新たなメールが届いた。タイトルは、【クエスト内容】。


『プレイヤー、に与えられたクエストはこちら!


 【一兆ゼニーを稼げ!】 

 

 ゼニーがこの世界の金にあたるものであることはご存じだろうが、今回君にはそのゼニーを一兆分稼いで貰います。

  ・モンスターなどから得られるゼニーは加算されない。

  ・商売として他人に売ったゼニーの総額が一兆に達した時点でクリアとする。

  ・モンスターから得られるアイテムを加工して売ることは認められるが、商店などで購入したものを転売して得た利益は加算対象にならない。

  ・このクエストに挑戦しているプレイヤー名義であれば、他人が売った利益も加算される。つまり、グループを作ればグループメンバーが得た利益も加算対象になる。

   

  

 これらを守り、クエストを遂行してください。ご健闘祈ります』


 

「な……なんだこれはっ……、」

 ゲームから離れていた弥太郎にも分かる。一兆ゼニがとんでもない桁であることは。


「一兆ゼニだとォォォォォォォッォォォォッォオ!?」

 

 不安や絶望が、今になって心に突き刺さる。夢であってほしいと願っても、目の前に広がる風景は美しく、故に彼の心を乱した。

 

 そして数分、打ちひしがれていた頃にまたメールが届いた。

 タイトルは、【頑張れ】。


『やぁ、このメールを送ったのはさっきの神様だよ。ちなみに、このメールは君とあの子にしか届いてないからね。ヒントというわけさ。

さっき届いたメールは読んだかい? そのメールに書いてあった、期限無し、というのは嘘だ。

 実際はこの一ヶ月間で脱出のための行動を起こさなかった場合、存在は消去される。恐ろしい話だろうが、これが試練なんだね。

このことは、他のプレイヤーには言えないからそれは覚えておいてね。まぁ話すこと自体ができないんだけど。

さっきのあの子とは、そのことについて話せるようにしてあるからね。


一兆ゼニー、長い道のりだと思う。これからも僕はできる限りサポートしたいが、他の仕事もあるからね。ヒントを出すくらいしかできないだろう。こうしてメールを書いてる間も既に二人を牢屋に入れなくちゃいけなくなってね。


とりあえず、さっきのあの子とまずは合流することだ。あの子のこの世界での名前はーーーー』

 




辺りを見回すと、遠くのほうにビルが見えた。大小合わせてざっと数十本はあるだろうか。修学旅行で観光した東京の外観そっくりである。ファンタジーには珍しい都会だろうか。


(とりあえず、彼女と合流すべきだろう。全てはそれからだ)

まだ胸に残る不安を抑えつつ、彼は都会を目指すことにした。


BlackWhite最大の先進都市、ルーエリエへと………。

一話投稿です。

もちろんですが、フィクションであり実在する個人団体著書地名とはまったく関係ございません。


キーワードにもあるとおり不定期更新ですが、よろしくお願いします。



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