厚化粧皇太子妃に仕える侍女のつぶやき
はじめまして私、リーナと申します。
私の唯一の主であり幼馴染でもあるエルリーシャ姫がガディア皇国の皇太子妃として輿入れすることになり、侍女として共にこの国へやってまいりました。
といっても完全政略結婚!もともとアトラス国は小国ながら数々の名軍師や将軍を輩出し、いまだ戦において負け知らず、少数精鋭の軍部は他国には脅威に感じるほど
それゆえ隣国でもあるガディア皇王は後継ぎである皇太子の正妃にアトラス国の王族を迎えることでその脅威を懐に取り入れようとしたのであります。
その国王の政治的戦略など知った事じゃないとばかりに皇太子殿下はエルリーシャ姫を避け続けております。
おかげで姫様の皇太子妃としての立場はかなり微妙です。
もともとアトラス国は傭兵上がりの王が治める新興国、ガディア皇国とは歴史の長さが違います
姫様の輿入れにはガディア皇国の重臣たちは猛反対だったそうです。
おかげで表だって裏だって陰口悪口暗殺者!なんでもありの状態なのです!
とはいえ、皇太子殿下が姫様のことを避けたくなるのも分からなくはないと私も思います。
結婚式当日にあのお顔を初めてみるのでは・・・
あの時の殿下の顔面蒼白のお顔、私は思わず笑っ・・・・いえ同情してしまいましたわ。
姫様は決して不美人ではありません、それどころかすっきりと均整のとれた体躯、誰もが羨むプラチナブロンドの髪、アイスブルーの瞳は切れ長で目元は涼やかとの評判なのです・・・主に女性の方からですが
そう残念なことに姫様のお顔は男顔・・・しかもお国柄というべきか王族唯一の姫でありながら幼い頃からのびのびと育てられ、父、兄、将軍等々に鍛えられ今ではいっぱしの野性児・・・いえ!国でも5本の指に入る剣技の持ち主へとご成長なさったのです。
まあ、見た目や育ちは立派な騎士ですがご本人はいたって普通の姫なんですよ。
ええ、たとえ言葉遣いが妙にきびきびとしていたり、性格が竹を割ったようだったり、人の話を素直に聞きながらも斜め上に行動して行くとしても、巷で流行りの恋愛小説が愛読書で恋する姫に憧れながらも何故か物語の騎士さながらに行動し女性に接してファンばかりを増やしていますが普通の姫なのです。
今回の結婚に関しても姫様は大変喜んでおりました。
なにせ今まで求婚者はおろか告白してくる方々はすべて女性でしたので
例え政略結婚といえども初めての男性の求婚者!しかも王子様!
愛読書さながらの夢の結婚式!
だから張り切ってしまわれたのです・・・・・斜め上の方向に
式当日、私は暗殺者の抹殺・・・いえ駆除?・・・いえ排除に躍起になっており姫様の元へはお支度が終わった後にしか行けませんでした。
ああ・・・私がいない間に何があったのかは大体想像がつきます。
がんばって理想の姫君に近づこうとしたのでしょう、衣装はメイドが着せてくれたのでしょうがお化粧は自分でやったのですね・・・姫様、そのお顔は人の顔ではありません。
真っ白に塗られたおしろいも幾重にも重ねられたマスカラも真っ赤に塗られた口紅も、姫の元のお顔を想像する事すら出来ないです。
それじゃあ物語に出てくる姫ではなく魔女です。
まあ、あのお顔に関しては完全に今回の婚儀に同行した兄王子様の入れ知恵ですね。
殿下がベールを挙げた時に式場に起こったどよめきに「いい仕事した」感の笑顔、しっかり拝見いたしました。
しかも姫様もこのお顔が皇太子妃としてあるべきお顔と思い込んでしまったようで、このお顔のまま初夜に挑んでしまったようです。
せめて素顔を見せていれば今後の夫婦関係も修復されたかもしれなかったのですが、殿下も厚化粧の姫には手が出なかったらしく今も清い夫婦のままであります
兄王子さま、ここまで狙ってあの化粧を教えたのですね・・・
もともとこの婚儀に兄王子様方は反対だったようで、あわよくば清い婚姻のまま離婚を狙っていらっしゃるのかもしれません。
現王が賢王だからと言って息子がそうとは限らない、愚かな男に弟(いや、妹姫ですから)をやれるかー!
というのが兄王子様方の意見だったそうです。
気持はわかりますが姫様にとってはいい迷惑です。
そして私にもいい迷惑です
1年以上たった今も殿下の御渡りがないため姫様は塞いでおります
そして何故か部屋でモップ片手に素振りをしております。
いえ、する事がないのも、体がなまっておられるのもわかりますが・・・
素振りの風圧でグラグラ揺れ動く花瓶がいつか割れるのではと心配です。あの花瓶お高いんですよ。
はっきりいって鬱陶しいです。
姫様、私も暇ではないんですからそうそう相手ばかりしておれません。
お暇なら城下に行ってはいかがですか?
いい抜け道を発見しておきました。
あ、もちろん普段着(男装ともいう)で行ってくださいね。
姫様は嬉々として出かけられました。
勿論一人で行かれて何かあっては大変ですから国から連れてきた隠密護衛がこっそり付いていっております。
はぁ~、これでしばらく平和です。
-----と思ったら甘かったです。
夕刻、戻ってこられた姫様から城下で殿下と会ってなぜか気に入られてしまい、また会う約束しちゃった。ですと!
しかも殿下は姫様と気付かずに男性と思ってる上、姫様の腕をかなりかっているそうです。
いったい何やってんですかねこの夫婦は・・・
まあ、この1年塞いでいた姫様が元気になったのですからいいのでしょうか。
おかげでちょくちょく城下に行ってしまわれる姫様のフォローに大変です。
姫様に背格好のよく似た侍女を連れてきて影武者にしておりますがあの厚化粧のおかげで今のとこをばれる事はないようです。
厚化粧の威力は半端ないです。
ここのところ自分でもよく働いていると思います。
お休みほしいと思います。
表立っては相変わらずの夫婦関係ですが、城下でのお二人はかなり仲が良くなっているようです。
毎日楽しそうに殿下のお話をする姫様は恋する乙女のようです(ええ例え見た目、色男でも乙女ですとも!)
聞いているこちらがバカバカしくなってきますね。
本当に何やってるのですかねこの夫婦は・・・・
いえ、いまのは独り身の悲しいつぶやきです。
ええ、ほっておいて下さい。
そんな姫様が城下から涙ながらに帰ってきました!
これはおおごとです!
滅多な事では泣かない姫様が・・・なにあったのでしょうか
ねえ、リーナ、今日、殿下に求婚されたのだけど、男相手にに何言ってんだ変態!と怒るべきか妻として浮気者!と嘆くべきかどっちだと思う?
・・・・って、どっちでもいいですよ!
もう勝手にやっててくださいっっ!!