微笑みの罠
その部屋は昼間だというのに夕暮れのように暗かった。
窓という窓の分厚いカーテンはすべて下され、ろうそくの炎の影が時折大きく揺れる。
石膏像や甲冑、古びた家具や絵画が詰め込まれた物置部屋の中央にはテーブルがあり、黒いベールを被った少女が座っていた。
テーブルにはたくさんのビンや、赤や黄色の液体の入ったガラスの容器がいくつも置かれている。その中の一つに少女は手にとったビンの中身を一滴垂らした。
「今度こそ……絶対うまくいくわ……ふふふ」
容器の中の液体の色が、赤から透明に変化する。
それを見て、少女は赤い唇を満足そうに緩めた。
チチチチチ!
近くにある鳥籠の中で、一羽の黒い鳥が突然暴れ出した。
「――うるさい!」
椅子から立ちあがり、少女は鳥を睨みつけた。
ベールの下からのぞく黒い瞳が、血のような真紅に染まる。その直後、鳥はピッと一声鳴いて、鳥籠の底面に紙きれのように落下した。
動かなくなった小さな体を見て、少女はくすくすと笑う。その目は元の色に戻っていた。
「邪魔するモノは許さない……だってもうすぐなんだもの」
透明な液体を移した小さなビンを高々と掲げ、少女はくるくると回り出す。
ベールがはがれ落ち、黒いブルネットが揺れる。喪服のような黒いドレスの胸元では大きな赤いガーネットのブローチが鈍くきらめいていた。
「見ていらして……絶対に貴方の心を手に入れてみせるわ――ねえ、アズフェルト様」




