4 廃工場にて
誰もいない、廃工場。
その奥で、一人の青年が霧都市を押さえつけていた。
「……黙ってろ、ランシング」
暴れる霧都市――ランシングは、ある程度人の形を保っていた。
しかしその筋骨隆々さは人間の規模を超え、さながらモンスターのような巨体になっていた。
「……くそっ」
前髪の奥から、青年の黄色い瞳が見えた。
青年は近くから曲がった鉄骨を《《引き寄せる》》と、ランシングを縛り付けるようにそれをおいた。
「……とりあえず、まずは制御装置つけるぞ」
▽ ▽ ▽
その後数日、青年はランシングの改造に奔走していた。
残された資材を寄せ集めては、ランシングに対し巻き付ける。
普通なら崩れてしまうところだろうが、彼の固有魔法――”メタルモーター”により、工具無しで溶接したのだ。
もちろんランシングは、かなりの苦痛を感じただろう。
だが、青年にとっては些細なことだった。
これは、「都市だけの世界」のための必要な犠牲――青年は、そう思っていた。
しばらくして、霧から”優しい声”が聞こえてきた。
「調子はどうかしら?」
「……あぁ」
青年はその声に反応し、霧が立ち込めた窓の外と会話しだした。
「今はランシングの改造が終わったところだ――腐っても州都様だ、だいぶ理性が残ってる」
「それはよかったわ。それと、取って置きの情報なんだけど――」
”声”はそんな前置きをしてから、青年に言った。
「――シカゴ、まだ霧都市になってないんですって」
青年は、当然だと思った。
なにせシカゴは、青年の街の二倍以上の人口を擁する都市なのだ。
それに青年は、彼があっさり霧都市になる絵面が思い浮かばなかった。
「じゃあね」
青年が考えていると、”声”はどこかへ行ってしまった。
「……また、一人ぼっちか」
青年はため息をついた。
ランシングのことを「だいぶ理性が残ってる」とはいったものの、雑談がなりたつほどではない。
むしろ発声能力をほとんど失っていて、唸り声しか言えないという有り様だった。
青年はしばらく、窓のそばのパイプ椅子に座っていたが――しばらくして、ゆっくりと立ち上がった。
「――シカゴを、仲間にしよう」
青年はそう言うと、ランシングを拘束していた鉄骨を浮かばせた。
それから、部屋の片隅に投げ捨てる。
ランシングはおきあがり、あたりを見回す仕草をした。
「……ランシング。シカゴは知ってるよな?」
ランシングは頷いた。
「場所もわかるよな?」
ランシングは黙っていたが、青年はわかると考えた。
「じゃあ、シカゴに行ってきて、シカゴをここに連れてきてくれ」
ランシングは、再び頷いた。
それから青年は、ランシングとともに工場を出た。
ここからシカゴまで、車で5時間程度。
でもランシングは歩きだから、ざっと数日はかかるだろう。
「こっから、歩いてシカゴへ行け」
ランシングは、再び頷いた。
やはり人格が消えている――青年は、はっきりと確信した。
その間にも、ランシングは道路を歩き出していた――
▽ ▽ ▽
所変わって、フィフティ・トレイル。
フランクリンが、デラウェアにナイフを渡されたところである。
「これは……?」
「これは”無限ナイフ”。ベルトに差しとくだけで、無限にナイフが召喚できる」
デラウェアはそういうと、ベルトに差して実演しだした。
空中に現れるナイフ。
デラウェアの顔と、同じ方向を指さしている。
ダーツの的に顔を向けると、ナイフも的の方を向く。
目を閉じ、腕を的の方へ伸ばすと――ナイフは一斉に発射され、ダーツの的に突き刺さった。
「どう?」デラウェアはそういうと、フランクリンにナイフを渡した。
「結構直感的に使えるから、あんまり難しくないわよ」
フランクリンは頷いた。
そんなこんなで、列車はセントルイスへと向かっていた――
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