3 出発
その後フランクリンは、自分の部屋に案内された。
とはいっても、スプリングフィールドと同じ部屋だ。
「本当は一人ひとり部屋を用意したいところだけど……まぁまさかあんたみたいな存在がここにいて、それに乗せることになる――なんて、完全な想定外だったから」
デラウェアが言うと、スプリングフィールドが声を上げた。
「え、ほんと? ――よろしくね、フランクリン!」
「あ……うん」
「実は、片方は”使うな”って言われてたから――すっごい殺風景なんだ」
言われてみればそうだ。
この部屋には左右に2つベッドがあるが、左はスプリングフィールドが可愛くデコっているのに対し、右はカーペットすら敷かれていない。
それでもカーテンでしきれるので、病院の相部屋程度のプライバシーはあるようだ。
「――そろそろ出発よ」
「どこに?」
デラウェアが言うと、スプリングフィールドが尋ねた。
「最終目的地はロサンゼルス。その前にシカゴ、ニューヨーク、ワシントンDC……まぁいろいろあるけど、それは結構後の話になると思う。まずはシカゴとカンザスシティの間にある、セントルイスって街に向かうつもりよ」
「シカゴ?」
フランクリンが尋ねると、デラウェアは意外な顔をした。
「シカゴを知らないなんて――イリノイ州も知らなさそうね」
デラウェアはため息をつき、それから続けた。
「もう、説明するのも難しいけど……とにかく、私たちはそこに向かっているの。それだけは覚えておいて」
その時、けたたましく汽笛がなった。
ガタン、と車内が揺れ、列車はカンザスシティを出発した――
▽ ▽ ▽
列車はカンザスシティの市街地を抜け、どんどん郊外へと進んでいった。
進むにつれ、霧のようなものがあたりに立ち込めはじめ――10分としないうちに、あたりは濃い霧に包まれた。
「……これは?」
列車のホールの窓に顔を押し付けながら、フランクリンは言った。
「霧だ」テキサスが言った。
「それは誰でもわかるでしょ」ミシガンが遮った。
「あれ、操縦席にいたんじゃなかったの?」
スプリングフィールドが尋ねると、ミシガンはあきれたように答えた。
「もう自動運転よ。私だって、ずっと運転するのは嫌だからね」
「ミシガンが運転手なの?」フランクリンが尋ねた。
「うんうん、ミシガンはすっごい人なんだから!」
スプリングフィールドがそういって、ミシガンに目で合図を送った。
「……あなたが説明しなさい、スプリングフィールド」
「うぅ、わかったよ――ミシガンはね、この列車を作った人なんだから!」
「それは自己紹介で言った。もうちょっと他のことを」
「でも……そんなこといわれても、よくわからないよぉ……」
彼女が使い物にならないと察したのか、ミシガンは自分で説明することにした。
「私はミシガン。DCの命令で、霧の浄化装置を作っていた」
「霧の浄化装置?」
フランクリンが尋ねると、彼女は少し考えてから言った。
「説明が必要そうね――1年前、ロサンゼルスで”霧”が発生したの」
「ロサンゼルス?」フランクリンは、また尋ねた。
「ああ、その説明はまた後で――とにかく、その霧は触れた生物を消し、触れた人格体を狂わせる――そして、人間の兵器は一切通用しなかった」
フランクリンは、戦慄した。
いくら記憶がないとはいえ、それが恐ろしいことだとは理解できた。
「当然、政府――DCは打開策をねった。そして《《私たち》》に命令した――”霧を浄化する装置を作れ”と」
ミシガンは続けようとした――が、そこで外に異変がおきた。
窓の外で、ビルや家をツギハギしたような二足歩行の怪物とすれ違ったのだ。
早すぎて数える暇もなかったが、ざっと10体ほどいたようである。
フランクリンは窓にかけより、その正体を見抜こうとする――が、それはすでに車窓のはるか向こうへとおいやられていた。
「あれは……?」
「霧都市よ」
デラウェアが言った。
どうやら、同じホールで話を聞いていたようである。
「霧都市?」フランクリンは尋ねた。
「霧に侵され、理性を失った人格体のこと――基本的には、倒すしかないわ」
「倒すって……」
見た目はどう見ても人間じゃないが、倒した後どうなるのかが気になった。
正直に尋ねると、デラウェアは心配しないでといった表情になった。
「安心して。私たち人格体は、人の営みから生まれる。倒したあとに人を戻せば、何事もなく戻ってくるわ」
「戻すって、どういう……」
「装置を使うのよ」ミシガンが遮った。
「まぁ要するに、霧は人を消してるだけ。装置で解放すれば、3年ほどで80パーセントの人口が戻る」
「装置?」
「……まぁ、セントルイスにつけばわかるわ」
そういうと、ミシガンは「部屋に戻る」といった。
「……それと」
彼女の背中を見送りながら、デラウェアはいった。
「霧都市の特徴として、目が黄色いというのがあるわ――だから、その」
デラウェアは、引き出しをいじくり回し――奥の方から、長さ15センチ程度のナイフを取り出した。
「もし霧都市と出会ったら、これでどうにかしなさい」
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