11 シカゴの摩天楼
霧に包まれた、シカゴの摩天楼。
その摩天楼の上の方にて、一人の中折れ帽の男が――空中で鬼ごっこをしていた。
「くそっ……しつけぇんだよ」
男――シカゴはそういい、空中に鉄骨製の足場を召喚していく。
後ろでは、筋骨隆々の霧都市が、彼を追いかけている。
その霧都市には、大量の装甲がなされていた。
最初はシカゴも持ち前の固有武器を使ったが、銃弾が聞かないことを察知すると、プランBに移ったのだ。
プランB――それは固有魔法で足場を召喚して、霧都市を高所へと誘い込み、いい感じのところで足場を消して落下死を狙う――というものだった。
「――よし」
シカゴは――ビルの15階ほどの高さまで――足場を使い登った。
そして霧都市がいる足場を崩落させた――が、崩落する瞬間に足場を蹴り、シカゴのいる足場へしがみついたのだ。
それからは、プランBの繰り返しだった――しかし、毎回その霧都市は足場を蹴り、シカゴのいる足場へしがみつくのだ。
そして最悪なことに、シカゴはプランCを用意していなかった。
結果――今のような”鬼ごっこ”へと陥ってしまったのである。
「……ちっ」
10分ほどたったところで、シカゴは大きく舌打ちをした。
「……魔力切れだ」
シカゴはそういうと――自分の分の足場まで、足場を崩落させたのだ。
追いかけていた霧都市は、大きなうめき声を上げ――それから、地面へと真っ逆さまに落下していった。
そして、シカゴも例外ではなく――
彼はビルの15階の高さから、大通りのアスファルトへと落ちていった。
――ドン。
体中に激痛が走る。
一般人なら即死のところだが、シカゴは人格体だ――そのため、意識がはっきりと残った。
しかし、それでもビルの15階から落下したのだ。
体中の骨を折り、呼吸はだんだん浅くなっていく。
薄れゆく意識の中、どこかから”優しい声”が聞こえた。
「取引をしたかったところだけど――時間がなさそうね。単刀直入に聞くわ――死にたくはない?」
(前置きの時点で単刀直入じゃねえだろ……)
シカゴは内心ツッコんだが、死にたくないのは確かだ。
シカゴは、こくりと頷いた。
「では――都市だけの世界へようこそ」
次の瞬間、あたりの霧が一層濃くなった。
そしてその霧が、傷口・口・目――体のありとあらゆるところへ、染み渡るように入っていく。
血管に冷たいものが流れ――壊され動かなくなったはずの内臓と骨を、急速に再構成していく。
「うっ……」
そんな体の違和感に、落下死寸前の体が耐えれるわけがなく。
シカゴの意識は、どんどん遠ざかっていった。
▽ ▽ ▽
次にシカゴが目覚めた時――彼は、自分の体が異様に軽いことに気づいた。
「夢……じゃないよな」
毎日車道のど真ん中で寝るわけじゃないし、ましてや道のど真ん中にクレーターを作ることなんてしない。
だから、夢だと判断して現実逃避するのはやめておいた。
立ち上がると、裾に違和感を感じた。
邪魔だからと、腰の高さまでジャキジャキ切っていたトレンチコートが――傷一つない新品になっていた。
「……余計なとこまで再生しやがって」
空中に足場を召喚する戦闘スタイルを持つシカゴにとって、トレンチコートの裾は邪魔者以外の何物でもなかった。
「まっ、あとで切ればいいか」
シカゴはそう言い、立ち上がった。
吹き飛ばされていた白い中折れ帽まで歩き、拾い上げ深く被った――
その時、名もなき霧都市と目があった。
「……おっと」
霧都市はシカゴをじっと見つめると、一歩下がって道を譲った。
「いや、俺はそっちに行きたいわけじゃないんだが……」
シカゴはそういうが、その時あることに気がついた。
「……そうか」
そこでシカゴは、目覚める前のことを思い出した。
謎の霧都市との戦い。
高所からの落下。
そして――死に際に聞こえた、あの”優しい声”。
記憶と同時に思考回路が発火し――シカゴは、ある結論にたどり着いた。
「……ようこそ、ってことか」
▽ ▽ ▽
それからシカゴは、眼の前にある機械に目をやった。
先程まで、シカゴを追っかけ回していた存在である。
肉体はとうに消え去って、装甲だけが残っていた。
都市の記録は、この機械の奥深くに埋まっているようである。
機械の構造を調べているうちに――シカゴは、あることに気づいた。
「これ……フレームだな。しかも自動車の」
装甲が、自動車のフレームをツギハギして作られていたのだ。
しかも完全に溶接されていて、パット見ただのプレートにしか見えない。
普通の工業じゃ、まずやらないことだ。
シカゴには、心当たりがあった。
「……デトロイトか」
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