表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/28

8話.ホワイトパズル


「授業終了を知らせる鐘がなるまでに、このパズルを完成させること。これが今日の課題だ。じゃ、頑張れよ」


 言うが早いか、クラッドは再び教卓に身体を預け、眠ってしまった。

 それぞれのチームがぎくしゃくしながら、渡されたホワイトパズルの完成に向けて取り組み始める。


 ティエラも、全く得意ではないパズルを手に取っては、まずは角だと分かるものを集め始めた。

 すぐ隣で、ソルも初めて見る真っ白なピースをいくつか手にとっては、空に掲げたりして興味深そうに見ている。


 教室中から、パチパチとパズルピースを合わせる音だけがこだまする。

 しかし、始めて5分もしないうちに、ティエラはもう止めたい気持ちでいっぱいだった。


「……これ、本当に300ピースあるんですよね?」


 ティエラは思わずため息をこぼした。

 ピースが入っていた箱のそこに、全300ピースと書かれていたのを見て、現実から目をそらしていた。でも、つい確認してしまう。


 机いっぱいに広がる真っ白のパズルは、どう見ても悪意しかない。悪意というか、クラッドのやる気のなさというか。


「五人で取り組ませているんだし、時間内にクリアできる設計にはなってるんじゃないかな」

「それは、きちんとパズルが解けるレベルの人間が五人揃っていれば、的な……?」


 オジェの返答に、ティエラは戦慄した。

 まさか、このパズルはチーム内にいる足手まといを発見するため、踏み絵としての機能を内蔵させていたとは。


 入学出来たという事実は、まさにただの通り道に過ぎないと言うことだ。これから先、幾度となく授業を通して、出来の悪い人間を容赦なく切ってくるに違いない。


 ――恐るべし、王立高等学校!

 なんて場所なのだと、ティエラは生唾を飲み込んだ。


「メイはこういうの、得意だったかしら」


 ミルダも手元でパチパチと音を鳴らしながら、メイに声をかけた。


「もちろんでございます、お嬢様。パズルを元に戻すこと。それ即ち、それぞれの道具を元ある位置に戻すのと同義でございます」

「そういうもの、なのか……?」

「そうなのかも……?」


 オジェは懐疑の目を向けていたが、ティエラはなんかそれっぽく感じたので、曖昧ながらに頷いた。


「キャンディ家は、代々バレングロウ家に生まれる子息令嬢に仕えてきました。何故、この名誉が叶うのか……その一端を今、御覧に入れましょう!」


 いきなり壮大なことを口にしたメイが、バッと両手を空に掲げた。

 一体何が始まるんだとティエラが身構えていると、メイは思いきり両手を合わせた。乾いた音が大きく鳴った。


「パズルたちよ。お嬢様のため、元の姿に戻りなさい!」


 カッとまばゆい光が、机の上に乱雑に置かれているパズルたちがカタカタと揺れ、動き出した。それぞれが意志を持ったように、お互いの目指すべき位置に移動を始めた。


「おおっ、凄い!」

「これなら、本当に完成するかも!」


 ティエラは感嘆の声を上げた。オジェも、これが正解だったのかと納得している。

 まさか、パズルを解くために魔法を使うことが必要になるとは、夢にも思わなかった。王立高等学園はやっぱり高レベルだと、ティエラは一人で勝手に感動した。


「……あら?」


 魔法を行使したメイが、困惑した。

 どうしたんだろうかとティエラはメイを見た後、メイが視線をずっと向けているパズルの方に向け直す。


 パズルたちは、先ほどまで順調に場所を移動していたのが一転して、先ほど以上に大きく震え始め、机をガタガタと揺らし始めるほどだ。

 そして、パズルたちは弾けた。


「お嬢様っ!」


 メイは、はじけ飛ぶパズルからミルダを守ろうと、彼女の前に飛び出した。しかし、明らかにパズルたちはメイにめがけて飛びかかっていた。

 結果、パズルに押し倒されたメイにより、ミルダも圧し潰された。


「ミ、ミルダさーん!!」


 ティエラとオジェが、大慌てでメイを引きずり下ろす。メイは完全に気を失っており、そのメイに潰される形になったミルダは……。


「ふふふっ。授業とはこんなにもアグレッシブで、楽しいものなのですね? メイも、こんなにはしゃいじゃって……」

「ものともしてなかった!!」

「メイさんは別に、はしゃいでたわけではないはずだよ……」


 ミルダはどこまでもマイペースな人で、どこかズレた感想を口にしている。一緒にツッコミを担ってくれているオジェは、眉間に寄ったしわを何度も揉んでいた。


「派手にやったな」


 流石にメイが意識を失ったのは放置できないと、クラッドが気だるそうにしながらもこちらにやってきてくれた。


 ティエラは大人の人が来てくれたと言う事実に、胸を撫でおろす。

 完全に伸びてしまっているメイの頬を何度か叩いた後、クラッドは言った。


「生きてるならいいか」

「基準が怖すぎません?」


 この先生、凄くヤバい人かもしれない。

 ティエラは撫でおろした手を逆走させた。


「威力の高い魔法を使うと跳ね返されるから、気を付けろよ」

「魔法を使うことは、否定しないんですね……」


 クラッドは懐から新しい木製人形を取り出して魔力を与え、ずずずっと大きくしていた。そして、メイにそっくりになるよう、顔を書き込んでいる。


 この時、クラッドはオジェの顔を見てから、わざわざ顔を逸らした。

 あまりにもわざとらしすぎて、ティエラとオジェは顔を見合わせた。


「メイの代わりはこれでいいだろう。後は、本体をどうにかしないとな」

「まあ、メイには分身がいましたの?」

「真に受けないでっ!」


 一体全体、ミルダは今までどうやって生きてこれたのか、ティエラは不思議に思った。彼女はバレングロウ家の箱入り娘だった。解決した。

 クラッドはため息をつきながら、教卓の下をがさごそと漁り、何かを持ってきた。


「ほら」


 どこから出したのか、掌サイズの寝袋を取り出すと、メイの横に放り投げる。次の瞬間、寝袋はぶわっと膨らみ、成人女性が余裕で収まるサイズに変形した。


「先生、それは……」

「常備品」

「私物では?」


 雑に答えたクラッドは、メイを抱えて寝袋に収めた。

 明らかにクラッドの私物だと思われる寝袋に、意識を失った女子生徒が収められるという、ちょっとヤバい絵面になったが、本人に悪気はないらしい。


「保健室まで運ぶのは面倒……いや、時間のロスだろ? だからここで寝かせとけ。……あ、踏むなよ」


 さらりと言うクラッドに、ティエラたちは小さく頭を下げた。

 それ以外の選択肢がなかったことには、目を瞑ることにする。


「ありがとうございます」

「助かりましたわ」


 少なくとも、放置するよりは遥かにマシだろう。そういうことにしておいた。

 メイを安全な位置に寝かせてほっと息をついた時、ティエラはものすごい速度で頭を上げた。


「ソルは?」


 確か、パズルの入っている箱を開けたすぐの頃は、自分の隣でパズルを興味深そうに見ていたはず。


 しかし、今は隣に居ない。

 ティエラは大慌てでソルのことを探し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ